俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
交易街ヤンベのど真ん中。ガヤガヤ騒がしい石造りのギルドの中で受付の男の声が響く。
「だからね? 君たちに渡せる仕事はないよ」
出たな? ガキ差別。
大人、大人って追っ払ういつもの手段だ。
ジジイもよくうまいもん食う時に言ってたよ。
「言ってることがおかしいじゃないアンタ。初心者歓迎とか誰でも稼げるとか。すごく耳当たりの良いことばっかりで宣伝しといてその態度?」
こういう時、真っ先にかみつくのはいつもルミエ。
隠し事とか全部知りたがる。
おいしい話も大好きだ。
お得ってのがもうたまらないんだろうな。
街から出た俺たちがまず必要になったのは金だった。
人が生きるには何事も金が要る。
「そりゃ書いたね。ヤンベのギルドはとにかく人手が足りてない。最近の冒険者や稼業者は半端者ばかり。できないやつは楽な仕事ばかりしようとする上、すぐに死ぬ」
受付が突然仕事を渡す相手の愚痴かぁ。いろいろと感情が溜まってそうだな。
「できる人は稼げる仕事を求めてすぐ消える。仕事があってもやる人がいないんじゃギルドも回らない。猫の手も借りたいんだよ」
「だったらいいじゃない。寄越しなさいよその仕事」
だよな。まさに猫の手だぜ。ハルンの手。
受付の男はため息をつきながら頭に手を置き、諭すように告げた。
「君たちは、猫の手にすら及ばないって話だ。それは子供だからってわけじゃない」
「どういうこと?」
ルミエは真っすぐ聞き返す。
ラージスは察しているかのように目を閉じる。
ガキだから以外に? 経験不足とかか?
「どこでも仕事は信用と信頼で預けられるもの。君たちはあまりにも怪しすぎる」
「……そんな悪の組織みたいなことはねぇだろ?」
男の怪しいって言葉が意外で、ついつい聞き出しちまった。
やっぱ荷物は怪しいかもしれない。でも見た目はおっさんおばさんってわけじゃない。
詐欺をしそうってよりは万引きをしそうな……信用の出来なさだろ。あっても。
「街の住民資格がないのはいいとして、棺を背負って歩いてる。最初に出してもらった登録書を見るとラージスが火の魔法、ライトが雷で、ルミエルネが全部? 三人とも属性魔法が使えるなんてまず信じがたいな」
「あら。アピールポイントのつもりだけど。才能でしょ」
ふんっと、受付の男の指摘に、手で青灰色の長い髪を靡かせて応戦するルミエルネ。
どーだいうちのお嬢様は。怪しさとは無縁の生意気さじゃねぇか?
「極めつけは……その子」
「オレぇ!?」
男はハルンを指差した。
薄暗いようなギルド独特の雰囲気の中、淡々と、指摘は続いてく。
「喋るカラクリはいてもね。生きてるカラクリなんて見たことないよ」
確かに。なんて考える必要もねぇほどだ。
確実に見たことはない。それっぽいのはいてもゼンマイ仕掛けのぬいぐるみとかだ。
「たまには居るだろ! なぁ!」
「そーよそーよ! 差別よそれ!」
反射で反論するハルン。適当に乗っかるルミエ。
ガン無視して男は話を続ける。
「魔物を連れてるようにしか見えない。君たちが全く嘘言ってなくても……爆弾要素の塊なんだよ。どこかのマッド集団から逃げ出してきた子供。そう見える」
「理屈としては通っていますね」
腕を組んでラージスは頷く。
「だから君たちと関係を持ったら何が起きるかわからない。ギルドから見てもリスキー。だから仕事は渡せない。わかった?」
……これは厳しいか。
このままだとどっかで稼ぐってのは大分キツイな。
おんなじ理屈でどこからも断られそうだ。
その時、ギルドの喧騒からひときわ大きい声が耳に届いた。
「なにこの子! ふわふわ!? ふわやね! ふわふわのぽにょやね! ぽにょ!」
いきなりハルンに抱き着いたのは、白髪の女。
髪が床に擦ってる。綺麗な人なのにそういうの気にしないもんなんだな。
肌も白い。わかりやすいほど白い。いや、だって赤いもんな顔。
「酒くせぇ! なんだオマエ!」
ハルンが叫んだ。コイツは酒の匂いが気になる。というか匂いを全体的に気にする。
お構いなしにユキは頬ずりをしまくってる。大丈夫かよ。ハルンは静電気貯めるぞ。
受付の男がものすごい面倒そうな顔をし、切り出す。
「ユキ。何の用?」
「仕事の報告。ほいこれ。やっつけてきたよ~?」
ゴトン。
差し出したのは何かの袋。
受付の男が袋を開き、取り出さずに中身を確認する。
「……確かに。相変わらず見事な腕前だね」
「おぉ~。褒めるやん。今日はなんか子供の前でかっこいい日なん?」
「はい。これが達成確認書。あっちで報酬を受け取って。あっちで」
指を指して男は誘導する。まるで、早くここからユキという女性を遠ざけたいかのように。
「いや離れろねーちゃん! 今オレたちはピンチなんだ!」
ブンッ。
強引にハルンが体をよじり、ユキを力強く引き剥がしにかかる。
ただユキは体幹が崩れてない。離れたというより離してもらったって感じだ。
すげぇ。さすが冒険者。
「おお~。力あるなぁ! 名前なんて言うん?」
「ハルン! あんたはユキでいいのか?」
「ユキでいいよ~? ハルン可愛いなぁ。いったい何者なん? 猫、でもないかな。魔物?」
あー。言っちまってもいいのかな。
ただ魔物と勘違いされるよりかはいいか。
「カラクリだ。カラクリ猫のハルン。電気で動いてる」
俺はとっとと告げた。こういうやり取りでうまい立ち回りを今後勉強しないといけないんだろうけど、後だ。
適当なこと言ってはぐらかしても意味はない。
「カラクリ。カラクリってあのカラクリ。ハルンが!? すごいなぁ」
ユキは信じられないといった雰囲気で声を出した。カラクリ街に住んでない人たちはあんま馴染みねぇんだよなカラクリが。
「ふんふん」
ハルンはジーっと、舐め回されてるかのようにユキに観察されてる。
緑の見た目、でけぇ耳。
ひととおり見た後、俺たちにも視線が来る。
白い髪より少しだけ暗い。灰色の瞳がせわしなく動くのが、やけに気になった。
「わかった! 何となくやけどわかった。君らのその服装の感じと道具でわかるな」
「……その見透かしたってやつ。いやよ。私」
ルミエの声には以前の時より嫌悪感が露骨に出てる。
俺も思ったよ。こういうのは苦手になりそうだ。
ユキは受付の男に勢いよく向き直し、切り出す。
「しゃーないことしてるなぁレルムさん? どーせ仕事あげない意地悪してるんやろ」
「おお! 手伝ってくれんのか? 頼むぜユキちゃん!」
ハルンも大喜び。まさかの援軍だな。
受付の男。レルムは露骨に嫌な顔。面倒そうだなってのは俺にもわかる。もう机に頬杖ついてるし。
「ユキ。貴女はもう異様さに気付いているよね。何となく気に入るのは理解できるけどさ。面倒側の人間だからね貴女。ただトラブルの種を余計に抱えることはできないよ」
「なぁん今さらしょうもない。ギルドの仕事を受ける人なんて大なり小なりあるやんか。それにこの子たちあれよ? 珍しい属性魔法使いちゃうかな。それも強い。お仕事できるようなったらギルドのエースにもなれると思うけどな~?」
「根拠は」
「赤髪の眼鏡男子が持ってる火属性用の杖。シャランラな髪の毛の女の子がムッとしたときの、なに使ってやろかなって選ぶ感じの魔力の出方。そんでこの子の立ち位置やな!」
突然、俺はユキに肩を組まれる。やっぱ力が強い。そして若干ひんやりしてる。さっきまで冷えた場所にいたかのように。
立ち位置? どういうことだ?
「二人よりこの子は前に出るのが癖になってる。戦闘担当だからやと思うよ。属性魔法使いよりも戦闘向きってかなり戦えるやろ。それがユキの根拠やな」
そこまでわかるもんか。確かに腕っぷしは仕事も相まって俺とハルンが抜けてる。
やべぇ敵には雷が効くことも多いし、自然とそうなってた。
「若い子抜けるたびに『最近の冒険者は~』って言うとったやんか。都合のいい話やんか。なんでそんなビビってん?」
「はぁ。もう。貴女は本当に面倒。仕事はなんでもいいね?」
おっ。もしかして仕事貰える? これはありがたい……と感じたときには妙な沈黙が流れていた。
あたりが一気に冷えたかのように。
ユキも、受付のレルムも微動だにせず。目を外さない。
「なんでもはよくない。仕事、ユキも一緒に行くわ」
「そう。それならうまくいくね。期待してるよ
ピリッとしたやり取りのなかユキに書面が渡される。
一瞥すると手招きをして、内容を見せてくれた。
「金貨25枚くれるんやて。ええんちゃう?」
金貨って一枚で四人が二ヶ月暮らせるぞ。十分すぎるだろ。
ルミエも完全に金稼ぎモードだ。黄金の瞳が希望の光で煌めき、青灰色の髪が期待に跳ねる。
「いいんじゃないこれ。絶対受けるべきよ」
「分け前がどれくらいかはわかりませんよ。お嬢様」
「ふぅん?」
いつもの執事とお嬢様ごっこ。ラージス執事は常に辛口。前は確かルミエ姫様じゃなかったか?
「なぁんこんなん。五人いるから五等分でええやんか。そんなことより、名前教えてーさ?」
ユキの提案はまるで詐欺かのような都合のよさ。ただ、受けない手はないよな。
「俺はライト。こいつがハルン。メガネのがラージスで、生意気なのがルミエルネだ」
胸を張るハルン。眼鏡を上げるラージス。ガン見してくるルミエ。
「そかそか。ユキはユキちゃん! よろしくな?」
「おう! 頼むぜ!」
俺たちの初仕事は、保護者付きって感じだな。