陰陽師になって早2ヶ月の時が経った。
そして今、俺は再びお世話になっている上司と向き合っている。
「では、今一度君の任務について確認しておこう」
「これから北高に入学して、あそこで幻妖が多発するように原因を周防先輩と一緒に調査する事」
「よろしい。物分かりのいい後輩が出来て、お姉さんは嬉しいぞ~」
「……物分かり良いんですかね?」
俺は自分の頭を撫でてくる周防先輩を横目に話をする。
この2ヶ月間、先輩指導の下幻妖とは幾度となく戦ってきた。
そこで分かったのは、先輩が陰陽師として優秀である事と、俺に陰陽師としての才能が無いかもしれないという事だ。
2ヶ月の間でどれだけレベル1の幻妖に負けそうになって先輩に助けられたことか。
本当にあの時あのデカいやつやったの俺だったのかな……自信無くなってきた。
「まあ、思う所はあるかもしれませんが、それでもあの地域の幻妖は今のところ君たちだけで十分に対処可能なほどであるはずです。説明した通り、命だけは守るよう心がけて行ってきてください」
「死ななきゃ治してもらえるわけですもんね」
陰陽師には復元部隊という人の怪我や建物の損壊を無かったことにすることに特化した部隊があり、俺の居た孤児院を直したのもこの部隊らしいし俺自身も何度もお世話になった。
「まあ、1度は死にかけて拾ってもらった身なんで、頑張ります……痛て」
「こ~ら、そんな言い方お姉さんは感心せんぞ」
撫でてかと思ったら今度はチョップで頭を叩かれた。
それにしても、学校か。
「楽しみだな」
俺は青空を見上げてそう呟いた。
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呆気なく、自分でもびっくりする程呆気なく入学式も自己紹介も終わった。
「膳野君だったっけ?
これからする事を考えながら窓でも眺めていると、そんな声が聞こえてくる。
お、さっそく交流が行われてるのか、そういう事できる奴がクラスの中心になるんだよな。
「それでさ、パン買ってくるのお願いしてもいい? 3人分何でもいいんだけど」
「うわ~! 60円あったらなんでも買える~!!」
訂正、正真正銘紛うことなきクズだった。
入学早々パシリとか他にすることないのか。
「いやてめぇらで行ってこいよタコ」
そう言い返したのは膳野と呼ばれていたおかっぱ頭のメガネ。
嘲笑ではなく見た目そのまま述べただけなので勘違いしないでほしいが、俺はあっちの3人みたいに見下す気はない。
が、空気が一転して一触即発状態だ。
……このままだと幻妖がここに集まってクラスの誰かが取り憑かれる恐れもあるし、とりあえずあの3人を伸す事でこの場を収めよう。
幻妖じゃないし楽勝だろう、弱い者いじめみたいで気引けるけど。
「あ、あのっさぁ…俺が代わりに勝ってきてもいいかな…?」
そう言いのけて間に割って入ったのは、黄緑の髪とその一部から顔にかけて痣のようなモノを付けているクラスメイトだった。
自分からパシられに行くとは変わったやつだ、面白そうだし後で仲良くなれるよう頑張ろ。
俺はその一部始終を見届けると、一先ず先輩に話を聞きに行くことにした。
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「あの~、すいません」
「ん? 君、1年生かい?」
「そうです。さっき入学式を終えて、ちょっとこの教室に居る先輩を呼んでほしくて」
「いいよ。誰かな?」
屈強そうな先輩だが、人当たりは良さそうで安心した。
「えっと、周防七咲先輩を―――」
俺が先輩の名を口にした瞬間、クラスの男子生徒がこぞって入口に集まってきた。
そして先ほどまで笑顔だった先輩までも真顔になり俺に言う。
「周防さんに、何の用だい?」
「いや、だからちょっと話がしたいから呼んでほしいんです」
「残念だったな少年」
1年しか年違わないのに!?
「君のように入学したの小僧が気安く話せるほど、周防さんは安いお方ではない。我々ですら3天女の彼女と同じクラスであるというだけで望外の喜びなのだ」
3天女ってなんだよというツッコミを入れたいが、どうやら先輩はとてつもない有名人らしい。
「そんな彼女に話したいという事は相当重要な用事なのだろうな。……は、まさか貴様周防さんと付き合って…」
「違います」
『何ぃ!!』
「だから違います」
「だとしたらこれから告白するつもりか!?」
「ただの知り合いで恋愛感情の類はございません」
盛り上がってる先輩たちを前にして淡々と俺は言う。
やかましいけど、1周回って面白いなこの先輩たち。
「こら、下級生イジメてどうすんだ。スー、何か後輩が話あるんだって」
「ん~? おー、篠澤じゃん。入学おめでとう」
盛り上がる先輩を押しのけて今度は女子の先輩が周防先輩を呼んでくれた。
「どうした~、お姉さんに相談事かな?」
「お、お姉さんだと…!? まさか君は周防さんのおとう…」
「違います、ただの知り合いです。先輩、ちょっとお話あるんでお時間良いですか?」
俺が言うと周防先輩は快く顔を貸してくれた。
教室を去る際の刺すような視線はとても気になったが―――。
「いや~、アレは噂になるかもね」
「ただ騒ぎたいだけなのでは?」
「いやいや、篠澤はウチを甘く見てるね」
そう言った先輩もまた少し疲れたような笑顔を浮かべていた。
多分、先輩も3天女とやらの事で色々あったんだろうが聞かないでおこう。
「で、聞きたい事ってのは陰陽師の事?」
「ええ。具体的に学校で俺は何すればいいのかなと」
「う~ん、とりあえずは見回りかな? 篠澤もここに来るまでに結構な幻妖見たでしょ?」
「はい」
幻妖といってそのすべてが害を生すわけではない。
ここに来るまでのほとんどは無視しても問題ないと判断したほどだ。
まあ中には危険そうなのも居たからそれは周囲に注意して祓ったけど。
「ま、本格的な見回りは放課後にして。まずは学校見学程度にしときなよ」
「分かりました、ありがとうございます。それと……」
「ん?」
「視線が痛いんですけど…」
俺は後方から俺たちの動向と探る先輩のクラスメイトであろう人たちを指差す。
「……ごめん」
先輩は苦笑いで言う。
しかし、その直後だった。
俺がその気配に気付いたのは。
レベル1やそれにも満たなそうな幻妖とは明らかに違う、あの夜に近い気配。
しかもそれを感じた場所は、俺の教室のように感じる。
「この気配、とにかく連絡……って篠澤!?」
俺は先輩の声を後ろに走り出した。