願いの物語シリーズ【立花綾】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
意を決して口を開いた萌花は、かつて彼女が歩んできた人生という名の道を語り始める。
「私ね。昔からどんくさくて、友達なんて殆ど居なかったの。ううん。違うね。全然居なかった。友達って言っても、ただ便利に使うだけの人って感じ」
「それでね中学までは、私もそれで良いかなって思ってたんだけど、やっぱり高校に入ってからは変わろうと思って、私、勇気を出して、話しかけたんだ。それで友達が出来たんだけど、大学に入ってから、何だか変な感じになっちゃって、私、どうすれば良いか分からなくなって、それで」
思わずため息が出るような話だ。出さないけど。
「変になったっていうのは、どういう風に変になったの?」
萌花に聞きつつ、私自身も見えない友達に頼んで、アイツらを探ってみる事にした。
「その、急に怒り出したりとか、今回みたいに無理矢理付いてきたりとか」
「そ」
「でも、でもね。私、気づいたの。こんなの本当の友達じゃないって、だから」
「私と本当の友達とやらに、なりたいって?」
萌花は一瞬驚いた様な顔をした後、小さく頷いた。
本当の友達だなんて、真実の友情だなんて、お笑いだ。
そんなものある訳が無い。
家族以外の他人は、利用するかされるか。それだけだろうに。
『綾ちゃん! 見てみて! ヒナちゃん! どう? 最高に可愛いでしょー!』
瞬間、頭の中に能天気で、どこまでも明るい親友の顔が過ってしまい、萌花の話を斬り捨てるのは止めた。
「萌花。一つだけ確認させて」
「……うん」
「なんで私なの? 友達をやるならもっとちょうどいい子はいくらでも居るでしょ?」
「綾は、特別だから」
「特別?」
「そう。初めて見た時から普通の子と違うなって思ってた。表面上は仲良く、親切にやってるけど、瞳の奥はいつも冷めてて、どんなに可愛い子も、どんなに頭のいい子も同じ風に見てた。そして、私も……だから、綾なら、周りに合わせて私を虐めるような事はしないと思ったの!」
「そう」
やはりというか。なんと言うか。
さっきの女たちの方も確認して見えてきたのは、イジメという構図だった。
同じ高校で見下していた萌花がたった一人、有名な大学へ進学した事へのやっかみ。
本来であれば同じ大学で出来たという友達も一緒にバカにしてやろうという考えだったが、私がお兄ちゃんを連れて来てしまったから、動揺し、暴走したという感じか。
めんどくさ。
人と比べる事でしか自分の価値を感じられない女というのは本当に厄介だと思う。
しかし、こういう輩はあれやこれやと理由を付けて、付きまとうから厄介だ。
「じゃあ、どうする? 萌花はどうしたい? 私と友達になるかどうかは、萌花と私のこれから次第な所はあるんだけど、今、萌花を悩ませてる問題については解決出来るけど、どうする?」
「私を悩ませてる、問題?」
「そう。萌花が高校時代の友達って言ってたアイツら。萌花の事虐めてるんでしょ?」
「っ」
「だからさ。もし、萌花が望むのなら……縁を切る事も出来るよ」
「縁を……切る?」
「そう。縁切り。聞いたことないかな。悪縁を切って良縁を繋ぐ。なんて話。私なら、それが出来るよ。アイツらと萌花がもう二度と会わない様にする事も出来る」
「私と、みんなが」
ゴクリと萌花が息を飲んだのが分かった。
しかし、すぐに萌花は口を開いてその力について聞いてきた。
「その、縁を切るとか、繋ぐってどういう事?」
「そうだなぁ。試してみようか」
私は萌花を立ち上がらせて、少し人から見える場所に立ってもらい、後ろから萌花の少し小さな体を抱きしめる。
そして、さっきからずっとこちらに視線を送っている男に目線を送り、萌花の胸を軽く持ち上げた。
「ちょっ、綾!?」
「静かに。何も話しちゃ駄目だよ」
こちらに向かって走って来るような勢いで向かってきた男に私は萌花を庇いつつ前に出た。
「き、きみ! 今、俺の方見てたよね。それに」
「あー。もう話さなくて良いですよ」
「え?」
「もう。縁を切りますから」
萌花と話している間もうっとおしい視線を送っていた男は、私に縁を切られた事で、少し呆然とした後、急に腹を押さえてトイレの方に走っていった。
それを見送ってから、私は別の人が居ない場所に移動する。
「まぁちょっと分かりにくかったかもしれないけど、これが縁を切ったって事。もう二度とあの男は私を見つける事が出来ない。まぁ場所との縁は切れてないからあの場所にずっと居ると、また会う事もあるんだけどね。でもこっちが会おうとしないで、避ければもう二度と会えないって訳」
「……すごい」
「これで、アイツらと萌花の縁を切れば、もう二度と萌花はアイツらに会う事は無くなるよ」
私の言葉に萌花は僅かに歓喜の色を顔に浮かべながら、それでも考える様に両手を祈るように握り合わせた。
別に急いで答えを出さなくていいと言おうとした私は、知らない声が聞こえた事で、萌花を庇いつつ前に出た。
「なんやこっちの方から、力の気配がする思ぉたら、おもろい事しとるな」
「どちら様ですか? こちらには何もありませんけど」
「どちらさまって、僕はなんて事はない。ただの通りすがりやで。そう……どこにでも居る人間様や!」
「そうですか」
私はその怪しげな糸目の男を無視して萌花の手を引きながら違う所へ移動しようとした。
しかし、私の手を男に掴まれてしまう。
「さみしいなぁ。なんか反応して欲しいわ。そんなだから東の人間は冷たい、言われるんよ」
「知った事じゃありません。それより手を離してくれませんか?」
「少しくらい話してもバチは当たらんやろ」
「私に話す事はありません」
「キミ。力持ってるやろ」
「……何のことやら」
「隠しても無駄やで。さっきナンパ男になんかやってたやろ。ハッキリは見えんかったけど、呪い掛けとったな。よくは見えんかったが腹痛くなる呪いか?」
「何も言う事はありません」
「なら、せめて名前か何やったか教えてーなー」
「ナンパなら他所でやって下さい!」
「ナンパやあらへん。これは警告や。なんも知らん素人が、呪術なんか使うものちゃうで。それは危険なモンや。どうせどっかの本とかで覚えたんやろうけど、さっさと捨てた方がえぇ。もしくは怖いなら僕が引き取ってもえぇで」
「っ」
手を強く握られて、私は痛みを訴えながら離れようとした。
しかし、男の握る手は強くて離れる事が出来ない。
「放してっ!」
「だから。力の出所を話して、本を渡せば」
「助けて……っ! お兄ちゃん!!」
「それで、終わり……っ!!!?」
私がお兄ちゃんを呼んだ直後、私の腕を掴んでいた感触は消え、代わりにバランスを崩した私を抱き上げる人の感触があった。
誰か見るまでもない。
この優しい温もりを、私は一人しか知らない。
「無事か? 綾」
「……うん! ありがっ、とうっ」
子供の様に涙を滲ませる私を、お兄ちゃんは優しく抱きしめてくれた。
私はお兄ちゃんの服を掴みながら、涙をお兄ちゃんの服で拭う。
「い、たたた。急になんやねん? あっ、あんさんは!! 立花光佑やないか!!」
「おそらく会った事はないと思いますが、何処かでお会いしましたか?」
「何言うてるんや! あんさんを知らん奴が居たらモグリやで! いやー。あんさんのバッティングは格好良くてなぁ。よく球場に応援に行ってたで!」
「あぁ、そういう事ですか。それはどうも」
「いやいや! あんさんに大野、佐々木、古谷に鈴木。僕はみんな好きやで! ずっとデカい顔してた東の連中があんさん達のお陰で悔しそうな顔をしてたんが、愉快やったわ! でもまぁ、あんさんが野球を止めてしまったんが、一番残念やな。仕方のない事やけど。例の彼女さんがやっぱり苦しかったんやなぁ。くぅう! 悲恋やで!」
「いや、あの。色々噂はありますけど、俺は怪我で」
「ワハハ。良いんや。良いんやで。僕らには嘘吐かんで。怪我なんかホンマは治ってるやろ。駄目なんは心や。占いでもそう出とったよ。心の傷にも貼れるばんそうこうがあればえぇんやろうが、残念やなぁ」
「貴方は」
「あぁ、自己紹介忘れとったな。僕は西宮院修司。この国を守る西の守護神や! まぁ、猛虎の守護神佐々木には負けるがな! ワハハ」
男は何が楽しいのか、笑顔のまま自分の名を名乗る。
その名を聞いた瞬間、お兄ちゃんが私を抱きしめる力が少しだけ強くなった気がした。