俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
「見てください! ここがシロナオシの花畑です!」
マナの案内で森を進み、山を登り、たどり着いたのはあたり一面に白い花が咲く開けた場所。
「綺麗でしょう! このお花たちは傷薬になるんですよ~」
両手を広げ、花畑の中へどんどんと進んでいくマナ。満面の笑みではしゃいでてテンションが高ぇ。
自慢の場所なんだろうな。遠くには山脈も見えて景色がいい。今日は晴れてるけど涼しいし、いい気分になれる場所だ。
ただ今回は薬を取りに来たわけじゃなくてだな……。
「なぁマナ! こういうところもいいんだけどよ。俺たち河原とか石が取れそうな場所を教えてほしくて……」
だいぶ離れたマナに向けて俺は大きな声で伝えた。
今日はカラクリやチャームに使う魔鉱石探しをしたいんだよな。
マナはハッとした素振りを見せ、俺たちの方に戻ってくる。
「あっとそのその……。この先にちょうどそういう河原があるので……! せっかくですしお見せしたくて……」
「なるほど? 景色見せるついでに花も採っていっちゃおうってことね」
「ふぃう!?」
ルミエルネがたぶん適当に言った言葉にマナはビクッと跳ね上がる。
さっきから動きに愛嬌があるよな。おばちゃんが言ってた村の中で一番人気の女性ってそういうところから来てるのか?
「薬売りが本業だもんな。そりゃ出かけるならついでに薬の素材も欲しいだろ。いいんじゃねぇの?」
「うぅ~。ちょっとだけ……。ちょっとだけそんな気持ちも……。すぐに済ませますね!」
そう答えるとぱたぱたと採取に取り掛かるマナ。
俺の入れたそれっぽいフォローもなんとなーく言われ慣れてそうな気がする。
するとハルンがどたどたとマナに近づき、作業の手伝いに入る。
「マナ! 取り方はこれでいいか?」
「ハルン上手~! ありがとう!」
おお……。久方ぶりにカラクリらしいじゃねぇの。
人と接するのが上手ぇハルンと上手そうな気配がするマナ。二人が組むとやり取りは一瞬で和やかだ。
「それじゃルミエ。俺たちも手伝うか」
「……そっちのほうが早そうね。ほらマナ。やり方見せなさい」
「わぁ……ありがとうございます!」
そっからは全員でお手伝い。やってみると案外簡単でいいな。
それっぽい道具でもサクッと切れるし。そんな時間はかからなさそうだ。
ハルンは手に持ったシロナオシの匂いをだいぶしっかり嗅ぎながら、不思議そうに問いかけた。
「なぁマナ。こいつはあんまり臭わねぇな。旨ぇのか?」
「んん? あくまでお薬だし料理には……」
「毒は?」
「んえ……? ないけど……」
むんず。
また手癖の悪ぃハルンは人の口にモノを突っ込んだ。
しかも今回は俺じゃねぇ。ルミエルネだ。
「うぅえ……」
絶句。ルミエルネの歪んだ顔はシロナオシがロクな味しねぇってことを伝えるには十分だった。
「にっ苦いですよね! 大丈夫ですか!?」
「えぇ。問題ないわ。マナはちょっと離れてなさい」
そう告げたルミエルネとマナの間に俺は身体を入れる。
察しはつくってもんだ。ハルンはシバかれる。
「うおっ!?」
カビ猫の身体がふっと宙に浮いた。そんで俺とマナから距離ができる。
ぎゅるるるっ。どんっ!
「痛っでぇ!」
空中できりもみ。何回転もさせられた後にハルンは地面に叩きつけられた。
全部ルミエルネの風魔法。仕置きを終えてぱんぱんと両手をはたき、その瞳が俺の方を向いた。
「あとどんだけ必要なのよ! パッと終わらせていい!?」
「ルミエ。薬の元だぜ。丁寧にやろう」
「……そうね」
返事をするとすぐにしゃがんで作業に戻ったルミエルネ。
あいつは身体が弱いから薬には世話になってんだよな。きっと作ってくれてる人に感謝もある。
俺も忘れねぇようにしないとな。今の生活は色んな人が支えてきてくれてんだ。
「皆さん本当に魔法使いさんなんですね~。あんなに自然に使っちゃうなんて」
隣で花を摘みながらマナは感心した様子。
「んだな。でも薬つくる人だって魔法使いみたいなもんだ。いつも助かってる」
「いやいや! 魔法と比べたら……」
「そんなことはねぇ。ケガしても薬あれば安心出来るし、ワケわかんねぇ病気にも効く。こんなにありがたいもんねぇよ?」
本当にな。教会の回復魔法は専門の人しか使えねぇし金がかかる!
並んでると滅茶苦茶待たされるし、夜中とかは相手してくんねぇぞ。
「その……トモリの人達はいっつもお礼とか伝えてくれてて。すごくありがたいんですけど。集落の外の人に言ってもらえると、また一段と嬉しいです……!」
「俺は偉そうなこと言えねぇけどさ。魔法よりありがたい時は多い。スゲェよやっぱ」
そんな話をしていると、首元を軽く風が撫ぜた。
気配を感じ後ろを向く。そこにはちょっと自慢げな女がシロナオシの花束を持っていた。
「どう? いいでしょう」
思った以上に……清楚なポーズ。両手に花束を抱え、こっちをじっと見るルミエルネ。
「……似合ってんな。綺麗なもんだ」
「ふふん。まぁね?」
意外と、だなんて付けようもんなら俺も仕置きだ。余計な言葉は減らして伝える。
誰が作った花束なのかとか、また遊んでんのかとか。言いたいことはいっぱいあるがここは堪える。
俺はマナをちらりと見て、身振り手振りを付けながら問う。
「シロナオシはちょっと捻ったりしても大丈夫か?」
「ふぇ? ……ああ! 小さい頃はお花遊びとかしてました。どうぞ!」
バレたか……。俺はサクッといくつかのシロナオシの花を結び、冠にする。
カラクリと違ってすぐに作れるのがいい。そんで割と豪華に見える。
ふわりとルミエルネの頭に乗せると、いや白い花の雰囲気がいいな。
「姫には冠が必要でしょう。ってな」
「……ふぅ」
ひとつ息を吐いたルミエルネがひらっと後ろを向くと、俺の視界が突然回る。
気づいたら足は大地を離れ、空中で身体はうつ伏せ向き。視界には白い花畑が絨毯のように……。
だん。
痛って……。きりもみ回転こそなかったものの、そのまま地面に落とされた。
下が花だらけだからケガしねぇって言ってもよ。
「マナ。こんだけあれば十分でしょう? もう行きましょ」
「はいっ。かごいっぱいです!」
フォローもなく女子たちは再出発。なんだ? ちょっとからかい半分っぽく見えたか?
実際ふざけた気持ちがないと言えばウソになるけどよ。
「ほらいくぞライト! こっからが本番だぜ」
「……ああ。そうだな」
「しっかし随分ルミエはお気に召したじゃねぇか! 冠まだつけてるぞ!」
ほんとだ。自分の花束はもうひっくり返ってマナのかごの中だってのに。
ルミエルネたちを追いながら、ハルンに向けてぼやく。
「帰りまでつけてっかねぇ」
「ラジに見せたらウケるかも知んねぇな!」
あいつ外さねぇ理由それだよ。名探偵ハルン。
慣れないことはするもんじゃない。
少し歩くとすぐに河原が見えてきた。水切り出来そうな石がたくさん。綺麗な水。遠くには山脈が見える。
岩肌の崖もあって、まさにお目当てのブツが見つかりそうだ。
「さっ。アンタたち。とっとと見つけるわよ。私の背中側に行きなさい」
そんなルミエルネの掛け声が聞こえたとたん、ハルンが一気に走り出しやがった。
それもそのはず。背中側に移動しろって言葉はルミエルネが言うと『これから私は危なっかしいことをします』って宣言みてぇなもんだ。
俺は大声を上げて事を起こそうとする女を制する。
「待て! まだ周りにほかの人がいねぇかとか調べてねぇよ! まだやんな!」
「なによ。こんな山奥の川よ? いても熊とかでしょ」
熊がいてもヤベェだろ。
とりあえず走ってルミエルネの隣に陣取る。よーしこれで何かしようとしても止められるな。
「とりあえず俺が周りに人がいないか調べっから! 待ってろ!」
「アンタはフランツのお爺さんと似て気を付けるわねぇ。早くしてよ?」
じりっじりっと今回は手から電気の輪を広げる。水辺で足からやると思ってたのとは違う動きすることがあっからな。
ただ慎重にやる分、時間かかるんだよなこれ。
「ねぇねぇハルン。ルミエとライトはなにをしてるのかな?」
「あぁ。魔鉱石ってのは魔力に反応すっからよ! 河原の石にガバーッと魔力通せば光ったりして見つかんだ! それをルミエはやろうとしてたんだな!」
後ろじゃハルン先生がマナに向かって講義中か。
そういや、マナはハルンに向かって敬語じゃねぇんだな。
「えっ!? 光るならそのままやればよかったのに~。ライトはどうして止めたの?」
「そりゃ簡単だ! 魔鉱石ってのは魔力にスゲェ反応すんだぜ! 雑にデカい魔力流したら弾けたり爆発したりすんだ!」
そーだなハルン。今回は特に熱系を溜め込む魔鉱石を探しに行くんだ。
すでにガッツリためてる魔鉱石に追加でぶち込んだらボンだぜ。
「うわぁ……。それは危ないね。だからほかの人がいないか探すんだ」
「だな! オレたちはわかってるから気を付けられっけど、知らねぇ奴からすりゃ相当ビビるし大けがするかもだ。だからルミエを止める!」
……おっと。川の中の石の上か? 誰か座ってる。
あぶねぇ~~~! マジで止めてよかったぜ。
「ルミエ。近くに誰かいた。声かけ行こう」
「本当? どんくさい人もいるもんねぇ。なーにをしてるってのかしら」
ずいぶんな言い草だぜ。こっから先、爆発します。なんて看板立ててたわけでもねぇってのにな。
とりあえずその人に挨拶行くが……ハルンはどうすっかな。
「ハルン先生! 人いたから声かけてくるわ。マナのこと頼んでいいか?」
「んあ? おう! 任せときな!」
ハルンって濡れると結構乾くまで時間かかるんだよな。ちっと大変そうだから置いてく。
「……ねぇハルン。宝物が喋れたらさ。ハルンみたいな感じなのかな?」
「うん? どういうこった?」
俺たちが立ち去る時に、小さくマナの声が聞こえた気がした。
ルミエルネと二人で反応があった場所に行くと、意外な人が座ってた。
ちょっと距離があるから、俺は叫ぶように声を掛ける。
「……ユキの師匠!? なにやってんだ?」
「おお! ライトに魔女のルミエルネか。どうしてこんなところに?」
昨晩のオークどもが来たとき、一緒に動いてくれたおっさん。イサギさん。
見たとこ……釣りか!
「勘が冴えるわねライト。ハルンは魚釣りなんて見かけたら釣れた魚見たさに飛び込んでったわよ」
「ほんとな。偶然だけどラッキーだわ」
軽口言ってるとイサギのおっさんが釣りを中断してこっちに来てくれた。
俺は早めに用件を伝える。
「俺たちは河原で魔鉱石探しをしててよ。ちょっと危ないかもだから、周りの人に声かけ来たんだ」
「あれか……炎系の魔鉱石探しか。雑にやると爆発するもんなぁ」
……んお? おっさん詳しいな。
存外、熟練の冒険者って感じあるな。お師匠って呼ばれてたし、ハレノヒの街でも頼られてたのか?
「おじさん。イサギだったっけ? あなた随分といろいろ知ってんのね。私のこと魔女って呼ぶ奴、珍しいわよ」
「……すまない。昔はあちこちで仕事をしていてな。気の利かない言い方だった」
「そうね。経験上ロクでもない奴がよくそう呼ぶわ。そんでなにしてたの」
流してるんだか、咎めてるんだか。
ルミエルネの態度は独特だ。
イサギのおっさんはちょっと押され気味に口を開く。
「俺は見ての通り釣りだな。あとは……」
「あとは?」
間髪入れない問いかけ。ギラリとルミエルネの金色の瞳が光った。圧があるぜ……。
「……君たちならいいか。山岳にある白い建物。あれがブロカードの本拠地だ」
その一言に緊張が走る。イサギが指した方向を見ると、遠くだけど確かにその建物があった。
おっさんはそのまま話を続ける。
「奴らは昨日の襲撃で戦力を減らした。そこで動きに変化があるかもしれん。そう思ったら居ても立っても居られなくてな。釣りついでに様子を確認していたんだ」
「……ふぅん。それでどうだったわけ?」
「特に変わりはないな。奴らにとってはオークを失っても、ウルフを失ってもそれ以上の意味は持たないようだ」
なるほど。確かにおっさんの心配はごもっともだ。そんで動きはねぇと。
ブロカード連中らしいなって正直思っちまった。わからされるってのは嫌なもんだ。
「やっぱまだ気になるかも知んねぇけど……退くのは厳しいか?」
俺は遠慮しながら聞いてみる。
イサギに無理に退いてくれって言うのは違うかもしんないけど、やっぱ魔鉱石の爆発はおっかねぇよなぁ。ケガさせたくねえし。
「いや。どうせ連中も動かんだろう。あったとしても夜だ。監視を続けても暗くなればこの距離からは見えやしない。しかしお前たち、よく河原があるってわかったな」
「薬売りのマナに案内してもらったのよ」
ルミエルネの返事を聞いたとたん、イサギの顔がまたゆがんだ。
これは、俺たちがルミエルネの名前を聞いた時のような。厄介な奴の名前が出たなって雰囲気だ。
意外だな……。集落みんなに大人気のいい人なんじゃねぇの?
「お、お前たち。頼むからブロカードの本拠地のことはマナには言うなよ?」
「え?」
イサギから伝えられた言葉もまた意外。
おっさんがいたことじゃなくて、ブロカードの本拠地のことを喋るなって?
イサギは俺の両手を握って、目線を合わせて語り掛けてくる。
「いいか。男と男の約束だ。絶対に喋るな。頼むぞ!」
「わ、わかった! わかったよ……」
俺は返事をしながらルミエルネの方をちらりと見る。
あいつはこういう時『女だから』とか、よくわかんねぇ屁理屈入れて約束なかったことにする奴だ。
俺の視線に気づいたイサギはルミエルネに向かっても話す。
「ルミエルネも、頼むぞ! 花飾り似合ってるな! それじゃ俺は行く。またな!」
そう告げると、おっさんは釣り具を持って、あっという間に森の中へと消えていった。
隣でルミエルネが鼻で笑って、一言。
「似合ってるって」
「……はぁ。よくわかんねぇおっさんだったな」
若干の疲れを感じながら、俺たちはハルンとマナのところに戻った。
二人は楽しそうに水切り。仲いいなおい。
「あっ! おかえりなさい!」
「はいはい。邪魔なおじさんは退かしたから。アンタたちも後ろ下がりなさい」
マナの声かけに返事をしたルミエルネは両手を前に突き出し、かなり広範囲に魔力を広げる。
炎系の魔力として軽く揺らめかすと、河原の石が少し反応した。
「おお~。これが……」
「動くなよマナ! あぶねぇかもわかんねぇぞ!」
興味津々のマナを制するハルン。今んとこ何となく雰囲気があるだけだから、知らねぇと警戒心湧かねぇよな。
カタカタっといった音や、ぼんやりと光っているような気がする程度の見た目の石があるだけ。
突然、ふっとルミエルネが両手を斜め上に上げ、石が宙に何十個も浮いた。
「バッカお前……」
俺は思わず声が出た。そして、あっという間にその時は来た。
パン! パンパンパン!
石を持ち上げるほどの魔力に耐えられず、宙に浮いた魔鉱石が弾けだす。
小さな花火のように。ただ音はしっかりとデカく。
「わっ! わわわっ!」
初めて見るマナは大混乱。そりゃそうだ石が空飛んでポンポン弾けてんだ。
「おいルミエ! 無茶だって!」
「うっさいわよ。そんな爆発って程じゃないわ。クズ石持ってくんなってメガネも言ってたでしょーに」
俺の言葉も我関せずでルミエルネは次の工程に進む。
アホみたいな厳しい選抜を乗り越えた炎系魔鉱石たち。実のところサイズはそこまでデカくない。占いの水晶くらいのが多いな。
川にまとめて沈められ、冷やされる。
あたりにはジュワーっという大きな音。そんで腹を揺らすよう強く鳴り響いた石の割れる音。
「ぴゃあ!」
純朴な薬売り、マナの悲鳴も同時に聞こえる。壮絶な現場だよ。
「ほらいい感じの残ったんだから入れるわよ? 準備なさい」
「はいはい。ハルンライト」
俺の背負ってる宝箱を開けて魔鉱石を詰める。ルミエルネが。
ガンガンと雑に。やめろ! 衝撃でも反応しうるんだぞ!
「はい終わり。それじゃアンタたち。チャーム用の魔吸鉱石は炎系魔力吸って赤くなってるだろうから。拾って帰るわよ」
「「へぇ~い」」
俺とハルンは一緒に気の抜けた返事をして、手袋を付けて火ばさみを持つ。
赤くなった魔吸鉱石は熱を外に漏らさねぇ事が多いけど、限界のやつは熱いから気を使う。
「けっこうあんな~。五つでいいのか?」
「売れんだからあるだけ持っていきなさい!」
適当なハルンの言葉にルミエルネはがめつさの塊みたいな返事。変わんねぇ。魔吸鉱石ってそこまで高く売れたっけな……。
とりあえずめぼしいもんは拾って。作業終了。質とかは後でラージス交えながらチェックしよう。
「うし! 日も暮れてきたから帰っぞ! ミッション終了!」
「わ~い! 大成功ですかハルン先生~!」
「知らね! 帰ってから考える!」
マナに抱き着かれながら、ハルンはずいずいと帰っていく。その元気さが眩しいわ。
俺は慣れない道を歩いたせいか。それともいろいろあったからか疲労を感じてる。
「……アンタもハルンになって私を背負って行ってくれないかしら」
「冗談。あんな体力ねぇよ」
ルミエルネも軽口は言うが、多少疲れてるみたいだ。
どうすっかなぁ。今日のうちにチャームのカラクリ部分だけでも作ろうか悩んでたんだが……。
「ねぇハルン。聞きたいことがあるんだけど……」
「あ? なんだ」
わりかし帰り道の山中は静かで、ハルンとマナの声もよく聞こえる。
涼しくてちょっと心地いい。
「もし、もしもだよ? ハルンだけが悪い人たちにさらわれちゃったら……さ」
「んお? オレがか?」
「そう。ハルンが。すっごい強くて、勝てなくて、逃げられないような相手にさらわれちゃったらさ……。助けて、ほしい?」
思ってもみなかった会話が聞こえた。
涼しかった山道が、急に冷たくなった気がした。
ハルンはまるで普通の会話をしているかのように返事した。
「オレ一人がさらわれたってことか」
「そう。ライトたちは助かってるとして」
なんで、マナはそんなことを聞くんだ?
そのワケわかんねぇ質問に、何の意味があるんだ。
「あぁ……。宝物が奪われたらってことか」
ハルンの返事に、小さくマナは頷いた。
そうか。そうか。
ハルンに、物の気持ちを聞いたのか。
「そうだな……。まずはちょっと寂しいだろうな。あいつらとの毎日は楽しいからな! 美味いもん食わせてるし! いろんなことが出来ねぇから心配だな!」
「……そっか。そうだよね!」
俺は、黙って話を聞くしか出来なかった。
「だから助けては欲しいんじゃねぇか? 本音はな?」
逃げ出したいほど続きを聞きたくない。遮りたいほどおっかねぇ。
ただ、動けなかった。口が、動かなかった。
「でもよ。勝てねぇ相手なんだろ?」
「……そうなの」
「ならよ。助けはいらねぇ。カラクリを助けるために、命は張らなくていいよ」
……言葉と一緒に風が吹いた。
あまりにも冷たい。風が、届いた。
「でもねハルン。みんなにとって、ハルンは大事なんだよ?」
「オレにとっても、みんな大事だ。そうだろ?」
「そうだけど……」
ようやく、息が吸えた。気がした。
冷えた身体はそのまんまだけど。声が出る気がした。
吸って、声を……。
「ちょっと!」
そん時、ちょうどルミエルネの声が響いた。まるで俺を遮るみたいに。
「おう? どした」
ハルンは、まるで普段と変わらないように返事をした。
「……ちょっと。私たちは、チャーム作ってくるわ。ハルン……アンタは、ご飯とか作ってなさい」
「おう! 今日は魚だな! 楽しみにしとけよ!」
パッと笑ったハルンをよそに、ルミエルネは俺の手を強く引いて進む。
……どっちの手が震えてるのか。俺にはわからなかった。