俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~   作:ねこねこてんちゃん

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託す物

 ユキのお願い。その言葉で、トモリの人たちはだいぶ身構えた。

 マナは不安げに見つめていて、イサギのおっさんも神妙な面持ち。

 

 ミツイは不思議と落ち着いていて、腰に手を当てながら待ってる。

 なにを言いそうか、わかってんのかもな。

 

「ん。トモリのみんなへのお願い。一つ目は『トモリからのお引越し』やね」

 

 さらり、と軽い言い方でユキは伝えた。

 でも願い事は軽くねぇよな。住んでるこの里から移動しろって。

 

 ただ、トモリの人たちは、思ったより静かだ。

 こりゃざわめくぞ、と身構えてたのに意外だな。なんて考えてると、話を聞いていた里長がユキに向けて歩み出た。

 

「交易街ヤンベに向けた……移住の話じゃな」

「そ。長は知ってるもんな? もう準備はできとるよ」

 

 ユキはそう返した後に、みんなのほうを改めて向いた。

 そこで、ミツイがユキに応えるように手を挙げながら話しだした。

 

「里のみんなも知ってるよ? ねーお師匠」

「……ああ。俺がもう伝えてしまった。今回の騒ぎを始めてしまう直前に」

 

 イサギのおっさんの言葉に、こっちが逆に面を食らう。

 ユキなんて、鳩が豆鉄砲を食ったような驚きっぷりだぞ。目が点ってのはこのことだ。

 

「なんやさ……。ええ? トモリから出たくなくて、みんな突撃したん?」

「いや! そうじゃない! ただ、なんだ。待て、とにかくトモリにしがみつきたくてブロカードに挑んだわけじゃないんだ」

 

 イサギのおっさんは、多分あんまり言葉で人を操るとか得意じゃないんだな。

 見ていて微笑ましいくらいだ。俺も得意じゃねぇから、自分自身がこうなっていねぇことを祈るしかできねぇけど。

 

 トモリの人たちも、イサギのおっさんのバタバタ具合にちょっと笑っちまってる。

 少し場が落ち着いたら、マナがユキをじっと見て話し出した。

 

「ユキ。今回すごくいっぱい心配をかけて、ごめんなさい。私も、すごく反省して……自分を改めようって思う」

「……うん」

 

 ユキはすごく落ち着いた、優しい表情で返事してる。

 許してるとか、そんなんじゃなくて。たぶん嬉しいんじゃねぇかな。伝わってることが。

 

「ユキ。ヤンベの街に移住するって話は、みんなの安全のためだよね。もう、トモリにいる理由がないってことだよね」

「せやね。ブロカードもいなくなったし、頑張っておらんでええやろ? 里かてヤンベと比べたら全然魔物対策とかできてないしな」

 

 そりゃ、みんなで作った里よりデカい街のが安全だよな。

 どうしても、必ず安全に暮らせるってことはねぇんだけど、だからこそできる限りをしないといけねぇ。

 

「ユキ! 私、頑張って里のみんなを連れてく! どんなに嫌だって言う人がいても……引きずって連れてくね!」

 

 元気よく、両手で胸の前に握りこぶしを作りながら、マナが言った言葉にユキが困惑してる。

 

「はえ? ありがとう。そら、うん……連れてって欲しいけど。どしたん?」

「今回の件で……。実際に人が死んじゃうかもしれないとき、自分がなにもできないってわかったの。イサギさんしか……戦えなかったから」

 

 マナは俯きながら、理由を説明していく。

 ブロカードの保管庫は、小さな魔物は全然見当たらなかった。クシードとブロカードだけがいた。

 あんなに強い奴らに対して、集落の人たちが武器を持っても抵抗ってのはしんどいよな。

 

「元気な人が命を奪われる瞬間……。その瞬間はきてはいけないものだって、ちゃんとわかってなかった。だから、来ないようにしたいの」

 

 危機感とか、嫌悪感。そういう気持ちって、目の前で起こらないとわからない。

 マナの言葉は俺にすら響く。きっと俺も、目の前で仲間が死ぬって状況の重さはわかってない。

 ジジイも、俺の目の前で死んだってわけじゃない。

 

「ん、そやな。みんな、マナちゃんに心配かけんよう頼むよ?」

 

 ユキの返事に、里の人たちが沸く。

 

「我が娘ながら、また一つ大人になったね。アンタたちもしゃきっとするんだよ!」

「ああ! マナちゃんに心配かけないよう、そして頼ってもらって……なんてな!」

「お前さんにゃ……まだ早いかな?」

「お師匠……! ハッキリ言いすぎかも。出鼻くじかなくてもいいじゃんねー?」

 

 若い兄ちゃん、マナの母ちゃん。イサギのおっさんに、ミツイ。

 みんなが明るく話してて、和やかだ。

 ただ、ちょっと俺はユキの言い回しが気になった。

 

「それじゃ次のお願い。せっかくやし、これもマナちゃんに頼んじゃおうかな?」

「ふえっ!? な、なにを?」

 

 ちょっと驚いてるマナに、ユキは服から取り出したものを見せる。

 ノブレスオーブ。ブロカードから取り返したもんだ。

 

「あったの。無事、持って帰ってこれたんよ」

「うわ……。よかった。よかったぁ……!」

 

 マナも、里のみんなも。

 オーブが出す光を、食い入るように見てる。

 ずっと見ることが叶わなかった、何十年ぶりの宝を。

 

「ん!」

 

 ユキは手に持ったオーブを、マナの胸元に差し出す。

 マナは、オーブからゆっくりと視線を上げ、少し困惑気味にユキの顔を見る。

 

「……え?」

「マナちゃん、受け取って。みんなで、大事にしてや?」

 

 そう言うと、ユキはふっとオーブを持つ手から力を抜いた。

 慌てて、マナはオーブを両手で受け取る。場の空気も変わる。

 マナの指は、オーブを落とさないようにぎゅっと固まっていた。

 

「どうしたの、ユキ。それは……ユキが持ってて、いいんだよ?」

 

 真っ先に聞いたのは、ミツイだった。

 そりゃそうだ。里に一緒に居るなら、だれが持ってたっていい。

 トモリの人たちなら、白の人の末裔であるユキが持っているべきだって言うだろうな。

 

「それが、そうもいかんのよ。ユキは、みんなと一緒には……居られない」

 

 ユキの言葉は、最後のあたりが震えてた。

 精一杯、明るく伝えようとした。顔からも、動きからもわかる。

 

「なっ、なんで!? どうしたのさ……?」

「ブロカードは消え、オーブも戻った。ギルドとの話も済んでいるなら、もう無理に資金を稼ぐ必要もないはずだが……」

 

 ミツイも、イサギのおっさんも、困惑気味だ。

 さっきまでとは違い、悪い意味でみんながざわめきだしている。

 

「ユキよ。なにか事情があるのじゃな?」

「……うん。みんな、これ見て?」

 

 里のざわめきを落ち着かせるかのように、一歩前に出て問う里長。

 ユキも答えながら、左腕の白布があった場所をまくって見せる。

 

 誰も、すぐに声は出さなかった。

 龍の刻印が、そこにはっきりとあった。

 

「これ、痣か……? いったいこれは……」

 

 困惑したイサギのおっさんの声を皮切りに、里の人たちのざわめきが大きくなる。

 イサギのおっさんは、結構いろんなことを経験してた冒険者だって聞いた。

 その人でもわかんねぇって、やっぱ珍しいんだな。

 

「龍の刻印って言って、龍に居場所を伝える印なんやとさ。ブロカードが言ってた」

「龍に場所が……。つまり、お前はまだ追われるということか」

 

 イサギのおっさんは、龍の存在を疑わない。

 となると、龍はやっぱいるんだな。ユキはブロカードを倒しても、まだ終われねぇんだな。

 

「そゆことみたい。ほんまに来てしまったら、ブロカードどころの騒ぎやないやろ? だから、一緒には暮らせないんよ」

 

 困り眉で、ゆっくりと。ユキは言葉を伝えてる。

 静まり返った空間に響く音は、平静を取り繕っている震えが混じってた。

 ……言ってる本人だって、相当辛い。

 

「でも……! 一人でだなんて!」

 

 オーブを握りながら絞り出された、マナの言葉が堰を切る。

 

「そうだよ! アタシたちにもできることがあるかもだよ!? 一緒になんとか……」

「みっちゃん、マナちゃん。さっき言ってくれたこと、忘れたの?」

 

 続けて出たミツイの言葉を、ユキは優しく遮った。

 その後、すっと浅く息を吸い、なんとか整えてユキは続ける。

 

「命を奪われる瞬間は、来たらアカンやろ? ユキも、そうならないようにしたいんよ」

「でも……。あんまりだよ。ダメだよ……」

 

 マナは、それでも小さく食い下がった。

 ミツイも、里のみんなも、ユキの現状に納得できてない。俺だって、そう思う。

 たった一人だけ、これだけやっても片付かない。あんまりにも重くて、ひでぇ。

 

「ま、いろんなとこ探してみて。なんとかできる方法見つけて、なんとかなったら帰ってくるからさ。それまでは……オーブも、みんなも、帰る場所も。お願いな?」

 

 誰も返事ができねぇ。

 ユキの決意ってのは、悲壮とか、そういう感じに聞こえちまった。

 

 この言葉を聞いて、俺だったら気持ちよくは送り出せねぇな。

 なんとかなんねぇかって思うよな。

 

「……ハルン。お前、行けるか?」

「へっ。こう見えてもな、高性能なんだぜ? お前が言えよ」

 

 お子様の教育まで気が届くってか!?

 こういう時に限って、言うこと聞かねぇんだからよ!

 

 俺が、言うか。大切なことだ。

 

「ユキ!」

 

 想像よりちょっとデカい声が出て、思ったより目を引いちまった。

 驚いた顔で、ユキがこっちを見てる。

 

「まさか、一人で行こうってわけじゃねぇよな?」

「……えっ?」

 

 俺の言葉に、ユキは困惑の声を上げる。

 すると、ラージスとルミエルネも俺の隣に来た。

 

「以前と同じよう、ユキ一人で解決することは困難を極めるでしょう。また、なんとかしなければならないのであれば、僕たちの力が必要では?」

「ま、そこまで偉ぶれるかは別として。そろそろユキも、変わらないといけないんじゃないかしら?」

 

 ……俺の仲間は、頼りになるぜ。

 ユキは両手で口を押え、グッと何かをこらえてる。

 

 その姿を見たハルンが、俺たちより前に。

 ユキよりも前に立って、トモリの人たちに向けて、告げる。

 

「おい! お前らがなんと言おうと、オレたちはユキを連れてくぜ? よくわかんねぇ痣が取れたら、必ず帰ってくる。それまで……待てるな!?」

「……うん。ハルン、約束だよ? 絶対帰ってきてね! ユキのこと、頼むね!」

 

 マナの答えと一緒に、トモリの人たちが一斉に沸き立った。

 マジで、ハルンはこういうのうめぇな。これなら、みんな明るくいられそうだ。

 

「ユキ、わりぃな。全部勝手に決めちまった」

「……ううん。いいんよ。もう、なんて言ったらいいか」

 

 目の下を擦りながら、ユキは答えてくれた。

 ……よかったぜ。実は嫌だとか言われたらどうしようかと思った。考え過ぎか。

 

「そこは、素直にお礼でもいいんですよ?」

「さっきから図々しいのよ。ラージス。私たちが互いに礼を言うことなんてあった?」

「――貴女以外は?」

 

 ラージスとルミエルネも、いつも通りな感じだな。

 一段落って、実感が湧くわ。

 

「ユキ! なんとか言ってやんなさい!」

「――ん。ありがと」

「ちょっと!?」

 

 笑っちまった。なんだそりゃ。

 ユキは、礼を言わない側にはならねぇんだな。ラージスにああ扱われるのは嫌か。

 

 俺たちも、トモリのみんなも、喋りながら里の真ん中に戻っていく。

 長かった戦いも、これでひと息だ。

 

「おい! 今日の夜はまた焚き火してメシだとよ! やったな!」

 

 ハルンが、でっけぇ声で伝えてきた。

 そいつはいいな。トモリ最後の晩餐だ。

 

 *

 

 夜になると、最初の日より少し贅沢な集会が始まった。

 マナの母ちゃんだけじゃなくて、ミツイやハルンまで外でメシ作ってる。

 

 ラージスは、いろんなとこをウロウロ。余裕がある時は知りたがりだからな。

 俺は少し疲れてて、座ってていいかな……。あっちもこっちも、楽しそうだ。

 

「ライト!」

 

 少し距離のあるところから、ユキに声を掛けられた。

 動こうとすると、そのままでいいってジェスチャー。両手には酒じゃなくて、食い物持ってら。味の濃そうなもんばっかり。

 

「君はあれやね。こういう時は案外動かんねぇ」

 

 隣に座り込みながら、さらりと話しかけられる。

 

「騒ぐ方じゃねぇな。そっちは、酒とかいいのか?」

「飲み始めちゃうとベロベロになっちゃうから。その前に、と思って」

 

 なるほど? 俺の前だと、まだ本気の飲み方してなさそうだもんな。

 お気遣いってことか。

 

「……寂しくなるな。事情があるとは言え、こんないい人たちから離れないといけねぇって」

 

 俺は、率直に伝えてみた。

 別に寂しいって言わせたいわけでも、寂しくないって言わせたいわけでもない。

 ただ、自分から離れるとなるとよ。思うところあるんじゃねぇかなって。

 

「せやねぇ。確かに寂しいね。でも、もしも痣なくてトモリに居られるとしたら、結構ワガママ言うてたと思うよ?」

「……ワガママ?」

 

 なんだそりゃ。残れるとしたら言うワガママ?

 いったいなんだろうな。想像がつかねぇ。

 

「『ユキたちのところに残って、どこにも行かないで?』って、言うてたと思うわ。ライトたちみんなに」

「マジか」

「うん。だから結局、どっちでも寂しいんよ。ワガママ聞いてくれる可能性のある、痣がない道のがよかったかな~ってくらいしか、考えてないかな」

 

 ずいぶん気に入ってもらえてたんだなぁ……。

 ちょっと、嬉しくなっちまうな。無理させてねぇかって考えてたのに、な。

 

「ふふ、ほんまに痣なかったらよかったのにな。手応えあるわ」

「うるせぇな。いてほしいって言われりゃ喜ぶもんだろ」

「せやな。逆にライトたちは……どうなん? 正直迷惑かどうかって、あるやん?」

 

 ユキと一緒に行くこと。それを迷惑かどうかって聞きたくなることに理解はできる。

 人はそう簡単に考えが変わらねぇって、ルミエルネも言ってたしな。

 

 俺も知りたかったように、ユキも俺たちの本音は知りたい。

 

「ジジイによ、『人の役に立てるのは楽しいことだ』って昔から言われてて。最近、やっとわかってきたんだ」

「ふん?」

「俺たちだけで、当てのない旅をしてたらさ。どっかでしんどくなってたと思うんだよな。それが、別の意味も持って、今回はユキの役に立てた。それだけで気持ちが楽になる」

「……うん」

 

 ユキは、優しくうなずきながら聞いてくれた。

 全部、事実を伝える。正直しか、俺は伝え方がわからねぇ。

 

「今後もさ、ユキの刻印をなんとかするって動く理由があれば、それだけで楽だ。その途中できっと、いろんなことを知れるしな? さらに、戻って居着いてもよさげな場所まであるなんて、ありがたい話だよ」

「そかそか。それじゃ、ユキも頑張らなアカンことできたな?」

 

 うん? 頑張らないといけないこと?

 俺の疑問に気付いたのか、ユキはパッと笑いながら言葉を続けた。

 

「『ユキと離れるのは寂しすぎてムリ!』って思ってもらえたら、痣が無くなっても、みんな一緒に居てくれるね?」

「……あぁ、そういうことか」

 

 マズいな。もう、悪くねぇって思っちまってる。

 俺だけなのかね。いくら何でもチョロいのか?

 フニャフニャ笑ってるユキの顔を見て、もう見透かされてんじゃねぇかって気分になる。

 

「ほら、いたでしょ。別に私まで探しに来る必要なかったじゃない」

「だって、ユキはたぶんライトのところいるって! ルミエちゃんが言ってたじゃないですか!」

 

 遠くから、マナとルミエルネの声。

 どうにもお目当てはユキらしい。絶対、酒飲み連中のところから探しちまって、見つからなかったやつだろ。

 

「どしたんマナちゃん。今日もモテたの?」

「も~! ユキもお母さんみたいなことばっか言う! 違うの!」

 

 ……どんだけモテんだ。

 トモリの男は、みんなマナにぞっこんなのか? なんて考えてると、ルミエルネから視線を感じる。

 もしかして、場違いか?

 

 ユキたちからちょっと離れようとすると、退路を塞ぐようにルミエルネが隣に座ってきた。

 俺はユキたちの邪魔をしないよう、小さな声で話しかける。

 

「なんなんだよ。どうすりゃいいんだ」

「どーもこーもないのよ。黙って座ってなさい」

 

 ルミエルネに従って、俺はその場にとどまる。

 なんだってんだ。意味が分からねぇ。

 

 ユキは、まだ飲んでないのにふにゃりと笑って、マナに聞く。

 

「そんで、どしたん。一緒に飲む?」

「あのね……。みんなで決めてね。これ渡しに来たの」

 

 マナの手には、さっき渡されたノブレスオーブ。

 真ん中の焚き火に照らされても、負けないくらいには光ってる。

 

「……どゆこと?」

「えっとね? その、どこにあったら……オーブが役に立つかって、話になって」

 

 怪訝そうに聞いたユキに対して、マナはわたわたと言葉を返す。

 せっかく預けたってのに、その日のうちに戻ってくるとは想像してなかったろうな。

 

「その。ユキが前言ってたみたいに、オーブはトモリにあっても、ヤンベにあっても暖かくはしてくれないんだよね。もちろん! 夜の肌寒さとかはよくなるんだけど……。やっぱり、すごく活躍とまではいかなくて」

「まぁ……そうなるねぇ」

「だっ、だからね! いろんなところを周るユキと一緒にいる方が、役に立つんじゃないかって!」

 

 そうなるか……。

 マナの言ってることはよくわかる。結局のところ、飾りになっちまうのならってことなんだろう。

 

 ユキは、うーんと唸りながら困ってる。

 トモリの人たちが取り返したがってたんだし、そこにあるべきだって考えてんのかな。

 

 そんな姿を見たからか、マナはさらに話を切りだす。

 

「あの、これを言い出したのは私なの。ユキに渡したいって。お役立ちも、そうなんだけど。どうしても……連れて行って欲しいって」

「……」

 

 ユキは、黙ってマナをじっと見つめた。

 続きの言葉を聞き逃せねぇと、黙って見つめた。

 ぱちぱち、と焚き火の音が、少し遠くから聞こえた。

 

「私も、ユキについて行きたい。早く帰ってきて欲しい。役立てるのなら、役立ちたい。でも、それはできないから。だから……代わり。ノブレスオーブに私たちの思いも、乗せて。この子も、連れてって?」

 

 スッと、言葉と一緒にオーブが差し出される。

 両手に乗せて。そのまま。

 

 ユキは、目を閉じ、少し時間を空けた後にオーブを受け取った。

 

「ずるいわ。そんなん。――必ず、一緒に戻ってくるよ」

「うん。待ってるね」

 

 二つの光に照らされながら、ユキはマナに約束をした。

 瞳の揺らめきは、想いの強さを物語ってる。

 

「お酒入る前に渡せてよかった! イサギさんがね? 『酔っぱらったら、ワケわかんない理由で断るから早めに渡しちゃえ』って言ってたの!」

「……はぁ~! あの人はほんま! しょーもない!」

 

 マナの照れ隠しのような言葉で、一気に空気が緩んだ。

 すげぇもん預けられたなユキ。こりゃもう無くせねぇぞ。

 

「お~? ユキだめだよ! いたいけな少年をナンパしてたら~! 悪い奴~!」

 

 もうだいぶ酒の入ったミツイが、少し遠くから絡んでくる。

 一緒に飲んでるイサギのおっさんは大爆笑。でき上がってんなぁ。

 

「はー! なんやあいつら! はっ倒し行くけど、一緒に行く?」

 

 最後の夜。だれのとこにも、影の差さねぇ素敵な時間が流れてる。

 真ん中の火が遠くても、夜の寒さは感じなかった。

 

「んあ。酒以外なら付き合うぜ」

 

 ようやく俺も腰を上げ、輪の中に飛び込んでいく。

 こんだけ楽しいのは、いつぶりなんだろうな。

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