そんなこんながあり―――。
「よーし部室も確保できたし、これにてオカルト部発足ってことで!」
俺達は幻妖も消えた空き教室でオカルト部誕生の時を祝っていた。
ちなみに俺と学郎は、先輩の声に合わせて拍手を送っている。
「で先輩、オカルト部が出来たのは喜ばしい事ですけどこれからどうするんです? もう何か幻妖関連の情報があるとか」
「無い!」
うわーお、すっげえ自信満々に言い切られたよ。
俺が言えたことじゃないけど、これから大丈夫なのかオカルト部?
「そもそも今日のところは、お互いの事を知ろうと思って自己紹介の日だしね」
「「自己紹介?」」
「そう、と言ってもほとんど私が夜島の事を聞きたいだけなんだけどね」
「え、お、俺スか?」
「そ、夜島はさこの前に1年の教室が幻妖に襲われた事知ってる? 篠澤が解決した事になってるんだけど」
「あ、はい!」
学郎がそう返すと、先輩は少しだけ首を傾けて訝しげな表情になった。
「それホントは知ってるはずないんだよねー…。陰陽師達が記憶を消してるから……まぁ、それについても今は置いといて」
俺もその辺の詳しい説明は受けてないけど、陰陽師になる素質―――というか令力が使えるようになったらこの記憶を消す術とかにも耐性が出来たりするのだろうか?
先輩と初めて会った時にも俺は覚えてたわけだし。
まあ、学郎の場合は鵺さんの力がそうさせてるとか、なんなら鵺さんがそうならないようにしてるとかの可能性もありそうだけど。
後で聞いてみよう。
「なんで君はそんな力を持ってるの?」
俺があれこれ考えている内に先輩が今回の核心に触れる。
「あ、それはぬ…」
「こんな所に居たのか学郎。教室で待ってなって言ったろー?」
おそらくだが、鵺さんの名前を学郎が出しかけた瞬間に教室のドアがガラッと音を立てて横に開かれた。
そしてその先では、当の鵺さんが何食わぬ顔で会話に参加してくる。
正直こんな人気のない場所で急にドアが開いたからめっちゃ驚いた。
「え、誰?」
「夜島学郎の姉、
突然の来訪者に俺達が驚く中、鵺さんがそう名乗りを上げる。
いや、何故名乗ったし?
「おや、今日もまた仁と一緒に居たのかい? いつも弟と仲良くしてくれてありがとう」
俺は有無を言わさぬ勢いで鵺さんと握手を交わされる。
「えっ、お姉さん? てか、篠沢とも知り合い?」
「間接キスをした仲です」
「違います」
鵺さんがまーたあらぬ誤解を植え付けそうなところをすかさず否定した。
「まったく、仁もお茶目なジョークが分からない子だなー」
アッハッハッ、鵺さんみたいな美人が言うとこの学校ではお茶目なジョークも殺害予告になりかねないので本当に止めて頂きたい。
心臓に悪いとかいうレベルの話じゃないから、いやマジで。
「それはそうとごめんね。会話の途中に入ってしまって」
「あ、いえいえ全然」
「「「「……」」」」
……沈黙が、沈黙が痛ぇ。
「お姉さん美人じゃん!」
その沈黙に耐えかねたのか、先輩が隣に居た学郎を小突いた。
なんかごっとかいう鈍い音がしたような気がしたけど、うん多分小突かれただけだ。
「篠沢もそんな親しい人が居るなら言えってば水臭いなー!」
だって俺なんてまた臀部に蹴り喰らってんだもん…。
これでも幻妖との戦いの日々とか、それ以外でも結構筋トレとかで鍛えているんだけどめっちゃ痛ぇ…。
「だから違いますって…」
俺が言うと先輩は『そうなの?』と言わんばかりのキョトンとした顔で見てきた。
ちくしょう可愛い。
「あの、ぬ」
【すまない2人とも、その名前はあまり呼ばない方がいい。私は幻妖だから、陰陽師に嫌われてるんだ。本当は仁にも伝えるべきでは無かったんだろうけど、あの時は状況が状況だったからね。だから、力の事も学郎の生まれつきという事で話を合わせてくれ】
俺達2人の脳内にだけ聞こえるように鵺さんから指示が飛ぶ。
一瞬どうしたものかと学郎と顔を合わせたが、ここは鵺さんの言う通り彼女の正体を隠しておくことにした。
「この力は、俺の生まれつきの力なんスけど……上手く使えなくて、その時に篠澤くんが色々教えてくれたんス、はい」
「ここだけの話、前の幻妖騒ぎも学郎が力を貸してくれたおかげで退治できたんです」
「そうなん? だったら素直にそう言えよー」
「いや、あの時は急を要したから助力を求めただけで、まだ陰陽師として戦うかどうかも決めてない奴の事報告するわけにいかないと思ったんですよ…」
俺はその場の思い付きを先輩に話す。
実際嘘は言ってないわけだし。
……半分は。
「んでぬ……沙鵺子さんはここに何しに来たんですか?」
「おっとそうだった。3人はここで何をしてるんだい?」
鵺さんの言葉に先輩が反応した。
「あっ、実はオカルト部を創ろうかと思いまして」
「へぇーいいね! あ、それじゃ早速1つネタを提供してもいいかい?」
「えっ、ありがとうございます」
冷や汗をかく俺と学郎を余所に、美女2人の会話が繰り広げられる。
いや、オカルト部云々はあなた盗み聞きしてたでしょ…。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それでは失礼しました。学郎、晩飯までには帰るんだよ」
話を終え、鵺がオカルト部部室(無断)を後にした。
そして、その場には七咲、学郎、仁の3人が残った。
「それじゃ、お姉さんの行ってたとこに1回行ってみよっか。幻妖がいるかもしれないし、ほい篠澤も準備準備!」
「え、ああはいはい」
「『はい』は1回」
仁と七咲はそんな話をしながら霊衣に換装する。
「それにしても、西棟の3階で物音ですか。でも今は使われてないんですよね?」
「そそ、この学校って生徒数の割には教室多いんだよ」
他愛ない会話を繰り広げる2人の横で学郎は汗をかきながら機をうかがい、そして意を決して2人に聞いた。
「あっ、その服ってどんな仕組みなんスかね…」
だが、自然な会話をする仁達を気遣ってか視線は2人から外れてしまっている。
「ん? 霊衣の事? え、夜島はなれないの?」
「いや、そんな事はないはずですけど(前の時にはなってたし)」
「……じゃあ、お姉さんが教えてあげよう。これは霊衣って言ってね、陰陽師が最初に覚える術なんだ。この状態だと人に見えないから便利なんだよね」
「な、成程…。俺、知らなかったです」
「……ふーん?」
緊張する学郎。
そんな学郎の顔を、七咲はジト目で覗き込む。
「夜島!」
「は、はいっ!」
突然横から名前を叫ばれ、学郎は驚く。
だがそんな彼に差し出されたのは、優しい笑顔と、左手だった。
「手、出して」
「え? あ、はい」
訳も分からぬまま手を差し出した学郎の右手は七咲の左手に掴まれた。
「このまま行こう。夜島は朝の事もあるし、まだ知らない事も多いだろうから温存しておかないとね。それにこうしてたら君も人から見えなくなるから大丈夫。西棟3階は立入禁止だから念のため」
「……それなら俺が引っ張ればよかったのでは?」
「篠澤は道中何かあった時の護衛!」
特に何も起こらんでしょ。
と、仁は心の中で思いながらも2人の前を歩き出した。
そして教室を後にしてから少しだけ歩いたところで、
「あっ、すいません、俺手汗が…。やっぱここらへんで」
学郎が唐突に言い出した。
「ん? なに、緊張してるの? 美人のお姉さんがいるのに」
「めっちゃします」
「あはは、夜島は面白いね。そういうとこだけはハッキリ言うんだもん、まあ、もうすぐ着くから頑張れ!」
そんな会話をした最後の七咲の顔は、照れの感情が混ざったのかほんの少し赤くなっていたが、緊張でそれどころではない学郎と、2人の前を行っていた仁には気付く由もない。
そうしてまた歩き、目的地付近に近づいた時、3人は六つ脚の布を被った幻妖と遭遇した。
その様相に、この場で1番陰陽師としての歴が長い七咲は驚く。
「うそ、レベル2の幻妖だ」
「またか…」
「え、何かやばいんスか?」
状況がよく分かっていない学郎に七咲は簡単な説明をした。
レベル2の幻妖はレベル1の幻妖が16体以上合体した存在であり、人体を模した部位と布を被っている事、そして何より一般人にも見えるようになり物理的殺傷力を獲得する事。
「合体が出来る幻妖は少ないからレベル2は滅多に見ないんだ」
そんな会話の最中、幻妖は3人に襲い掛かる。
そしてその瞬間、学郎の顔は柔らかい感触で包まれた。
「俊敏性特化した固体みたいだね」
七咲は学郎を抱きかかえ、宙に浮きながら敵を観察する。
学郎はそんな彼女の様子に困惑しながらも、この場へ共にしたもう1人、自分の友人である男の存在を懸念した。
「っ! 篠澤くんっ!」
「…大丈夫、速いだけの固体なら、心配ないよ」
七咲が笑う先では、突進を真正面から受け止め、幻妖の顔を押さえている仁の存在があった。
「ぐっ…!」
眼前にいる仁を喰おうと判断し、幻妖は口を開こうとする。
しかし―――
「臭え口…、開くな…っ!」
開く直前に仁の膝が幻妖の顎を捉える。
その勢いにより幻妖の歯の1部が砕け、破片が仁の横を舞った。
だが、そこで止まらずに仁は続けざまに幻妖の顔に自身の頭を何度も何度も打ちつけていき、空間には鈍い音が響いている。
「おぉ…、篠澤も強くなったねー。夜島、大丈夫?」
たった1人で幻妖を圧倒する仁に感心の声を漏らしながら、七咲は自身の腕で抱いている学郎を気にかける。
「あ、ありがとうございます…!! あっ、今自分で立つんで…!」
「こーら、無理しないの! ここは私達に任せて」
慌てる学郎を優しく諭す七咲。
そんな彼女に背後から幻妖が嚙みつこうとするも、顔の向きは変えず後方に高速の蹴りを繰り出す。
が、事前の予想通り俊敏性に特化しているだけあり、幻妖すんででその攻撃を躱した。
「躱された! ってか、篠澤は!?」
「ここです! おりゃあ!」
廊下の壁を蹴りつけ、七咲の攻撃から逃れた幻妖に仁は飛び蹴りを喰らわせようとするが、これも躱されてしまい仁の体は後ろにあった空き教室に飛び込んでしまう。
「篠澤くん…っ!」
その様子を見ているだけだった学郎は自身も戦いに加わろうとする。
「イッてて、心配すんな学郎…! この程度なら、流石に大丈夫!」
煙の中からすり傷を付けた仁がそう言いながら構える。
「その前に何で逃げられてんの?」
「あとちょっとの所であの野郎、逃げることに全力出してきてすり抜けられました」
「スピードじゃ篠澤は勝てないかー」
「面目ねえ…」
そう会話する仁と七咲をじっと見つめる幻妖。
そして踵を返し、眼前にいる3人に背を向けて走り出した。
「逃げた…! 下に行く気じゃ…」
そう言いかける学郎の横を突風が駆け抜け、一瞬のうちに七咲は幻妖に追いついていた。
「(速ぇ!)」
「あいかわず凄いスピードですね…! ……行けるか?」
「え、あ……うん!」
仁の言葉でハッとなり、学郎も霊衣になろうとする。
その先では、七咲の蹴りが幻妖に再び躱され、廊下を突き破っている。
「ホンットにすばしっこい奴…!」
戦う事ではなく、目の前の
しかし七咲の霊衣、その脚部の横にある2つの輪から廊下の床、そして壁へと伝達した令力が幻妖の先回りし、そこに複数の巨大な棘の壁が形成された。
「篠澤!」
「了解!」
七咲の横を走る仁。
その速度は七咲やこの幻妖と比べるべくもないほどに遅いが、先に逃げ道を塞がれていては関係ない。
もっともそれは、他に逃げ道が無ければだ。
「っ!!」
ガシャン! と大きな音を立てて窓から飛び降りる幻妖七咲の反応は一瞬遅れた。
これに反応したのは、彼女に実力が劣る2人だ。
「ま、そこに逃げるよな当然…」
幻妖を追って飛び降りる仁。
そして
「先輩! 俺が倒します! 受け止めてください…!」
さらに後方の窓から霊衣に換装した学郎の剣が幻妖に迫る。
「(2人とも窓から逃げることを読んで…!)」
後輩2人に感心させられるも、一刻を争う事態に七咲も飛び降りる。
「了解! 任せて!」
逃げ道の無い空中。
それでも尚、生き残るために逃げようとする幻妖。
だが、その首元は後ろからガッチリと両の腕で拘束された。
「おーっと、へへ……もう鬼ごっこはさせねえぞ! やれ学郎!」
「…うん!」
身動きできない的になった幻妖は、学郎の剣により斬り伏せられた。
その様子に、七咲の頬を一筋の汗が伝うものの、彼女の顔は笑っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その数時間後―――。
「なるほど、つまり仁君はその生まれつき力を持った一般人の子と共に幻妖を倒していたと。ふー、そういう報告はちゃんとしなさい」
「すいません」
七咲と仁はメガネをかけた男性の陰陽師の前で今日の事を報告していた。
「まあ、仁君の例もありますしそう言う事もあるのでしょう。ただ、一般の生徒にこれ以上被害が及ばないよう警備を置かなくてはならないでしょうが、人手不足ですぐには」
「あ、ではもしよろしければその間は私と篠澤、それから今回報告した彼で組んで幻妖を倒すのはどうでしょうか?」
七咲の提案に男性は少し驚いた様子を見せる。
「それは珍しいご提案ですね」
「まあその…相性が良かったというか」
「そうですか、ではよろしくお願いいたします。あと、仁君」
「はい?」
「そのケガはどうしたんですか?」
男性は仁の頭に出来たたんこぶを見て聞く。
「あー、名誉の負傷です」
「?」
そして、時間は再び幻妖を倒した直後に巻き戻り、学郎は再び七咲の腕に抱かれていた。
七咲は先ほど輝かしい活躍を見せた学郎の顔を見て屈託ない笑顔で、
「夜島合格!」
と言った。
「え、何がっスか?」
「内緒! それよりも、これからよろしくねオカルト部!」
「は、はい…こちらこそよろしくお願いします!」
「夜島ちゃんとこっち見ろー」
空中でそう話す2人の耳に突如として轟音が響いた。
その正体は下にあった今は使われていない倉庫の天井に大きな穴が開いたことであるのはすぐに分かり、何よりその原因も明白だった。
「「あっ…」」
「ごめん、篠澤」
そして倉庫の中では、
「イッテ―!! コブできた…!」
1人七咲の救助を得られずに落下した仁が頭を抱えていた。
周防先輩の仁に対する接し方が雑なように思えますが、これは先輩なりに同じ陰陽師として見てきて仁の耐久面を知っているが故のものです
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