俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~   作:ねこねこてんちゃん

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トモリの集落⑥ 奴らの道理

 縛って、檻に入れて、よし。

 ハルンがひっ捕らえたロガール回収隊、たぶん最後のオーク。

 尋問の準備は済んだからたたき起こす。

 

 遠隔で電撃を当てると、すぐにそいつは目を覚ました。

 

「……ふっ。良き決闘の後に生かされた。ということでしたか。温情というワケではなさそうですね」

 

 相変わらず芝居がかった喋り方をする白布のオーク。

 そんで闇討ちとかじゃなくて正面から決闘したんだなぁハルン。確かにケガしても修理が出来るから近接担当なんだけどよ……。無茶しなくて済むときはあんまりするな。

 

「その通り。これから行うのは尋問です。手早く情報を正確に吐いていただきます」

 

 檻の中を覗くラージスが率直に切り出した。

 ただ、オークは片方だけ口角を上げ、笑う。偉そうな態度だ。

 

「はっ。私があなた達に情報を? そのような裏切りを、美しくないことをするとでも?」

 

 ラージスとルミエルネの鋭い視線がオークに刺さる。

 やっぱこうなるか。そう簡単に言わねぇよなぁ……。ただこっから吐かせる方法なんて知らねぇぞ。

 俺だけじゃない。ハルンはもちろん、ラージスたちだってやったことは無いはずだ。

 

 隣で明かりが灯る。ラージスの手には炎が作られていた。

 

「ちょ! ちょい待ち!」

 

 それを見たユキが檻とラージスの間にわたわたと割り込む。

 

「ここは! 任せて!?」

 

 えっ? ユキにか?

 いくら一人で冒険してそうだとしても……。拷問とか尋問とか経験してるタイプにゃ見えねぇけどな……?

 

 くるっとオークを見たユキ。まだオークはふてぶてしい態度のままだ。

 

「あんた。決闘……負けたんやってな?」

「そうですなぁ。負けでしょう。今の醜悪な状況と違い、麗しい戦いでしたよ。正面から名乗り合い、拳と拳だけを使った力だけの世界。我ら二人だけが知る、絶美の時間でした」

 

 ……なんなんだこいつは。

 俺たちと比べてもズレてるし、魔物としてもズレてるだろ。

 オークをよく見りゃ腹も腫れて、腕も痣だらけ。顔もボコボコ。しこたま殴られたんだな……。

 

「となると、あんたはゴネてるわけやんな。負けたのに」

「……はい?」

 

 見下すように、今まで聞いたことのないような声で伝えたユキ。

 オークの返事は苛立ちが入った声色だった。

 

「正々堂々の決闘で負けたくせに、しかも情けをかけられたくせに。勝ったハルンの言うことなんも聞かず。不貞腐れとるワケや」

「……何が言いたいのでしょうか?」

「絡んでくるときは決闘だ美学だ。よう語るのになぁ……。美しい敗者には、なれへんねや」

 

 う~~~~~ん。

 痛い、ところなのか? わからねぇ。

 言われたオークは黙って目を瞑ってるけれど、どうなんだ?

 

「はっはっは! 薄氷姫! まさか貴女に美を問われるとは!」

 

 突然大声でオークが笑い出した。

 

「おっしゃる通りだ! 美しい決闘の後に存在すべきは、勝者の栄光と美しき敗者。感謝しますよ。貴女のおかげで私は決闘を汚さずに、そしてブロカード様のモノとして美しきままで居られる!」

 

 ああ。よかったのか。それで。

 ユキは尋問が得意ってわけじゃないのかもだけど、白布連中の相手はプロだな。本人は喜ばねぇ話だ。

 やれやれって感じで両手を広げるユキ。ラージスの肩を叩き、告げた。

 

「それじゃ、あとよろしく」

「はい。手早く。なぜブロカードは直接集落を襲撃してこない」

 

 質問を受けたオークは、笑みを浮かべ答える。

 

「なるほど? 集落の監視塔やら、乱雑なバリスタやらの防衛施設はブロカード様対策であったと。滑稽ですねぇ」

「手早く」

 

 ラージスはオークの言葉に淡々と切り返す。

 うっとうしい相手でも、いつも通りなのは頼れるぜ。

 

「あの集落には美しい物がない。それだけのことです」

 

 オークからの回答は端的だったけど、なんか要領を得ねぇな。

 なら、今回どうして襲ってきた? そりゃ集落にユキとルミエルネがいたからだ。

 欲しいものはあるだろ。

 

「次。なぜブロカードは直接僕らの前に現れない」

「ふむ。ブロカード様の実力で単純に捕らえる。それは確かに簡単なのでしょうねぇ。だが、あなた達は生物の美を理解していない」

 

 オーク。マジで喋れば喋るほど面倒になってくる。

 これ以上こんな話が続けばハルンとルミエルネがキレるぞ。

 二人を抑えられる場所に移動しとくか……。

 

 そして、したり顔で白布のオークは語りだした。

 

「生物とは、生きていてこそ美しいのです。熱を持ち、動き、立ち振る舞ってこその美です。殺して固めても、縛り封じても、本来の生物とは遠い。歪で欠けたものになる。ゆえにブロカード様は捕らえ方から保管までこだわるのです」

 

 うっお……!

 俺はたぶん顔に出たな。引いた。こいつらとしては人もモノなんだな。

 オークの独演はまだ続く。

 

「理想の保管とは、人間自らの意思で管理下に置かれ、そこで生きること。だからこそブロカード様はお前たち自身がこちらに降るような方法をお好みだ。今回も……そうでしょう?」

「もういいわ。なんでブロカードは来ないのか。早く答えなさい」

 

 ルミエルネが低い声で話に割り込んだ。

 ラージスの冷静さとは違う。ルミエルネは、話す価値がないってわかると全く相手にしなくなる。

 怒りも、なにもない。切って捨てる。

 

 オークも全くひるむ様子はない。変わらない口調で答える。

 

「人間は、自ら命を絶ってしまう。美が失われるのは恐ろしいことです。ブロカード様は過度な負荷を与えることはしない。我々は美に手間を惜しまない」

「そう。ラージス。あとは好きになさい」

 

 ルミエルネはふいと後ろを向き、少し下がった。単にイラっとしたんだろうな。

 またラージスが尋問官。その役割は大変だと思うよ。

 

「では、なぜ今夜襲撃したのか。その理由を」

「あわよくば、回収に成功すればといった点がありましたが……最も重要な任務は燦金眼魔女(さんきんがんのまじょ)の所在の確認ですね。ずいぶん白き証への抵抗をしているようで?」

「ああ。そうね。この面倒な布のことも話しなさい」

 

 びよんと左腕の白布を引っ張るルミエルネ。

 確かに、何の意味があるんだろうなそれ。

 オークも自身に付いた白布を見ながら話す。

 

「白き証は、龍の刻印の模造品。そしてブロカード様に認められた証。その物の位置をブロカード様に伝える機能がありますが、あなた達は魔力によって無効化してしまっている。なので今日、集落にいるのか目視で確認が必要となったのです」

 

 おお……。なんだよその追跡専用カラクリみたいな機能。

 人が人につけることあるって聞いたけど、これは不快だな。

 

「あとは、ブロカード側の残存戦力を明かしてもらいましょう」

 

 確かにな。正直に言うのかはわからないがある程度見込みが立てられると、今後の動き方も変わる。

 だが、オークは不思議そうに返事をする。

 

「戦力? あのお方には部下はおらず、軍団はない。保管庫の管理者であるブロカード様。保管庫の番兵。あとは等しく……保管される存在。我々も、あなた達も」

「……オメェら部下じゃねぇのか!?」

 

 ハルンが驚きの声を上げた。

 部下にしか見えねぇ。ブロカードの命令で動いてるとか言ってなかったか?

 まるで道理を説くかのように、オークは話す。

 

「その通り。生命の美とは、活動の美。ウルフは吠え、狩る。我々オークも同じ。活動こそに現れる。さて、夜も深まった。そろそろよいですかな?」

「尋問の終わりを決める立場ではありませんよ」

 

 ラージスが鋭く告げるも、オークの態度は変わらず。

 ……なんだ? なにか仕込みがあるのか?

 

 警戒のために電気の輪を作ると、檻の中の怪物は穏やかに語りだす。

 

「最後に、先ほどの雷は素晴らしいものでしたよ。あれほどまでに洗練されたものは見たことのない」

「……あぁ?」

 

 最後ってことはなにかするぞ。見逃すな。

 早めに輪を広げて見つけ出せ……!

 

「価値のあるものだと……! 思いますよォ!」

 

 オークは突然、叫びながら左腕の白布に噛みつき、俺たちの方へそれを放った。

 

 ピッとあたりが固まると、どこからともなく脇差が飛び、白布は地面に押さえられる。

 周囲は一気に冷え込み、白布は氷に包まれていく。つまり、ユキが対処した。

 

「ふっ。最後にお役に立てればと考えたが、上手くいかないものですね」

「下らん悪あがきすなや。もうええな?」

 

 ユキはニヒルに笑うオークを睨みつけた。

 完全に凍り付いた白布から脇差を抜き、檻へと向ける。

 

「捕虜の美しき散り様というのは、自害……ですよ……」

 

 すでにオークは舌を噛んでいた。

 

「……はぁ」

 

 ため息をついたあと、ユキは白布をより凍らせていく。

 またこれをつけられる人が増えるの嫌なんだろうな。今回のやりとりで、より奴らが相容れねぇってことがわかった。

 話してることが全然ぴんと来ない連中だ。

 

「うし! それじゃお前ら! ささっと帰って寝ろよ!」

 

 ハルンがパンと手を合わせ、全体に声掛け。

 いや疲れたわ。集落の片づけとかは明日でいいか。

 

 全員が帰路に付こうとしてるとき、ハルンは檻を開けてオークの亡骸を背負う。

 

「ハルン。お前も今日は休めば?」

「いーや。あっちこっち酷いもんだぜ。ほっとくと臭いがヤバいし片づけてくらぁ。ライト! お前は寝ろよ!」

 

 カラクリは寝ない。妙な話だけど、当然ハルンも寝なくていい。

 こんだけ暴れた後なのに、こいつには昼も夜もない。

 

 ぽんぽん。

 

「んお? なんだ?」

 

 ハルンはすっとんきょうな顔。

 俺はこいつに頭を叩きながら充電。こんだけの仕事量だ。労いたくもなる。

 

「起きたらさ。うまい朝飯頼むわ」

「おお! カレーにしとくわ!」

 

 朝には重てぇなぁおい。張り切って作りそうだ。

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