俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~   作:ねこねこてんちゃん

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それぞれの望み① 準備と暮らし

 「ほら。シャキッと歩きなさいな。ダラダラするもんじゃないわよ」

 「んあぁあ……」

 

 やたらと元気なルミエルネに連れられ、俺とラージスは集落を歩く。日が眩しい……。

 今朝のカレーは重かった。やたらと具が多くて食い過ぎた。ハルンに叩き起こされたのは八時頃だってのに寝た気がしねぇな。

 あいつは今日もトモリの人達にメシのレシピを教わるらしい。俺たちとは別行動。

 

「なんだって朝っぱらからお出かけなんだよ……。なんかやることあったか?」

 

 ボヤキながら周りの様子を確認する。

 狼の亡骸とか、壊された施設とかはなさそうだ。たぶんハルンが片づけたんだろ。

 ますます朝から動く理由は分からねぇな、と思っているとルミエルネの声が届いた。

 

「ラジ。説明」

「端的に言えば、ユキと共に全力で戦うための対策を作ること。それが今日からの動きです」

 

 ……ほう?

 ラージスが言ってんのは、ユキがオークとの戦いで見せた周りを氷で固める技の話か。

 確かに味方も巻き込まれるもんな。なにか対策しないと肩を並べて戦うことすら出来ねぇ。

 俺はラージスに問いかける。

 

「氷の技の話だよな。当てはあんのか」

「えぇ。魔力擦れの対策チャームと同じ要領で可能ではないかというのがルミエの案です」

「……なるほど。ありなんじゃねぇか?」

 

 魔力擦れ対策チャームってのは、魔力の杖とか魔法系の道具を作るときに使うお守りだ。静電気のお守りと似てるってジジイが言ってた。

 魔力の籠ったものを擦ったりすると魔力由来の微弱な反応を起こすことがある。繊細な道具を作ってるときはそれが悪さすんだよな。

 そこでだ。周囲の魔力をある程度無効化する鉱石を使って、こすれたときの小さな反応をもとから無くしちまおう。ってのが対策チャーム。

 

「ライト。アンタは流石ね。いけるのよこれ。どっかのメガネは理屈立てて適当言ってたけどね?」

 

 ルミエルネは嬉しそうな声色でドヤ顔。

 どうにも俺が起きる前だかにひと悶着あったらしい。

 ラージスはふぅ、と息を吐きながら話し出す。

 

「素材である魔吸鉱石の能力が足りるとは思えません。ユキの魔法を無効化するほどの効果は期待できませんよ」

「ないよりマシ。そこを技術でなんとか出来たらカラクリ技師の誉れよね」

 

 ルミエルネはすっぱり一刀両断。ただチャーム作るの俺たちなんだよな。

 まぁ、あると便利だよなぁ。期待通り動作するかは置いといて試してみるか。

 

「となると、今日はチャームの素材石探しか」

「そね。その前に、もう一つ見てもらうけど」

 

 返事をした後、ぴたりとルミエルネは足を止める。

 目の前にはレンガと木でできた建物。デカい煙突と開けた入り口。人が出入りしやすいよう出来てんな。

 ルミエルネが先に建物へ入り、俺たちは追いかけるように続いていく。

 

「……ここは?」

 

 ラージスが呟きながら周囲を見渡す。俺も一緒になってきょろきょろ。

 ありゃキッチンか? 十人くらい座れそうな机と椅子もあるな。酒樽まである。

 そんで奥には暖簾のかかった部屋の入り口が二つ。となるともしかして……。

 

「風呂場か?」

「そうよ」

 

 さっと返事をしたルミエルネが先行して暖簾のかかった中に入っていく。

 

「なぁラージス。あいつはお出かけ前にお風呂時間を作ってくれるような、気が利く奴だったか?」

「……成長なのでは。僕たちもいただいてしまいますか」

 

 突然の出来事でビックリしたけど、そんなこともあるもんなんだな。

 なんて感心していたら暖簾の奥から大きな声。

 

「なにやってんの! 早く入ってきなさい!」

 

 馬鹿野郎。ルミエルネ。お前そっちつまり女湯だろ。

 

「僕はキッチンに興味があるので、お先にどうぞ」

 

 ラージスはさらりと踵を返し、離れて行っちまった。

 こういう時はよ……。一蓮托生ってもんじゃないのか。

 

「ルミエ! お前以外に誰かいないのか!?」

「いないわ! いたらそいつを追い出すからさっさと来る!」

 

 ……はぁ。こりゃ面倒ごとだな。ルミエルネは住環境うるさいよなぁ。

 諦めて覚悟決めるか。うし。悪いのはルミエルネ。見捨てたのはラージス。

 

「……なんなんだよ。集落の風呂場に困りごとか?」

「遅い。見りゃわかるわ。ヒドいんだから」

 

 女湯の脱衣所でルミエルネと合流。変に緊張するんだよな。

 いざ浴槽に入ると、誰もいない。おっかねぇよなもう。こういう時は真面目に信用ならねぇ女だ。

 

 結構広いが……なんだろうな。まず暗いって印象だ。それに、なんか汚れてる?

 特に天井周りが手入れされてなさそうな。それに、若干あるのが錆の匂い。

 

「感想はどう?」

「率直に言うと、悪いな」

 

 俺からの返事にルミエルネは満足げ。

 しかし風呂なんて泊めて貰った家にもあったろうに。なんで集落全体の風呂なんて知ってんだ?

 昨日の祭りで聞いたのかね。で、期待してたらこのザマと。

 

「じゃあれか。チャームづくりと風呂掃除を手分けしてやる感じか?」

「違うでしょ。風呂掃除なんて集落の連中でも出来るわ。わざわざアンタらに見せないでしょ」

「というと。カラクリか」

「そう。真っすぐ言うなら、浴場手入れカラクリを集落へお礼として作りましょう。ってこと」

 

 なるほど。またひとひねりしてきたな。

 礼って言い方されると断りづれぇ。確かに一発掃除するより、継続的に掃除してくれるカラクリのが喜ばれる。

 んでもって……。俺の中にはもうなんとなくどんなもん作れば行けそうか思いついちまった。

 

「天井やら浴槽やらの掃除のほかに、湯を出す管の錆とりまで出来たほうがいいよな」

「気が利くわね。さすが。動力は?」

 

 ああ……そういうことか。ルミエルネからの一言で意図を理解する。

 頭の中でイメージしていたのは、熱を溜める鉱石だ。つまりチャーム用の鉱石と同じ場所にありそうだってこと。

 

「今回は、風呂掃除カラクリの側づくりと、チャームとカラクリの鉱石集めの二班分けか」

「ご明察。熱関係のカラクリはラージスが得意だからあいつにやらせましょ。私とアンタは石探し」

 

 昨日の寝る前からずっと温めてた感のある計画だなこりゃ……。

 合理的に考えても、断る理由はないか。

 

「わかったよお姫。仰せのままに」

「せめてもの、って感じで抵抗するのやめなさい? サボりメガネにも伝えましょ」

 

 一緒に待合の場所に戻ると、ラージスはいつの間にか来ていたユキと、牛乳を飲みながらテーブルで話していた。

 

「うお。ユキ、いたのか」

「うんうん。女湯イタズラしてるから入るなってラジくんに教えてもろてな? なーにしてたん?」

 

 ユキはニマニマしながら、野次馬仕掛けてきやがる。

 そんなおもろいことねぇっての。

 

「泊めてもらった集落だってのに、ルミエ様は設備がご不満そうでよ。ご要望の確認だ」

「あら、ライトったらひどい言い草。ユキ、ここのお風呂にはしばらく入らなくていいわよ?」

「ゔえっ」

 

 俺たちの芝居がかったやり取りの後、ユキは思わず苦い顔。

 風呂入りに来たんだろうし、入るなって言われても困るよなぁ。

 お構いなしに、ルミエルネは理由を告げる。

 

「うちの職人たちの仕事が済んでからだと、とても感動できるわ?」

「……はぇ~?」

 

 ユキはかなり興味ありげに、語尾を上げて返事した。

 ……うっわ。ラージスが、俺をじっと見てるぞ。

 勝手に適当な約束したなって、見てるぞ。

 

 その後は、風呂掃除カラクリ計画のことや、チャームについてそのまま相談。

 ラージスは微妙な顔をしながらカラクリ作成を引き受けてくれた。

 

「ただ、チャームにしろ、カラクリにしろ動力は必須です。入手経路を考えなくては」

 

 ラージスの指摘はもっともだった。鉱石ってあんまり市場とかには売ってねぇ。

 昔はよく取れる川沿いとか知ってたが、見ず知らずの土地だとな……。

 ちらり。土地勘がありそうなユキを見る。もう落ち着きは取り戻せてそうだ。

 

「それなら、薬売りのマナちゃんって子が詳しいかな? あの子は森の中とかに草取り入ったりするしな?」

 

 ほう。マナって名前は聞いたことあるな。

 あれだ。ハルンがメシを教わってるおばちゃんの娘さんだ。

 

「それじゃ話を聞きに行ってみるか。ラジ、デカいの取ってくるぜ」

「サイズよりも質の良いものが理想ですね。金目のモノ探しには付き合わずに戻ってきてください」

「おうおう。ユキはどうする?」

「ううん……」

 

 ゆっくり下を向いて考えるユキ。

 やることでもあったのか? 集落帰ってきたばっかだもんな。

 

「ちょっと、お酒探しとか。いろいろしてくるわ! またな!」

 

 ユキはそう告げると足早に外に出て行っちまった。

 まっ、自分の仕事帰りで俺たちのクエストも手伝ってくれてたんだ。そういう時間もあったほうがいいよな。

 

「偉いわねぇ。お風呂入らず出てったわ」

「……ライト? ユキにまで期待を持たせた以上、しっかりと仕事を果たしてくださいね? あなたが勝手にした約束なのですから」

 

 眼鏡が圧かけてきやがる。吹っ掛けたのはルミエルネだろ!

 俺の全責任……じゃないよな?

 

 あ、マナって人の家の場所を聞くの忘れたな。ハルンの居場所を電気の輪で探して向かえばいいか。

 別の人の家にいたとしても教えてもらえんだろ。多分な。

 

「ほらルミエ。行こうぜ。今日も夜中まで起きるのはしんどいだろ」

「はいはい」

 

 パンパン、と服をはたき立ち上がったルミエを連れて、俺たちはハルンがいる推定おばちゃんの家に向かった。

 

 *

 

「おや! ライトじゃないか。女の子も連れて!」

 

 家に着いたらすぐおばちゃんが出迎えてくれた。

 

「うす。ハルンがお世話になってます」

「手土産とかはないわ。ごめんなさいね」

 

 ルミエルネはさらっと言葉をかけて家に入っていく。俺はやっぱ緊張するよ。大したもんだ。

 家に上げてもらうと、辺りから予想通りメシっぽい香り。これはなんだろうな……。香草か?

 

「おおライト! なんだ腹減ったのか?」

 

 キッチンから聞き馴染みのある大きな声。聞こえたほうに向かうとハルンは鍋の前で女の人と料理を作っていた。確かあの人が……マナだったか?

 俺は手を止めないハルンに返事をする。

 

「ちげぇ。カラクリの材料集め来たんだ。熱溜め鉱石と魔吸鉱石を探したくてよ」

「ほーん。その辺の河原行きゃあんじゃねぇか?」

 

 そうだな。わりかし単なる川辺とかで石探しすると素材系の石は見つかったりする。

 砂金とかも出てくるから色々面倒なんだ。ルミエが。

 

「あっ! こいつたぶん詳しいぜ!」

「ふえっ!?」

 

 おいおい。ハルンは隣の女性の背中をバンと叩いちまった。

 女の人は軽く悲鳴を上げた。

 たぶん……年上だな。ミツイやユキより下かな? とりあえず挨拶しねぇと。

 

「あ、ども。俺はライトって言います」

「ああ! ハルンの……なんて言えばいいでしょう。飼い主さん? 持ち主さん?」

「ちげぇ! ライトはオレの子分だ!」

 

 子分ではねぇよ。ハルンはずいぶんと適当言いやがる。

 しかし、どんな関係かって言われると言葉がむずかしいな。

 ペットじゃねぇから飼い主ではねぇし、持ち主ってのも違う気がする。

 

「あっ。あの……私、マナって言います。普段は簡単なお薬を作っているんですけど、今日はお母さんから一緒に料理作れって言われてて……」

「ああ。ありがとう。ハルンはすっげぇ料理好きだから助かる」

「ですよね! もうすっごい上手で……本当にカラクリなんですか? なんで話せるのかとか不思議です~」

 

 ハルンがカラクリってことは本当に外の人は全く信じてもらえないな。

 それだけジジイの腕がいいってことか。俺だって根本的にはどういう仕組みなんだかわかんねぇもんよ。

 とりあえずマナに石探しの話を切り出そう。

 

「ほんとな。そんで本題なんだが……俺たち道具の鉱石探しててよ。ユキに相談したらマナが土地勘あるって聞いて」

「はえ~。そうだったんですかぁ。お力になれるかわかりませんけど……どうして鉱石が必要なんですか?」

 

 首をかしげてマナは不思議そうにしている。

 急に鉱石探してるとか言われても困るよな。薬づくりの人からすると、大事な場所を荒らされるかもって考えもあるかもだ。

 どう答えるか考えていたらルミエルネが先に声を上げた。

 

「あのね。浴場掃除をするカラクリに必要なのよ。それさえあれば、こいつらがあの風呂場をずうっと自動で掃除する最高のカラクリを作ってくれるわ」

「えっ……! ええっ!?」

 

 その言葉を聞いたマナの目が煌めき、言葉が跳ねる。

 一発で理解できる喜びようだ。一気に俺の方にマナの顔が向き……距離を詰めてきた。

 

「本当に……! 本当にそんなものが作れるんですか!?」

 

 いや待て待て。すげぇ圧だ。マナに両手をガッシリ握られてキラッキラの瞳に見つめられて……。

 期待がデカすぎる! しくじったときにガッカリさせっからちゃんと説明しねぇと。

 

「いや。ちゃんと素材があればだけどな? 一応昔に一人用の風呂場で使えるのは作ったこともあるし……」

「おお~! うわうわ楽しみ……。ハルン作った方のお弟子さんですもんね!」

 

 強い! 握る力が強い!

 どんだけあの浴場嫌だったんだよ……。『毎日の生活に関わる面倒は直してやるといいもんだ』ってジジイも言ってたの思い出すな。

 俺の手を握ったまま、ぶんぶんと上下に振りながらマナは話を続ける。

 

「ぜひぜひ! 一緒に探させてください! すぐ行きましょう!」

「お、おう。助かるぜ……」

「はい! ハルン! 料理切り上げてすぐ行こう?」

 

 大興奮でハルンに向かっていったマナ。ようやく解放された俺はルミエルネの方を見やる。

 

「風呂カラクリの件……すっげぇウケよかったな。ここまで考えてたのか?」

「まさか。私がなんとかして欲しかっただけよ。あの子も一緒みたいね」

 

 髪を撫ぜながらそっけない返事。狙いじゃなかったとしても、手柄にしちまっていいと思うんだが……正直だよな。

 なんて考えてると、マナと一緒にハルンがどたどた戻ってきた。

 

「待たせたな! それじゃ行くか! 石回収ミッションだぜ!」

「おーっ!」

 

 ハルンのデカい掛け声にマナが返事。

 あっさり見つかると楽なんだが……。うし。俺も気合い入れていくか。

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