俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
チャームが完成した後、それを持ってルミエルネと一緒に公衆浴場の待合室に入る。
もう外は暗くなってきてたが、建物の中はしっかりと明るい。
「だいぶかかりましたね。ハルンは夕食作りですか?」
待合の席からラージスに声を掛けられた。
ラージスの隣には手を振るユキ。用事すんで一緒に待ってたのか。
空いてる席に座り、質問に答える。
「ああ。マナと仲良く作りに行ったぜ」
「ほぉ! そかそか。マナちゃんに協力してもらえたんやな。よかった」
ユキはいつも通り明るい。
いや、いつも以上に声が明るい。……楽しみにしてやがる。
んで、問題は机の上だ。これ見よがしに黒い布をかぶせられたなにかが鎮座してやがる。
もう聞いてくれとばかりのなにかが。
「……見てもいいか?」
「どうぞ。ユキがいろいろと手伝ってくれました。なかなかの傑作です」
想像以上に思わせぶりなラージスの態度。ふぁさりと布を取ると……。
「……へぇ?」
ルミエルネの息が漏れた。
そこにあったのは、風呂掃除用カラクリ。……顔が猫型の。
「木製の外装。車輪による自走式。魔力を利用した吸着ギミックにより、壁や天井の走行も可能。仕込み鉄製ブラシによりパイプの頑固な汚れも落とせ、あらゆるシーンで活躍します」
ラージスが一気に説明。指で上げたメガネの輝きが凄まじいのは気のせいか?
ただ高機能よりも気になったのはデザインだよ。デザイン。
俺はついつい気になって聞いちまう。
「茶色だけどこれ塗られてるな? 顔は猫だし尻尾も猫。しかも尻尾ブラシかぁ! ……誰が考えたんだ?」
「はいはい! ユキちゃん考えました! こっちが男湯担当の黒猫!」
どすん。と目の前に二つ目の掃除カラクリ。
普通にかわいい見た目。こういうセンスもカラクリには求められるかぁ……。
感心してるとルミエルネが切り出す。
「ん。いいんじゃない? それじゃラージス。こいつらに炎系魔鉱石入れたらあと終わり?」
「はい。動作テストは僕の魔力で済ませてますから。想定通りに動作すれば問題ないですね」
うし。それじゃお手並み拝見といこう。
俺は宝箱から魔鉱石を取り出し、ラージスに手渡す。
するとラージスは特に形を整えるでもなく清掃カラクリの背中に入れた。
ガラガラガラ。
清掃カラクリは車輪を回し、尻尾を振りながら担当の浴場に向かって勝手に動き出した。
「……こっから行くのか!?」
「ええ。待合室に帰ってきますので」
マジかよ。メチャクチャ高性能だなおい。
「ではライト。僕らは男湯の様子を見に行きましょう」
「はいよ」
そそくさとラージスは黒猫カラクリを追いかけ男湯に向かう。
俺も中に入り、風呂場の様子を見る。
「ほぉ……。だいぶ変わってんな。快適そうじゃねぇの」
見た目も、臭いもよくなってた。なにより雰囲気が明るくなった。
温泉らしさってのか? 嫌な感じじゃない独特の場所だ。
「カラクリの試運転を兼ねて、徹底的に清掃されていますからね。見たところ動力の魔鉱石に熱を溜める動作もしっかりできていますし問題ないでしょう」
「これならルミエルネも満足そうだ。流石だぜ」
少し得意げな顔をしたラージスと戻ると、ユキとルミエルネがこちらに気づき、近寄ってくる。
「いい仕事ね。ラージス」
「すごいよ~。勝手に走って勝手に戻ってくるのよ。そんでお風呂はもうピカピカよ? こんなもん作れるなんて偉いねぇ」
あのルミエルネが素直に褒めた。ユキは期待を超えたって感じでテンションが高い。
百点満点じゃねぇの。
「ユキ、おばあちゃんの褒め方だぜそりゃ。よかったなぁラジ」
「動いて一安心ですね。魔鉱石だけが唯一の懸念でしたから」
ラージスはメガネを上げたあと、腕を組み目を閉じる。
生意気そうな態度をとるけど、内心は察せる。
「照れ隠しよ」
「わかる~。かわいいとこ多いやんな?」
ほらみろ。ルミエルネとユキにもバレてるぞ。
少し間を開けて、腕を組んだままラージスは向き直し、口を開く。
「……チャームの方はどうなったんですか? 完成していますか?」
「ああ。モノは出来てっけど試しはこれからだ。広いとこ行くか」
俺は手元に五つ作ったチャームを用意して、見せる。
あんまり見た目は気にしてなくて、素材の金色フレームと真ん中にちょっと磨いた魔吸鉱石。
装飾品というには、微妙か?
「ええな。おそろいやんかぁ照れるわ~」
「はいはい。無くさないようにね」
女子組が軽口をたたいているのを聞きながら、適当な広場に向かう。
着いたら、横一列。並んでから実験。
「ここでユキが薄氷の魔法使ったらええんよね?」
「おう。俺たちが固まったら失敗、だな」
前にオークどもの動きを止めていた氷魔法。それが防げないと失敗だ。
ただ、改めてとなると緊張すんなこれ……。しくじったらどうなるんだ俺は。
ユキの顔にも緊張と遠慮がにじんでる。
「……ラジと私は離れていてもいいわねこれ」
「おい」
ルミエルネ! お前な!
そりゃそうなんだろうけどよ……。助けられるやつも必要だしな。
ただ、一人で食らえってのは心細いだろ。
ニマニマとルミエルネはこっちを見ている。
「そんな不安げな顔しないの。一緒にかまされてあげるわ。さ、ユキ。よろしく」
「い、いくよ~? はいっ!」
ひゅっ、と一瞬魔力が通ったような気がした。
「……ん?」
成功か? なにもわかんねぇ。
そういや、固まってたとしたら自分じゃ気づけねぇんじゃねぇか?
落ち着かねぇ。あたりをきょろきょろと見まわしちまう。
「……はぁ~! 凍ってないね!」
ユキの驚いていて嬉しそうな声が聞こえた。
……いよっし! 成功か!
「何よりですね。うまくいって」
「最初から言ってたでしょ? これで対策できるって」
ラージスとルミエルネも喜んでら。うん。狙ったもんが狙った通りに動くってのはいいもんだ。
「ユキ! これで俺たちも、いざという時は一緒に戦えるな」
「……うん。なんやろ。思ったよりうれしくて。恥ずかしいよ」
ユキの顔は本当にうれしそうだった。手元みて、はにかんで。
一人で戦わないとって、考えてたもんな。
「ええなぁ」
ぽつりと、ユキから言葉が漏れた。
「……なにがだ?」
「えへ。みんなが寒くならないの、ええなって」
満面の笑み。だよな。一人で戦わないといけないってやっぱ寂しいよなぁ。
改めて自分が持っているチャームを見ると、さっきよりやたらカッコよく見える。
「いいもん作ったな。我ながら」
満足してっと、ルミエルネから声が届く。
「ご苦労! いい仕事だったわ! 今日は十分よ。帰りましょ」
すっかり暗い夜道を満足げにしゃべりながら、帰路につく。
山から帰る時と比べて、ずいぶん気持ちが軽いもんだ。
なんてこと考えてたら、トモリの真ん中あたりで声を掛けられる。
「お。ユキ! いい時にいんじゃん? どうよ?」
声の主はミツイ。イサギのおっさんと一緒だった。
ミツイは口元に酒を飲むポーズで手を当てている。どっちがおっさんだかわかんねぇな……。
「はぇ! ええなぁ!」
ユキはすぐに承諾って返事。
最近は俺たちに付き合ってばっかで、思いっきり飲めてなかったしな。嬉しそうだ。
そんじゃ俺らは、ハルンのところにでも行きますかね。
「ライト少年。君もどうだ」
……えぇ?
イサギのおっさんからまさかの誘いだ。んなに老けてるように見えたか?
「いやおっさん。俺はまだ酒って年じゃ……」
「あぁいや。まだ早いよな。ただ話に付き合ってもらえたらと思ってな。ユキやミツイが子供のころ好きだったベリーのジュースで……なんて。もちろん無理にとは言わないが」
ふむ。ガキだって分かってて、誘ってくれたってわけか。
俺としても、ちょっと気になってることはあるんだよな。
マナはなんでハルンにあんなことを聞いたんだ? なにか……考えてることでもあんのか?
「ライト! 行くなら一人で行きなさいな。私たちは行かないわよ」
「そうですね。ユキの飲み友達、となればどんな人でどんな状況になるか予想がつきますから」
後ろからはルミエルネとラージスの声。
……ま、もともと飲み会に混ざるのは好きじゃないもんなアイツら。
俺は振り返り、二人に向かって一言。
「ハルンにはよろしく言っといてくれ」
はいはい、と言わんばかりにルミエルネが手を二回振り、踵を返してラージスと歩いて行った。
すると、すぐに背中から近寄られ、肩を組まれた。
驚いて横を見るとミツイの顔。本当、距離感近いよな……。
「うし。それじゃミツイおねえちゃんのこと、いろいろ構ってもらっちゃおっかなぁ?」
「みっちゃんまだ飲んでないのに絡み酒やんか。やめぇさ」
名残惜しむ間もなく、連れられて行く俺。
なかなかハードな席になりそうだ。酔っぱらいの相手の仕方を考えてたほうがいいかもな!
*
連れられてきた建物に入ると、綺麗で落ち着いた雰囲気の空間がそこにはあった。
草を編んだ敷物が床一面に敷かれ、その中央に低く丸いテーブル。
「……ここは?」
「ミツイん家。ゆっくりしていきんしゃいな」
あんたの家かよ! 公共の酒場じゃないのか!
なんかさ、酒がいろいろキレイに置いてある棚もあるし、灯りもいくつかあって雰囲気あるのに!
「畳ええよな~。ころころ出来るし楽やわ~」
実際に転がってくつろいでるユキ。靴を脱いで上がってるから俺も倣って机の前に座る。
慣れてんなぁ、と見てたらあっという間にミツイがグラスと皿とか持ってきて、イサギのおっさんは酒を出しながら話しかけてくる。
「ライト。ワインもあるし、エールもある。俺はコメから作った清酒がおすすめだが……どうする?」
「飲めねぇって!」
「はっはっは。すまない。これが例のベリージュースだ」
宴会のおっさんってのはみんなそうだな! 絡み方が一緒!
イサギから注いでもらったベリージュースは真っ赤。サラッと水みたいな流れ方なのに全然透けてねぇ。
これは味も濃そうだな、と鼻を寄せて香りを嗅ぐ。
「はぁ~! ハルンそっくりやなぁ!」
「おぉ~。わかるんかねぇそれで。かわいいもんだぁ」
「うっせ。酒かどうか怪しいからチェックすんだよ」
ユキとミツイの反応に俺は思わず悪態が漏れた。
女二人もイサギと一緒だな? 飲むのもイジるのも慣れきってやがる。
楽しそうで何よりだよ。
「そんじゃお師匠。音頭よろしく」
あっぶね。今のミツイなら俺に振ってくるかと思ったぜ。
頼まれたイサギはグラスを持ち、スッと声を上げる。
「……トモリの新たな住民。ライトたちの移住を祝って、乾杯!」
「「かんぱーい」」
「いやなんも知らねぇよ!?」
しょーもないことばっかり言いやがって!
楽しけりゃなんでもいいのかよおい!
ケラケラ笑ってるユキをよそに、ミツイは俺に顔を寄せて、小さな声で呟く。
「おっさんが勝手に言ってるだけだから。マジで捉えなくていいよ?」
「わかってる。ありがとう」
……あいつらがトモリを気に入っていて、ここがいいって言うなら考えちまうんだろうけどな。
ただまあ、トモリというかマナ関連で、ちょっと気になるとこもある。
ベリージュースをコップ半分程度一気に口に入れ、ってあっめぇこれ……。
「くっく。しんどいだろうそんな一気に飲んだら」
イサギのおっさんが失笑してらぁ。油断した。
イメージしてる味と全然ちげぇ。俺の鼻は利かねぇ!
とりあえず、俺はみんなに向けて質問をする。
「……あのよ。いっこ今日ハルンがマナに『ハルン自身が敵に奪われたら取り返してほしいか』って聞かれてたんだけど、意味わかるか?」
「おおぅ。マナちゃんがね……?」
ミツイの返事はちょっと困惑が入ってた。その場の空気が変わる。
ピリッとしたわけじゃねぇんだけど、ムードが真面目になった。ミツイが眉間を指でつまみながら答える。
「いや~。ごめんねぇ。気ぃ悪かったでしょ。そんなハルンを物扱い的な言い方せんでもねぇ。ごめんよぉ」
「あ、違くてよ。ハルンとマナはメチャクチャ仲良くなったから、そういう聞き方するのはなんか理由あんじゃねぇかって思ってよ」
そう! 仲良しにはあんまりしない聞き方だったな。
自分で言ってて気づいたわ。マナは逆にハルンをモノ扱いされたら怒りそうじゃねぇか。そうだよ。
「……もしかしたら、ノブレスオーブと重ねてしまったのかもしれないな。あれもハルンと同じように、皆の中心にあり、白の人たちから大事にされていた」
思い耽るように、イサギは告げた。
……ノブレスオーブか。ブロカードに奪われたって言ってたもんだ。
だから、取り返せないとしたらって話だったんだ。
「だからってハルンに聞かんでもなぁ。ノブレスオーブが『助けてー』って思っとるワケがないし……」
ユキは少し呆れ気味に酒を飲みながら話す。
……あれか? あんまり好意的って反応じゃねぇな?
すぐにミツイはやれやれ、といった仕草を取りながら返した。
「みんなにとっては大事なもんなのよユキ。ハレノヒの思い出なんですから。ねーイサギさーん」
「俺に振るなって!」
大慌てのイサギ。そんな聞かれたくないことあるか?
こういう反応にはちょっと興味惹かれるよな。
「おっさんも、ノブレスオーブの気持ちが知りたいってか?」
「そうじゃない!」
俺からの質問にまいったまいった、って雰囲気の仕草。年取ってもこういうのは困るんだな!
……俺も年取ったら自然と変わるってわけじゃなさそうだ。気を付けねぇと。
イサギのおっさんはゆったりと、その口を開く。
「白の人。あいつらはご先祖から継いだオーブにいつも感謝してた。『自分たちを清くしてくれて、人々を助ける力をくれる』ってな」
「……そっか」
ただ救ってくれるもんってだけじゃねぇよな。それがあるから、自分たちの在り方が決まる。
今日もそう。風呂場を掃除したのはカラクリだったけど、ユキの喜ぶ顔が見られた。
「あいつらにとってはオーブは、かけがえのない生きる指針だったんだ。そんな白の人が持つ誇りは、俺の誇りでもあった」
カラン、とグラスの中の氷が鳴る。
イサギは俯いて懐かしむように酒を飲んだ。度が強いのか、酒はあまり減ってなかった。
そのまま俺の方を向くと、核心を語る。
「マナもな、仲良かったのさ。白の人はガキでもじいさんでも優しい。そんな人たちが大切にしていたものを、あの化け物に奪われたまま。思うところはあるんだよ」
俺は言葉が出なかった。確かにそうなのかもしれねぇ。
ただ、頭には浮かんできちまってる。
――それは、おっさんの気持ちなんじゃねぇのか。
「ところで、ハルンはどう答えたんだ。取り返してほしいって言ってたか?」
「いや。来なくていいってさ。俺たちが危なくなるくらいなら、助けはいらねえって」
俺の答えに、三人は目を丸くしていた。
一瞬だけ間が開いたあと、ミツイが一言呟く。
「ユキとおんなじこと言うんだねぇ」
……同じ?
俺がユキの方を見ると、ちょっと苦笑いを浮かべながら話し始めてくれる。
「ユキちゃんはな? ノブレスオーブを取り返さなくてええと思っとんのよ。あれよ? 一人でなんとかしますとかじゃなくて。ほんとに」
「マジか」
イサギのおっさんの口ぶりや、マナの質問的にトモリの人たちはてっきりみんな取り返したいのかと思ってた。
「だってぇ、考えてみぃさ。トモリはあんまり寒くないもん。寝冷え対策にあんなもんいらんいらん。取り返したって飾りよ?」
「あんたね! 集落のみんなムッとするんだから言い方気を付けなさいって!」
ミツイはおばちゃんっぽい手ぶりでユキを戒める。ただ、悪びれず張本人は喋り続ける。
「ええもん。ここ怒る人おらんし。ね~お師匠~」
つんつんと、イサギのグラスを持つ指を突くユキ。
「だから俺をピンポイントで突っつくんじゃない! 取り返したい側そのものみたいだろうが!」
「事実やんか。ねぇみっちゃん」
「そうね~。隠せてないよ。お師匠~」
ミツイとユキはケラケラと笑う。こっちは酒回ってきて調子よくなってきてんな。
片手で頭を抱えるおっさんは対照的だ。相変わらずグラスの酒は減ってない。
「おっさん酒弱いのか?」
気になって聞いてみると、俺の言葉にミツイが反応する。
グッとイサギのグラスを覗き込んで、驚いた声を出す。
「ほんとだ。全然飲んでないじゃん。普段ユキとおんなじくらい飲むのにねぇ。どしたん?」
「真面目な話をしてるときは、くいくいいけないタイプなんだよ。まったく、ユキにとっては自分たちの宝だろうに……」
確かに。参るよなこういうの。
普段どんな感じでユキやミツイと喋ってるのかが想像できるぜ。ルミエルネ被害者としてはちょっとフォロー入れたい気持ちがある。
「まぁ、大切な人の大事なもんは、大事にしたいってあるよな。なんつーか、気持ちとかさ」
ふわっふわな言葉しか使えねぇ! けどま、あるよな?
「そう。そこんところが、一番わかってないんよ。みんな」
俺の言葉に続いたのは、まさかのユキだった。
笑ってからかう感じじゃなくて、真面目に、説くように。ユキは続ける。
「お父ちゃんも、兄さんも。イサギさんに『オーブを取り返せ』なんて言わんよ。絶対言わん」
ユキの言葉からは自分だけじゃない、という思いを伝えたかったんだと感じた。
わかっているはずだ、という信頼も感じた。
「……俺はな。ハレノヒの警備隊長だったんだ」
イサギは、口を開いた。
「何者でもなくなった俺は、あの場所に拾われ、友を得た。居場所が出来て、人になれた。だから俺は、ハレノヒを守る人間になりたかったんだ」
語る中身の重さと違って、手や声は震えてなかった。
きっと何度も、何度も思い出して、声にしてきたんだ。
「奴にすべてを奪われたあの日。俺はなにも出来なかった。ブロカードに立ち向かったが、役に立てず逃がされた。守りたい人に守られ、居場所は焼かれ、彼らの誇りが奪われるのを指をくわえて見ていたんだ」
街が焼かれるときってのは、一人だけが失うわけじゃねぇ。
住んでる人全員が、それぞれ奪われる。
「ユキの言う通り。あいつらは望まないさ。オーブのためになんてな。……ま! ハレノヒで過ごした人間は、どうしてもあの頃を忘れられないってだけなのさ」
最後にサラッと締めたっぽいイサギの言葉。
俺もよくこういう話し方すんだろうけど、聞いてると思ったよりカッコよくねぇな。
「まったくもーこの人たちったら! はい! 終わり終わり! もう。しょうがない話するんだから全く」
「え? お開きか?」
突然ミツイが切り上げるかのように口を挟み、立ち上がったもんだから思わず聞いちまった。
まだ全然飲んでないよな?
そっとミツイが俺の耳に顔を寄せ、小さな声で囁く。
「こっから先は地獄なのよ。ユキあんな感じだからさ」
ちらりとそちらを向くと、ちょっとむくれてる……。
確かに俺たちはユキが本気で酔っぱらって騒いだりしてるところを見たことがないかもだ。
やべぇのか。やべぇよなそりゃ。
「なんとも情けない話ばかりになってしまったな。まぁ、ユキのことは頼んだぞライト。今日はお前が送るんだ」
よっこらせと、立ち上がりながらイサギのおっさんは事実を伝えてきた。
そりゃそうだ。俺たちはユキの家に泊めてもらってんだから。
思わずミツイの方をじっと見ると、ゴメンと口が動いてる。
「はいはい。ユキちゃんも帰りますよ。なんもせんて、まったくもう。ライト行こ行こ」
そうは言うけどなユキ。ぷんぷんって感じじゃねぇか。
戸を開けてみんなで外に出る。もうこっからイサギのおっさんは別方向か。
「それじゃライト。またな」
「あっ、お師匠送るよ?」
「いや。今日は寄るところがあってな……」
寄るところ? 飲み会の後にか?
そんな不思議さをミツイも感じたのか、困惑しながら言葉を続ける。
「ふえ? じゃそこにも付き合うよ。どこ行くんだか知らないけどさ。ライト! 今日はありがとね」
「おう。ミツイも気をつけてな」
ミツイ達に別れを告げて、俺たちも歩きだす。
そういやあんまり食えてねぇな。晩飯の残りは……期待できねぇか?
「ねね、ライト」
「どした?」
考え事して歩いてると、ちょいちょいとユキに呼ばれた。
「あそこ涼しいんよ。ちょっと風当たっていかん?」
たしかにぴゅうと夜風が吹いて、ユキの髪が大きく揺れる。
「んだな。行こう」
あの場所では話せなかったことがあんだな。
俺は酒飲んでないけど、外の空気は気持ちよく感じられそうだ。