願いの物語シリーズ【立花綾】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
ため息を吐くと幸せが逃げるなんて言うが、幸せが見えない状況だからため息を吐くのでは無いだろうか。
私は気分が下がる原因の二人を見ながら、笑顔を作りつつ心の中でため息を吐いた。
「いやぁ。やっぱパーティーってのはワクワクするなぁ」
「西宮院修司。我々は綾様の付き人として行くんだぞ。少しは言動を気にしたらどうだ」
「はん?」
「それになんだその服は。パーティーというのだから正装で行くのが常識だろう」
「いやいや。そんな事を言うたら綾ちゃんはどうなんや。殆ど普段着やで」
「綾様は全身から溢れる気品があるのだ。貴様の様に下劣ではない」
「きーひーん? ワハハ。おもろいな、自分! 綾ちゃんにそんなオーラ見えへんで! どっからどう見ても普通の可愛い女の子や! ワハハ。東の神格化もここまで来るとおもろいな!!」
「綾様を愚弄する気か!!」
「ひー! ひー! 腹痛い。許してや! このままじゃ死んでまう」
「貴様!!」
「ひーひーふー。はぁ。少し落ち着いた。なぁ。東篠院清孝。一つ勘違いしてるみたいやさかい、教えたるわ。僕がおちょくってるのはキミや。キーミ。少しは周りを見たらどうや?」
「周りだと?」
「そんなガチガチのスーツ着てるのはキミだけやで。まぁ綾ちゃんみたいに完全な私服ってのも居ないけどな」
「それはどうも」
「あーん。綾ちゃん! 許してや。別に綾ちゃんが悪いって言ってる訳じゃ無いんよ!」
「別に怒ってません」
「そんなん言いながらめっちゃ怒ってるやん! 僕反省してるさかい。許してや!」
「……はぁ」
「綾ちゃん! 綾ちゃーん!?」
ため息だって吐きたくもなる。
私やお兄ちゃんへの付きまといを辞めさせる事は出来たけど、この二人は護衛という事で私の周りをウロチョロしているのだ。
護衛なんか要らないって言ったけど、お母さんは必要な事だからって言って頷いてはくれなかった。
どうしても私を一人に出来ないって言うのなら、お兄ちゃんが傍に居てくれる方が良かった。
でも、これから起こる可能性のある災厄はお兄ちゃんでも対処するのが難しいものらしくて、結局西宮院修司と東篠院清孝という二人が私の傍にずっと付きまとう事になったのだ。
(……はぁ。最悪)
『そう落ち込むものじゃない』
(お爺ちゃんもアイツらの味方なの?)
『味方という訳じゃないがな。それなりに優秀な二人だ。綾が逃げる為の時間稼ぎくらいは出来るさ』
(どうだか。お爺ちゃんが傍に居る事にも気づかない癖に)
私は足元の影に潜んでいるぬらりひょんのお爺ちゃんに視線を向けた。
そして、後ろで言い合いをしている二人へと視線を移し、鼻で笑う。
『ハッハッハ。それは無理というモノだよ。千年以上生きてきたが、ワシを見つけられたのは三人だけだよ。姫乃と綾。そして、あの男……雪風なる刀を持った異界の男だけさ』
(ふぅん。でもお母さんとかお兄ちゃんともよく話してるじゃない)
『姿を見せているからな。当然さ。まぁ、光佑は気づいている様な気もするが、よく分からないな』
(お爺ちゃんでも分からない事があるの?)
『いっぱいあるよ。ワシはこの狭い世界で生きているだけだからな。過去は分かるが、未来は見えんし、ここじゃない世界の事も知らん』
(ここじゃない、世界かぁ。そこならさ。私の好きな人だけで生きていく事が出来ないかなぁ)
『難しいだろうな。向こうには向こうで生きている物が居る。どうやっても綾の最も願う世界は得られんだろう』
(はぁ……じゃあこの世界で生きていくしかないって事か)
『そういう事だ。まぁよっぽど耐えられなければ我らに言え。消してやる』
(ありがとう。でも、今はまだ良いかな)
『そうか』
(うん。私は良い子だからね)
そう。私は良い子なのだ。
だから、どんな事であれお母さんが決めた事なら従わないと駄目だ。
そして良い子な私は、今日行きたくもないパーティーに行く為に道を歩いていた。
後ろには騒がしい人達を連れて。
目的地は金持ちの馬鹿どもが集まる場所。
萌花が誘ってくれたけど、その後ろには萌花の友人だという女たちがいるのは間違いない。
おそらくはお兄ちゃんが目当てなのだろう。
前回は殆ど接触できずに解散したからね。
だから金持ち自慢の恥知らずなパーティーを開催して、萌花経由で私を呼んだ。
考えれば考えるほど嫌になる。
でも、お兄ちゃんも友達とは仲良くしなさいって言ってたし。最低でも萌花とは仲よくしようと思う。
そんなこんなで、パーティー会場のビルの前に辿り着いた私は少し離れた所で萌花たちの到着を待つ。
「ここが会場ですか」
「うん」
「なるほどなぁ。応援呼ぶ方がええか?」
「そうだな。では中を任せる。外は我らで囲もう」
「分かったで」
「……? 何かあるんですか? 特に何も見えませんけど」
「あー。そうか。綾ちゃんは妖とか幽霊は見えるけど、その前は見えないんやったな。今あのビルにはな。悪霊になる前の邪な想いって奴で溢れてるんやで」
「邪な想い、ですか」
「そや。綾ちゃんのよう知ってる悪霊や妖っちゅうのは大抵強い想いが強い力に結びついて成るモンなんや。ま。妖になるまで拗らせる奴はあんまりおれへんけどな。それでも想いが集まれば呪いやら悪霊やらになってまう。そうなる前に何とか出来たらええんやけど。大抵は手遅れになってまうんや」
「……もしかしてあの日、ナイトプールに居たのは」
「そや。綾ちゃんに運命感じて偶然いたんやー! っていうのもロマンあるけど、実際は集まった想いを散らしにな」
「そうでしたか」
少しだけ反省する。
チャラチャラと遊んでいる奴らと同じなのかと思えば、世のため人の為に働いていたという事か。
思い込みで、酷い態度をとってしまった。
「ごめんなさい」
「ん? なに? なんで僕突然謝られてん? もしかしてイケメン過ぎて、惚れちゃったからごめん的な?」
「本気で言っているんですか? お兄ちゃんより格好いいと、本気で?」
「冗談や! 冗談やで! そないに怒らんといて!」
「別に怒ってませんよ。全然。全く。これっぽっちも、ね!!」
「嘘やん……」
困った様に笑う西宮院さんを無視して私はビルに向かって歩き出した。
しかし、一つだけ言っておく事があったと振り返り、二人に向かって口を開く。
「これから向かう場所は危険なんですよね?」
「はい」
「せや。以前のプールよりもヤバいで」
「……なら、危ない時は無理をせず逃げてください」
「は? なんて?」
「綾様……?」
呆けた様な顔をしている間抜け二人に私は再度同じ言葉を繰り返す。
重要な事なのだからしっかりと聞いて欲しい。
「もう一度だけ言いますから、しっかりと覚えてくださいね。このビルだけじゃなくて、私と共に居て、何か危機的状況に陥って、命が危ない時は、自分の命を第一に考えて、さっさと逃げ出してください。良いですか?」
「いやや」
「申し訳ございませんが、お断りさせていただきます。綾様」
「……これ、命令なんですけど」
「ほか。じゃあ反逆するわ」
「はぁ!?」
「いや、むしろ今の話聞いたら余計に逃げ出す気のうなったで」
「意味が分かりません」
「あぁ。悪い悪い。今のはこっちの言葉で逃げる気無くなったで。って意味でな」
「別に意味が通じない訳じゃ無くて! 何故そういう風に考えているのか分からないって意味です!」
「そら簡単やろ。綾ちゃんの事を気に入ってるからや」
「はぁ?」
「いやはや。まだ数日しか話してへんけど。こんなにおもろい子ぉは初めてや。口では邪魔やとか、あっち行ってろとか言うてんのに、外にずっと居ると疲れるだろうって冷たい飲み物買ってきてくれたりな。走ったんやろうなってすぐ分かるのに、気が向いたからなんて嘘吐いてまでな」
私は不意に指摘された事で恥ずかしくなり、頬が熱くなる。
しかし、西宮院さんだけでなく、東篠院さんも話を続ける。
「そうですね。西宮院修司と意見が合うのは気に入りませんが、私も綾様の事は任務以上に心を砕く必要のある方だと認識しております」
「……なんで」
「そうですね。切っ掛けは綾様が駅で迷子になって泣いている子を見つけた時に自分の予定よりも、その少女を優先した事でしょうか」
「そんなの、誰でもやってるよ」
「そうですか? では意地の悪い事を聞きますが、あの少女はどうして喉を枯らしていたんでしょうか。そして綾様の他に誰もあの少女に駆け寄る者が居なかったのは、何故でしょうか」
「……黙れ」
「承知いたしました。では最後に一つだけ。綾様。私は貴女が何を仰っても、それが本心であるとは思いません。貴女の心の奧にあるものはやはり……」
「黙れ! って、言ったでしょ」
「失礼しました」
知った様な口をきく二人に舌打ちをして、私はビルへ歩き始めた。
そして、私に向かって手を振っている萌花と合流し、ビルの中を歩きパーティー会場へ向かう。
このクソイベントが終わったら、絶対に萌花とその高校時代の友達とやらの縁を切ろうと心に決めて。