俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~   作:ねこねこてんちゃん

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トモリの集落④ ノブレスオーブ

「おう! ライト! ドリア作ってるぜ!」

 

 ユキの家の扉を開けると、ハルンがキッチンで飯を作っていた。

 テーブルにはラージスとルミエルネ。部屋の中には酒瓶が揃えて置いてある棚が一台。

 そこから一本酒を取り、ユキはつかつかとキッチンへ歩き、告げる。

 

「ハルン。お酒にはもっと合う料理があるよ? ドリアはちゃうやろ」

「オメーもう飲んでんじゃねぇか! メシ食ってシメろ! これ以上は飲むなー!」

 

 ズバッと酒瓶を取り上げ、元の棚に戻すハルン。

 ジジイ相手にも酒を取り上げてたことあったな。あの頃を思い出してばっかだ。

 俺はラージスたちの隣に座ると、ミツイも向かいに座り、話し始める。

 

「さてさて、ユキがあっちに絡んでる間にサラッと話しちゃいますかぁ」

 

 おそらくはハレノヒの街の話。

 俺は改めて、そしてルミエルネとラージスは初めて聞く内容になる。

 ハルンには聞かせなくていいのか?

 

「みっちゃーん!」

 

 ほれみろ。勝手にまた話そうとするミツイにユキが気づき大声で制する。

 ミツイは困り顔をしてぼやく。

 

「……地獄耳だよねぇ」

 

 アンタが悪いだろ。何度目だ勝手に進めようとするの。

 ユキはハルンの作ったドリアを持って俺たちの前に置き、ミツイの横に勢いよく座った。

 ラージスが不可解そうな表情を見せ、ユキへと問いかける。

 

「素手で器を持ち運んでいますが、熱くないのですか?」

「大丈夫よ。ユキちゃんはおてて冷え冷えやから。ほれぇ」

「つめった……」

 

 ユキがラージスの顔に触れると勢いよくラージスは顔をひっこめる。

 よっぽど冷たかったらしい。いたずら好きの白髪はまたクスクス笑っている。

 そのままユキがハルンをなでると、ハルンの頭はシャリシャリと音を立てた。毛が凍ってる……?

 ハルンは温度変化でやられることは滅多にねぇから気にしてねぇけど……なんて考えてたらルミエルネが指先で俺に近づくよう促す。

 

「アンタや私もそうだけど、ユキみたいに自分の魔法属性に耐性がある奴には気を付けなさい。異常な出力で魔法を放てることが多いわ」

「なんだっけか? 戦闘中に直接触れると大きな影響を受けるって話だったか?」

「そう。ユキに触れたら凍り付いたり、アンタに触れたら電撃で焼かれたりね。ほかにもいろいろあり得るんだから、不用心な結果にならないように」

 

 たしか、ミカゲ婆さんがよく言ってた心得だ。

 ルミエルネも多属性魔法使い。ミカゲ婆さんも確かなんかの属性魔法使えるって聞いた気がする。

 そう考えるとルミエルネと比べて、ユキはあんまり自分の魔法で日常的にやらかすかもって躊躇いがないな。

 

「ほいほい! みっちゃんが調子乗る前にユキからさらっと話しますよ! 故郷、ハレノヒって街の話!」

 

 おっ。いよいよ始まるか。

 気になってんのはノブレスオーブとかいう単語。道具の名前かなんかかね。

 

「山岳の中にあった白い街、ハレノヒってとこに住んでてな? そこは道具の力で暖かい街やったんよ。雪山で行き倒れてる人たちとか拾ってたら結構大きくなったんやとさ」

 

 ユキの奴。話をだいぶ端折ったな。ミツイはあんなに情感豊かに語ってたぞ。

 ほら、今にも口をはさむぞ。ミツイはムッとしてるもんよ。

 

「ユキ! ざっくり話しすぎだって! ユキが白の人の一族唯一の生き残りって話とか街の紹介ちゃんとしろ!」

「やかましい! 白の人って特別みたいにアンタら言うけど、普通の街の人と変わらんて! お父ちゃんやって仲間外れ困るいうてたよ!」

「むむぅ。せめて、ノブレスオーブとかそういう話はちゃんとしてよ~!」

 

 互いに酒入っているせいか、遠慮なしに言い合う二人。

 聞いてて爆笑してるハルン。先が気になっていそうなラージス。そして呆れ顔のルミエルネ。

 こうなると真っ先に口を開くのはルミエルネだ。

 

「いいから。ユキ。喋んなさい」

「はいはい。白の人ってのはユキちゃんと同じで、髪が白くて氷魔法を使えるハレノヒを仕切る一族。そして白の人の持ってた道具が、ハレノヒを街たらしめた秘宝。ノブレスオーブやね」

 

 領主一族が持つ、街を街たらしめる秘宝。その響きだけでとんでもなく価値が高く聞こえる。

 そんで、その宝のことを道具と言ったユキ。そこに俺は興味が湧いた。

 つまりは、実用性のあるものだ。

 

「見た目はリンゴくらいの大きさの白い真珠って感じやね。まぁ大層に飾られてて綺麗でしたよ? 自分で光ってたもんな」

「ミツイもユキに連れられて見せてもらったことあるけどねぇ。キラッキラでピカピカだったよ。見た目だけですんごい価値があるって」

「あれでさ。占いとか試したらすんごい輝かしい未来見えるんちゃうか?」

「はぁ~しょうもな! 過去を語る雰囲気出せよユキ~!」

 

 そうか。生い立ちはこうやって軽口叩きながら話すものなのか。

 ユキのやつ、上手ぇ。

 

「で、ノブレスオーブが何をするかっていうと、中心から一里四方を光で包んで、その中にいる人を寒さから完全に守るんよ」

「……は?」

 

 思わず声が出た。

 一里四方を……寒さから守る?

 そんな道具が存在すんのか? 人が倒れるほど極寒から街ごと包んでなんて……信じられねぇ。

 まさに街を成り立たせるって言い方がふさわしいな。

 

「あれ不思議だったよね~。なぜかわかんないけど人しか守ってくれないの。動物は普通に凍えてたもん。雪も範囲内で積もるし、風も吹くけど冷たくはないんだよね」

 

 うんうん。と頷きながらミツイは語る。

 ますます意味が分からない。カラクリとかじゃないな。不思議球だ……。

 

「……アーティファクトですか」

「そう! お父ちゃんがそんなこと言うてたよ! よく知ってるなぁラージス!」

 

 ユキはラージスを指差し驚いた反応を見せた。ここでそれが絡むのか……。

 俺とルミエルネの顔が曇る。アーティファクトは、ヴェスが狙ってた。

 ハルンがラージスへグッと顔を寄せ問いかける。

 

「ラジ。アーティファクトってなんなんだ? オレはジジイからそんなもん聞いたことねぇぞ!」

「古代の遺物と言われている、作成方法がわからない大きな効力を持つ装置や道具の総称です。ノブレスオーブはまさにそれではないでしょうか」

 

 なるほど。ノブレスオーブは仕組みがさっぱり想像出来ねぇし、アーティファクトで当たりっぽい。

 ほぉ~といった反応をしながら、ミツイは軽く酒を口にし、ユキを見ながら話しだす。

 

「なるほどねぇ……。それもあって、ブロカードは街を狙ってきたのかな」

 

 言葉を聞いた瞬間に、ユキの顔は曇る。

 面倒な白布をルミエルネとユキにつけた敵。ブロカードの名前を聞いたとたんだ。

 さっきまでの明るい雰囲気とは全く違う。重々しくユキはその口を開く。

 

「……そこも含めて、順を追って話すよ」

 

 その言葉にミツイの目が丸くなる。その反応は俺にとっても予想外だった。

 てっきりミツイはユキの過去のことをすべて知っているものだと……。幼馴染にも明かせなかったような内容があったってことか。

 俯きながら、息を吐いたユキ。意を決したかのように、顔を上げた。

 

「ハレノヒのいろんな人たちと一緒に、穏やかに暮らしてたんよな。みんな幸せに、誰も困らせず。なのに、急に奴らはやってきた」

 

 ……そうだ。

 俺たちもそうだった。誰も困らせてなかった。少なくとも、誰かに滅ぼされるような理由はなかったはずだ。

 本当に急に来る。理不尽に。

 

「ちょうどその日はお父ちゃんが街の塔を整備する日。そういう時はよくユキも一緒に連れてかれててな。塔の景色は、お母ちゃんが好きだから見てほしかったんやってさ」

 

 遠くを見るユキの瞳は寂し気に映る。

 きっと、その景色がユキに焼き付いた最後の……ハレノヒの姿だ。

 

「景色見てたら、シャンって音鳴って、ふっと、暗くなったんよ。パッと見上げると、白くて巨大な布の塊があった。わちゃわちゃと動いたと思ったら、次の瞬間にお父ちゃんは貫かれてた」

「……そいつが、ブロカードか」

 

 ハルンが静かに問う。ユキは小さく頷いた。

 

「そう。お父ちゃんを受け止めたユキに対して、あいつが言ったことを今でも覚えてる。『あっと、失礼。貴女が赤く汚れてしまいましたね』って」

 

 ……なんて野郎だ。

 魔物ってのはそいつらが家族だってことがわからないのかよ。相容れねぇな。

 ユキは眉間にしわを寄せ、目を瞑っている。淡々とした声に苛立ちを感じた。

 

「お父ちゃんを抱えてるのにな、目が逸らせんかった。ブロカードからぶつぶつ変に澄んだ声で話しかけられて……」

 

 とんとん、とユキは目を瞑ったまま自分のデコを指で叩く。

 そうか。苛立ちは……自分に向けてか。

 

 「あいつは『どうにも下が苦戦している。手助けをしなければ。副産物も逃したくない』とか言って、身体の一部をちぎって放して、下に降りてった。それが……あっという間にここに」

 

 恨めしそうにユキは左腕の白布を見つめる。それは最悪のタイミングで巻かれていた。

 ギルドから出るときに伝えられた『呪い』という言葉の意味を、改めて刻まれた。

 

「ブロカードがいなくなった後、すぐにハレノヒは炎に包まれた。オーク。マミー。見たことのないような怪物がなだれ込んできて、そこら中から悲鳴が聞こえた」

 

 ああ。少し違うな。

 俺の時は襲われた後だった。街の人が抗った様子とか、殺される瞬間とかはなかった。

 ……ただ、イメージが付いちまう。燃える様子は知ってる。だから、怖ぇ。

 

「塔から動けなくなってたユキのことをな。ここの里長が見つけてくれて、それで一緒に逃げられたんよ。ユキたちのほかには……誰も助からなかった」

「……そうでしたか」

 

 ただ悲し気に、ラージスが言葉を出した。

 じっと、真っすぐ話を聞いていた。

 ユキは目頭に手を当て、振り絞るように声を出す。

 

「あの日、一番怖かったのは。塔の上で急に。急に街の周りを包んでた光が消えて。一気に……寒なって……」

 

 涙声で、ぐずるように。

 彼女が必死に出した声が、耳に届く。

 

「その時まで……冷たいなんて思わなかったのにっ……。お父ちゃんの身体が、血まみれの自分が。冷たくて、冷たくてっ……」

 

 あまりにも鮮明だった。

 血まみれの身体。それが冷たいことに気づくときは、全部無くなったように思うんだ。可能性がないってことを嫌でも思い知らされる。

 あの時だってそうだ。生きてない。もうジジイじゃない。もう……二度と。

 

 全く声が出なかった。俺のほかにも、誰もなにも言わなかった。

 静寂に包まれた部屋で、嗚咽だけが聞こえた。

 

 しばらくした後、ミツイがユキの背中をさすりながら、俺たちの方を見て告げる。

 

「落ち延びた先で作ったのが、この集落。私たちの正体はハレノヒの生き残り。ってところだね」

「みっちゃん。大丈夫よ。ユキはもう大丈夫。ありがとね」

 

 ユキもミツイに礼を言いながら、顔を上げてこちらを向いた。

 赤くした目で、しっかりと見てくる。

 

 しっかりと伝えてくれたこの話に。ちゃんと向き合えてる言葉を出したかった。

 そんなことを考えている間に、ラージスが切り出した。

 

「申し訳ありません。ここの人々のことを何も知らずに、疑いを向けて」

「ええんよ。本気じゃないなんて途中からわかってたしな?」

 

 ふにゃり。ユキはいつもの笑顔で応えてくれた。

 凄く安心した自分がいる。気づけば外も静かだ。時間が経ったことが全然わからなかった。

 

「ったく。失礼しちゃうわよねぇ。ラージスのやり方はよくないわね」

「ああ! ちげぇねぇ! 困ったもんだぜ全く!」

 

 ルミエルネとハルンも調子を取り戻し、雰囲気は一気に楽になった。

 和やかなままお開き。の前に。

 俺だけは、あの真剣な空気に取り残されていた。

 まだ、話したいことがある。

 

「なぁユキ」

「ん?」

 

 返事はだいぶ緊張が和らいだ声だった。ちょっとキョトンとしているような。

 

「俺はルミエルネの布だけじゃなくて、ユキの布も絶対なんとかしたいと思ってる」

 

 同情だ。と言われたら返す言葉はない。でもよ、同情して当然じゃねぇか?

 布くっつけられた同じ被害者ってだけじゃない。ユキは俺たちと同じように訳も分からず奪われて、追いやられた。

 それどころか今だってまだ鬱陶しく絡みつかれてる。ハレノヒを奪われたことは過去になってねぇ。今の問題だ。

 

「俺たちがブロカードを倒せば、問題は解決するんだよな?」

 

 俺の問いかけにユキは少し苦い顔をして、答えた。

 

「多分なぁ。ただ、ユキはライトたちをブロカードとの戦いには巻き込みたくないかなって思ってる」

 

 おい。未だにそんなこと……。

 なんて俺が感じたときはハルンがすぐ叫んじまう。

 今は聞くターンだ。口挟むなってつもりで俺はさっとハルンの頭に手をやる。

 するとハルンは俺の手を黙って払う。わかってんだよって態度だ。

 

「だってなぁ。ユキだけでブロカードをやっつけたらルミエちゃんも助かるよ? それでええんとちゃうかなぁ」

 

 一人で行く気かよ。確かにユキはそんな気ある。パーティ組んでなかったしな。

 それにギルドのレルムって奴とも何かをこそこそ企んでたな……。

 その企みってたぶん集落の人に内緒だろ……。

 

「アンタねぇ……。魔豚の件でまだ学習してないワケ!?」

 

 ルミエルネの温度感が上がる。

 身振り手振りが大きくなったら合図だ。わかるよ。お前が言い出さなかったら、俺が言ってる。

 

「私たちは四人で魔豚を二匹! アンタは一人で魔豚を一匹! 今さら二対一の有利不利の話はしないけど! 単純に戦力は三倍でしょ!?」

「いや……。でもな……? 命がかかった話になるから……」

 

 ウッって顔しながら、しどろもどろにルミエルネに対しユキは答える。

 さっきの話を聞く限り、ユキは誰かに目の前で死なれるのは相当いやなんだろうな。

 誰だって嫌って次元じゃなくて。可能性すら嫌がるように見える。

 

 その時、ラージスが立ち上がった。

 

「ユキ、気持ちはわかりますよ」

 

 ユキは露骨に嫌な顔をした。馴染んできたなと率直に感じた。

 メガネの位置を直し、赤髪の男は続ける。

 

「誰かが死んでしまうくらいなら、自分が真っ先であるべきだと考えているんでしょう?」

「いやそんな、ユキちゃんかてそんなネガティブじゃないよ……?」

 

 目が泳いでるよユキ!

 悲しい覚悟すぎんだろ。そんなんダメだ。流石にフォロー入れねぇからな。

 誰も止めなきゃラージスの独演は終わらない。

 

「よく考えてみてください。死んでしまった貴女の亡骸を受け止める側の気持ちを」

 

 そうだな……。もしも死んでも、終わりじゃないんだよな。

 ふと思い出した。ラージスは二回経験しているんだってこと。

 すっかり言葉が出せないユキ。やっぱ声かけるか。

 

「……ほら。俺たちが居ればうまく行く可能性上がるっぽいじゃねぇか。な?」

「うぇ~~~?」

 

 まだゴネる? まさかだろ……。

 

 ガンガンガン!

 

 その時、デカい音が集落に響き渡った。

 

「オイこれ! 警報だろ!」

 

 真っ先に反応したハルンの声が部屋中に響く。

 それが聞こえた直後に、何かが落ちたような大きな振動と音が届く。完全に敵襲だ。

 

 俺はすぐさま扉から出ると、上を確認した。

 警報音の間に確かに聞こえたんだ。

 

 ――シャン。小さな。擦れたような音が。

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