俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
ユキに誘われて、座ったのは木製のベンチ。
風が少し肌寒い。ただ、遠くまで見えて静か。
「ええやろ。火照ったときとかここで休んでるよ」
ユキが俺の隣に座る。顔は火照って見える。飲んでんのがすぐわかるんだな。
てか、ここ夜なのに明るいな。少し探すと、木製の街灯。魔法で光出してそうだ。
「雰囲気あるな。あの街灯、カラクリか?」
「知らーん。専門家のが詳しいやろ~」
くすくす、と返事するユキ。
確かにそうなんだが、あんまり俺は人様の作ったカラクリを見てねぇんだよ。知ってんのはジジイのばっかりだ。
ああいう建造物みてぇなのはカラクリ技師が作るとは限んねぇしな。
「……飲み足りねぇんじゃねぇの?」
「あぁ。今日はあれがちょうどよかったかも。みっちゃんわざわざ止めたもん。自分で言うのもなんやけど、ユキちゃん絡み酒しそうやったからな」
その言葉に俺は思わず苦笑いを浮かべる。
あのまま喧嘩とかなってたら、流石に参るぜ。
ユキは前を向き直し、静かに話し始める。
「イサギさんな。私の兄さんと仲良かったんよ」
そうだったのか。
……ユキの家族と、仲良かったんだな。
「兄さんも剣で戦う人でな。もともとは兄さんのお師匠。ちっちゃいころ兄さんにべったりやったユキと、みっちゃんもついでに教えてくれてた」
「みんなの師匠、だったんだな」
案外、習い事とか、魔法やらなんやらって始めるきっかけそんなんか。
早いうちに始めると覚えいいとも聞くな。
「兄さんはユキよりだいぶ年上やったけどさ。イサギさんと比べたら若いから、かわいがってたよ? 見込みもあったんちゃうかな。昔の記憶やから知らんけどね」
「……そのさ。兄さんって」
「ん。イサギさんが『逃がしてくれた』って言ってた人。あの日ブロカードと戦って、死んでしまってる」
……そうか。
イサギのおっさんは、自分の弟子だった若い人に逃がされたのか。
だからあんなに、気にしてんのか。
「もしかしたらさ。若者が逃げるべき、とか言うのかもしれんけど。あの人たちはちゃうのよ。白の人たちは、人を助けられることを喜ぶ人たちやからさ」
ユキは少し上を見ながら、ちょっと遠くを見ているように話す。
「ユキも思うよ。自分たちの親が、おじいちゃんおばあちゃんが、ご先祖様もさ。人助けを喜んでしてきた人たちだなんて。こんないいこと、ないやんな。誇らしいなんてもんやなかったんちゃうかな」
「……だな。間違いねぇよ」
ジジイは、よくカラクリを売った相手の人に話しかけたり、様子見に行ったりしてた。ちゃんと役に立ってるか。余計な悪さをしてねぇかってな。
俺もそこまですんのかって思ったよ。スゲェなって。
「だから、白の人たちは誇らしいご先祖と同じようにしたいんよね。困ってる人や窮地の人を助けたい。普段の時も、最期の時も」
とんとん、とユキは目を瞑ったまま自分のデコを指で叩く。
「イサギさんもわかってるはず。そんなことはわかってる。白の人たちはずっと言ってたもの。『ハレノヒはここにあるから意味がある。自分たちはここにいるから意味がある』って」
ユキの声は、さっきまでとは変わってきてる。
噛み締めるような、つまった声に。
「もう無い。無いのよ! ハレノヒも、助けられる人も、なんもないの! 全部ブロカードが壊していったやんか……。もう残ってないのよ。トモリにしか、残ってないのよ」
吐きだした言葉には、口惜しさがにじんでた。
ユキは『わかっているはずだ』とずっと言ってっけど、イサギさんたちには伝わってねぇんだと俺には聞こえた。
「オーブも、ブロカードも! いらない! あれがあるからトモリの人はここを離れないし! あいつがいるからみんなずっと進めない! ユキがいるからっ……! ずっとみんな忘れない!」
ユキは左手で両目を抑え、頭を振りながら声を絞り出してる。
……いらないものの中に、自分を入れて。
「あの人たちが大事にしたかったものはオーブじゃないでしょ? みんなここにあるでしょ? あんな役立たんもん取り返しに行って、死んじゃったらどうすんの。誰も……誰も望まない!」
俺の中に、ユキの言葉が沈んでく。
確かにそうだ。白の人たちが大事にしたかったもんはオーブじゃない。
「本当にわからん! 思い出だってなんだって、トモリの人の中にあるよ。里長にも、イサギさんにもいろんな話を教えてもらったよ……。なんでオーブがどうこうとか考えてんのよ。なぁ?」
俺も、ちゃんと考える。
イサギのおっさんが、トモリの人が。どうしてずっとこだわるか。
「もし俺がトモリの人だったら。ここにいると思う」
「……ふぇ?」
ユキの返事は、少し間の抜けた驚きを含んでた。
そりゃそうだ。こんなに俺にも伝えてるのに、わかってくれないとは思えないよな。
「だってよ。ずっとユキを見てんだ」
「……ユキを?」
「そ。ハレノヒも家族もぶっ壊されて、おまけに布までつけられて。苦しんでるユキを見てる。そりゃ自分たちはいくらでも逃げられるけど、ユキは絶対逃げられない」
たった一人だけ、印付けられてる。
ずっと故郷を奪ったブロカードと向き合わなきゃならない。そんな女の子の姿を、トモリの人は知ってる。
「恩人から託されて、毎日ずっと頑張ってる。そんな人を放っておいてテメーだけ安全な場所に逃げろって? 俺なら絶対そんなことはしない」
「……でも」
「俺がどんなに弱くても、どんなに無駄死にするんだとしても、嫌だ。冗談じゃねぇ。そんな自分でいてたまるかって、考える」
……それだけじゃない。
トモリの人々にとっては、ユキだって大切な人だ。
きっと安全な場所に逃げたら、ユキはブロカードに突っ込んでいっちまう。全部ひとりで解決しようとする。
そんなことはさせられねぇよな。
「でもそんなん……。自分たちの命とは比べもんにならんて……。そんな、どうしろって」
ユキは涙目で、まるで小さな子がぐずるように、苦しむ。
死んでいいワケはねぇしな。
「だからよ。ユキも言ってたじゃねぇか。邪魔なもんはなにかって」
「……うん」
「ブロカードが邪魔なんだよな」
ユキは無言でうなずいた。
トモリにもユキにも、ずっと鬱陶しく引っかかってんのはブロカードだ。あれが消えたらだんだんカタがつく。
「アイツをぶっ飛ばせばよ。白布剥がして、ちゃんちゃんだ! ノブレスオーブはさ、どうすりゃいいのか分かんねぇけど。もし取り返したら山の上にでも飾りに行くか?」
俺は笑いながら、ユキに伝えた。
ちょっとでも楽になって欲しかった。ユキは普段笑える人だから。
今はこれしか出来ねぇ。
ただよ。いつか心の底から笑えるって、少しでも思えたらな。
「はは。ええかもな。雪山の中に変な寒くないとこがある。それくらいがちょうどええのかもしれんね」
ユキは空を見上げながら、笑って答えた。
肩の力が抜けたか? 俺は今日作ったチャームをユキに見せながら、もう少し伝える。
「ほら、俺たちも一緒に戦えるしな?」
「……せやね。ありがとう」
うん。よかった。思わず笑みがこぼれる。
ひとりじゃない、って何度でも染みさせていきてぇな。
「問題は、俺たちがブロカードを倒せるかってとこなんだろうけどな」
「せやね。ハレノヒの街全部壊せて、おっきな討伐隊も潰したバカみたいな魔物やからね。逃げる手段とかあったほうがええやろな」
……そんなに?
「討伐隊、ダメだったのか」
「うん。あのアホ、変なもん盗るからな。怒った貴族がそこら中から人集めてやっつけに行ったりしてたけど全然よ。傷すらつけられんてさ。んで人は狙わんし、積極的に街襲わんから戦うだけ損なんやとさ。みーんな放置よ」
なんというか。心底面倒な敵だな。
これはきっと戦った記録とかも残ってないぞ。戦いの対策なんて取りようがねぇんじゃねぇか?
「おっきなところからすると、こういう魔物相手には、ちょっかいかけないようにする。それがみんなのためって事なんやろね。ほんと嫌んなるな」
「……倒し方や逃げ方は、ラージスに相談かな?」
「頼りになるな? ええねええね」
にぱっと笑顔のユキ。
うん。いろいろ思うところもあるだろうけど、今はスッキリしたっぽい。
今日はいったん帰って、メシだな。あるといいんだが……。
「……帰ったらさ。まだ飲んでいいかな?」
「今日はもうメシ食って寝ようぜ」
楽になっても飲む。一人でも飲む。
……ユキって、ジレンマから解放されると酒の量が増えそうだな。
「おや。おかえりなさい。思ったよりは早かったですか?」
無事にユキの家に辿り着くと、聞こえたのはラージスの声。
珍しくぽやっとしてんな。風呂上りなのか、髪の毛が整ってない。
「おう。多分な。ルミエはどした?」
「もう寝ていますよ。素材集めは疲れたんじゃないですかね」
へぇ。山登って降りてだったもんなぁ。
ちらっと様子を見に行くと、意外な光景が広がっていた。
「……ハルンもか。充電切れたか?」
「はい。なんでも『抱き枕にする』そうで。明日の朝まではお預けらしいです」
ルミエルネと同じベッドで、デカい腹を潰されながら寝てるハルン。
ルミエルネも雷魔法は使えるから、充電が一応できる。
ただ、ハルンは『あいつの充電は雑だから嫌』らしい。
「なぁんかわいいとこあるやんかぁ。ユキちゃんも一緒に寝よ~」
そう言いながら、ルミエルネのベッドに混ざっていくユキ。
よかったな。酒飲んだ後、ハルンと寝られる機会なんてそうそうねぇ。
さて、俺も薄い可能性だとはわかっているけど、一応聞いてみるか。
「……メシはもうねぇか?」
「朝食が最速ですね。早寝をしてしまうのが一番楽でしょう」
ラージスの回答も、雑だな。眠いんだろ。
こんな日もあるか。起きたらハルンを速攻働かせよう。
*
【ミツイ視点】
お師匠はどこに行こうってのかねぇ?
飲み会の後に予定とか怪しいよね~。絶対思い付きでしょ?
「なぁミツイ。ライトは……いい奴だな」
「おん? まぁ、だと思うけど。なんで?」
珍しいねぇ。お師匠がアタシにそんなこと聞くなんて。
うん、ライトはいい子だよね。巻き込まれたのに、白布を仲間にくっつけられたことに対して恨みっぽいこと全然言わないし。ユキもあんだけ心許してんだもん。
「彼は多く考える人間だ。戦いの時も、言葉の意味もな」
「そーだね。じゃなきゃマナちゃんの言葉のこと、アタシらには聞かないね」
お師匠もそうだねぇ。考える人。
いろいろあれこれ悩んじゃって、ずーっと忘れられない。ユキもそう。
悪く言えばウジウジかな? むしろ好きだけどね。いろんなことを大事にしてくれてさ。
「きっとな。俺の話を聞いた時も様々思うところはあったはずなんだ。だが、黙って聞いていた」
「うんうん。口挟んだり、悪く言ったりしなかったね」
ほほう。歩きながらずいぶん喋るじゃないの。そんなに飲んでないのに酔ってんの?
真っすぐ言うと、ライトはそれぞれの人を尊重できる子。ってことでしょ?
そりゃハルンが常に身近にいて、ルミエちゃんやラージス君も考え方違いそうだけど仲良くやってるんだしね。多少はそういうの上手になるんじゃないかな。
「優しくて、いい奴なんだ。なぁミツイ……」
「はーい?」
「あいつらは、トモリにいてくれると思うか?」
――うん!?
「なに言ってんの!?」
「いや例えば、だ! 例えば!」
いやいやいや! 例えばって言われても無茶苦茶さ変わんないけど。
どうしちゃったのイサギさん。移住のお祝いって本気だったの!?
まったくもう。頭抱えちゃいますよミツイは。
「あのね……。ブロカードの布問題が片付くまでは居てくれると思うよ?」
「それは、そうだな」
「その上で、片付いた後も居てくれるかどうかってのも、頼んだら、優しいからあるかもって思うよ?」
「だろう!?」
お師匠元気に返事しちゃってさぁ。だろうじゃないのよ。
真面目に本気じゃんか。
「だからって、頼むのは違うでしょ? あんな若い子たちに対して、集落に残ってほしいって。そんな縛り方ないっしょ。ダメ!」
「……ううむ」
うーわ。諦めてなさそうな態度取ってるよ~。
もうちょっとビシッと、言うか。
「あんね。あんなに前途ある若者には未来を選ぶ権利があるの! アタシやお師匠だって自分で選んでここにいるんじゃん」
「それは、間違いない」
「お師匠からお願いされたら、ライトたちは嫌だった時に断らなきゃいけないじゃん。それ最悪だよ? なんか、見捨てたみたいになっちゃうじゃん」
……お師匠黙ったね。そりゃあ返す言葉もないだろうさ。
まったくまったく。よろしくないねぇそんなこと考えてたなんて。
「今聞けてよかったよほんとに。絶対そういう期待してそうな態度とか出さないでよ? あちらさんはよく考えてくれて、察しのいい子たちなんですから」
「……ん」
「選ぶ自由はさ、あるんだから。もしも『トモリに居たいな』って選んで貰えたらうれしいね。で、いいんじゃないの?」
「……そうだな」
ようやくさ。腹落ちしたって声出すじゃないの。
強くて若くてやさしい。そんな子たちは里に欲しい。そりゃどこもそうなんだろうけどさ?
押しつけがましいのはカッコ悪いよ~。お見合い勧めるおばちゃんかっての。
「ミツイとのお散歩はこの話をするため?」
「いや、これは別件だ。本命の話は、なんだが……」
お師匠はゆっくりと言葉を止めた。なにかに気づいたみたい。
アタシも前をじっくり見ると、武器庫の周りに……人がいっぱい集まってる?
「おい。何事だ」
お師匠は、真剣な声でみんなに声を掛ける。
すると、ちょっと騒がしく男の人の返事が聞こえた。
「いや! イサギさん違うんだ。これは……そう。武器の手入れなんだよ」
お、マナちゃん親衛隊その一じゃない。トモリの若い男はみんなそうなんだよね~。
しっかしわたわたと、どうしたんだか。お師匠もちょっと困り顔。
「……こういう時に嘘は困る。敵襲なのか? 正直に伝えてくれ」
そうそう。武器がいるときって危ない時なんだから。報連相は大事だよね。
ま。様子見る限りだとピンチって雰囲気はないかな。
……んん?
「あれ? 里長もいんじゃん。マナちゃんも、おばちゃんも。……これが本題?」
なになに? ビックリするくらい勢ぞろいじゃん。
ずいぶん遅い時間に……。アタシはお師匠の方をじーっと見ちゃう。
「いや、知らん。これも別件だ。なにしてるんだ?」
ああ……。あの慌て方なら知らないかぁ。
つまり、アタシらだけがなんもわかんないってこと?
うわ。面倒ごとの気配だ。喧嘩?
「イサギさん。違うんだ。マナちゃんは悪くない」
「いや誰が悪いとかじゃなくてだな……」
マナちゃん親衛隊と、お師匠のやり取りはいっつも笑っちゃう。
なんとしてもマナちゃん守りたいのはわかるけど。逆に怪しくない?
というか、ラチ空かないね。
「長ー。おーさー。全部ちゃんと正直に教えてよ~」
「うむ。そうじゃな。ワシからすべて伝えよう。みな口を挟むでないぞ」
アタシからの質問に腕まくりしながら返事してくれる里長。
やっぱ頼れるねぇ。腕まくりまでの気合いは要らないけど。
「昨晩な。ブロカードの魔物連中が来たじゃろう」
「そーねぇ。ライトたちと、ユキがやっつけてくれた」
「それを見て、誰が言い出したのかは知らんが『今ならブロカード陣営は、手薄なのではないか』と騒ぎ出しての」
……おい!?
ウソでしょ。戦いにでも行くつもりだったの!?
ピッとアタシは男どもの方を見ると、イサギさんがアタシの口をむんずと手で押さえた。
「……長。それで?」
「武器庫の前で、ブロカードの本拠地に夜襲をかけるだの。かけるべきではないだの。大揉めしていてワシが呼ばれたということじゃ」
無茶だよ。
いきなり自分らだけでそんな。絶対うまくいかないって! それでなんとかなるなら、もうなんとかなってるから!
もうバカだねほんとに……。
「ち、違うんです! 私が言ったんです! 『ブロカードの手下って、話すのはロガール回収隊しか見たことないね』って言ったから……」
たまらず、マナちゃんが割り込んで声を上げた。
すると、せきを切ったように男たちも喋り出す。
「マナちゃんが悪いんじゃない! 俺たちが言ったんだ! もしかしたら警備が薄くなっていて……ノブレスオーブだけは取り返せるんじゃないかと!」
「早いうちの方がいい! あいつらが新しい魔物を用意する前に!」
「あんたらなに言ってんだい! ハレノヒに奴らが来た時の強さを忘れたって言うんじゃないだろうね!」
ありゃ。おばちゃんが反論で参戦しちゃ……。
「でも、お母さん。それじゃいつまでだって変わらない……」
「マナ! あんたって子は何のために薬を売ってんだい! 戦わせるためじゃないだろう?」
「そんな言い方ないだろ! マナちゃんだって頑張ってるんだ!」
あーあー。こうなると止まんないねもう。
面倒なことになったなぁ。ユキ寝てくれてたらいいけど……。あの子気づいたら怒るよ~?
――パンッ。
お師匠が手を叩き、みんなの騒ぎを止める。
「問題は、誰が悪いかじゃない。これから何が起きてしまうかだ。そして、大体のことはわかった」
おお。流石。
みんな静かにお師匠の話を聞いてる。一瞬で場をまとめられるのは経験のなせる技! だねぇ。
「結論から言うと、お前たちをブロカードのところへは行かせない」
眼光鋭く、鋭い言葉が場の空気を固めた。
当然だよね。危ないし無理だし。行っちゃダメ。
「奴の本拠地を今日見てきた。確かに様子としては変化がなく、昨日の襲撃後に戦力は減っているだろう。だが、到底お前たちが敵う相手じゃない」
……え。お師匠変なこと言ったね。
ブロカードの本拠地を見てきた? どうして?
あいつらは、復讐とかお礼参りとか来ないでしょ。
綺麗なものにしか興味ない連中だよ?
「ノブレスオーブの奪還には、少なくともブロカードを相手取りながら本拠地を脱出する技量がないと不可能だろう。……逆を言えば、それが出来れば可能性はある」
「……イサギ?」
里長も、お師匠の言葉に怪訝そうな返事をした。
おかしいよ……。出来る可能性なんて、伝える意味ないよ……。
お師匠は目を瞑る。少しの間、その場は静寂が続いた。
スッと、お師匠の目が開く。
「今夜、俺が一人でノブレスオーブの奪還へ向かう」
発せられた言葉の意味を、すぐには理解できなかった。