俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
「……なんだぁ? こいつら」
怪訝そうにハルンは睨む。
仕事を終えた俺たちの前に、現れたのは五体のオーク。
大の大人よりデカく、力自慢の男より分厚い。斧だの剣だの武器を持つ。
前に出てきたリーダーらしきオークが胸に手を当て語りだす。
「ふふ。決闘は名乗りが流儀。我々は美の管理者ブロカード様より特任を受けた、美しき収集第一隊!」
「「「「ロガール回収隊!」」」」
……ジャーンと。音はなってねぇけど五体が隊列を組み決めポーズ。
リーダーっぽいのが名乗って、残りの奴らが掛け声か。何度も合わせて練習したんだろうなぁ。
うん。ほかのオークと比べて大分ふざけてるな。
喋るし。よく見たらひとり網持ってるし。おそろいの白い布を左の二の腕に巻いてるし。
「さぁ! いい加減あるべきところに来ていただきますよ! 我が主のコレクションとして認められし人間、ユキよ!」
「はぁ~あ。どうしても後にはしてくれんの? めんどいんよここでぶちのめすのも……」
芝居がかった口調で絡んでくるオークと、ずっと面倒そうなユキ。
お知り合いというより因縁で、これから追加の戦闘か。なかなか、任務ってハードだな。
流石に疲れがあるぞ俺も。
その時、あたりに魔力の気配が満ちる。揺らめき立った。怒りを隠す気もない魔力が。
俺たちもオークも感じ取って、一斉に構える。
「鬱陶しいのよ! いい加減にして!」
放たれた魔力の主、ルミエルネが叫ぶと、その声に呼応してオーク共が突っ込んでくる。
「問答無用! ということですね。いいでしょう。わかりやすいとは美しい!」
リーダーらしきオークがごちゃごちゃ言いながら突っ込んできて、斧を振り下ろさんとする。
その瞬間、ルミエルネの手から真っ白な光が放たれ、全員の目が眩む。
「レイ! フォー! ビィーム!」
耳鳴りがするほど甲高い、光線の音が響き渡り、飛び上がったリーダーのオークへと一直線に光の筋が走る。
――レイフォービーム。ルミエルネのイラつきが臨界点に達した時、周囲や仲間を気にせず放たれる魔法。
命中したら爆発したり、黒焦げになったり。その時々によって結果が違う。
……以前食らった不快害虫は炭になり、俺は髪が焦がされたことがある。
それは一瞬でオークの腹を貫き、焼き切り、そいつの足が完全に止まった。
「……なんという、一撃」
ウッとリーダーオークが吐き気を催す。
「まずい! 証を汚してはなりませんよ!」
と周囲のオークが慌てた様子で言い放ち、一斉に左腕の白布を手で隠しながら離れた。
直後、リーダーオークは血を吐きながら、ずぅんと砂埃を上げ地面に倒れた。
――そいつも白布を手で押さえながら。
オークたちがまだ動こうとすると、またしても周辺一帯が不機嫌な魔力に包まれる。
「……今日のところは、勘弁してあげましょう。おさらばです!」
「「「おさらばです!」」」
声を震わせながら捨て台詞を吐いたあと、散り散りになりながら大慌てでオーク共は逃げていった。
なんだったんだよ。あの愉快な連中。
「友達?」
「んなわけあるかぁ……」
冗談で聞くと、げんなりした顔のまま、しゃがみこんで蹲るユキ。
あまりの落ち込み具合にビビる……。
明らかに訳ありだが、あんまり突っつくべきじゃないか?
少なくともユキは大人だしな。知られたくないことや事情もあるだろ。
オークに付きまとわれる理由、なんて面倒すぎて想像もしたくないしなぁ。求婚とかだったら恐ろしい。
……だとしたら。何か協力すべきだと思う。
「ところでライト。ラージス。アンタたち見てたわよね?」
「あぁん!? なんも知らねぇよ!」
「おネコ。貴方様には聞いてないわ」
ハルンの頭をポンポンと叩きながら、怒りのままにオークをぶちのめしたルミエルネはその亡骸に歩み寄る。
落ち込んでいるユキをあいつはガン無視。
仰向けに沈む死体からするり、と。白い布を抜き取った。
「……ルミエ。お前、オークから追い剥ぎか?」
「流石に……どうなんです。よく触れますね。オークが身につけていた布」
ドン引きの男性陣。
非道で容赦がねぇ。戦利品確保が手慣れすぎだろ。衛生的にもどうなんだ。オークって洗濯とかすんのか。
健全に距離をとろうとする俺らに、容赦なくルミエルネは突っかかる。
「あの豚共! こんなもんあからさまに大事にしてたでしょうが! この世の美醜や清汚ってのが全く分からなさそうな連中よ? そんな奴らが後生大事に、命よりも優先する布なんて……そりゃもう、そうでしょうが」
なにが。もう、どうなんでしょうよ。
摘まみ上げるように布を持ち、ひらりひらりと振るルミエルネ。
布は、光を反射するほど純白。さっきまでオークに巻かれていたとは思えないほど繊細にはためき、絹より上等な高級品に見える。
まさか……。
「気づいたみたいねぇ。――これは金になるわ」
ドヤ顔。ニンマリしたルミエルネが言い放った。
まだいるか。メチャクチャ稼げる任務の達成報告をこれからしようってのにまだいるか。
金貨何枚だ? 約束通りなら25枚のうち20枚か? それでもまだ足りねぇか。
「あっ! あかんて!」
ようやく立ち上がったかと思ったら突然。ユキが叫んだ。今までで一番大きな声。全員一斉にそちらを向く。
「放し――っ!」
ユキが次の言葉を言い切る前に、突然白い布が自ら動き出す。
次の瞬間。瞬きする間もなくルミエルネの左腕に絡みつき、結ばれた。
リボン結びで。
「……はい?」
すっ頓狂な声を出すルミエルネ。あっけにとられる俺たち。結びつけられた張本人は白い布をガン見。
……ほどきにかかるも、ほどけない。
ボッ。
「おい!?」
いきなり布を燃やしにかかるルミエルネに対し、思わず俺は声が出る。
布は全く燃える気配がない。炎を離せば焦げ付きすらなく。無傷。
しばらく布を見ていたルミエルネの金色の瞳がこちらを覗く。
じーっと。
――いや、そんなに見られても。どうにもならんだろ。
次にラージスの方を向く。
じーっと。
「……なんとかいいなさい」
「お似合いですよ。姫」
はぁーあ。
全員からため息が出る。
噓だろなんだそりゃ。あれか。おとぎ話に出る呪いの装備系なのかね。
ラージスがルミエルネに歩み寄るのを見て、俺もそちらに向かう。
「道具や工具で試してみますか。ライト。なにかありますか?」
「裁ちばさみ通用すっかねぇ。ま、度胸だな」
「……皮ごといっていいわよ」
ルミエルネからの提案は無視だ。皮ごとは勘弁してくれ。治癒魔法使える神官様とか神父様はいないんだ。
「あー。ちょいちょい。試す前に、こっちみて?」
さっきとは違った、落ち着いた声で話しかけてくるユキの方を見る。
彼女は白い服の袖をまくり、左腕を見せ、少し残念そうにつぶやいた。
「……おそろい」
純白の布が左腕に結ばれていた。
ルミエルネと同じ布が。