俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
「……ユキ! お前アイツらの仲間だったのか!?」
「ちゃうよ!?」
目を丸くしたハルンに、すぐさま否定をかぶせるユキ。
かなり深刻そうだったのに、ハルンお前って奴は……。
メガネをクイっと直したラージスがユキの方に歩み寄る。
「なるほど。オーク一派の証。というわけでしたか」
「はぁ。どうでもいいのよそういうイジリは。ユキ、アンタ訳知りってことね。これ、取れるの?」
ルミエルネは一言でバッサリ。白い布に巻き付かれてる本人はそれどころじゃない。
やたらカッコつけてるとき、ラージスはロクな話しねぇな。
「取れへんのよ。もうかれこれ十数年。なーにやっても取れん」
「げえっ。ウソでしょ……」
十数年!?
マジかよ……。最悪だな。
変な話そんだけ長い間くっついてるユキが無事だから、なにか健康被害とかは無さげなのが救い。
額に手を当てながら、ユキは話を続ける。
「その白い布な……」
ユキは左腕の布を見せて、引っ張る。びよんびよん。ちょっとだけ伸びるがほどける気配はない。
「ここらで一番めんどーい魔物である“ブロカード”って奴の切れ端なんよ。そいつが目を付けた奴にくっつける印やね」
「印……ですか。何のために」
説明に食いつきがいいのはいつもラージス。
「『美の収集家』なんやとさ! モンスターの癖に!」
……あー。短い付き合いだけど。ユキにしては珍しく怒ってる言い方だ。
ふにゃっとした喋り方や接し方からはちょっとイメージ付かない。吐き捨てるような言い方。
いかにも面倒な顔をするルミエルネと、たぶん同じ顔をしてる俺が、目を合わせる。
「……ライト、アンタ私の左腕になんない? その気があるなら今の左腕には別れを告げられるんだけど」
「荷が重めぇよ。それになんだ。白布が右腕に乗り換えたら最悪じゃねぇか」
布は最初に動いて、引っ付いてきた。腕ごと外してもまた引っ付きそうだ。
「ふぅ。参ったわ」
忌々しそうに自分の左腕を見つめるルミエルネ。
今のところ、白布はなにするわけでもない。ただ結ばれて外れない。
「いろいろと。ユキと一緒にいたせいで巻き込んでしまったなぁ。ほんまごめんなぁ」
「いや。ユキが謝ることじゃない。きっと同じ、被害者だろ」
申し訳なさそうに謝罪するユキに、俺はすぐ答えた。
悪くないのに謝られると、少し悲しく思ったから。
ふぅ。と一呼吸置いて、腹をくくる。
「俺たち、最近住んでた街が襲われて。落ち延びてきたんだ。俺たち以外にその街の生き残りはいない。襲った奴らが誰かってことは、ハッキリとわかってない」
いきなりの告白に、ユキは目を見開いている。
仲間たちはあっさり明かした俺を意外そうに見る。
どうしても、この場ですぐに伝えたい思いがあるから俺はそのまま続ける。
「ただ。もし襲った奴らが俺たちを追いかけて、そいつらが誰かを巻き込んだ。なんてことがあったときに俺は思ってほしくない。ハルンやラージス、ルミエに『一緒にいたせいで、そいつに迷惑をかけた』なんて思ってほしくないんだ」
素直に打ち明ける。きっと前までの俺ならここまで言わなかった。
でも、気持ちを正しく伝えたかった。
辛いだろ。嫌なことされてるのに、さらに巻き込まれる奴らを見てもっと追い込まれるのは。
「俺は、ユキに被害者として、同じ方向を向いていてほしい。だから、謝らないでくれよ」
こくり、とユキは頷いてくれた。
仲間たちからの視線が温かい。……いや、生暖かい。
うんうん。と腕組んで頷くハルン。組めてねぇんだよその短い腕は。
くっそ! 言わなきゃよかったか!
「ありがとう。ライト。思い直せた。ユキもそれがいい。一緒に解決したい」
ふにゃり。といつもの表情にユキは戻る。
伝えてよかった。
「……ライトくん。女引っかけんのやめなさいな?」
「そうですよ。旅に出ていきなりそれでは、先が思いやられます」
右手をひらりと上げるルミエルネとメガネの位置を直すラージス。
こいつら……! からかう時ばっかり息合わせやがる!
ふたりしてポンポンと頭叩いてくる。なんなんだよ!
「それじゃギルドに任務達成の報告したら、ユキの住んでる集落に来てくれへん?」
笑いながら話しかけてくるユキの提案は、魅力的なものだった。
「白い布についての話とか。やれそうなことの相談とか。したいんよ」
いろいろ当てずっぽうに試していくより、長年向き合ってきたユキの経験が大事だと思う。
それに、宿代も助かる。ぶっちゃけ。
「願ったり叶ったりだ。よろしく頼む。ユキ」
俺は二つ返事で、即答した。
*
俺たちがギルドに戻ると、受付の男レルムは驚いた表情を見せた。
その後、スッと軽く微笑み、優しく声をかけてきた。
「おかえり」
「ただいまぁ」
ドヤ顔であいさつするユキ。一緒になって胸を張るハルン。
その背中には、討伐した魔豚の戦利品――六本の牙。
「確かに。討伐対象、魔豚の牙で間違いない」
レルムが受付の机の下からおもむろに何かを取り出し、それを滑らせ積み上げる。
金貨のこすれる音が、シャアアっとリズムよく耳に届いた。
「はい。約束の金貨25枚。間違いないね」
「……すっごいわね。圧巻」
縦積みされた金貨にルミエルネの瞳は釘付け。本物の黄金は輝きがちげぇ……。
ぎらっぎらに光りすぎてる。冒険者はモチベーション上がるだろうな。
よく見ると、この部屋は金貨が置かれた場所に明かりが集まるよう作られてる。
細かい丁寧な演出の方に感心しちまうよ。
「さて、ライトたち。そしてハルン。僕は君たちに伝えなければならないことがある」
改まってレルムが立ち上がり、俺たちの前に来る。
背は高く、髪は青い。線が細い身体は逆に大人らしい落ち着きを感じる。
そのまなざしはニヤついてもなく、舐めてるわけでもなく、真剣そのもの。
「……申し訳なかった。僕は君たちの申告を嘘だと疑い、あしらった。すまない」
レルムは、俺たちに深く頭を下げた。
「いや。謝んなくたっていいって! やめてくれよ!」
ちゃんとした大人に頭を下げられて、なんだか俺はすごく困った。
別に見返してやろうだなんて全然思っていない。ただ、金がなくて困ってただけなんだ。
「ギルドの事情があるのは理解していましたから。次の仕事もまた回していただけると」
「そーだぜ! これでオレたちも猫の手より使えるってわかったろしな!」
ラージスとハルンもさっぱり伝えた。あんまり俺と考えが違わなくて安心するよ。
ルミエルネはまだ金貨に夢中だ。
「うん。その時には君たちにふさわしい仕事を渡すよ。今すぐでは、なくていいかな?」
「ああ。別にやらないといけないことがあって……」
レルムからの提案に返事をしながら、俺はユキの方を見た。
そう。ギルドなら白い布の問題になにか対処法を知っているかもしれない。
ユキはうーんと考えながら、ルミエルネの左側に立ち、レルムにだけ見えるようにルミエルネの袖をまくった。
レルムの顔が険しくなる。やっぱり訳知りだったみたいだ。
「……なんということだろうね」
「ほんまに、まさかよ。いったん集落へ一緒に行って、いろいろお話しよかなと思ってて」
「それがいいね。解決にも近づくだろうし」
そうか。ユキとレルムの話を聞くと、なにかしら解決策がありそうだ。
布くっついてるのは諦めて生きろ。なんてことになったらルミエルネの瞳が怒りに燃えて何をするかわからないもんよ。
「そうだ。集落の人々と言えば、例の移住の話。場所の目途は立ったよ。あとは彼らの説得だけ」
「それが一番難儀よなぁ。あっちもこっちも問題ばっかりよ~」
「わかってくれるまで伝えるしかないかな。応援しているよ」
くるり、とレルムがこちらを向く。
頭を抱えるユキをよそに、かがんで顔を近づけ、俺たちに小さな声で話しかけてきた。
「これは依頼ではなく、個人的な頼み事なんだけど」
「……うん」
俺は意図的に小さな声で、ハルンの頭に手を置きながら返事をする。
ハルンは親分肌だ。頼み事なんて聞いたら、任せとけ! とデカい声を出しかねねぇ。
あえて小さな声で喋ってんだぞ、ってアピールしねぇと。
「ルミエルネの布と同じで、ユキは魔物・ブロカードに長い間苦しめられている」
だろうな。
レルムはそのまま続ける。
「あの子が奴に掛けられている様々な呪い。
……様々な。
白い布が腕に巻き付いているだけじゃないってことだ。
珍妙オークも絡んできてた。集落がどうって話もあった。
「珍しいんだよ? お酒入ってないユキが冒険者と一緒にいて、楽しそうなの」
へぇ……? レルムから伝えられたユキの様子は意外だった。
一緒にいるときはずっと喜怒哀楽がしっかり出てて、大人ってより近所の姉ちゃん。みたいな雰囲気だったけど。
「布の呪いに巻き込まれても彼女の仲間で居てくれる器量と、魔豚を倒す強さを見込んでの頼み」
仲間、か。ギルドの受付から見てそう見えるのか。
今日出会ったばかりだけど、そうあってほしいと思った。
同じ問題を抱えてるし、俺もユキには笑っていてほしい。
レルムの優しい瞳をしっかりと見据えると、隣から……。
「おう! 任せとけよ! このハルンとこいつらでなんとかしてやらぁ!」
バカでかい声。しまったなぁ! あっという間に叫びやがって!
声に気づいたユキとまだ金貨に見惚れてたルミエルネが同時に振り向く。ギルドにいた色んな奴らもこっち向く。
……恥ずいわデブ猫。
「さて。それじゃあユキ。早く連れて行ってあげてよ。日が暮れたら大変だろう?」
パッと軽く伝えられたレルムの提案にユキはうなづく。
「ん! そしたらいこか!」
扉を開ける彼女についていきながら後ろに手を振って、俺たちはギルドを後にした。