俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
シャン。その音は、ブロカードが現れたときに鳴ったとユキが伝えてきた。
俺は上空を見るも、何も見つからない。
「……気のせいか?」
目を細めると、月の中に小さな……蛇のような、はためく何かが見える。
それはひらりと揺れると、夜天の中に消え、見つからなくなってしまった。
「なに上向いてんのよアンタは!」
ルミエルネにガッと頭を持たれ、視線を平行に正される。
その先には、もう集落の中に入り込んだ白い布を巻いた奴らがいた。
「我ら!」
「「ロガール回収隊!」」
闇夜に集まり、ポーズをとる三人に減ったオーク集団。
最初五人だったのに……。なんでルミエルネが殺した奴以外にもう一人減ってんだよ。
肝心のポーズよく見えねぇ。焚き火も消えて暗いしな。なんて考えていたら、後ろから刃物が抜かれる音がした。
「もう一回来たってことは、仕込みがあるってことやんな?」
ユキの目は鋭く、声は低く淡々としたものだった。
目の前の変な奴らとは明確に纏う空気が違う。
三人のオークのうち、一人が前に出て腕を組み語る。
「そのとおり。流石は
すると、そこら中から遠吠えが響き渡った。
狼……! 厄介なことになったな。これは結構な数がいるぞ。
ミツイが刀を抜きながら慌てて声を上げる。
「ユキ! これ里の人が……」
「面倒なったなぁ……。こんの……」
ユキは苦い顔をしながらオークを睨む。
対してあちらは最初から変わらず、背筋を伸ばし妙に胸を張る尊大な姿勢。
その時、ちょうど俺たちから見て真向かいの家の扉が開く。
中から出てきたのは刀を持った黒髪の男。夜の祭りで里長と話してた人だ。
「ユキ! ミツイ! 今どうなっている!」
「イサギさん!? ちょ待って! 動かんといてな……?」
その人はユキの制止を聞き入れ、その場で立ち止まる。
ただ瞳は動き、周囲の様子を確認してる。
里の中にはそこら中に狼。トモリの人々が実質的には人質にされているような状況。
安心しきったオークのうち一人が前に出て話し出す。
「状況がお分かりのようですね。我々も無意味にシルバーウルフの毛を返り血で汚す真似はしたくない。要求は単純。薄氷姫と
「……はぁ!?」
あまりの呼び名にルミエルネからスゲェ声が出た。燦金眼魔女……?
これは……後でいじられるぞ。ラージスは絶対忘れねぇよ。
しっかし笑ってられないのも事実。まずはトモリごと人質に取られたクソみたいな現状の打破だ。
奴らにバレないように、俺は微弱な電気の輪を足から地面に流し、這わせる。
「アンタたち。前回のこと忘れたの? 偉そうなリーダーは私がすぐに打ち抜いてやったはずだけど」
ルミエルネが前に出て、オークたちを挑発する。
たぶん、俺が放った索敵用電気の輪に気づいて時間稼ぎをしてくれてんだろう。逆に電気がオークどもにバレてなきゃいいんだが……。
ユキとミツイは驚いた表情でルミエルネを制する。
「アカンて! ルミエ!」
「そうだよ!? ダメだって!」
「ふっははは! なんということですか。燦金眼魔女は状況に気づいておられないようだ。我々に手を出したらここの連中がどうなるか、まずは思い知らせてあげましょう」
オークが指を鳴らすと、集落中に狼の吠え声が重なった。夜を震え上がらせるような音は分かっていても不快だ。
いい気分の夜中にふざけやがって。
ルミエルネは片目を閉じて、険しい顔で呟いた。
「もういい?」
「ああ……十分だ」
問いかけに答えた俺は、右手に電撃を溜める。
「ダメやって!」
俺を制するために焦って叫ぶユキ。だが心配はいらねぇ。
狼どもの居場所は、電気の輪でわかってる。……数もな。
グッと拳を握りしめると、道を電撃が走る。
集落のあちらこちらに稲妻の柱が上がり、狼の声は一斉に静まった。
稲妻が消え、夜の暗さがもとに戻るとロガール回収隊とやらの余裕ぶったツラが崩れる。
「なっ、なにを……!?」
「多すぎなんだよお前ら。31匹も連れてきやがって。もう一匹たりとも残ってねぇぞ」
驚いている奴らをよそに、一息ついたといった様子でラージスが俺の隣にきた。
とん、と俺の肩をねぎらうようにたたき、ユキやミツイたちを安心させるために告げる。
「もう大丈夫です。集落の敵は、目の前の奴ら以外片付きました」
「ライト。アンタ相変わらず器用よね。よくまぁ雷の魔法をそこまで操れるわ」
まぁ、俺たちの中なら俺が魔法を一番コントロールできるしな。
ただユキたちはそんなこと知らねぇし、伝えとかないとな。
「電気の輪で集落の人たちの位置も狼の位置もわかってたんだ。どうってことねぇよ。みんな無事だぜ」
俺の言葉にようやく落ち着いた仕草をするユキ。あー良かった。
集落のみんながとてつもなく心配だったろうしな。
それとは対照的にバタつきだすのがオークども。
「そんな馬鹿なっ! 考えられません!」
奴らは必死に指を鳴らすも、もう狼の声は聞こえない。
今のうちだと俺はハルンの耳元に近寄り、ささやくように声を掛ける。
「集落の外。東側になぜかオークが一人いる。ぶっ飛ばしてきてくんね?」
「……おう。任せろ。静かに行ってくるぜ」
ハルンがパッと消えたが、オークどもは気づかない。
緑の身体は夜になると紛れて、静かに動くと全く足音がしないからな。
そして、辺りがピッと冷える。
「もう、ええな?」
オークどもの視線は、声の主であるユキへと向いた。
鋭く静かに詰め寄る彼女に、怪物は獲物を構え、叫ぶ。
「かくなる上は! 強硬手段しかないでしょう!」
斧、こん棒、大剣。オークは各々の武器を持ち、ユキに突進してきやがった。
俺たちも加勢に……!
「待った。ユキの戦いに近寄っちゃだめ」
いつの間にかミツイに肩を組まれ、止められた。
全然気づかなかった……。いや加勢しなくていいのか?
オークが一斉に飛び掛かった瞬間。
――空気が、止まった。
「――っ!?」
オークどもはなにも言わず、ただ困惑していた。
そりゃそうだ。……奴ら空中で静止してる。俺にも訳が分からない。
ユキはそのうち一番低い位置にいる敵の首を切りつけながら、奴らの背後に動く。
かしゃん、と割れる音がした後、オークたちはそのまま地面に落ちた。
「なにをっ!」
まだ斬られていない二体のオークだけが体勢を立て直し、ユキに向かって振り返った。
ただ、また固まる。動かないし喋りもしねぇ。
あっけなく、二体目のオークの首が飛び、空気が割れる。
周りを凍らせて……動きを止めてるのか?
「う、薄氷ィ!!!」
残ったオークは、叫びながら斧を掲げる。
しかし、それが振り下ろされることはない。
また固まり、首を刺され、引き抜かれ決着が付く。
最後のオークが倒れた直後、ユキの周りの世界が割れて、氷の粒が霧散した。
月明かりに反射されたそれは、まるで花びらのように舞い、夜の空へ消えていった。
「なんだ。ありゃあ……」
思わず声が漏れた。見たことのない戦い方で、あまりに綺麗な姿だった。
乱れた髪をかき上げ、ふーっと白い息を吐いたユキは、こちらを向きなおしいつもの笑顔を見せる。
「ありがとう。助かったぁ~。おかげ様よ~」
「おう……。すげぇな」
脇差をしまいながら寄ってくるユキに、俺はただただ感嘆するしか出来なかった。
「なぁんそんなそんな。それより狼たちを倒した方がよっぽどやろ~。あれどうやったん?」
「いや、あれは大したことしてねぇって。魔法の形作ったり出力の幅を操るのが得意ってだけで……」
しどろもどろに答えていると、ミツイが真ん中に歩いてきて、指を立てて言う。
「人に秘密を聞くときは~? 自分から話す! ってやつでしょ~」
「ああ~!」
いや、『ああ~』じゃないだろユキ。
それは互いの過去とか話すときの理屈であって、戦い方の仕組みとか話すときは違わないか?
「ユキちゃんもな~。結構器用なほうでな……」
話し始めちゃったユキの目の前にミツイがずずいと、誇らしげに立って俺たちの方を向く。
「ユキは白の人の特徴でもある薄氷魔法……。簡単に言えば『制御の効いた氷魔法』が使えるの! しかも一族でも随一の才能があるときた! だからあんな戦い方ができるんだな~?」
ぺしん。ミツイはユキに軽く頭をはたかれた。
お前が言えって言っておいて、話し出したら邪魔して自分で言うって……。そらはたきたくもなるだろ。
ずいっと邪魔者を横に押してずらし、ユキが続ける。
「魔力をパッと周りに張って空気とかに混ぜて、凍らせるんよ。すると周囲の空間が固まったようになって、相手さんもまとめて軽く凍るんよな。で、後は固まった敵を切るってやり方やね」
なるほど。たぶんだけど全身がっちり凍らせるより早くて楽だ。使う魔力量も減らせる。
だからって言って魔力が少ないわけじゃねぇな。固まった範囲は広かった。氷魔法ってそんな使い方出来んのか。
「……試してみるわ。ラジ。アンタちょっと遠く行きなさい」
「勘弁してくださいルミエ。どうせ僕のこと完全に凍り付かせる結果になりますよ」
ルミエルネは出来ないことがあるとすぐに試そうとするよな……。
もともと繊細な制御とかは得意じゃねぇし、しないじゃねぇか。氷山の中にいるラージスが目に浮かぶわ。
すると少し遠くから、男性の声がした。
そちらを向くと刀を持った黒髪のおっさんが駆け寄ってきていた。さっきの人か。
ミツイは手を振りながら声を出す。
「イサギさん! どうだった?」
「あぁ……。みんな無事だった。大丈夫だ。けが人すらいない」
息を切らせながら止まり、膝に手を付けながらイサギは続ける。
「君たち。助かった。見事な腕だな」
「いや。集落の人たちが無事でよかった。安心した」
本当に。俺の攻撃に巻き込んでねぇとは思ってたけど、その前に狼にやられてる可能性はあった。
手傷負ったら直すのには苦労する。薬使っても何週間もかかるし、教会の人だけが使える回復魔法なんて豪勢なのは高っけぇからな。
死ななきゃいいってワケじゃないぜほんと。
「このお方は私たちの剣術師匠! イサギさん! ささ、お師匠からも一言」
「ミツイ。真夜中なのに元気だな……。紹介に預かったイサギだ。君たちのことは里長から聞いている。金髪の、君がライトか?」
「お……おう……」
そうだな? なんでご指名だ?
「……もしも、トモリのことを気に入ってくれたのなら。いつまでもここにいてくれて構わない」
……あぁ。そういうことか。
里長は、俺のことを相当詳しく話したのか。俺が伝えたことを。
やりにくいだろこういうの!
イサギは俺たちのことを詳しく観察してる。ユキも同じことしてた。
そして、言葉を切り出す。
「痛むところや、傷などはないか? もしあれば、集落の薬などがあるんだが」
優しい。この場所の人はみんなそうだな。
ラージスはユキの様子を見て、さっと返事をした。
「いえ。今のところは大丈夫です。今夜中に必要となった場合は、また伺います」
「そうね。もう少し遠くに行きなさい。巻き添えが出るから」
「……必要にならないことを僕自身は願っているのですが」
お前ら。まだやってたのか!?
薬代だってバカになんねぇんだからな!
「おーい! 無事かぁ!?」
おっ。ハルンが戻ってきたな。
倒されはしねぇと思っていたが、まぁこれで一安心だな。
……ん?
あいつはなにか……というか。オークを引きずっていた。
「ハルン!? 連れてきたのか?」
「おう! ぶっ飛ばして持ってきた!」
「なんで?」
「いや、なんか聞きたいことあるかと思ってよ」
「……お前あんのか?」
「いや? オレはない」
ないのかよ。いやどうすんだこれ。気絶してっけど起きたらよくないよな。
とりあえず縛るか? 俺も聞きたいことないけどな……。
「なぜ今夜に襲ってきたのか。なぜブロカードは直接来ないのか。など聞き出しますか」
ラージスのメガネが月明かりで光った。
……寝るまではもうちょいかかるな。