俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
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【ヴェス視点】
「ヴェスの旦那。めぼしいもんはあったか?」
ヤンベ周辺で、美術品を収集していた魔物ブロカード。
誰に見られるでもない死蔵された物の中には、我々の求める品。アーティファクトが混ざっている可能性があった。
「一点だけな。『聖女の模造鐘』は確保した。思ったよりも見当たらないな」
「そうかい。あれこれ変なもんが多かったが、見込み違いか」
先ほどから私に話しかけてくる部下の大男、ガルタは鐘を強く打ち鳴らす。
この音には、人々を毒や病から救う力があるとされる。立派な収穫だ。
「そう言うな。もしかしたらメーニンが何か見つけてくるやもしれんぞ」
「はっ。この奥に飾ってるもんより、入り口側にアーティファクトがあるってのかね」
気持ちはわからんでもない。実際、可能性は低いだろう。
一通り入り口から見てきたが、この場所に置かれた美術品はまさに『美術価値』だけを求められていた。
「気色の悪いネズミを吸い上げる装置と言い、面白い場所じゃねぇなぁ。ブロカードをぶっ飛ばした奴らのが、よっぽど見てみてぇよ」
そうガルタはボヤき、その場に座り込む。
この地を監視していた部下から、ブロカードが討たれたといった報告を聞いた時には驚いた。
国の討伐隊も、ギルドの連中も敵わない魔物だ。よほど腕の立つ人間が打ち破ったのだ。
しかし、その連中はアーティファクトらしきものを持たずに出ていったらしい。少なくとも見てくれの上では。
「ヴェス様。ただいま戻りました」
「メーニン。どうだった」
「アーティファクトに該当する物はなにも」
ふむ。そんなものか。
「君は、あの“ネズミが昇る装置”は見たか?」
「はい。見ました。気色が悪い……としか思えませんでしたが」
メーニンは背筋を伸ばしたまま、私の意図を察し、感想を述べる。
彼女は真面目で実直だ。ガルタもな。
故に、必要以上には見出さない。
「そうか。その通りだな。ガルタもそう言ってたぞ」
「はっ。俺と同じセンスだと、さ」
「なっ……! 勝手にヴェス様の意をくみ取って、一緒にするな!」
いい騒がしさだ。彼らを連れて行くと、遠出も退屈しない。
私は先に部屋の出口へ向かう。ここに長居する理由はない。
「ヴェス様! 残りの展示物はいかがなさいますか? 回収すれば金にはなるかと」
「置いておこう。目的物ではない。あと、出てくるときは出入り口を塞いでおいてくれ」
「はっ。かしこまりました」
恐らく、今ここは仮置きの場所なのだ。目的は不明だが。
無駄に荒せば追われることになる。腕の立つ相手にな。
長い廊下を歩くと、また先ほどのネズミが目に入る。
同じ音だけを繰り返し鳴らすピアノは、始まりを意味する。
「これはお前の原点、なのだろう」
世には、生物の姿を変えるアーティファクトもあると聞く。
願ったのだ。自らも“その姿になりたい”と。
「ヴェス様。追加の報告があります」
建物を出ると、メーニンの部下である男に呼び掛けられた。
緊急事態ではなさそうだ。
「……どうした?」
「ブロカードの監視者からより詳細な情報が。打ち倒した人物は、『棺を背負った、金髪の少年』とのことでした」
……ほう。そうか。
ハヴィーの少年は、あの棺を動かす術を知っていたのだな。
「現在はヤンベに滞在しているとのこと。追いますか?」
「いや、いい。不要だ。我々も帰るとしよう」
少年たちが、鐘を回収しなかったのは幸いだな。
ヤンベで動くとなると、一苦労だ。
「は……。よろしいのですか? アーティファクトを持つ可能性がありますが……」
「ああ。彼らもまた、適確に扱える資質を見込める人物だ」
私は、また歩みを再開する。
この澄み渡った青空のように、世界の歪みが消える日は近づいている。