俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
「みっちゃん! 調子悪かったら無理せんといて。ユキんちで待っててええよ!」
「やだやだ! 行く! 足引っ張らないからさ!」
ユキの気遣いに対し首を横に振りながら、扉を開けて外に向かうミツイ。
……この中で、一番責任を感じてそうだな。止められても止まれねぇよな。
そんなミツイに続いて外へ出ると、すでに朝日は上がり始めて、あたりは明るくなってきてた。
「確か、そこそこ距離あるわよね。ブロカードの本拠地」
「ルミエルネ。場所を知っているのですか」
ルミエルネの言葉に少し驚きの表情を見せるラージス。
そういや、昨日イサギのおっさんが本拠地見てたってこと伝えてなかったな。
集落全員が向かっていったのなら走っていける距離じゃねぇな。……道中長いなら追いつく可能性はあるのか?
――ザザアッ!
少し考えてると、突然デケェこすれた音が鳴り、目の前に砂煙が上がった。
「おら! お前ら乗れよ! 一気に行くぞ!」
「ハルン!?」
なんだ急に! いつの間に外いたのか?
ルミエルネは突然の砂煙に咳をする。あんまり埃っぽいの得意じゃねぇってハルンもわかってるハズなんだがな。
……持ってきたのは、野菜とか運ぶデカめの引き台車だな。
車輪は木製、引き手はなぜか鉄製。俺は咳込みをなんとか沈めたっぽいルミエルネの方を見る。
「どうやら、うちの馬車はこんな程度だ。腹くくれるか?」
「……揺れるでしょうねぇ。お腹の中身が全部出て行っちゃいそうだわ」
そう告げるとルミエルネは魔法の風で体を浮かせ、真っ先に台車へと乗り込む。
四の五の言ってられねぇよな。よし、乗ろう。
俺に続いてラージスも飛び乗ったけど、ユキとミツイは流石に困惑気味。いくつかハルンに質問が飛ぶ。
「……ハルン。場所とかわかるんか?」
「わかんねぇ! 走ってやるから案内しろ!」
「台車壊れちゃわない? 持つかね!?」
「知らねぇ! とりあえず急ぎだろ? 乗ってから考えろ!」
そう言いながらユキとミツイの二人を持ち上げ、否応なしに運ぶハルン。
ダン、という音で台車に積み込まれると、全体が揺れて弾む。台車君の五体満足は保証出来ねぇなこりゃ。
全員が乗ったことを確認したハルン。目の色が変わった。こっからが本番だ。
「よし! 飛ばすぜライト! 道中充電しっかり頼むぜ!」
「待て待て! ミツイ! 右左どっち!?」
「えっ? えっ!? み、右!」
そうミツイが答えた瞬間。ハルンは台車の引き手を握って、地面から飛び跳ねた。
いななく馬かよお前は!
「行くぜおらぁ!」
飛び跳ねた勢いのまま空中にいるハルンが叫ぶ。カビ猫を中心に、あたりへ緑の稲妻が走る。
まるで子供のカラクリおもちゃのように空回りするハルンの脚が地面と接すると、デケェ蹴り上げ音と共に台車が猛烈に加速した。
「うおおおい!?」
スゲェ慣性でみんな台車の後ろ側に吹っ飛ばされる。振り落とされねぇように必死だ。
いやそれだけじゃねぇ! この勢いだとやることも急がねぇと!
俺はミツイの腕を引き、進行方向が見えるよう引っ張り、叫ぶように伝える。
「ミツイ! 曲がるときはハルンに伝わるよう右か左か言ってくれ! 間違えたら全員ひっくり返る!」
「う!? うんっうんっ! わかった! ハルンちゃんと聞いてよ!? 分かれ道あったらすぐ言ってよ!?」
「おう! 次は!?」
「……み、右?」
ミツイ……道あってるよな? そんな不安げに言うなよ。
しっかしハルンは気合入ってんな。馬より早いんじゃねぇのかこれ。
せっかくだ。手綱みたいに電気をひも状に走らせて、ハルンの宝石にしばらく充電していよう。気分は出るかもしれん。
「御者さん。もう少しなんとかなりませんか。揺れが酷い。その上、曲がるたびに飛ばされるのですが?」
ラージスは妙な余裕があるな。軽口叩きやがって。
メガネだけ落とせ。……どうせ替えが胸元から出てくるだけなんだろうが。
俺も馬車の主として、客に向かって返事をしようか。
「速さが自慢なもんでね! 振り落とされないよう気を付けな!」
「だそうです。さて、時間は希少です。今のうちに到着してからの話をしましょう」
メガネを直しながら、ラージスは告げた。
確かに、ついたらすぐ動きたいもんな。できるだけ何があるのか分かってたほうがいい。
「ユキ。ブロカード自身の戦い方や、本拠地のことはわかりますか?」
「えっとね。本拠地には入ったことないからわからん。戦い方は……今までやられてた人の傷とかから、推察する程度でよければわかるよ?」
「では、ぜひ」
気になる。今んところ後ろを見られねぇのが残念だ。
聞こえるだけマシなんだろうけどな……。
「ハルン! 左だよ!」
ミツイの言葉に俺は思わず振り返って荷台の様子を確認しちまう。
もうあいつらはカーブに備えた姿勢を取ってた。備えすぎてて、ちょっと面白いくれぇだ。
ぎゅううん、と体が右に引っ張られる。……うん。これは備えてないとダメだ。悪かったよお前ら。
「はい。曲がり終わったみたいだから話していいわよ」
「今まで本拠地に向かって、やられてた人たちは、擦られて引き裂かれたような傷が目立つんよな。基本的には、白い布の身体で引き裂いたりとかなんちゃうかな。あるとしたら風の魔法とかやと思う」
ルミエルネに答えたユキの言葉は納得がいくものだった。
俺の勝手なイメージ的にも武器使ったりとかしなさそうだもんな。魔物らしい戦い方だ。
「楯も鎧も、お構いなしで裂かれてるから威力はあるやろね。あと目立つのは……大剣の傷」
「……大剣の?」
ユキの言葉にラージスが喰いつく。
大剣? ブロカードって布みたいな魔物だよな? 剣なんて持って戦うのか?
「そう。それもたぶん大の大人よりもだいぶ大きな剣。叩き潰されてたり割られてたり、みたいな」
「……ヘンテコ隊のオークってそんな大きな剣だったかしら」
「そこまでデカくなかったぞ! 集落にあるから見に行くか!?」
ルミエルネの問いにすぐ答えるハルン。聞こえてんのなお前。そういや耳いいもんな。
じゃ声は張り上げなくていいか。俺はハルンにすぐ伝える。
「いいよ戻んなくて。ミツイの言うことちゃんと聞いてろ?」
「おう! ミツイ! だいぶ先の山に入れる道はどうすんだ!」
「うん! 入る! あとは綺麗な道選んでいくからね!」
ブロカード連中って、道の美しさまでこだわんのか?
もしかして朝の掃除とかしてんのか。変な想像させられんな。
「大剣はブロカード自身のものか、または別の魔物なのか。それは掴めていないということですね」
「ラジくんの言う通りやね。とにかく変な魔法使うというよりは、豪快に戦ってきそうかな。あと、あんまり魔法の通りが良くないかも」
「……また!?」
ユキの言葉にルミエルネはウンザリとした声を出した。
豚もそうだったもんな。
少し驚きながらユキは理由を説明する。
「だってぇ。白の人たちってユキとおんなじくらい氷魔法上手やったよ? その人たちに囲まれても大丈夫ってなると……な?」
「氷魔法の効きが悪いだけじゃないの? はぁ~面倒ばかり。こっから魔法で建物ごと片づけられないかしら」
「集落の仇がルミエルネになりますよ。それに、もう雰囲気が変わってきている」
さっきまで砂利道でガタガタ跳ねてた台車の揺れがおとなしくなる。
道が白くて凹凸の無い石畳に舗装されてっからだ。
坂道なのに、溝がない。朝露で濡れててハルンの足からガラスを布で拭いたような音がする。
「おしゃ! たぶんここだな!」
ギュアアアッ、とハルンが摩擦で止まる音が響き、台車も勢いでぶん回されながら止まる。
そこには……ブロカードの本拠地らしきデカい建物が建っていた。
「これはまた。時間があったら描き留めておきたいような建築物ですね」
「……今の私の気分と同じくらい、気色悪い建物だけれど?」
ラージスは少し驚きながら、そしてルミエルネはふらつきながら台車から降り、そう言った。
いや、どっちの気持ちもわかるぜ。
やたら澄んでる池の真ん中に、栄えた街にある一番大きな集会所サイズの建物。ヤンベのギルドよりかなりデカい。
しかもそれは石畳より白くて、円形。バラッバラになってる窓の配置は、中の都合で光が取り込めるよう作られた結果だろうな。
そんで、若干だけど空間全体が白くもやってる。
「……オーブの光かよ」
そういや、ここについたあたりから、ユキとミツイの声が聞こえてこねぇ。
二人の顔を見ると、余裕はもうなくなってた。
きっと、ノブレスオーブの境界がわかってたんだな。
……急ごう! まずは、ぱっぱと場所の把握だ。
「あれ?」
「あ? どうしたライト」
「……探知が効かねぇ。変な魔力が張り巡らされてやがる」
俺は様子を聞いてきたハルンに返事をした。
いつも通りに電気の輪で探索かけてみたんだけどな……。建物の近くに妙な魔力が張ってて乱される。
遠隔魔法の対策か? どうやってんだかなぁ。
「よし、それじゃ気を付けていこか。どこに何があるかわからんしな?」
ユキは少し明るい声で話しながら、先陣を切って建物の入り口に向かう。
トモリの人たちや、ノブレスオーブ。俺たちとは差し迫ったものが違うのに、自分をコントロールしようとしてんのはスゲェ。
スタスタと進んでいっちまってるから、いつも通りではないんだろうけれど。
「ユキ。大丈夫よ。集落の連中は、中にいるわ」
「……んえ?」
そう語りかけながら、ルミエルネはユキを追い抜き先頭に立つ。
「見なさい。この土だらけの足跡。そこら中にこれ見よがし。あのバカでかいガラス扉まで続いてる。それが証拠」
ルミエルネ。たぶんユキも、わかってなかったってことはないと思うぞ。
でもま、ユキのこと安心させてやりたいって気持ちは伝わる。
大の大人が四人、縦に並んでも通れそうなサイズのガラス扉。その前に辿り着いたルミエルネは振り返り、腰に手を置き、声を出す。
「よかったわね。この鬱陶しい布も、集落の連中の無茶も、バカ魔物の問題も、今日ぜんぶ片付くわ」
ドヤ顔で放たれた言葉は、全身全霊の激励。
俺はこういうの、好きだけどな。ユキがどう思うかはわからん。
ちらりと隣のユキを見ると、ちょっと微笑んで頷いてくれた。
その後、ルミエルネはガラス扉に両手をかけ、押す。
「……んんっ」
押す。押す。開かねぇ。
……引き戸なんじゃねぇの?
「……ハルン!」
「任せろ!」
たまらずバトンタッチ。仕事はカラクリに任せ……。
「だりゃあっ!」
がっしゃーん。ハルンはバカでかいガラス扉をぶん殴り、もう扉じゃなくなったそれは粉々に砕ける。
おいおいおい! んなことしなくてもよ……。てか破片が降ってくんだろ!
その瞬間、目の前に大きめのつむじ風。散らばった破片が空中で巻き込まれ、光を反射しながらまとめられていく。
「離れなさい。死ぬわ」
ルミエルネは風を操り、周りの池に向かわせて破片を処理した。
あぶねぇあぶねぇ。もうこいつら前に出すのだめだな! 俺が前が一番だやっぱ。
「……改めてさ。ユキはすごい子たちを連れてきたよね」
「ね。さっきから目ぇまんまるやわ」
ミツイとユキが置き去りにされながら喋ってる。
緊張感とかは、ないよな。俺たち。
「極力、見つからないよう動いていくことが救出の成功率を上げると、伝達が抜けていた僕のミスですね」
ラージスは呆れながら、ハルンとルミエルネに続いて中に入っていく。
探知魔法とかありそうだし、そんな変わんなそうな気もせんでもないけどな。目立たないほうがいいだろって俺も思う。
本拠地に入ると、床は絨毯が敷き詰められてて、やたらと静かな空間がそこに広がっていた。
絵画、陶器、布、彫刻。いろんなもんが飾られている。
「知ってる? 美術館っていうらしいわよ。こういうの」
「首都レリクスの中央美術館は有名ですね。フランツさんのカラクリも納められていました」
展示物には興味なさそうに、ルミエルネとラージスが進む。
俺は行ったことねぇな美術館。ジジイのカラクリは掃除用にでも置かれてたんかね。
「……また扉」
「待てルミエルネ。俺が開ける」
押しても引いてもみたいになって、同じこと繰り返されても困る。
しかしここの扉はみんなデケェな。全部魔物用か? 正直よくわからねぇが……。
木製の扉は引き戸だった。開くとそこは真っ白の部屋。天窓からは太陽の光。ピアノとよくわからない装置があった。
「……鳴ってる」
部屋の右にあるピアノはトーン、トーン、と一定間隔で、高く澄んだ音を繰り返し鳴らしてる。
その向かい側にはガラス製の筒がくねくねと曲がっている展示。中には、ネズミ。
「ゔぇええ?」
ミツイは思わず声を上げた。下側を見ていたのでそっちに目をやると、白いネズミが筒の中に大量にいた。
それらが音とともに、とん、とん、と上側に引っ張られていく。
と思ったら一気に筒の上まで引き上げられ、吸い込まれていった。
「みっちゃん。いくよ?」
ユキは抑揚のない声でミツイを促す。心底どうでもいいんだろうな……。
見ていても全く理解できなさそうだし、俺も次の部屋へ足早に向かう。
「なんだぁ? 結構一本道だな」
いつの間にか扉を開けていたハルン。その先には長い廊下があった。
「まだ、足跡はありますね」
ラージス、お前ちゃんと地面見てくれてたんだな。確かに足跡ないと別のところ向かってそうだもんよ。
全然見えてなかった自分を反省だ。普段どんだけ探知に頼ってるか浮き彫りだよな。
「……みんな! なんかあるよ!」
ミツイが廊下の先に何かを見つけた。扉の前に、銀の机型案内板のようなものがそこに立っていた。
ユキとミツイが真っ先に駆け出す。
「……なんやこれ」
俺たちも追いつくと、案内板には――白い紙が貼られていた。
紙の周りはシロナオシの花で飾られていて、暗めの金色インクで文字が書かれている。
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<告知文>
薄氷姫へ。
集落の連中は、この先にて拘束している。
彼らの命は、貴女の存在によって担保されている。
主は貴女の収蔵を望む。
速やかに奥へ進め。
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「……これは」
ラージスがじっと紙を見つめる。
ユキとミツイの顔色が青く変わっていく。
みんなが一気に文章の内容に気を取られる。先にハルンが、少し後に俺が周囲の様子に気を配る。
罠……だとしたら、まさにここが仕掛けどころだ。
「捕まってるのは間違いないと。内容は……怪しいわね」
「……バカ正直に生きてるって書いてるとも、限らんわな」
ルミエルネの低い声と比べて、ユキの返事は少し震えてた。
確かにここで嘘を書かれていても、確かめるには進むしかねぇ。
「行こう! 早く……助けないと!」
ミツイが思考を振り払うように叫ぶ。
居ても立っても居られない。そう伝えてくるようだった。
「おっしゃ! 開けるぜ!」
バン、とハルンは扉を殴って開ける。
すると、今度は一転。床には灰色の石が敷かれ、ランタンがそこら中に飾られ、部屋が炎で照らされてる。
「……広いな」
俺は真っ先に全員の前に出る。あんまりにも雰囲気が、戦う場所だ。
そして部屋の向かいから、叩きつけられる鉄の音。……剣の音か?
続けて、重く低い声が部屋を揺らすように響く。
「ようやくこの日が来たな。薄氷姫、そして燦金眼魔女よ」
声の主をじっと見ると、そこにはデカい人型の魔物がいた。
俺のタッパよりかなり長い刃を持つ大剣。白い布に全身巻かれた身体。カッコつけるためなのか、肩や腰にだけある鎧。
魔物自身の大きさは……ここまで来た扉と同じ高さ。つまり、あいつ用のサイズだったってわけだ。
「さあ! 尋常に収まってもらおう! 保管されるべき存在として!」
白い布の間から見える目が俺たちを射抜く。こっからが、戦いだ。