俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
討伐する対象を探し、山道を五人で歩く。任務向きかは分からねぇが、からっ晴れだ。
ルミエルネの金の瞳が煙ですすけたような依頼書の文字を追ってる。
「依頼内容が山域安全確保。討伐対象、魔豚。体の一部さえ持ち帰ればいい。ねぇ」
そこまでつぶやいて紙をひらひら。興味があんだか無いんだか。あいつ荷物持たねぇから身軽な分前を歩いてやがる。
視線は後ろの俺たちのほうに。用事だ。
「ラジ。アンタいつまでもこんなタバコくさい紙を乙女に持たせるものじゃないわ」
「なるほど。ルミエには少々文字が多すぎましたか」
ラージスがチクリと小言。ルミエルネがまぶたを少し下ろす。
――ピッ。
依頼書が宙に舞った。
あいつ依頼書を捨てるフリしやがって……。
その気になればすぐ風の魔法で呼び戻せるくせに。
ふわふわ舞った後、無事にラージスの頭の上に。
「魔豚ってなによ?」
お届け物が届いたあとにルミエルネはこちらを見ながら後ろ歩きで質問する。
「家畜の豚が逃げ出した後に大型化し、人を襲う怪物と化した厄介者です。その力と大きな体を養う食料が必要なので、広い縄張りを持ちます」
さらさらっと長い説明。今日も眼鏡が冴えるぜラージス。
「よろしい。次はそこに書いてある『三本以上の牙を持ち帰ること』の意味」
「敵は単独ではない。ということでしょう。なぜ頭数を明記しないのかは謎ですが」
「ちなみに、魔豚の肉は豚と比べてめっちゃ臭い。焼いたら街中からオヤジが集まるぜ!」
ラージスとルミエルネの依頼書講座に大声で割り込むハルン。
いっちばんデケェ荷物もって、一番後ろで歩いてる。
何時もなんか背負ってんな。
「重たないの? それ」
「ユキ。――愚問だぜ。ハルンはどこの家政婦よりも立派なカラクリだ。あんなんどうってことねぇ」
俺は心配するユキに向けて答えた。
気持ちはわかる。ペットにデケェ荷物持たせてるようなもんだ。
ただハルンは馬より力があるからな。
「ちゃうんよ」
違う?
「ライト。君のが荷物重くておっきいよ? だいじょぶ?」
そういうことか。宝箱背負ってる俺の荷物のがデカくて重いのか。
「……案外大丈夫。そんなにだ。と思う」
「そかそか。辛かったら言うんやで? 代わってはあげられんけどな~」
ユキはケラケラ笑ってる。
今さらながら、確かに俺だけ宝箱運んでるのはおかしい気がしてきた。
ハルンは流石に……。そういえば、同じ男で身軽なのがいるな。
「ラージス! お前これ持てよ!」
「それは自動で姫の相手を代わるということになりますが、良いですか?」
勘弁してくれ。
「ラジ。この『運用更新:二回』ってどういう意味?」
それは俺も知らねぇな。
更新が2回? 報酬が変わったとか、か?
ラージスは少し表情を曇らせる。
「依頼の内容が二回変わっているということです。そして、多くの場合は失敗により変更されています。つまり……危険度が高いということです」
険しい顔で依頼書を見るラージスにルミエルネが顔を近づけ、告げる。
「なるほど。それじゃ最後に。今アンタの後ろに見える。鼻のおっきな生き物は?」
俺たち四人が一斉に、来た道へ振り向いた。
山道のど真ん中。少し離れた場所に堂々――そいつはいた。
この距離で見ても俺の倍の高さ。イノシシのようにデカい牙。
一番前に立ってるハルンが叫ぶ。
「来たぜ!」
太い脚が地面を揺らし、魔豚が山道を突っ込んでくる。障害物がねぇ!
躱すと後ろのルミエルネがまずい!
背負っていた荷を放り投げ、力を込めたハルンの拳に、雷が走る。
「どぉっせぇええい!」
両足で大地を踏みしめ、身体を全力でねじり切り、豚の鼻に拳をぶち込む。
同時に雷鳴が轟き、魔豚の突進は止まった。
魔豚はしばらく固まった後、大きく首を横に振り、ブルンと荒い鼻息を吐く。
強い。ハルンの電撃パンチを顔で受けてグラついてない。あの程度の痺れで済むのは相当タフだ。
ブルンと気合いを入れるかのように、また魔豚が鼻を鳴らすと。
――ブルン。
――ブルン。
背後――ルミエルネの方角から、鼻息が二つ。
大きな影が俺たちを包んだ。
「……三体お出ましってわけか」
魔豚の牙は『三本以上』。
――あたりの空気が冷えたように感じた。こりゃ何度も依頼書が書き換わるわけだ。
真っ先にユキが叫び指示を出す。
「後ろの二体はユキがやる! 前のブタはなんとか頼むよ!」
冷静で分かりやすい内容。通りのいい声。
ベテラン。流石、場慣れしてる感じだ。
ただ、指示の内容は……逆だろ。
俺は思わず口に出してしまう。
「ユキ。まさかアンタがそんなことを言うとは、ビビったぜ」
「……はい?」
ユキのグレーの瞳は困惑の色を帯びている。
いや緊急事態だから指示に従えってのはわかるんだけどな……。
「
ラージス。こいつも分かってる。
しかし薄氷姫ってお前よくそんなん覚えてんな。
そしてルミエルネは二体の魔豚の前に立ち、はっきりと、得意げに言い切った。
「戦いは、二対一なら二が勝つのよ!」
「はぁ!?」
ユキはあんぐり。開いた口が塞がらない。
そらそうだ。人間新しい気付きってのはなかなか受け入れられないもんだ。
ただ、これは道理だろ。二は一より有利だ。
「なっ、なーにを言うてんの……」
困惑するユキをよそに、俺は二体側に歩きながら、すれ違いざまに声をかける。
「というわけで、ユキ。アンタは一体のほうを頼む。二体のほうは俺たちが、四人で勝つ」
後に続いて、ラージスも声をかける。
「一対一はしんどいでしょうが、背中は託します」
ハルンも声をかける。
「あいつらバカだからよ。気にすんなよユキちゃん」
「あっかん。はよやっつけて助けいかな」
小さな声でなんか言ったユキをよそに、俺は号令をかける。
「フォーメーション! 俺とラージスは右、ハルンとルミエは左! 二組で一体ずつだ! ぶっ飛ばすぞ!」
「「「おう!」」」
掛け声とともに俺たちは別れ、魔豚をそれぞれ引き付ける。
「ライト。突進はハルンの全力パンチほどの威力があります。そのうえどこに突っ込んでいくかわかりません」
二人並んで右の魔豚に突っ込む俺たち。戦いながらの、ラージス流作戦会議だ。
俺は両手に電撃を溜めながら返事をする。
「後ろに誰かいたらあぶねぇな! ルミエたちの方に飛び込まれたらヤバい!」
「ですので、挟みましょう。その上、互いに派手な魔法で気を引いて突進を使わせないようにします」
「了解!」
俺の電撃は青緑色のギラギラブレンド。両手で混ぜてメチャクチャに光らせる。
魔豚もグンと頭を向ける。よし。狙い通り。
完全にこっちを警戒したタイミングでラージスが裏に回る。挟み込みの形は出来た。
「食らいな!」
ガアンッ!
俺の両手から弾けた雷は轟きながら一瞬で魔豚に突っ込む。
あたりは稲妻の残影と砂煙に包まれた。
大体の奴はこれで終わる。ハルンのパンチを耐えるタフ野郎だから粘りうるが……。
――ブルン!
奴の鼻息と共に、大地が揺れる。
急に砂煙が晴れ、その姿が現れた。
「……なんだ? 牙を地面に刺してんのか?」
魔豚の姿勢は当然四つん這い。前足は八の字。牙は地面。
そのナリは面白れぇけど……ピンピンしてやがるな。
かなり威力ある電撃打ったってのに。
魔豚の真後ろにいるラージスは隙を逃すまいと飛び上がる。
あいつの武器は切替式のカラクリ棒。棍から杖へと切り替わる。
「
先端が砲のように変形し、胴体ほどの火球を放った。
ブンッ!
魔豚が土の中から牙を抜き、ぶん回す。
火球は弾かれず、――まるで吸われたかのように、消えた。
「……なにが起きてる?」
怪訝そうにラージスが着地する。
いくら敵がタフでも、俺たちの魔法はまるでなかったかのように消えたりはしない。
ただこの場でダラダラ考えて、あいつに突進されるのは避けてぇ。
今度は様子が見えるように。だな。
俺が魔力を溜めると魔豚は一気に顔面をこっちに向けた。
今回は電撃を直線状に真っすぐ放つ。砂煙が上がらねぇよう気を使う。
するとどうだ。電撃は魔豚の牙に向かって曲がっていった。
そんで顔じゃなく牙に直撃。牙は帯電しバチバチと鳴り、青緑色に光を放つ。
即座に魔豚は地面に牙を刺す。
「それ電気逃がしてんのか!」
あの野郎! 存外に猪って感じじゃねぇな!
牙は魔法を吸ってるか、避雷針になってるかのどちらか。
ラージスの火球も吸ってたし前者か。魔法を吸ってるな。
牙刺しながら、こっちを見ている顔がニヤついているように見えて腹が立つ。
「同時です!」
掛け声とともにラージスが火を構える。俺も即座に電撃を放つ。
また牙を抜いて魔豚は雷を弾く。そして狙い通りケツには火球が向かっていく。
直撃し、その結果を淡々とラージスが呟いた。
「この程度なら、耐えられると」
また魔豚は地面に牙を刺す。その顔が腹立つ! ケツ燃えてんだぞくたばれ!
その後ラージスが何発か火を叩き込んでも熱そうにケツ振るだけで牙は抜かない。ケツは燃えてもいいんだな!
顔が歪んでるぞ豚!
「ラージス! 作戦!」
こりゃダメだ。埒が明かねぇ。
ラージス側に向くんならまだ電撃をケツにぶち込めるが、どうも雷撃を食らいたくねぇらしい。
「ライト! こいつの鼻は雷を通す! そこを狙います!」
――そうか。ハルンが殴ったときこいつ少し痺れてたな。
ただどうやって。牙の間だぞ鼻は。
「こいつの隙は……」
魔豚の背後から棍を使って飛び上がったラージスが、地面に刺さった牙の間に降り立つ。
「狙われていない僕が作ります」
突然眼前に現れたラージスに対し、魔豚は驚いて目を見開く。
電撃に警戒しすぎて反応が遅れたか?
「僕の炎は命には届かないようですが、それでもお前は熱いんでしょう?」
ラージスは魔豚の顎下に、棍を突っ込みその先から火炎を放つ。
毛の薄いところを狙われた魔豚は牙で地面をえぐり、顎を跳ね上げた。
反射での動きならどこに来るかわかる。
強く踏み込み、飛び上がって――鼻先を狙う。
「直接なら、効くよな」
俺は雷を刃に型どり、それを鼻先に突き刺した。
奴の全身に稲妻が走り、そのまま巨体は崩れ息絶えた。
「はぁ。肝が冷えるぜ。ラージス」
「それは僕が牙の間に降りたからなのか。それとも貴方が牙の間に飛び込まされたからなのか。どちらです?」
「どっちもってことにしておくか」
まずは乗り切ったな……。
さぁ次はルミエルネたちを助けに行くか。