俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
「さて、魔豚は間違いなく死んでいます。このままルミエたちを助けに行きましょう」
慎重派のラージスは倒した魔豚をチェックし終え、そう言った。
こんなデカブツが、実は死んでなくて後ろから突っ込んでくるなんて想像したくないもんな。
俺たちはハルンとルミエルネが戦っていそうな方向に駆け出す。
「あいつらマズいかもな……。特にルミエは魔豚と相性悪いだろ」
なぜか雷を地面に逃がす敵だったから、俺たちは魔法戦でも勝てた。
でもハルンは殴る蹴るをしたがる。
電撃打って魔豚が地面に牙を刺すなんてシーンはなかなかないだろうし、ルミエルネは逆にどんな魔法使っても牙に吸われて苦戦してそうな気がする。
ドォオオオオン!
突然衝撃音。嫌な予感がする。
よく見るとあたりの山道はかなり荒れてる。地面は抉れ、木は倒れ。
――そこら中が濡れてたり、一部は少し燃えてたり。
魔豚だけじゃなくてルミエも相当暴れてんな?
「……攻略法はわかりましたから。無事であることを祈り、早く駆け付けましょう」
ラージスの言葉で、俺がより焦る。
直後にまた、なにかぶつかったようなデカい音が響き渡る。やべぇな。
鳴った方向に目を向けると、そこには魔豚の牙の間で爆炎を溜めるルミエルネ。
そして、ルミエルネの真後ろでふらつくハルンがいた。
「いい加減にぃ! しなさい! この豚がぁ!」
ルミエの叫び声が轟き、魔豚は顔面から業火に包まれ、力なくその場に横たわった。
なんとかあっちも片付いたらしい。
ふと、ハルンと目が合った。あいつは嬉しそうに声を張り上げる。
「無事かぁ! こっちはなんとかなったぜ! めっちゃくちゃ苦労したけどな!」
よかった。あいつも元気そうだ。
そこら中駆け回ったのか、足元が土まみれのハルン。
そして汗だくのルミエルネ。激戦だったのが見て取れる。
ズカズカ足音を立てて、ルミエルネがこっちに歩いてくる。
「あの豚なんなのよ! 魔法吸い込むのよ、牙! 火、水、雷! なんでもよ! そのうえいちいち突っ込んできて、木も道もボロボロよ! 追い掛け回されて大変だったわ!」
案の定ルミエルネは大興奮で喚き散らす。
わかってたけど、やっぱルミエルネと魔豚は相性最悪だったよな。
こいつらの戦闘に俺たちが巻き込まれなくてよかった。
「よく倒すことができましたね。相性的には厳しいかとも思っていましたが」
ラージスがハルンの土を払いながら、尋ねた。
俺の方を向いていたルミエルネの首が、ラージス側にぐるんと向き直す。
「豚は突進ばっかり! で、ハルンが殴った鼻は弱点だったの!」
ハルンも同調して続いた。
「だなぁ。そこでオレがまた突進してきたところを、両手でぶん殴って止めた。そこで鼻にルミエがズドンだ」
あー。かなり無茶をしたんだな。
ハルンが万が一止められなかったら二人ともぶっ飛ばされてたろ。あんな化け物の突進受けたら、ルミエルネはひとたまりもない。
命がけの作戦だ。
「この作戦はハルンが言い出したのよ。私たちのことバカだって言ってたけれど、ハルンのがよっぽどよね」
「おい! お前伝えたときには『信じてる』って言ってたじゃねぇか!」
にらみ合ったハルンとルミエルネが、やいのやいのと騒ぎ出す。
よくまぁこんだけ体力が残ってんなこいつら。
追い掛け回されてたんじゃないのか?
パンパン、とラージスが手を叩いた。
「休憩している場合ではないですよ。ユキの援護をしなければ」
流石だ。大事なところだなそれ。
「一対一だからねぇ。あっちは。さっさと助けてあげないと」
そう語るルミエルネを、ハルンがまるで米俵を持つかのように担ぎ上げる。
さっきまでお前らその状態で魔豚に追われてたな?
それどころじゃない。声にするのはぐっとこらえて、俺たちは山道を急いで下りだす。
なんだ? また、あたりの様子が変わる。
「……寒くねぇか?」
一応確認のために俺から聞いた。
冷えた。寒くなってる。山は登ったほうが冷えるはずなのに。
ラージスが周囲を見渡して答える。
「周りの木も、霜がかかっています。気をつけて。滑るかもしれません」
「……いたわ!」
担がれたルミエルネが指差した先に、ユキと魔豚がいた。足元は白い霧がかかっていて見づらい。
右手に脇差を持ち、白い吐息を吐いたユキ。
その眼前で魔豚は倒れ、凍り付いた身体が割れた。
「すげぇな」
俺が思わず口から出した言葉で、ユキもこちらに気がついた。
「あーっ! 早いなぁみんな! 助け行こ思ってたんやけど完全に余計な心配やったみたいやねぇ」
脇差をしまい、ニコニコしながら駆け寄ってくる。
が、俺は後ろでくたばった魔豚の様子が気になって仕方がない。
持ってる武器を見るに、ユキはたぶん氷を使う魔法剣士だ。
魔豚の牙は魔法を吸うよな。なんで凍ってんだ。
「ユキすげぇな! 一人でやったのか!」
慣れたハルンが呼び捨てで返事をする。いったんあいつに話は任せよう。
俺はユキが倒した魔豚の様子を観察。
確かに凍ってる。間違いない。
結構な数の切り傷もあってそこも凍ってるから、近接で攻撃してそこから凍らせてったのか。
魔豚は相当暴れまわる敵だった。あの長さの刀でこれだけ……。
「ライト! 牙取れそう?」
ハルンたちと喋ってたユキがこっちに話しかけてくる。
そうだ。牙持って帰らないといけねぇんだった。
いやデカいだろ。牙だけ切り取っても腰くらいまであるんじゃねぇか?
切り取ろうと雷の刃を立てるも、吸われる。
切断用工具カラクリで行けるか? 当ててみるも通りは弱め。何となく削れてる気がする程度。
「時間かかるかもだなこりゃ」
「う~ん。しゃーない。これで取れんかなぁ」
脇差を牙に立て、カンカンと当てていくユキ。
根元の方で少し音が変わるのが分かると、一気に振り下ろした。
「ここ。直接当てたら魔法通る! これで取ってこか!」
慣れてんなぁ~。というか、簡単にはあきらめないってのが大事なのか?
冒険者のやり方ってのが勉強できた。いやギルド仕事する人たちがみんな冒険者なのか知らねぇけど。
その後、俺たちは三匹分。
計六本の牙を集め、ハルンの大荷物の上に積み上げ、支えを作って結ぶ。
「おい。いくらなんでもってもんがあんだろ」
カビ猫は露骨に不満気だ。自分の図体より三倍くらいの高さがある荷物を背負わされてる。
そこらの荷を運ぶ馬や牛よりはるかに能力が高いぜ。
「僕の荷物もいけますか?」
「ざけんなっ!」
ラージスが差し出すカバンをパーンと叩き落とし、ずんずん山道を先頭で下るハルン。
あ~あ~。転ぶなよ。こういうこと言ったら流石に調子乗りすぎで殴られるから言わねぇけど。
「ねぇライト。なんかいいご機嫌取りないの? このまま真っすぐ帰らせると今日の夕飯が心配よ」
いよいよルミエルネがご機嫌取りとか言い出した。
ハルンはメシづくり担当だが、仕返しとか考えてるとスゲェもん作ってくることある。
「……花とか?」
「本気?」
自信なさげに俺が答えると猜疑の目で見つめられる。
「あいつは香りのいいもんが好きだから、――なんだが。だめか?」
「……焼いたキノコでもあげようかしら」
一言告げると山道の淵を探し出すルミエルネ。
拾ったキノコが毒かどうかはちゃんとチェックしとかないとな。
……しかし、ユキはどうやって魔豚を凍らせた?
確かに鼻にぶち込めば魔法は効くし、あり得ねぇってわけじゃない。
「なぁユキ。あの豚。図体に魔法効いたか?」
謎解きが全くできねぇときは聞く。ジジイとのカラクリづくりも悩みっぱなしより聞いた方がよかった。
「あー。牙が魔法吸うもんなぁ。あれな。身体にブスーっと刀刺して! そっから冷気魔法を流し込んだら勝手に体ん中をビューン! 魔法が牙に吸われて通った身体は凍るんよ!」
なるほど?
なんか擬音だらけだったけど。わかった気がする。
ぶっ刺したもんから魔法流せば、牙が吸っても身体通るから効くってことか。
「サンキュ。ユキ。今後出来るよう頑張るわ」
「二人一組ならあの豚倒せる。って時点で、すごいよ? 初任務でそれはギルドも大喜びやって」
ふにゃっとした顔でフォロー入れてくれるユキ。
なんだろうな。悪い気はしない。
ま、初任務だろうが、何だろうが。そこらの冒険者よりは確実にやってけるって思い込んでた俺の考えが甘そうなのには変わりない。精進精進。
すると、突然一番前を歩くハルンとラージスが構える。
「……おやおや。そんなに仲間を連れて。あの集落のみすぼらしい連中以外にお知り合いがいらっしゃるとは」
前方から突然、声。
油断してた。
「――いらっしゃるとは」
同じ言葉を言いながら、道をふさぐように現れたのは複数のオーク。
四体、いや五体。
「めんっど!」
ユキはうんざりした声を出した。
また豚だよ……ってのが俺の気持ちだ。
オーク連中の真ん中に立つ奴がずいっと前に出て告げる。
「お迎えに上がりました。
お知り合いか。こんなんが?