俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~   作:ねこねこてんちゃん

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ブロカード③

 ユキは、その場でブロカードを見上げてた。

 ただ、声も出ねぇで泣いていた。もう止められなくなってんだ。

 

 もう言うことを聞いてねぇ身体が、ふっと膝から崩れ落ちて、なにもできずにへたり込んだ。

 そんな姿も不思議じゃねぇくらい、あいつの言ったことは残酷だった。

 

「さぁユキ、こちらへ。保管庫に場所は用意してあります。ここにいれば少なくとも、貴女の大切な人々は私にも龍にも追われない」

 

 ブロカードは、白い身体をゆっくりと動かし、そのままユキに寄ってくる。

 なんの助けにもなってねぇ、低い言葉を並べながら。

 

 ユキはもう指一本動かせず、ブロカードを無心で見上げる。

 白い布が救いの手のように、するりとユキに差し出された。

 

 俺は身体で割り込んで、雷撃で布を叩き落とす。

 

「近寄るんじゃねぇ」

 

 ブロカードは、知らねぇ。

 ユキがどれだけ、トモリのみんなを大切に思ってるか。

 大事なもんまで要らねぇって、ずっと泣いてるくらいには、ユキは大切にしてきてんだ。

 

「お前には、奪わせねぇよ」

 

 ユキはなにも、奪ってない。

 全部ひとりでやろうとするんだ。

 トモリの人からも、俺たちからも。周りのどんな奴からだって、何一つ奪おうとしなかった。

 

「俺から! ミツイから! トモリから!」

 

 こいつは、一人で泣くんだぞ。

 みんなに迷惑かけたくないって、誰にも頼らず泣くんだぞ!

 

「ユキはぜってぇ、奪わせねぇ!!!」

 

 思いっきり雷魔法を撃って、ブロカードを弾き飛ばす。

 俺とブロカードに距離ができる。あいつの狙いは、ユキだ。

 

「ハルンライト」

 

 背中の宝箱から、カラクリを取り出す。

 ルミエルネ用、三角錐の結界カラクリだ。

 

 雷魔法で起動して、ユキを中にかくまう。

 

「貴方はクシードに似ていますね。奪わせないという言葉、行動。きっと保管庫も力強く守ってくれることでしょう」

「はっ倒れてから、寝言は言うんだな」

 

 ブロカードの言ってることは、噛み合わなさすぎて驚く。

 だがもう、あいつと話すことはねぇ。どうだっていいことだ。

 

 ――ガァンッ!

 

 全力で、雷撃をまとめて奴に叩きつける。

 形も拘らねぇ。絶対に、あいつの好きにはさせねぇ。

 

 *

 【ユキ視点】

 

 ライトが、戦ってるのが見える。

 ユキのために、こんなユキのために。

 

「……なんで?」

 

 わかっているのに、言葉に出た。

 誰にも届かん言葉やのに。

 

 知らなかった。自分の存在が、ハレノヒを壊してたなんて。

 こんなしょーもない存在が、みんなを殺して、めちゃくちゃにした。

 

 それでもさ? もう無くなったものはどうにもならんて。

 ずっと自分で言うてたやん。

 

 今あるもんを、大事にせなあかん。大切なもんは、目の前にあるって。

 

「なにが、どの口が。自分で……。また、壊すんやんか」

 

 ユキのせいで、ブロカードが来た。

 ユキがいると、また化け物が来る。

 

 あいつの言った通りよ。このまま倒して帰れても、みんなを危険に晒すだけ。

 また、ユキが奪う。

 

 でも、ライトは戦ってるよ?

 あんだけ頑張ってる人を見捨てて、どんな人間として生きるの?

 

 ……ここから立ち上がって、前に進んでいったとして、どんな人間として生きるの?

 

 わからない。どっちも、わからないよ。

 

「よう。泣いてんのか? ユキ」

 

 隣から声を掛けられた。

 おっきなお腹、まぁるい手。緑色の可愛い子。

 

「……ハルン」

 

 現れたのは、大切な存在の象徴みたいな子。

 そう。ライトにとって、なによりも大切な存在。

 

 パチン、とハルンがなにかを外すと、ライトがつけてくれた結界カラクリが閉じる。

 そんで雷の音が鳴り響く。視界に一瞬、あの白い影が映る。

 

「どうなってんだ?」

 

 影を見ながら、そうやってハルンが呟いたとたん、背筋が一気に冷えた。

 ……戦おうとしてる。あんなバケモンと戦ったら、ハルンは壊れちゃうかもしれん。

 

 ハルンが、ライトから奪われちゃうかもしれん。

 

「待って……! ハルン、待って……?」

「んだよもう。わかった。どした?」

 

 アカンて! それだけはアカン!

 あんなに素敵な人から、あんなに優しい人から、ハルンが奪われるなんて!

 そんなことあったら、ライトはどんな顔して……。どんな、思いで。

 

 あっていいわけがない! あっちゃいけない!

 ……今のユキがどうあろうと、そんなことは許しちゃいけない。

 

「……そっか」

 

 やっと、ユキにもわかったよ。ブロカードがどんな存在かって。

 こんだけアイツに振り回されて、こんだけ散々泣かされて。やっとわかった。

 

「おう。なんかわかったか?」

 

 ゆったりと、小さい声でハルンが話しかけてくれる。

 君たちは、ふたりとも似てるね。

 

「うん。ハルン。そのまま、聞いて?」

 

 *

 【ライト視点】

 

「ライト、貴方はずっと魔法を使い続けられるのですね。膨大な魔力で、どこまでも美しく戦い続けられる」

 

 ……埒が明かない。

 

 ――ガァン!

 

 また一発、ブロカードに雷魔法を叩きこんだが、怯みやしねぇ。

 バチバチっと、あいつの身体で鳴ってるから、入ってはいるんだがな。

 

「すっかり会話が無くなった。ライト、貴方は美が苦手ですか?」

 

 おかげさまでな、変な苦手意識はつきそうだよ。

 その時、ふっと弱く擦れた感覚がした。布が擦れたわけじゃねぇ。

 

 かしゃりと、したやつだ。

 

 俺が横目でユキの方を見ると、ユキの隣にハルンが立ってた。

 あいつ……! 大人しく立ってたのか!?

 

「……いつの間に来たんだ」

「うだうだ言うなよ?」

 

 一気にハルンの隣に移動して聞いたら、門前払いで返事してきやがった。

 全然普段と調子違うじゃねぇか。なんかの……仕込みだな。

 

 ユキの様子は変わらない。ずっと下を向いたまま。

 

「いつの間にか、緑のカラクリ人形が到着したようですね。そのカラクリ結界よりは頼りになるのでしょうか」

 

 また、ブロカードがぶつくさ言ってんな。

 ただ逆に安心したぜ。普段のハルンを知られてたら、メチャクチャ警戒されるとこだ。

 

「――――だ。よろしく頼む」

 

 俺は、ハルンとユキを信じて最後の策を託す。返事は聞かねぇ。

 そんで、ブロカードにまた飛び掛かる。

 

「なにか、変わりましたか?」

「ああ? 変わらねぇさ。相変わらずお前はうっとうしい!」

 

 ブロカードの野郎に返事しながら、俺は雷撃で奴を上空に打ち上げる。

 

「……流石に、もう見飽きましたよ?」

 

 少し反応を見せるあいつを無視して、俺は強い雷魔法を連続で叩き込んで、どんどんと上に上げる。

 そう、ブロカードは打ち上げられるのが気に入らねぇから態度が変わってんだ。

 

「テメェ、バレてねぇと思うなよ。さっきから俺の攻撃を、地面に逃がしてんな?」

「……よく見ていますね」

 

 思えば最初からそうだった。強い雷撃の後は、布を地面にぶっ刺してた。

 ブロカードは魔法が効かねぇんじゃねぇ。魔法を逃がしやすいだけだ。

 

「つまり地面に逃がせなきゃ、電撃は効くってことだよなぁ!?」

 

 ブロカードは思った以上に、雷撃の勢いで飛ぶ! 電撃を使って跳ね上げ続ければ、可能性はある。

 天井の吹き抜けより、高い位置までブロカードを押し上げたところで、奴は俺の言葉に答えた。

 

「ええ。良い着眼点ですが、かなり甘い」

 

 その瞬間に、ブロカードは地面に向けて、自らの布を凄まじい速度で伸ばした。

 ドスン、という音とともに、地面に白布が突き刺さる。

 

「やすやすと、その策を許すわけがありません。そして空中は、貴方にとって安全ではない」

 

 ブロカードは一瞬で身体を操り、俺の周りを巻くように白布で縛り付ける。

 俺は抵抗する間もなく、ブロカードにふん縛られた。

 

「これで、回収完了ですね。あとは地上のユキを拾うだけです」

 

 ピンと張った白布からは、安堵混じりの声がする。

 声と一緒に、カシャン、と氷の音がした。

 俺もなんとか下を見て、ブロカードに向け告げる。

 

「ああ、これで終わりだ。この賭けは、俺の勝ちだ」

 

 伸び切ったブロカードは、一切動かない。

 奴が突き刺した白布の根元に、ユキが手を添えて立っていた。

 

「なっ……。なにをっ!」

 

 初めて聞いた、ブロカードの慌て声。

 地面から伸びて、頭の先まで。奴の身体は凍ってる。

 

「油断したな。お前は今まで、雷だったから逃がせただけだ。ちゃんと凍れば、逃れられねぇ」

 

 最初からブロカードが凍ることはわかってた。

 ユキの全力攻撃のとき、きっちり凍り付いてたもんよ。

 

「そこではなく……。なぜ動けない!?」

「そりゃお前、布だからだろ」

 

 そう。こっからが賭けだった。

 雑に凍ったときは無理矢理動けたブロカードが、伸び切った状態でしっかり凍ったらどうなるか。

 

 ユキとハルンに耳打ちした作戦は単純。

 俺が何とかブロカードを引っ張り伸ばすから、その後、なんとか一瞬で凍らせてくれってだけ。

 

 バネだってそうだけどよ。曲がってると力が出せるんだよな。

 ただ、伸び切ってんのを縮めんのは大変だ。しかも、凍ってたりしたら動けねぇんじゃねぇかってな。

 

「なぜユキは動ける! なぜ、貴方を巻き込むように魔法を放てる!」

「……俺はここじゃ、凍らねぇんだろ? それにユキは、ハルンがなんとかしてくれたよ」

 

 結局のところ、ブロカードには俺たちの気持ちがわからねぇ。

 だから、ハルンが駆け付けたことを気にもしねぇし、ユキが立ち直ってねぇフリしたことにも気付けねぇ。

 

 そういう細かいところの抜けが、勝負の分かれ目なのかもしれねぇな。

 

「ま、俺も動けねぇ。最後まで任せたぜ。ふたりとも」

 

 そう言って、また下を見ると、ハルンがユキを腕に乗せて構えてやがる。

 ずいぶんと……雑なことするじゃねぇか。

 

「いくぜユキ! 決めてこいっ!」

「……うん!」

 

 ビュン、とユキが飛んだ。

 ハルンに思い切り投げられて、一気にブロカードの頭部へ迫る。

 

 ユキはもう刀を持ち直していて、勢いのまま振りかざす。

 

「……ユキ! どうして、受け入れないのです!」

 

 ブロカードの声とほぼ同時に、ユキの刀はブロカードに食い込んだ。

 凍って張り詰めた白布は、刀を躱す力がねぇ。

 どんどんと、切れていく。

 

「誰がアンタを! 誰がアンタを受け入れるかぁ! ユキの……大事なもん全部持って行ったくせに!」

 

 ユキは、最後の力を振り絞ってる。

 もう、ブロカードにできることはない。

 

「アンタがいなけりゃ、今でもみんなは幸せで! ユキもずっと笑えてた! いい加減もう……いなく、なれぇ!」

 

 一気に、刀は振り抜かれた。

 切り離されたブロカードの頭が、地面に向かって落ちていく。

 

 ちょうど俺の上にユキが来て、すぐ近くに顔が見えた。

 目はすっかり真っ赤だったけど、少しホッとした表情で、こっちまで安心しちまった。

 

 ピンと突き立った白布が、ガシャン、と急に音を立てた。

 それと同時に浮遊感。

 

「やっべ!」

 

 落ちる! ここ結構高い!

 巻き付いた布が凍ってて外れねぇ! 雷魔法で空中移動ができねぇぞ!

 

 ――バシィン!

 

「おう。無事か?」

 

 地面に当たる直前で、ハルンがキャッチしてくれた。

 死ぬかと思ったぜマジで……。

 

「助かっ……」

「おっ、悪ぃ」

 

 ハルンは俺をポイっと投げて、俺は地面に顔から叩きつけられた。

 

「いってぇ! なにすんだ……」

「いや、な? なんちゃらの姫が、落っこちて来ててよ?」

 

 ハルンがくるっとこっちを向くと、両腕には、お姫様抱っこされたユキがいた。

 ユキは、かなり疲れた顔だった。けど、そのままふにゃりと笑って、ピース。

 

「ライト、ありがとう。一緒に戦ってくれて」

「……いーや。大したことはしてねぇよ」

 

 俺は、ちょっとカッコつけた返事。顔を逸らしながら答えた。

 こういうのって、照れが出るだろ。

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