願いの物語シリーズ【立花綾】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
西宮院修司と名乗った男にお兄ちゃんは強い警戒心を抱いている様な雰囲気で、私はお兄ちゃんを困らせるこの男との縁を切ってしまおうと考え、右手に力を込める。
そして、ペラペラとくだらない話をしている男との間に見える縁を切ろうとした。
しかしそんな私の右手はお兄ちゃんによって止められてしまう。
「っ」
「駄目だよ」
「でも」
「ここは俺に任せて」
耳元で囁かれる優しい声に、私は抵抗を諦めて力を霧散させた。
そんな私を見て、お兄ちゃんは安心した様に笑い、西宮院修司に強い視線を向けた。
「ってなわけでな。僕としてはやっぱり佐々木、古谷がこれからの」
「西宮院さん」
「もう! 光佑クンは意地が悪いなぁ! 修司って呼んでや! もう僕ら友達やんか!」
「友達。というにはまだ確認しなければいけない事がありますよ。修司さん」
「確認せなあかんことぉ? なんやろ。あ。わかった! 僕の血液型やろ! なななななんと! 僕は光佑クンと同じA型やで! 運命感じるわー! 生真面目ってよぉ言われるモンな! ワハハ」
「妹の、綾の事です。先ほど、何か言い争っていた様に見えましたが」
「あぁ。その子かー。ふぅん。なるほど。光佑クンの妹さんだったんやなぁ。ならえぇか! 事情を話すわ。光佑クンなら信用できるしな!」
「……事情?」
「そや。僕らは、なんていうかー。退魔師、霊媒師なんて言われる仕事をしてるんや。前に光佑クンがテレビで地縛霊を天に還しとったろ? アレみたいな事を日常的にしとるんやな。それで、僕らの仕事はこわーい幽霊や妖なんかが人に悪さをしない様に日夜戦っとる訳なんやけど、たまーに。なんや、よく分からんまま力を手に入れてまう一般人がおるんや。ちょうど、そこに居る光佑クンの妹ちゃんみたいにな」
「綾に力、ですか?」
「まー。力言うても、天変地異を起こす様な派手なモンじゃ無いで。呪術っていう人を呪う地味ーな力や。まぁ地味言うてもコイツは病気と同じで、見た目は地味でも起こす被害は最悪でな。特に一番最悪なんは制御が出来ん事や。めっちゃ修行した人間がようやっと制御出来る呪術が嫌いな奴が箪笥の角に小指をぶつける程度のモンでな。それよりヤバいのはすぐ人の感情に乗せられて暴走してまう。そやさかい光佑クンの妹にも光佑クンから言うてくれへん? その力は危ないから使わんほうがえぇで。ってな。ま、まだ子供みたいやし。そういう不思議な力に憧れるのもわかるけどな。でもその力は人を呪う事しか出来んのや」
「私、呪術なんて、使ってない!」
会った事も話した事も無いけれど、私の力はお婆ちゃんに貰ったものだってメリーさんも言っていた。
神様に最も近い世界に干渉する力だって、神術だって、言ってたんだ。
何も知らない奴が、お兄ちゃんに偉そうに命令する事だって腹が立つ。
「いやー。残念やけど、一般人は呪術しか使えんのや。よっぽど修行すれば霊術とかも使えるんやけど、綾ちゃんは修行なんかした事無いやろ?」
「したもん! 練習!!」
「ほー。ほんまかいな。人が入らない山奥に入って、三日三晩なーんも食わずに山から得られる霊力だけで過ごす様な修行を綾ちゃんがやったって? とても信じられんなぁ」
「メリーさんが言ってたもん! 私の力は、お婆ちゃんから受け継いだものだって!」
「綾!!」
「神術っていう力だって、言ってたもん!!」
「ほー。神術言うんか。それなら確かに修行は要れへんな。それは血によって受け継がれるモンや。だが、もしそれが真実なら、ただで帰す訳にはいけへんくなったな! 悪いな、光佑クン。少し付き合うてもらうで」
西宮院修司がそう言うと、いつの間にか私達の周りには多くの人たちが立っており、私達を囲んで懐に手を入れていた。
銃でも持っているのだろうか。
「見逃して貰う訳にはいきませんか?」
「あかん。あかんよ。光佑クン。神術っちゅうのはその名の通り、神が人間に授けた力や。人間には大きすぎる力やからな。放置する訳にはいかん。暴走したらとんでもない被害になるさかいな」
「綾には力を使わない様に言っておきます」
「まぁ光佑クンがそう言うのなら、ほな任せましょ。と帰ってもええんやけど。もう一個の確認もせなあかんのや。まぁ、悪い様にはせんし。付いて来てくれるかー? その綾ちゃんのお婆ちゃんがどこの誰か確認せんと」
「……それは難しいですね」
「ほぅ。難しい。難しいか。そらおかしいな。自分のお婆ちゃんの名前とか、どこで生まれたとか言うだけやでー?」
「えぇ。とても難しい」
「ふむ。ふむふむ。おかしいなぁ。それはどう考えてもおかしいやろ。知らない? いや、違うな。言えない。って事か」
確認する様に西宮院修司が笑ってお兄ちゃんを見た瞬間、周りの人たちがピリッとした気配を発したのが分かった。
そして、お兄ちゃんもまた、後ろにへたり込んでいる萌花をチラッと見て、足を少し動かした。
「おっと。流石に逃がさんで。流石の光佑クンもここから飛び降りたら無事じゃ済まんやろ。二十階のビルやしな。出来れば大人しくして欲しいんやけど」
「一応、俺の前にも逃げる道はありますけどね」
「ワハハ。流石は英雄立花光佑や! これだけの人間相手にそないな事言えるなんて流石やで! でもな。僕らは光佑クンの知らん力を持ってる人間ばかりや。容易くは逃げられんで?」
「そうみたいですね」
「出来れば大人しゅうして欲しいんやけどな」
「そちらが見逃してくれるのなら、大人しくもしますが」
「それは無理な相談や。分かってるやろ? 光佑クンも」
「そうでしょうね」
「まぁ、このまま話してても平行線やし。ちょっと痛い目ぇ見て貰うしかあれへんかな」
西宮院修司が笑いながら指を横に走らせて、何かを始めようとしていた。
それだけで空気にピリピリと電気が走り緊張感が高まる。
嫌な予感がして空を見てみれば、いつの間にかそこにあった雷雲が雷を走らせていた。
まさか。あの雷を落とすつもりなのか。
そんな事をされたらお兄ちゃんが死んでしまう!
「さ。ちょっとビリっといくでー」
「お兄ちゃん!」
「離れろ! 綾!」
私はお兄ちゃんから突き飛ばされ、萌花の近くに倒れてしまうが、急いで空に人差し指と中指を揃えて向け、雷雲の中にあるこの世界との縁を切った。
「なっ!?」
そして雷雲は崩壊する前の抵抗とばかりに夜空に雷を走らせてから崩れていった。
残されたのは、雷雲が崩れた事で行き場を失った雨が豪雨となってビルに降り注いだくらいだ。
プールの客は急な雨に怒りや驚きの声を上げながら走っているのが視界の無効に見えた。
しかし、私達や、西宮院修司たちは互いに睨み合ったまま動けずに立ち尽くしているのだった。
「今、何をしたんや……僕の力がかき消された……? いや、違う。途中から完全に力との繋がりが断たれた感じやった。ありえん。こんな力、存在するんか……?」
「懐かしいな」
「「「ご当主様!」」」
動揺する西宮院修司の向こうから、杖を突いた老人が現れ、私達を囲んでいた男達が膝をついて頭を下げる。
お兄ちゃんは私と萌花の前に立ち、腕を横に広げて守ろうとしていたが、その老人は私ではなくお兄ちゃんを見て、目を見開いた。
「いつ以来だろうか。たった一度会っただけだったが、その顔を忘れた事はない」
「……あなたとお会いした事は無いですが」
「あぁ、その通りだよ。私と君は今日初めてここで会った。それは間違いない。そう。私が会ったのは君ではなく、君のお母さんだよ。立花光佑君」
「……っ」
「藤堂朝陽。いや、今は立花朝陽だったか。……君は、本当によく似ているな。朝陽にも、姫乃にも」
「貴方は」
「私は西宮院源馬。君や後ろにいる子のお婆ちゃん。西宮院姫乃の兄だよ」
「……っ」
「感動的な再会だと喜びたい所ではあるが、この様な状況ではそんな気分にはなれないだろう。また伺わせてもらうよ。無論、朝陽が頷くならば、だが……聞いてもらえるかい? 朝陽の子供達」
「……分かりました」
「助かるよ」
老人はそう言葉を残して去って行こうとした。
しかし、お兄ちゃんが立ち上がり、老人を引き留める。
「待ってください」
「……何か?」
「いえ。名前だけお伝えさせて下さい」
お兄ちゃんは私に確認を取る様に視線を送り、私は小さく頷いた。
それを見てからお兄ちゃんは真っすぐに老人を見て、口を開く。
「はじめまして。でしょうか。俺は立花光佑。この子は妹の綾。母は貴方の仰る通り、立花朝陽。旧姓は藤堂朝陽です。そして母より以前聞いた祖母の名は、確かに……姫乃と、旧姓は西宮院姫乃といっていました」
そのお兄ちゃんの言葉に私達を囲んでいた男達はざわざわと騒ぎ、そして西宮院修司も目を見開き、口を開けて驚いていた。
「この様な形で名乗らせてしまい。申し訳なかった。改めて名乗ろうか。私は護国の霊的組織、西の守護家である西宮院の当主、西宮院源馬だ。よろしく頼むよ」
「はい」
「また会える時を楽しみにしているよ」
老人はそう言うと私達を置いて帰って行った。
そして、西宮院修司も私とお兄ちゃんに頭を下げて帰っていくのだった。