俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~   作:ねこねこてんちゃん

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白の保管庫③

「なにをしたんだ! 薄氷姫!」

 

 氷の柱に貫かれたクシードの叫びが部屋を揺らす。相変わらず声がデケェ!

 しかし、あの黒い……体液? ありゃなんだ。魔物の血って色も変なことあるけどあんなん見たことねぇぞ。

 流れ方はまるで油だ。そんで……魔力も感じる。近くの白布に、黒く染みていってる。

 

「なにをしたと聞いている!」

 

 またクシードは叫んで、大剣で腹に刺さった氷柱を粉々にし、構え直す。

 

 ユキはクシードに追撃しない。

 俺に、まるで攻撃するなと手をかざしてる。険しい顔のまま、こっち側にじりっじりっと移動してきてる。

 ……その時もクシードへ刀を向けて視線を外さない。そのまま俺の隣に立つと、低めの声で話し出す。

 

「あんさんの白布。凍らない切れないと自慢してたけど、ほんまかなって疑ってたんよ」

「……なに?」

 

 ユキが説明を始めると、腹を抑えながら律儀に聞くクシード。

 えっ? わざわざ、なにをしたか答えるのか?

 ここでネタばらしをしたら、次に対策とかされちまうんじゃ……?

 

「魔法を全部無効にするなら、ライトの雷剣は白い布で直接掴んだほうがええ。薄氷の術も気づかないのが自然、ちゃう?」

 

 確かにそうか。牙で無効にする魔豚は、必ず魔法には牙で対応してたな!

 無効化するなら、それで対応する癖がついちまうってことか。

 

「だからなんだというのだ! それはブロカード様の白布を破る理由にならん! 私の腹を破る理由にはならん!」

「せやろな。あんさんも自信あったよね? その布は刀で切れないし、ライトの雷の刃がいっぱい降ってきても大丈夫。でも凍らないは、ちゃうかった」

 

 クシードはユキの言葉を聞き、目を見開いて睨み付ける。

 さっきまでとはまるで違う。余裕のねぇ態度だ。

 ユキは、俺に手をかざしたまま続けて説明をする。

 

「ちょっとだけな? 凍るんよ。霜張るくらいやけど。シャリシャリ言うてましたよ? そんで、凍って動いての繰り返しやから、白布がズレて……」

「隙間を縫い、穿ったということか」

 

 言葉の途中で、クシードの苦々しそうな声が割り込んだ。

 ユキが氷の柱であいつを貫けたのは、あいつを包む白布を一瞬凍らせて、隙間を作ったのか!

 それが出来そうかどうかを確かめるために、あんだけ薄氷の魔法を繰り返してたんだな。

 

「つまり、我が落ち度だ。この白布を汚す、といった大失態。私の油断が招いたということだ」

 

 クシードは歯を食いしばり、腹を抑えてそう言った。さっきより態度が落ち着いてきてる。

 時間空けずに、攻撃してたほうがよかった気もすんな。回復とかされてたらもったいねぇ。

 ただ、ユキは俺にまだ攻撃するな、と手で遮ってる。

 

「その、お腹から出てる黒いの。なに?」

 

 クシードに刀を向け、ユキは聞いた。

 困惑と懐疑が声に交じってて、すごく警戒してることがわかる。

 

「……ふふ。お前も取り引きの美学を持っていて喜ばしい。異様であろうな。液状の黒い魔力は」

 

 液状の……魔力?

 クシードの説明は、俺の常識とズレてる。魔力は液体とか、固形物とか気体にならねぇ。

 水に変わったり炎に変わったりはするが、もうそれは魔法であって魔力そのものじゃねぇ。魔力の混ざった水や炎だ。

 

「あんさんの黒いのは、あんまりにもおかしいんよね。魔力凄いし、血にしては流れる量が多すぎる。なにそれ」

「伝えた通り、魔力だ。私の身体は、黒く流れる醜い魔力で出来ている。これは魔力であり、私そのものだ」

 

 クシードが抑える腹からは、とめどなく黒い液体が流れ続けてる。

 ずっと止まる気配がない。マジで魔力だとしたら、あれに電撃撃ったらヤベェか?

 爆発とかする可能性もあるかもな……。

 

 だからユキは先に種明かしをして、クシードにも秘密を吐かせてんのか。

 ロガール回収隊もそうだけど、なんか連中フェアであろうとする美学があんだよな。

 

「他者により生物から魔力へ変換されんとし、しくじり、なれ果てた。生物でも純魔力とも呼べぬ、醜き塊。そんな私に差し伸べられた、白き救いの手がわかるか?」

 

 ユキも俺も、奴の話を黙って聞く。

 生物を……魔力に? そんな想像したこともねぇこと試してる連中がいることにビビる。

 救いの手、ってのは……ブロカードか。

 

「ブロカード様はな、こんな醜い存在を『漆黒の美しき魔力』として保管対象に選んでくださった! 自らのお身体である白布を裂き、私を包み、姿をくださった! これがどれほどのことか、わかるか!?」

 

 今までで一番強い声。その叫びは唸るように轟く。

 クシードは、腹を抑えることを止め、右手で大剣を地面に突き立てた。

 ……姿勢を正したんだ。わざわざ。

 

「美とは! あの方が決めることだ! あのお方こそが美だ! 私は選ばれし保管庫の番として、あの方の美を守る者だ! 選ばれしお前たちは、あの方の下へ存在すべきなのだ!!!」

 

 ユキはスッと、俺を遮っていた手を降ろし、構える。

 なにも言わない。クシードの言葉に、なにも答えない。

 突き立てた大剣をまた抜きながら、クシードは落ち着いた声で話し出す。

 

「薄氷姫よ。手を出さなかった美学に感謝する。安心しろ。この肉体に刺激が与えられることで、爆破や予期せぬことは起きない。私がどのような結末を迎えようと、保管庫に害することは無い」

「……そ。いい加減そろそろ、あんたらも保管庫も、無くなってもらうよ」

 

 あいつ……。『これが知りたかったんだろ?』って態度で最後に言ってきやがって。

 報酬を与えてやる側ってか? どこまで行っても分かり合えねぇな。

 んでもって、どうせ全部変わらねぇから……突っ込んで来るな!

 

「ぬうぅん!」

 

 さっきまでと同じように突進! でもさっきまでより速い!

 俺とユキは互いに受け止めず躱す。クシードは、俺たちの間を通り抜けた。

 その道をたどるよう、宙に霧みたいな黒い魔力が残ってら。

 

「ライト!」

 

 ユキの声! クシードはこっちに突っ込んできた!

 大剣を突き刺すように構えて突進。とにかく速度で捕まえてやるってか?

 最初の一撃は速かった。けど、次も、その次も、速度は変わらねぇ。

 それなら躱せる、当たらねぇぜ。

 

「小癪! ウロチョロと! 神妙に受けよ!」

 

 クシードは大剣の構えを変えない。また突っ込んで来て、また躱すの繰り返し。

 なんか狙いがあんのか? 宙に浮かぶ黒い魔力の様子を見てみたが、部屋に充満するとかはねぇ。むしろだんだん消えてってる。

 ……仕掛けてみるか。

 

「いつまでも躱してるだけだと思うなよ!」

 

 俺はユキの正面に立って、派手に雷剣を手に作る。

 とにかく光らせる! ビームでも出るんじゃねぇかって感じでな!

 

「なめるな! 私は魔力だ! 受けられると思うな!」

 

 そう叫んで、クシードは突っ込んでくる。

 さっきまでより単調に。

 

 俺は身を翻し、クシードの突進を躱す。

 その瞬間、空間が割れる音が響き、クシードの突進も止まった。

 奴はまた、氷の柱に貫かれた。

 

「ぐうっ! 一度ならず二度までも! あのお方の布がまたっ!」

 

 クシードは悔恨の唸り声を上げて、また大剣で氷の柱を叩き折った。

 腹の傷はデカくなってる。ダメージがあるぞ!

 

 戦いに光が見えてきたってときに、ユキが俺の隣に来て、小さな声で囁いてきた。

 

「やっこさん。二度当たるってことは、相当頭テンパってるな。こっから何してくるかわからんよ」

「……つうと?」

「知らん魔法とか、強引な技とか。危なくなるから、気を付けて」

 

 そう言って、ユキは俺よりだいぶ前に出る。

 クシードは俺たちの方へゆっくりと体を向け、右手に大剣を持ち、仁王立ちしている。

 

「……白布を大きく汚してしまった。もはや先刻までの美は取り戻せまい」

 

 クシードは身体に巻かれた白布を左手に持ち、一気に解く。

 魔力で出来た全身が露わになる。ところどころ、最低限と言わんがばかりに布を残してっけど、既にそれは黒くなってた。

 右手は大剣。左手は手元が黒く、先が白い布。明らかに今までとは違うことを仕掛けてくるな!

 

「だが、新たな美もまた存在する! 必ず捕え、捧げるのだ!」

 

 奴は左手に持った布を振りまわす。そして、布の先がユキの横を抜け、先端を俺にぶつけるよう放ってきた!

 

 

「ライト!」

「あっぶね! 問題ねぇ……」

 

 ――ドォオオンッ!!!

 

 布を躱した瞬間、クシードは大剣を持ち、突っ込んできた。

 俺は躱し切れず、雷剣でなんとか受けるも、壁に叩きつけられる。

 

「……くうっ」

 

 背中痛ぇ! 息がしづらい! 砂煙が上がって見づらい!

 でも止まってたらマズい!

 何とか立ち上がると、煙を払うようにまた布が来た!

 

「冗談きついぜ!」

 

 右手の雷剣でなんとか払って、左手にも雷剣を作って突進に備える。

 電気の輪! 電気の輪! 見えねぇし感知しねぇと!

 その時、また空間が割れる音がして、一気に砂煙が晴れた。

 

「……ユキ!」

 

 ようやく見えたクシードの戦い方は、さっきまでとはまるで違ってた。

 白布が、部屋中に張り巡らされんじゃねぇかってくらいにあたりに浮かび、ユキの動きを追い詰める。

 クシードは布を操りながら、大剣を振り回し、苛烈に攻める。

 

「めんどっ!」

 

 ユキは刀を使い、なんとか捌いてる。

 途中で氷の壁や、柱を出して大剣や布をなんとか逸らす。

 早く助けに入らねぇと! ……今なら効くんじゃねぇか?

 

「だりゃあっ!」

 

 俺は雷剣の先から電撃をクシードめがけて放つ。あいつはもう全身を白布で覆ってねぇ!

 

「ぬぅりゃあ!」

 

 クシードも、俺の攻撃に気づき白布を放つ。

 布は電撃を逸らし、俺の後ろの壁に突き刺さった。

 気は逸らせた程度か……?

 

 ――ビュン。

 

 その瞬間、今までの速度とは比にならない勢いで、俺の眼前に大剣が迫った。

 

「ライトォ!」

 

 突進の衝撃音が、ユキの声をかき消すかのように響く。

 威力も速度も、メチャクチャだった。

 

「……これもいなすか! その雷剣の圧力は相当だな!」

 

 何とかギリギリだ。両手の雷剣で受けて上に弾くように避けられた。

 でも俺が下にもぐったって形になったな。とにかく身体が痛ぇし、壁とクシードに挟まれていたくねぇ!

 

「うるせぇ、よっ!」

 

 俺は全力で全身から電撃を放つ。ハルンがよくやる最終奥義だ。

 音も光も、バカでかい。クシードの姿勢が崩れた隙を突き、裏に抜けて脱出する。

 

「ライト! 無事なん!?」

「なんとかな! いったい何が起きてた?」

 

 駆け寄ってきたユキに、攻撃の正体を聞く。

 とにかく急だった。もう一発はしんどいぞ。

 

「あいつ、布引っ張って飛んでってた」

 

 そういうことか。俺の後ろの壁に布を突き刺して、それを引く力を使って突っ込んできてたのか。

 突進バカ過ぎるだろ! 芸術は突進じゃねぇか……。

 

「最後の雷撃は、原始的だったな。生物としての窮地はそれに限る、といったところか?」

 

 砂煙から、クシードが出てきた。

 左手には、巻き取られた布。そいつで俺の攻撃は防いだのかもな。

 

「……いつまでも、布に包まれず戦うわけにはいかん。次で決める!」

 

 そう告げると、クシードは布を左手から放つ。

 部屋の天井に、壁に、床に。いよいよ白布がそこら中に強く張り巡らされた。

 

「……まさか」

 

 あいつ! 布の長さを全部使って、突っ込んでくる気か!?

 白布が全部ギシギシと音を鳴らして、それだけで部屋が壊れるんじゃねぇかってくらい軋む。どんな威力の突進になるんだよ!

 

「人間には回復用の教会がある! お前たちなら死にはすまい! いざ!」

 

 クシードはそう告げると、左腕を引いた。

 一瞬でその場から消え、遅れて轟音が部屋を揺らした。

 

 時間がない! 防げるか!?

 

「――言ったやん。その布は、凍るよ?」

 

 俺が両手の雷剣に全力で力を込め、備えてた時だった。

 カシャン、と氷の音がした。

 

 空気も、張り巡らされた白布も、クシードの突進も。

 ぜんぶまとめて固まる。

 

 でも、クシードの力はそれをぶち破った。薄氷が砕け、氷の粒が宙に散る。

 

 ただ、その時には奴の突進は崩れてた。

 クシードの巨体が、砕けた氷と一緒に宙へ投げ出される。

 

「……なにが、起きた!」

 

 あいつも状況を把握できていなかった。

 薄氷の魔法で一瞬だけ固まった白布は、クシードの制御を離れた。だから突進の力を操れなくなった……あたりか?

 

 とにかく、今はチャンスだ!

 俺は飛び上がり、力を込めた雷剣をクシードに向け突き立てる!

 

「うぉおおおらぁっ!」

「……まだだぁ!」

 

 クシードは大剣で受ける。ただ、もう踏ん張るところも、勢いもない!

 そのまま天井に押し込む! 貫け!

 

「だあぁあああああああっ!」

 

 ガンッ!!!

 

 デカい音が鳴り響き、大剣が地面へと落ちた。

 

「……ふっ」

 

 クシードが、笑った。

 雷剣はクシードの身体を貫いた。そこから、黒い魔力が滴る。

 

「……美しい。魔力が、雷が型をなし、とどまる。機能を果たしている」

 

 ぽたぽたと、奴の身体から次々と魔力が零れる。

 宙に浮いていた白布は、ゆっくりと地面に落ちていく。

 

「私は、形になれなかった。……ああ、ブロカード様。あなたの、白布を汚し、申し訳」

 

 ばしゃん。

 

 言葉の途中で、クシードは身体を保てず、崩れ落ちた。

 黒い魔力は、地面に落ちた布へ滲んで、また少しだけ白を汚した。

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