俺はカビ猫と生きていく!~魔法の世界で、猫型カラクリと歩く~   作:ねこねこてんちゃん

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トモリの集落② 信頼

 レンガ造りの家の中。里長とミツイ、そしてユキが呆気に取られた顔をする。

 それもそのはず。ラージスの奴は、信用ならねぇと言った。

 俺はまず、ラージスへ率直にぶつけることにした。

 

「一体どこが信用ならねぇんだ?」

 

 ギルドじゃあんなに警戒されていた俺たちのことを、集落の人々はすんなり迎え入れてくれた。

 ミツイなんて俺たちのこと逃がそうとしてくれたし……疑う理由がパッと思いついてねぇ。

 

「まず、解決方法があまりにも怪しいということですね」

 

 俺に向かってさらっと説明したラージスは、里長とミツイに顔を向け、話を続ける。

 

「ユキの話だと、10年以上も解決できていない魔物の問題。それを僕らが来ただけで『倒しに行こう』と結論付けるのは余りにも早急、安直過ぎます」

 

 確かに……。

 俺たちがいるだけで倒せるなら、ギルドに討伐頼むとか、大きな町の討伐隊とか出せばなんとかなりそうだ。

 少なくとも俺たち一人一人は今のユキより強くはない。

 俺は納得しかけてたけど、ルミエルネは腕を組みながらラージスへ問いかける。

 

「やっつけるとか言い出したのはウチのハルンだけど。安直で単純で考えなしで無鉄砲なのは、このニャンコじゃないの?」

「だとしても、それに乗っかるのはいかがなものかと。相手の実力を知っているならば、危険であると止めるのが一般的では?」

「ふぅん。この集落の連中にとっては、私たちが突っ込んでった方が都合良さげってワケ」

「はい。集落が白い布のついた人間や、美しいものをブロカードへ捧げるための拠点。それがこの集落の正体である可能性すら考えられます」

 

 おいおい。ラージスとルミエルネの話は斜め上に飛躍しだしてんだろ。

 この集落はユキだって馴染だろ? 集落を疑うってことは、ユキと俺たちの今までの時間を疑うってことになる。

 あれが、全部騙すための動きだったってことか……?

 

「……ヤバいよ里長。めっちゃ疑われちゃってるって。倒しに行けなんて急に言うから」

「ううむ……。倒しに行く以外で解決方法があればよかったんじゃが」

 

 里長の肩をつつきながら眉を八の字にしているミツイ。

 俺はラージスの真意が読み取れない。あの人たちが怪しいのなら、なにもここで無理矢理問い詰めることはないんじゃないか?

 適当に話し合わせて、里長の家を離れてから逃げるかどうかを考えてもよかった。

 俺は里長やミツイに聞こえないよう、小さな声で問いかける。

 

「ラージス。結局どうして欲しいんだ?」

「それはこれから彼らに伝えます。ライト。貴方の力も貸してくださいね」

 

 同じようにささやき声で返ってきたラージスの返事。

 普段よりも柔らかめな表情は、俺に事を荒立てないようにしているんじゃないかと思わせるものだった。

 俺の力? 目的もわからず何かできることなんてあんのか……?

 

 スッとラージスが里長へ向き直す。真剣な表情に切り替わり、手ぶりを付けながら話し始めた。

 

「本題は、皆さんを信用させてほしい。ということです」

「……どのように?」

 

 里長も訝しげに聞き直す。

 俺もそれがすごく気になる。

 

「簡単な話です。この集落の成り立ちや、魔物・ブロカードとの関わりなど。皆さんのことを知りたい。それらを教えてください」

 

 ラージスの提案は、とても真っすぐなものだった。

 

「……報酬とか。そういうのじゃないのね」

 

 隣でつぶやいたルミエルネのそれは生々しいヤツだった。

 ラージスは一瞬ルミエルネの方を見やり、メガネを直しながら話を続ける。

 

「集落は農村であるにも関わらず立派な門がある。しかし、周囲を囲う柵は木の杭を打ち付けただけの簡易なもの。なのに建物はレンガ造り。ところどころにある櫓」

 

 指摘を聞き、ミツイは苦笑いを浮かべながら答える。

 この人もユキと同じで顔に出るなぁ……。

 

「あーねぇ……。怪しいよねぇ。集落の囲いを石造りにしろって思うよねぇ」

「まぁそれには深ーいワケがあるやんなぁ」

 

 ユキがぽろっと出した言葉に、メガネの男はグッと食いつく。

 

「そう。集落全体から深ーい理由がありそうなんですよ。それを、知りたい」

 

 ピッとラージスが顔の前で指を空に向かって指すと、軽く何かが燃えたようなにおいがした。

 ふい。と軽くそよぐ風が吹いたとたんに、ルミエルネの声がした。

 

「アンタね。バカじゃないの?」

「はい?」

 

 突然の罵倒に、ラージスの目が鋭くなる。

 目線の先にいるルミエルネは得意げにふわりと青灰色の髪をなで、続けた。

 

「信用ならないのは里長も同じ。私たちって今んとこ白い布くっついてる怪しい集団よ? ギルドのスカし男も言ってたでしょう。『君たちは怪しすぎる』って」

「……それで?」

 

 返事をするラージスは首を傾けながら、片目を閉じ、頬杖をついて聞く。

 こいつら……。態度が悪すぎる!

 身内で話をし出したとたんにこれだよ! 俺もこう見えてんのか不安だ!

 より偉そうになりながらルミエルネは論じる。

 

「ラージス。アンタの望みを叶える方法は簡単。先に里長たちから私たちのことを信じてもらうことで叶うわ。信用を得るやり方は、わかるでしょ?」

「ほう。なるほど」

 

 突然ラージスが、ニヤっと笑う。

 信用を得るやり方がたぶんわかったんだな。俺にはさっぱり見当がつかねぇが。

 途中からずっと悪い笑みを浮かべてるルミエルネに向け、まるで周りに説明するかのようにラージスがやり方を語る。

 

「僕たちの身の上を話すことで、彼らは信用して自分たちの話もしてくれる。ということですね」

「そういうこと。もちろん? お相手が聞く気があれば、だけどね。みっちゃん?」

「なんでミツイご指名!? 里長じゃないの普通!」

 

 突如巻き込まれたミツイは素っ頓狂な声を上げた。ご愁傷様……。

 

「んあー。ユキも気になるかも。より詳しくいろいろ知りたいなぁ」

「安心してください。この場ですべて、誠実に、話してくれますから」

 

 大分興味が出たのか、座ってラージスの方を向くユキの問いかけにメガネの男はさらっと答えた。

 話してくれるんだな。誰が?

 

「そうよ。ハンカチを用意なさい。涙なしではいられないわよ?」

 

 ルミエルネ。おまえそんないい語り出来るタイプだったか?

 というかそんな懇々と詳しく話すのか……。

 

「僕たちの中で、もっとも話す力のある」

 

 ポン。

 ラージスはそう言いながら俺の右に立ち、肩に手を置く。

 

「一緒に解決をしたがっている。仲間想いの純朴少年」

 

 ルミエルネが語り歩きながら左に立ち、俺の肩に手を……。

 

「ライト君が話します」

「ライト君が話してくれるわ」

 

 二人が同時に、声を重ねて告げてきた。

 俺はもう。大声を上げる元気すら出せなかった。力を貸せって……そういうことかよ。

 

「オイ」

 

 どうにもなんないんだろうな。とは分かっていても俺は悪態をつく。

 もう逃がさないと言わんがばかりの両肩に乗った手。

 

 いつからだ。このコントが仕込まれていたのは。

 ……あれか。煙の臭いはラージスからの合図で、風が吹いたのはルミエルネの返事か。

 

「……長くなるけど、時間貰ってもいいか?」

「もちろんだとも」

 

 里長は、当然のように俺からの提案を受け入れてくれた。

 腹をくくって話すか……。

 

「俺たちはカラクリの街、ハヴィーから来たんだが……」

 

 街がぶっ壊れるところ。ジジイが死んだところ。

 なにを伝えればよかったのか分からないから全部伝えた。

 

 *

 

 俺が話し終えたときには、窓の外にはもう夕日が射していた。

 

「君たち。大変だったんだねっ……」

 

 途中からミツイのお姉さんはずっとこれ。本当にハンカチが必要だな。

 うん……。どうにも空気が重くなりすぎるな。今後は話し方考えよう。

 

「ライト! オメェよ! ほんとに全部赤裸々に喋る奴があるか!」

 

 ハルンですらこの反応だ。

 

「いや……。加減がわかんねぇんだって。マジで。流れ的にもどこまで言っていいんだか……」

 

 しどろもどろに言い訳しかできねぇ。

 信頼させろって注文がある以上、なんか同情を引くような話になるのは仕方なくねぇか?

 恥ずかしいわなんか。この空気が俺を生暖かく撫ぜてきて辛い。

 

 そんな俺をラージスは無視。首謀者は勝手に話し始める。

 

「さて。どうでしょうユキ。僕たちのお話は信用するに足りますか?」

「いや。集落の人たちにはちょっと響きすぎるかなってくらいで……」

 

 ユキは目頭を押さえ、ぐずった声で返事をする。

 ウソだろ? 少なくともユキには軽く伝えてた、改めて聞いてその反応かよ。

 次はしねぇぞこの話し方。

 

 すると、里長が立ち上がる。

 見た目はお爺さんなのに支え無しで立てる辺り、まだ動けて色んなことしてるんだろうな。

 

「みっちゃん。確かそろそろ、里の建立祭じゃったかの」

「んーもう。なに言ってんの里長。建立祭はあと暦二つ先だよ」

 

 ようやく泣き止んだミツイは鼻をかみながら返事をする。そんな彼女を促しながら、里長はどこかに向かおうとする。

 

「ほれ、みっちゃん思いだしてみ。あったろうなにか……。食糧庫には蓄えもあるし。のう?」

「……はぁ~あ。そうだね。サクッと準備しちゃいますかぁ。ケチな里長のオゴリなんて、里のみんなも喜ぶよ。ねーユキー」

「せやなぁ。うぇひひ。しょーもな」

 

 よっこらせと立つミツイに、クスクス笑うユキ。

 ちょうどお祝いってわけでもなさそうな……。なんて考えているうちに里長とミツイが出て行ってしまった。

 

「なぁユキ。なにが起きてんだ?」

「ライト。おじいちゃんには、すんごい響いたみたいよ? 里長は居ても立ってもいられず、歓迎の準備やとさ。おいしいもん食べれるよ~?」

「えぇ……?」

 

 ニッコニコのユキ。もうさっきから俺は困惑と羞恥しかねぇ。

 なんだよもう。いい思いさせてくれって目的じゃねぇのにな……。

 

「……結局。私たちを信頼させるって話はどこにいったのよ」

 

 そうだ。そこだよルミエルネ。集落の事情はどこ行った。話は?

 ユキは天井を見ながら、答える。

 

「詳しくはまたユキから話すかな~。簡単に言えば、ブロカードに滅ぼされた町の、生き残りが落ち延びた場所。それが集落の正体」

 

 空気が変わる。ビビった。想像もしてない返事だった。

 そうか。俺たちは、同じ思いをした人たちを疑ったのか。

 ユキは少し微笑みながら、俺の目を見て続ける。

 

「ユキも。みっちゃんも。里長も。みんな同じところから逃げてきた。細かいとこは、また今度な?」

「えーっ! なんでだよ! 気になんだろ流石に!」

 

 デケェ声を出すハルン。

 踏み込みづらい空気の時、グイっと突っ込めるのは強みだな。

 ユキはハルンの頭をなでながら、俺の方に顔を近づけ、にやりと告げる。

 

「だぁーって。恥ずいやん。あんな気持ちをいっぱい詰めて喋るの。すぐにはムリムリ」

 

 ――っ!

 絶対いつか聞いてやる。ユキの話。

 俺ばっかりこんな……。

 

「顔真っ赤ですよ? おにーちゃん」

 

 ツンとデコを突いてくる。いじりモードの銀髪の女。

 絶対に聞き出してやるからな!

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