俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
「美しさの収集家、
白い布に包まれた、デカい人型の魔物は胸の前に両手で剣を掲げ、俺たちの方へ歩いてくる。
石像がそのまんま動いてるみてぇな重量感。戦ったことがねぇタイプだ。
ゆっくり歩いてきていて、飛び込んでこねぇのは不気味だ。
「しかし、主のもっとも際立つ偉大さは、それらも超越したブロカード様自身の“美”だ。この保管庫は、あらゆる美を守る。完全なる番兵である私がいるのだから」
くぐもった、変な響き方をする低い声で魔物は語ってくる。
ロガール回収隊とは違う。俺も雷魔法を手に構え、いつでも戦えるよう準備する。
俺たちの目の前にそいつが立つと、俺たち全員が魔物の陰に包まれて、その大きさがよりわかる。こりゃ……ヤベェな。
「我が名はクシード! 偉大なる主から頂いた名だ! お前たちも名乗れ!」
包帯の騎士はデケェ声で叫んで、部屋中が揺れたかのように響き渡った。
「……奥の扉が、ブロカードの部屋につながっとるんよな?」
一気に部屋の気温が下がった。寒いって感じじゃねぇけど。氷魔法が使われたことはわかる。ユキが、刀を抜いていた。
確かにクシードがさっきまで立っていた場所の奥には、両開きの扉が見える。いかにもって感じだ。
あっ。やべえっ。ミツイは冷気対策チャーム持ってねぇな?
だがよ。この魔物を目の前に後ろを確認するのは厳しい。うまく立ち回ってくれているといいんだが……。
するとクシードが剣をこちらに向けてきた。前に出ていたユキの顔前で刃を止め、語る。
「薄氷姫よ。蒐集品が自ら庫に戻るその姿勢。感銘を受ける。だがな、争いは決闘が最も美しいのだ。そして名乗りは決闘の所作だ。崩さずに行え」
「あんたとユキは初対面やろ。そんな知り合いみたいな態度で話しかけんなや」
ユキはそう告げ、すぐに刀を振るい、クシードの大剣を払う。
クシードは揺らぎも慌てもしなかった。即座に刀に氷魔法を乗せて、二撃目を放つため切りかかるユキ。
まるで応えるように、クシードは大剣を片腕で振り、剣戟が重なる。
大きな金属音が鳴り響くと、ユキが弾かれ、二人の間が開いた。
……追いかけることはせず、不思議そうに手を口元にあてながら、クシードは問いかけた。
「なにを焦る。なにを急ぐ。ブロカード様が逃げることはない。それに、扉の奥には突っ込んできた愚かな連中はいない。……醜悪なものには相応の置き場があるのだ」
「お前、あの人たちになにをした」
こいつ、恐らくトモリの人たちと相対してんな。
そんで……負かしてるなり、追い払ってるなりしてる。
イサギのおっさんたちはブロカードのところに辿り着いていなさそうなのは、事実か。
「金髪のお前、緑色の魔物、赤髪の少年。そして、集落の凡民。お前たちには用がない」
クシードは落ち着いた様子で話し、左手で俺たちの右側を指し示した。
「そこの螺旋階段の下。地下の座敷牢に奴らは生かしてある。さっさと持ち帰れ。長く持つかは、わからんぞ」
「――えっ!?」
ミツイが驚きの声を上げた。てか、俺もビビった。
こいつマジで言ってんのか? あり得ねぇだろ人質の場所を自分からバラすって。
ユキとルミエルネが来たからか? もう、用済みだってことか。
「ちょっ。探しに――っ!?」
ユキの意識が散った瞬間に、クシードが一瞬で踏み込む。
振り下ろされた大剣の一撃。
金属音が耳を割った。ユキの足が石床を削って滑る。
ユキは刀で何とか防いだが、また後ろへ大きく押し戻された。
「逃がすと思っているのか! お前のあるべき場所はここだ!」
クシードは大剣を大きく構えなおし、デカい声を響き渡らせる。
鬱陶しそうにユキの顔が険しくなる。
「大丈夫か!」
「問題ないよ。それより!」
俺の問いかけにもユキはしっかりと答えてる。ダメージはなさそうだ。
焦りはあるよな。でも目の前の敵はかなり強そうだ。気を散らしてる場合じゃねぇ。
「みんな、お願い。お師匠たちを探して! こいつはなんとかするわ!」
俺たちを信じてくれたユキの指示。
一番大事なところを託してくれている。だけどよ……。
「……彼らの救出が最優先ですね」
ラージスが意をくみ取って螺旋階段に向かう。
その瞬間に、また大剣の攻撃が走る。
今度はユキにではなく、ルミエルネの方に。
俺は、雷魔法を手に取り、束ね、剣のように押し固めてクシードの剣を受け止める。
ぶつかった場所からあたりに稲妻が走る。こいつの攻撃。アホほど重いな……!
「燦金眼魔女よ……。お前もあるべきところはここだろう!」
「ライト! 大丈夫か!?」
クシードはルミエルネを睨みつけて、俺の雷を押し込もうとしてくる。
心配しているハルンの声。押し込んでくるクシードの大剣。
ここは悩んでる時間がない!
「行け! お前ら! 俺はここに残る!」
そうだ。たとえ攻撃を防いでいる状況じゃなくても、俺はここに残るべきだ。
「なんで!? そいつはなんとかするよ?」
ユキはまるで置いてけぼりにされる子供かのように困惑した声を上げた。
お前はいつもそうだ。最後のところは一人でなんとかしようと選びやがる。
「ライト! 今回の目的は、集落の人々を救出することです!」
ラージスが俺の頭を冷やすためにわざとらしく説明をする。
だが、それだけじゃないだろ?
「そうだ。そんで俺たちの目標は、ユキも死なせないことだ」
トモリの人たちも、助けようと突っ込んだユキも。揃いも揃って無鉄砲。
んでもってとっくに。みんな俺たちの大切な人だ。
ここで離れて、ユキがクシードを一人で倒せても……その後にはブロカードと戦わなけりゃならない。
あとから悔やんだって、間に合わないんだ。
「オレも残るぜ! ライト!」
「馬鹿野郎! 下にブロカードがいたら、誰がみんなを守るんだよ! 頼りにしてるぜハルン!」
「……わかった! ユキのことちゃんと守れよ!」
そう告げると、ハルンはルミエルネを抱え上げた。
「ハルン!? 私は……」
「下だ! 黙ってこい!」
ルミエルネの言葉を遮って、ハルンはルミエルネを抱えたまま、螺旋階段に飛び込んでいった。
続けてラージス、ミツイも降りていった音がする。
俺はさらに雷の出力を上げ、クシードをはじき返す。
「……私の任務が、また増えたな」
クシードは案外落ち着いた様子で、ぼやくように呟く。
「ルミエルネは逃げちまったもんな。ただ、こっから先には行かせねぇぜ」
「いいや? そうではない」
そうじゃない?
またクシードは剣を胸元に構え、口元を緩ませながら話す。
「雷剣の美しさ、見事であったぞ。お前も、保管対象だ!」
見境ねぇのなこいつら!
こりゃぼやぼやしてると、俺の腕にも白布が巻かれそうだ。
「……はあっ!」
俺とクシードがにらみ合っていると、ユキの声が響いた。
すでに刀は振られていて、クシードはユキに背中から切られていた。
「おお、薄氷姫よ。お前の術はそうだったな。久しいもので、緩んでいたようだ」
「……」
なんだ? 切ったユキ側のが苦々しい顔。
対照的にクシードは余裕そうだ。あたりにはガシャガシャと、何かが割れる音がする。
「お前のその刀程度では、我が身体を包む布は切れまいな!」
クシードが大剣を振り上げると、より大きくあたりに砕け散るような音が響き、まるで空間が割れたように見えた。
……そうか! ユキの薄氷魔法! あの空間を止める魔法か!
ダァン、と大剣が振り下ろされる。
ユキはクシードの攻撃をかわすが、その余波は地面を揺らしてやがる。一発もまともには食らえねぇ。
「貴様ら白の人が使う魔法。それは美しさがあるが、私とブロカード様には通用しなかったな? 所詮、それは薄皮一枚を凍らせる魔法。この白布を固めるには至らぬ!」
クシードが連続で大剣を振るうたび、空間が割れていく音がする。
完全にユキの魔法は無視されてる。防戦一方って状況だ。
俺は電撃を大きく溜め、わざとデカい音を鳴らし、叫ぶ。
「こっちから行くぞ! 覚悟しろ!」
雷剣を振りかざし、クシードに突っ込む。
あいつも答えるように大剣を振りぬき、飛び込んだ俺が一方的に吹っ飛ばされる。
馬鹿力過ぎるぜ。ただ、あいつの刃を防げないわけじゃないな。
「サービスのつもりかもしれないが、私がお前の稲妻に見出した美しさは、その派手さでは……ないっ!」
そう言ったクシードは一気に俺との間合いを詰め、大剣を振り下ろしてきた。
こいつ、飛び込みが速い! 雷剣で真正面から受け止めちまった! 下にどんどん押し込まれる!
「そう! これだ! 雷魔法で大剣を受け止める! これがなにを意味しているのか分かっているのか!」
「知ら、ねぇ、よっ!」
歯を食いしばって、雷剣に力を込めて、俺はクシードを勢いよく弾き飛ばす。
息が切れる! あいつはスッと立ってるってのに! なにか攻め手はねぇのか。
「知らないならば、教えるほかあるまい。貴様、雷魔法が物質を受け止めることが出来るか、知っているか?」
「……あぁ!? 出力上げりゃ出来んだろ」
なんだこいつ。普通にくっちゃべりやがって。
確かに、雷魔法は生き物を弾くとか、モノを運ぶとかは得意じゃねぇ。
風魔法や水魔法のが得意だ。ただ、相当威力があれば、周りの全てを吹っ飛ばしながら受け止めたりとかはできる。
「そうだ。だがな、それには相当量の出力が必要だ。私の剣を受け止めるとなれば、部屋もただでは済むまい。しかし実際は、違うな?」
「……」
このやり取りに、どんな意味があるかはわからねぇな。
クシードの言ってることは本当だ。俺があいつの攻撃を防げるのは、雷魔法の密度を高めているからだ。
属性魔法はなんでもそうだけどよ、密度が高まりゃ、弾く力が強くなる。だから防げる。
「お前の魔法は異常だぞ! 雷を操り、密度を上げる!? 私が見てきた、どの魔法使いも、そのような芸当は出来ていない!」
クシードは、そう叫ぶとまた突っ込んできて大剣を振り下ろす。
わかってんだけど速すぎる! 受け止めるので精いっぱいだ!
「必ずやブロカード様もお前を気に入るだろう! 名は、ライトで間違いないな!?」
「お前に名乗った覚えはねぇよ!」
足で地面を抑え、全力でなんとか押し返す。全身の関節が軋んできたぞおい!
ハルンとの取っ組み合いよりキツイ!
「だぁらっ!」
俺は背中側から電撃を出し、それをクシードに向けて放つ。
奴は直撃して後ずさった。ただ、大したダメージは見えない。
クシードは宙に向かって、二度三度と大剣を振るう。すると、また氷の割れる音が響いた。
「薄氷姫。この術は鬱陶しいだけだ。無駄に使うな……。飽きる」
「……ペラペラ喋りおってからに」
ユキはきっと何度も薄氷魔法を使ってくれていた。
ただ、クシードのパワーと身を包む白布が魔法を無効化しているって感じだ。
それなら、俺がクシードの気を引けてる方がいいな。まだ俺のが向いてる相手だ。
「そんなに私が喋ることは不思議か? お前たちも仲間と話していただろう」
またクシードは攻撃の手を止め、口元に手を置き、話し出す。
さっきからなんなんだろうな。俺は休まっちまってるけどよ。
「収集物とは、多少なりとも美を語れた方がよいだろう。知らないことは教える。知識を持つ者との会話は、円滑になっていくものだ。それに……」
剣を地面に突き立て、真っすぐと、まるで誰かに見せるようにクシードは姿勢を正した。
「お前たちは遠くない未来、私に守られる存在となる。味方と話すのは当然、と言えないか?」
ふざけたことばかり言ってんじゃ、ねぇぞ!
俺は雷剣にさらに力を込め、クシードに向けて振りぬいた。
あいつは後ろに吹っ飛んだが、雷剣の攻撃はしっかり防いでいた。
「いい圧力だ! だが、相手の隙を突かんとする攻撃は美から離れるぞ!」
あの野郎……余裕で構えなおしてやがる。ラチが明かねぇ!
とりあえず全身にぶつけてみるか!
俺はクシードに向けて、かなり強く雷撃を放つ。
あいつは受け止めて身体が雷魔法に包まれてるけど、特に叫び声はなく、様子も変わんねぇ。
「効かねぇってか?」
「ああ……! この白布はブロカード様のもの。属性魔法など、やすやすとは通さん!」
「なら。切るってのはどうだ」
遠隔でも簡易的なもんなら、電気の刃はつくれる。
そこら中に俺の背丈程度の大きさで、雷の刃を作って、叩き込みまくる。
これなら大剣で捌けねぇし、弱いところは切れてもいいだろ!
「見事だな。だが、切れ味が足りん」
「……普通に立ってんのかよ!」
クシードは剣を前にかざした防御姿勢こそ取ってたが、難なくそこに立っていた。
威力か? 炎とかか!? 突破口が見えてこねぇな!
「さぁ! 今度はこちらから行くぞ! 先ほどのように一撃では済まさん! しのぎ切って見せろ!」
部屋中にクシードの声が響いた。奴は地を這うように突進して、大剣を払うように振り切った。
俺はまた雷剣に力を込め、防ぐ。すると……足が地面を離れた。
まずい! 下からの衝撃で跳ね上げられた!
「ぬぅうううん!」
狙い通り、とクシードは宙にいる俺に、突進して切りつけてきた!
白い布をはためかせながら、奴の大剣が飛び込んでくる!
「ざけんなよっ!」
あんな威力の攻撃受けられるか! 空中で雷剣を使って、なんとか攻撃をいなす。
クシードが天井にぶつかった衝撃であたりが揺れる。あいつはまたこっちに飛び込んできて、俺はもう一度攻撃をいなす。
ガッチャンガッチャン、とデケェ音鳴らしやがって!
「貴様、先ほどから私の攻撃を感知しているな! どのようにしているのかは知らんが……大したものだ。さぁ、どこまで躱せる!?」
電気の輪を部屋に回して、お前が通るとこっちの身体が自動で反応するようしてんだよ!
ただ、それでもしんどい……。ここは無理矢理でも、地面に着地しちまおう!
「どりゃあっ!」
雷剣の先から稲妻を放ち、反動で地面に着地する。
威力調整がむずくて地面に叩きつけられかねなかったが、あいつの剣をくらうよりマシだ!
ビッ、と身体が反応すると、後ろからクシードがまた突っ込んできた!
「空中ですら動けるとは、どこまでも魔法を自由に扱う奴だ」
「テメェは芸がねぇな……。突進以外は出来ねぇのか?」
クソ。メチャクチャ押し込まれる……! 足元も滑っておぼつかねぇ!
そのままクシードの大剣に弾かれ、また後ろに滑って吹き飛ばされる。
……滑って? 地面が、凍ってる?
「薄氷姫……。伝えたはずだ。もうその術は通じないと!」
「ユキ!」
まずい! クシードがユキに突っ込んで……!
「いつまでも、無駄なことしてるわけないやん」
ユキの目の前で、クシードは大剣を振り下ろすことなく留まる。
この戦いで、初めてクシードから苦悶の声が漏れた。
「……何をした」
……あいつの腹が、地面から生えた巨大な氷の柱に貫かれていた。
氷の柱には、クシードの腹から黒い液体が滴ってた。