俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~ 作:ねこねこてんちゃん
ギルドのある交易街。ヤンベを少し北に進み、針葉樹が目立つ林道を歩く。
日も少し傾いてきたせいか、空気が冷える。
俺たちはユキが暮らす集落を目指している。出来れば日が暮れる前に辿り着きてぇな……。
「ほい。ここ曲がれば、着きますよー?」
ユキが分かれ道を右に指差すと、木で作られた立派な意匠の門が見えた。
「おお~! ありゃ村だな!」
ハルンのテンションがグッと上がる。
門は木造りで立派なんだが、集落を囲んでるのは木の柵だ。そんで中の様子もなんとなく見える。
野菜育ててるし農村っぽい。門番もいない。ただ、背の高い塔がたくさん立ってる。櫓っていうんだっけか?
なんかな。不釣り合いだよな。
門があって櫓があるのに、柵は丸太っぽくて適当。気合い入れれば門が無視できそうだ。
「……いろいろと、面白そうなところですね。なぜこのような半端な状態なのでしょうか」
顎に手を当てたラージスが思案する。モノ作りも好きだし大概のこと興味あるよなこいつ……。
「おーい! ユキちゃんが帰りましたよ~! お迎えしてや~!」
集落に向かって、ユキが大声で呼びかける。
「はいはーい! 叫ばなくても聞こえるよ~! 今開けるから待ってな~!」
向かい側から女性の返事。大きな音が鳴った後に、少しずつ門が開いていく。
「おかえりぃユキ。――ええっ!?」
門を開けて現れた女性は、俺たちの姿を見て大きな声を上げた。
高い位置で結んだ茶髪が、ポニーテールみたいに跳ねた。
「あっアンタ……子供!? よそから子供たちを連れて来て……ヤバいって! 誘拐とか、そういうこと!?」
「なーにバッタンバッタン騒いどるんよ。みっちゃん。友達ですよ」
相手の女性はてんやわんや。ユキはあきれ顔。
俺らはユキに攫われた子供として見られてんのかこれ……。
「君たち! この白い髪の女はアタシが抑えとくから! 真っすぐ引き返して分かれ道を左に向かって走って! でっかい街があるからそこに逃げて!」
俺たちとユキの間に入ってきたその人は、腰から刀を抜きユキに構える。
まさに村娘って感じの服装で、戦う雰囲気じゃないのに武器はすごく立派だ。
抜き方も、構え方も堂に入ってる。
「アホかぁ! 普段ユキちゃんが友達連れてこんからってアンタ! みっちゃん! ユキのことなんやと思ってんの!」
たまらずユキが声を荒げると、女性も言い返す。
「馬鹿野郎! 見損なったって思ってるよ! こんないたいけな! 顔のいい青少年をいっぱい引っ提げて! ライン越えじゃんか!」
ユキ……。普段どんだけ人を連れてこねぇんだ。パーティとか組んでないのかよ。
「ちょっと。ちょっとお姉さん。こっち見てくれる」
たまらずルミエルネが声をかけた。
「私たち。これのこと聞きに来たのよ」
ルミエルネは躊躇なく左腕をまくり、結ばれた白い布を見せる。
ブロカードとかいう魔物につけられた。面倒ごとの証を。
またしても、茶髪の女性の表情が一変する。今度はより困惑が強くなった。
「うあ~っ。あるのかそんなこと……。だからここに来たのかぁ」
「ひとりでギャーっと騒ぎおってからに! もうええな? 入りますよ?」
「ああ~待ってよ。自己紹介だけさせてよ~」
刀をしまい、頭を抱える形で屈んだ女性を置いていこうとするユキ。自己紹介したいって言ってるじゃんか。
しかしこの頭抱えるポーズ。前もユキがオークなんちゃら隊を倒した後にやってたな。集落の流行りなのか?
スッと立ち上がって、女性は俺たちに話しかける。
「ごめんねぇ騒いで……アタシの名前はミツイ。この集落の……番兵的な? そういうの。年は28でユキより三つ上」
「おう! オレはカラクリ猫のハルン! 年は知らね!」
ハルンお前……。自己紹介こなれてきたな。
そしてミツイの目の色が変わる。
「……なにこの子。かわいくね?」
楽だな。ハルンがいると、初対面のやり取りはマジで助かる。
*
ミツイが声をかけながら、レンガ造りの家の扉をノックする。
「じっちゃ~ん。ユキが帰ってきたよ~」
集落の中に入れてもらった後は、ユキとミツイに連れられて中心部まで来た。
なんでも、まずは里長に顔を合わせたほうがいいとか。
「うん? うちに渡せる酒はもうないんじゃが」
扉を開いて現れたのは優し気な初老の男性。
やせ型で、白いひげ。腹の出てた爺とは違う。いかにも長って雰囲気だな。
里長は俺たちと顔合わせると、その目を見開いた。
「……ユキ! この子たちを帰してきなさい!」
「アンタもかい……。もうええよぉ」
ガックシと肩を落とすユキ。俺は日ごろの行いが悪いとみてる。
第一声で酒の集りだと思われてるのも相当だろ。
「とりあえず話は聞こうか。いらっしゃい」
里長に招かれ、俺はルミエルネの白い布の件。そしてオークたちの件を話した。
ミツイと里長の反応は、真剣で、そして不思議そうだった。
まず、里長が口を開いた。
「すまんのぉ。巻き込む形になってしまって」
「いや。そういうのはいいんだ。俺たちも仕事貰えなくて困ってたの助けてもらったし」
ユキと同じことを言うじいさん。俺はすぐ返事した。
前回……。ユキに伝えたときみたいにダラダラ語るのはやめる。
ラージスとルミエルネに面倒なスイッチが入る。俺をイジりに来るスイッチが。
ミツイが首をかしげながら、話を切りだす。
「あのさぁ長。ルミエちゃんが白い布を結び付けられるって珍しくない? 少なくとも集落の人の中でやられたのはユキだけだよ?」
「ウム……。布の主であるブロカードは積極的に人間を捕えようとはしないはずじゃが。君たちは、ブロカードのことをどこまで聞いておる?」
改めてそう問われると、全然わかんねぇかも。
俺は真っすぐ答える。
「いや。ほとんどは知らねぇな」
「『美の収集家』と呼ばれる魔物。ということしか」
ラージスが補足を入れると、里長はうなづき、説明を始めた。
「そう。ブロカードは奴の基準で美しいものを集める。ここいら一帯で定着してしまっている魔物の中ではもっとも強力で、厄介な相手じゃ」
やっぱ強いのか。だよな。
魔豚とユキの戦った結果を考えると相当ユキは強い。それを長年苦しめる相手だ。
一筋縄ではいかないと思ってた。
ミツイが両手を広げ、詳しく教えてくれる。
「あいつなんでも集めるんだよね~。宝石。大木。建造物。魔物だってさらっていくんだよ? よさげだと思ったらとにかく持って帰って、ご自慢の保管庫に置いてんの。なにがしたいんだかね」
この人動きがデカいな。ユキの友達だわ。
「めんどくせぇなそれ。その年一番美味そうな、いい牛とか狙ってきそうじゃねぇか」
お料理担当のハルンは、眉を八の字にして小言を漏らした。俺は笑いそうになった。
お前にとって価値の高いものって、そういうのなんだな。真面目ないいやつだよ全く。
里長は、ルミエルネの左腕を見ながらまた切り出す。
「あらゆる美を節操なく集めるブロカードじゃが、実のところ人間はあまり狙われていないのじゃ。奴の基準では収集に値しないのか……ワシらが知っている中限りでは、今はユキだけが狙われておる」
里長へ同調するように、ユキは机に頬杖を付きながら呟く。
「せやねんな~。だからあの時、白い布にルミエちゃんが寄ってっても、パッと消えるだけやろと思ってたんやけども……」
ふむ。ブロカードは美人とかなら即誘拐ではないんだな。
だとすると、なんでルミエルネが?
「ブロカードには、ルミエルネを手に入れたくなるきっかけ、動機があったんじゃろうな」
里長の言葉に、俺たちも頭を巡らせる。
「絶世の美女。ということよね」
ルミエルネの言い放った言葉は無視だな。俺は頭を巡らせる。
「……ラージス。ルミエが誰かに狙われるときは、いっつも魔法関連だよな」
「ですね。全属性の魔法使いは相当珍しいのでしょう」
俺とラージスの会話を聞いていた里長とミツイは驚いた表情をする。
属性魔法が全部でいくつあるのかは未解明だけど、知ってる属性は全部使えるとルミエルネ本人は豪語してた。
だから小さいころから野盗とか、怪しいフードの奴がルミエルネを狙ってきたことは時折あった。
訝しげに、ラージスが首をかしげる。
「ブロカードが、ルミエルネの資質を知る機会があったとは考え難いのですが」
即座にルミエルネはラージスに顔を向け、告げた。
「私。レイフォービームぶち込んでやったから。わかったんでしょうね」
ああー! それだ!
あのバカみたいなビーム。ルミエルネの必殺技は多属性魔法だ。
「相手もなかなかやるわね。目くらましの光。痺れさせる微細な電撃。ビームの熱波。指向を絞るための風。いろいろなところを感知したんでしょ」
ふふん。と自慢げなルミエルネ。ほえ~と口が開いてるユキ。
こいつの魔法はマジで理解が出来ん。
「……レア魔法使いかぁ。集めそうだな~アイツ!」
「とりあえず理由はなんでもいいのよ。里長とミツイ。アンタたち、これの解き方知らない?」
合点がいったミツイに対し、左腕の白い布をつかみながら問うルミエルネ。
里長は目を瞑り、少し間を置いた後に口を開く。
「……その白い布は、ブロカードの切れ端。魔法は相当の威力でなければ効かぬ。もし解くことに成功しても、奴が遠隔で操作し、また結びなおされる」
「かなり、面倒ですね」
険しい顔をして返事したラージスを、ハルンが見上げている。
するとハルンは突然、両の拳をぶつけ、バチンと鳴らし、里長に向けて切り出した。
「つまり! 単純! ブロカードってのをぶっ飛ばせってことだな!」
「その通り。白い布の呪いを解決する方法は、ブロカードを屠ることじゃ」
里長の最終回答は想像通りのものだった。
だよなぁ。最悪はそれしかないと思ってたんだ。
ただ、ユキも今んとこ倒せてない魔物をどうやって倒すか。って話になるよなぁこれ。
「さて。ここまで話していただきありがとうございます。では次の話に移りましょう」
ラージスがメガネを直しながら、切り出した。
「今の話を僕たちが信じてよいのか。それを判断する話をしましょう」
……ウソだろオマエ! こっからこの人たちが信用できないって話をする気かよ!