俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
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【ユキ視点】
ブロカードが告げた“龍の刻印”って言葉。
そんで左腕の痣。それで、急に昔のことを思い出した。
まだちっちゃかったころ。お父ちゃんもみんなも、生きてた頃のこと。
確かに、ユキには左の二の腕に丸い痣があった。でも、そんな大したもんやなかった。
お母ちゃんにも聞いたことあるんよな。なにこれって。
「生まれたときからユキにはある痣でね? お医者さんは気にしなくていいって。雪焼けみたいな痣だから、きっとご先祖様が見守ってくれてる印よ?」
そんなこと言ってた。思い返すと全然意味がわからんな。
雪焼けやからご先祖様が見守ってるって、なーんも理屈が通ってへんやん。
そんな不思議で、温かいことをいうお母ちゃんやった。
思い返しても悪い気はせーへん。そんくらいの痣やった。
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【ライト視点】
「……なんだって急に、布を解くんだよ」
明らかに、おかしい動きだ。
ブロカードは絶対にロクでもねぇことをしようとしてる。
じゃないと、十何年もくっつけてたもんをいきなり外したりはしねぇ。
「ええ。なぜ、保管庫に薄氷姫が必要なのかをお伝えしようと考えまして」
ブロカードはそう告げる。
無視するべきか、戦うべきか。
俺は、ついついユキの方を見る。変な癖がついてねぇか? 自分で決められなくならねぇよう気を付けねぇと。
ユキは、目を大きく見開いて、ブロカードを見てた。
目を逸らせないって、ふうに見えた。
「龍の刻印は、その名の通り龍がつける印。その役割は『追跡』です。世界各地の龍は探知を実行することにより、その刻印がどこにあるのか認識できます」
なんだと?
まんま、左腕についてた白布と同じ効果かよ!
確か、白布の追跡機能はユキとルミエルネの二人とも魔力で無効化してたんだよな。
てことはおめぇ……。
「ブロカード。お前も龍の刻印が追えるってことか?」
「その通りです、少年。私は、龍よりその力を賜っています」
だからか。オークどもがユキを延々と追いかけ続けられたのは。
布に仕組み的な意味はなかったんだ。所有物という印の意味しかない。忘れるなって意味しか……ない。
「お前の布は、理不尽にユキを苦しめるために。ただそのためだけについてたんだな」
「そんなことはありません。ただ、私がユキの目的となるための役割です。自ら死なれては困る。あの日、なぜハレノヒが襲われたのかを、理解されては困る」
ブロカードが放った言葉は、想定とは違った。
思わずユキの方をまた見ると、目は点になってて、口は開いたままだった。
「……なんて?」
ユキから素直な疑問が零れた。
声からは、嫌悪も、不快感も感じない。ただただ、驚いたって声だった。
「私がなぜハレノヒを目指したか。それは、ユキを手に入れたかったからです。オーブも、白い街も副産物に過ぎない。貴女こそが、全ての理由なのですよ。ユキ」
あっちゃならねぇ言葉だった。
最悪過ぎる、言葉だった。
全部が全部、ユキのせいだと? ユキがいたから、みんな死んで苦しめられたってか!?
そうじゃねぇだろ!
「アンタが! アンタが全部! 私の全部を!」
割れるような、胸を裂くようなユキの叫びが、空間中に響く。
それと同時に、一気にブロカードの周囲が固まって、動きを止める。
ユキが切りかかると、あっさりとブロカードは動き、その剣戟をユキごと弾いた。
「……薄氷の術。それは貴女の美であり、貴女の枷だ。より強い術が必要な時に、こだわってしまい、高みに至らない。良いものを用意しましょう」
そう告げたブロカードは、また上空に飛び上がった。
高い塔から、なにかを布で掴み取り、こちらに見せながら降りてくる。
「この白く小さな球は、凍結、極寒から人間だけを守ります。これがあれば、ライトは凍りません。さぁユキ、全力で美しき魔法を放ってください」
お前、それは!
それはよ!!!
「アンタのや、ないやろうがぁああああああああ!!!」
ユキの声とともに、今までの比じゃない凍結が、部屋中を全て凍らせていく。
視界も悪くなるほどに、冷気が猛烈に吹きすさぶ。これが……ユキの本気か!
俺は、本当に全く寒くなかった。肌も、髪も凍らない。ノブレスオーブの奇跡は、間違いなく本物だ。
「……はあっ、はあっ」
ユキが肩で息をするのと同時に、氷魔法は収まった。
上空には、氷で包まれたブロカード。壁も床も布も、何もかもが凍り付いてる。
――ガシャァァン。
大きく砕けた音とともに、白い布の化物が動き出す。
ユキは、唖然とした表情だった。
「――美しい。その芸術は、まだまだ伸びますよ」
そう言ったブロカードは、吹き抜けの近くにある大鐘を打ち鳴らす。
デカくて重い音が鳴り響くと、振動に合わせるみてえに部屋中の氷が割れて、ユキの魔法が放たれる前の姿に戻っていった。
「アンタ……ッ! ほんまっ……!」
ユキの振り絞った、涙交じりの言葉。
それに対し、奴は低く澄んだ声で返事をする。
「ユキよ、わかっているのでしょう。この戦いに意味はないと。たとえ私を葬ったとて、何も変わらないと」
なん、だ?
『意味がない』って言ったのか? ブロカードを倒しても?
そりゃ、どういうことだよ。
「その刻印は、私だけのものではない。龍はいずれ必ず貴女の下に現れる。そのための刻印なのだから」
からん、と地面に何かが落ちる音がした。
音の方を向くと、ユキの手から、刀が滑り落ちていた。
ブロカードは、まるでユキの心をそのまま読むかのように、言葉を続けた。
「貴女が存在する限り、貴女は私に、貴女は龍に、追われ続ける。それは、延々と続き、あの日はずっと繰り返される」
「……おい!」
これ以上、許しちゃいけねぇ。
そう思って俺は声を出した。だが、ブロカードは構わず語り続ける。
「貴女がいる限り、貴女の大切な人間に安寧は訪れないのですよ。ユキ」
白い布の化物は、冷たい声で言い切った。