願いの物語シリーズ【立花綾】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
ナイトプールで西宮院なる人たちに会った後、これ以上ナイトプールでは遊べなくなり、萌花には適当な事を言って帰る事になった。
萌花は残念そうにしていたが、ナイトプールで遊ぶという状況でもなくなったし、日を改めてまたという感じだ。
そして、私とお兄ちゃんは予想以上に疲れた体を引きずって家に帰ってきたのだけれど、家ではより疲れる存在が待っていた。
「ふっふっふっ。おかえり。あーやちゃん。お兄ちゃーん」
「ひ、陽菜ちゃん」
「いやー。ホント。ビックリしちゃったよ。大学の用事だって聞いてたのに、まさか二人がナイトプールとかいう場所で遊んでたなんて!」
「陽菜? どこでそれを」
「私にはさ。私に嘘吐いてどっかに行かないつよーい味方がいるんだよ。ね? ひかりちゃん」
「イ、イヤッ、ワタシハ、ソノ、カンケイナクテ」
陽菜ちゃんの座っているソファーの向こうに隠れた女の人を見て、私はため息を吐きながらお兄ちゃんを見上げた。
お兄ちゃんも私を見て苦笑する。
私はとりあえず陽菜ちゃんの注意を引くべくソファーに座り、その間にお兄ちゃんに電話を任せた。
「それで? 私に内緒でどんな楽しい事があったのかなぁ?」
「あー。そうね。まぁそんなに大した事は無いけど。プールは結構広くてさ。飲み物も美味しくて、まぁ今度は陽菜ちゃんも一緒に行こうよ」
「ひかりちゃん」
「ウ、ウソ」
「だって。本当は何があったのかな?」
「別に、普通に遊んだだけだよ」
「ウソ」
「……実は到着してすぐに雨が降ってさ。すぐに帰って来たんだよ」
「ウソ」
「チッ」
私は陽菜ちゃんの向こうに隠れているひかりちゃんを、キッと睨みつけた。
ひかりちゃんは私の視線から逃げる様にソファーの影に隠れて謝罪を繰り返していた。
本当にあの嘘発見器は厄介だ。
「ヒャァ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」
「はいはい。ひかりちゃんをイジメないの。嘘吐いてる綾ちゃんが悪いんでしょ?」
「分かってるよ」
「じゃあ本当の事言ってよ。それとも私に本当の事言うの、イヤ?」
寂しそうな顔でそんな事を言う陽菜ちゃんに、半ば腰を浮かせていた私はソファーに体を落とした。
そして、近くに会ったクッションを引き寄せて抱きしめる。
「実はさ。お婆ちゃんのことを知ってる人に会ったの」
「綾ちゃんのお婆ちゃんっていうと、例のメリーさんが言ってた人?」
「そう」
「そっか。その人たちってどんな人たちだったの? メリーさんが言ってたみたいに酷い人たちだった?」
「……そんなに悪い人たちじゃなかった」
「そうなんだ。じゃあ難しいね」
「うん」
「でもさ。なら良かったじゃない」
「良かった?」
「だってそうでしょ? もし縁を切ってたらさ。そんな人たちとも会えなかったんだよ? だからさ。もし良い人達なら会えて良かったなって」
「……そうだね」
私は頷きながら陽菜ちゃんに向かって体を倒す。
陽菜ちゃんは仕方ないなぁ。なんて笑いながら受け止めてくれた。
そして私の背中を撫でながら笑う。
「もしさ。その人たちが実は嫌な奴だったら、私に言ってよ。ボッコボコにしてあげるから」
「ふふっ、向こうは私みたいに変な力を使う人ばっかりだよ?」
「そんなの! まーったく怖くないね!」
陽菜ちゃんは私から離れると、ソファーの上に立ち上がった。
そして、右手を天井に向けて、足をソファーの背もたれに乗せる。
「私の隣にはさ! 世界最強のとんでもない力を持ってる二人が居るんだよ!? そんな二人がもう陽菜ちゃんの手下なんだから陽菜ちゃんが負ける訳が無いね!」
「こら! 誰が陽菜ちゃんの手下だ!」
「コ、コラー!」
ひかりちゃんがソファーの向こうから抗議しており、私は立っている陽菜ちゃんをソファーに倒して、その脇をくすぐってクーデターを起こした。
そして、笑い続けた陽菜ちゃんが遂に敗北を宣言して、ここに綾ちゃん帝国が建国された。
「という訳だから、陽菜ちゃんは今日から私の手下ね」
「えー! やだやだー!」
「オォー」
「ひかりちゃんも私の手下だから」
「エ」
「駄目ー! ひかりちゃんは私の手下だから!」
「エッ」
「じゃあしょうがないから二人の手下ね」
「しょうがないなー」
「エッ!?」
遂にひかりちゃんは鳴き声をあげる事しか出来なくなっており、私たちはそんなひかりちゃんをソファーに引き上げて、両側からくすぐって、手下にするのだった。
ソファーの上で服をめくりながら息を荒くして未だに笑いを引きずっているひかりちゃんを見下ろしつつ、陽菜ちゃんと手を組む。
「しょうがない。綾ちゃんと私で最強って事で」
「そうだね。じゃあ二人で最強だ」
「こら。いたずらっ子たち。ひかりちゃんを虐めるんじゃない」
私たちがひかりちゃんを倒して喜んでいた所に丁度お兄ちゃんが帰ってきて、私と陽菜ちゃんは怒られてしまった。
そして、お兄ちゃんはひかりちゃんの服を直して、そのままぐったりしているひかりちゃんを抱き上げて別の場所に運んで行った。
私と陽菜ちゃんは見つめ合って、どうしようかと考えていたけれど、すぐにお兄ちゃんが戻ってきて説教時間になってしまった。
そのお説教は夜遅くまで続き、陽菜ちゃんは疲れ切ってひかりちゃんが既に寝ていたベッドに寝てしまった。
私はと言えば、フラフラな体のままお兄ちゃんに抱き上げられて、家の外に連れ出されてしまった。
「もう深夜だけど、悪いな。今から家に帰るよ」
「え?」
「向こうが動き出す前に、ある程度先手を打っておきたい所があるんだ。だから夜の内に家に戻りたい」
「でも、お兄ちゃんも疲れてるでしょ?」
「大丈夫だよ。でも、綾は疲れてるだろうし、車の中で眠ってて。向こうに着いたら起こすよ」
「でも……」
「これから俺に出来る事はあんまり無いからね。これくらいはさせて欲しいんだ」
お兄ちゃんは私の頭を撫でながら笑うと、準備をしてきてと私を部屋に送り出した。
さっさと準備を行いリビングに戻ってくると、お兄ちゃんは横になっている陽菜ちゃんと話をしていた。
それを壁に寄りかかりながら聞く。
「お兄ちゃん。やっぱり行くの?」
「あぁ。綾を守る為だから」
「じゃあ……分かった」
「ごめんな。我慢出来るか?」
「……出来るよ。私、もう子供じゃ無いもん」
「そっか。ありがとうな。陽菜」
「ううん。でも、はやく帰ってきてね」
甘える様な声が聞こえて、私はバッグの紐をキュッと握り、唇を軽く噛んだ。
少しだけ面白くない。
こんな感情を持っちゃいけないと分かっているけれど、それでもたまにこみ上げる想いがある。
例えばお兄ちゃんの妹が私だけだったら、とか。
お母さんとお父さんの娘が私だけだったら、とか。
お兄ちゃんも、お母さんもお父さんも、みんな良い人たちばっかりで、私もみんなの家族なんだから、こんな事考えちゃいけないって分かってるのに。
それでも、たまに考えてしまうんだ。
「綾。こんな所に居たのか?」
「……うん」
「じゃあ行こうか」
お兄ちゃんが差し出してくれた手を握り返しながら思うんだ。
でも、この手も、陽菜ちゃんを慰めた後なんでしょ。って。
考えちゃいけないって分かってる。
私は良い子だから。
お兄ちゃんの妹で、お父さんとお母さんの娘だから。
「うん。お兄ちゃん」
良い子でいなきゃいけないんだ。