鵺さんに連れられるまま、俺と学郎はまたしても鵺さんの部屋に来ている。
そして今、俺の前では学郎と鵺さんによるポニケンカード、通称ポニカーのバトルが繰り広げられていた。
「成程これで鵺さんのサイドがゼロになって、俺の負けと」
「そうそう、覚えるの早いね」
「オモロいスね。ルールもシンプルだしもっかいやりませんか? 完全に覚えたんで」
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「成程これで俺のドローできる手札が無いから、俺の負けと」
「そうそう、もう完璧じゃないか」
「オモロいスね! しかもこれで3戦目、そろそろ勝てそうっス」
「おいおい学郎次は俺の番だろ? もう2人のを見て鵺さんが使うデッキの癖は見抜いたからな」
俺はエアコンの効いたこの部屋で麦茶を飲みながら学郎に言う。
……え、この麦茶はどうしたのかって?
そりゃ2人がカードしてる間に買ってきたに決まってる。
「言うねえ2人とも、それならそろそろ私も本気のデッキでやろう」
鵺さんは隠していたかのように新たなデッキを取り出した。
「バカな…! あれが本気じゃなかっただと!?」
「いいね仁。そういうノリのいい子は私も好きだよ」
「素直にありがとうございますと言っておきましょう。ボコボコにされてなければもっと素直に受け取れたんですけどね」
「というか鵺さん、手抜いてたなら1回くらい勝たせて下さいよ…」
「甘えるな学郎。私は昔、それで友達を無くした事があるからわざと負けたりはしないよ」
鵺さんは笑いながら学郎に返した。
手を抜くのはいいが、わざと負けるのはダメとは不思議なもんだ。
「まあ確かに勝ちを譲られるのはこちらとしてもいい気はしないな。よし、この際当たって砕ける覚悟で挑んでやる!」
「素晴らしい心意気だね仁! 思いっきりかかってきたまえ!」
その後、俺と学郎は共に本気を出した鵺さんのデッキに完膚なきまでボコボコにされた。
そうして、そこからまた少しの時間が流れ俺は漫画片手に2人のカードをまた眺めている。
「それにしてもカードゲームも知ってるとは、漫画にアニメに手広いスね」
「な、これなんてこの間出た新刊のはずなんだけど」
「人の生み出した娯楽は素晴らしいものだからね……私にとってはどれも興味が尽きないものさ」
「?」
なんだろう今、鵺さんから少し寂しそうな気配を感じた気がしたけど
「鵺さ…」
「なんか、鵺さんが人を助ける理由が分かった気がします。娯楽を守りたい的な…」
その気配の正体を聞こうと思ったが、学郎の声に阻まれたし、この状況で聞くのは無粋だと思うのでやめておこう。
「そうだね、勿論それもあるけど。私は単純に人間が好きなんだよ。だから学郎が私と契約してくれたことはとても感謝している。それに仁にもね」
「俺もですか?」
この話の流れで俺が呼ばれることは無い気がするんだが、何かしたっけ?
「実は昨日、私がずっと使っていた幻妖を集める道具が壊れてね。これまで以上に校内で幻妖が活発化すると思う」
「でもそれは陰陽師が来てくれるんじゃ…、だって実際篠澤くんも来てくれてますし」
この場に居ないけど周防先輩もいるしな。
「陰陽師は昔から人手不足だからね、すぐに対応っていうのは難しいと思う。だから仁にも感謝しているのさ。これから学郎には、私に代わって校内に現れた幻妖を倒してほしい、けど今、学郎は力を得たばかりだ。連続で使えば危険が生じる可能性がある、そこで陰陽師である仁にも同様に幻妖を倒していって欲しいわけだよ」
あ、成程。
さっき言ってた俺への感謝っていうのはそう言う事だったのか。
「俺は別に構いませんが」
「ありがとう。だけどまあとりあえず、今は学校生活を楽しもうぜ!」
鵺さんは制服姿に換装し、腕を組んでそう言った。
「えっ!?」
「まさかと思いますけど、俺たちの教室に付いてくる気ですか?」
「大丈夫、見つからないようにこっそり行くさ」
「もし見つかったらどうする気で?」
俺が聞くと鵺さんは学郎の肩を叩いた。
「学郎、見つかったその時は血の繋がってない姉弟だと言い張ってくれ!」
「お願いしますから絶対に見つからないでください…!」
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そうこうあって俺たちは教室に戻る。
そして―――
「おい夜島、篠澤! 今朝一緒に居た女子は誰だ!?」
「めっちゃくちゃ美人だったじゃねえか…!」
同じクラスの膳野と
「(もう既に見つかってるし…!)」
「残念だったな」
手遅れ状態の学郎の肩に手を置いて俺は言った。
見捨てられたような視線を横から感じるが、この場は無視の方向で行こう。
「あ、あの人は……俺の血の繋がってない姉ちゃんなんだ」
「なんだよそりゃあ…。エッチすぎんだろ…!!」
「おお”お”お”お”おー!! ごはぁぁっ!! 羨ましすぎる」
柘植本よ、血の繋がってない姉のどこにエッチを見出してんだ。
それから膳野、教室をそんなに荒らすんじゃない。
「いやしかし待て……夜島は姉弟だから分かったが、どうしてその姉ちゃんと篠澤が知り合いなんだ」
「あー、実はな」
『さてと、何にするかな?』
『や、少年』
『……誰ですか?』
『いやー何、昨日は私の弟がお世話になったって聞いたからね。ここはお姉さんがジュースを奢って上げよう』
「というやり取りがあって仲良くなっただけ」
『ちくしょー!! なんでお前にはそんなご都合展開が起きるんだよ! あんな美人とお近づきなんて羨ましいにもほどがあんだろ! 1回帰れ!』
捏造したやり取りで何故ここまで言われなきゃならんのだ。
しかもそこまで羨ましいやり取りだったか?
あ、学郎また絡まれてる。
「やれやれ、忘れ物だよ学郎」
「え」
「あ」
「は?」
「仕方ないから私が持ってきてあげたよ。このポニカー新弾拡張パックパトリオットネメシスをね!」
わちゃわちゃガヤガヤしている教室に、騒ぎの張本人である鵺さんが入ってきた。
……いや何してんのこの人?
何さも当然みたいな空気で入ってきてんの、しかも普通ねえよそんな忘れ物。
「お、仁じゃないか。まったく、美味しかったかい? 私の奢ったジュースは」
全員の(嫉妬に満ちた)視線が俺に注がれる。
しかも聞かれてたのかよクソが…!
「誰に奢ってもらっても同じでしょ」
俺が平静を装って言う。
するとその様子が面白くなかったのか、この人はとんでもねえ爆弾を投下してきた。
「何を言う、せっかく君が飲む前に私が味見をしてあげたというのに……勿論、同じボトルをね」
『!!??』
今度は俺と学郎も含めて全員が驚愕した。
そして膳野に俺は肩を掴まれる。
「おおおおお前おま、お前……それは俗に言う間接キスだろ! あんな美人とそんな事が出来て普通の仲のわけないだろ!」
「落ち着け膳野! そんな血走った目でこっちを見るな怖えだろ! アンタも変なこと言わないでください!」
「そんな! 私もあんな事したのは初めてだったのに…!」
ウソ泣きする鵺さん。
その様子にクラスが騒然とする。
『おおおい! 篠澤、お前やっぱ今日帰れ!』
「なんで俺が悪者の空気なんだよ!」
「ハハハ、なんだか2人のクラスは面白いクラスだね」
あの人、爆弾だけ投下してなに笑ってんだ!?
という騒然としたクラスのドアが開けられ、廊下から浜本先生が入ってきた。
―――左右の目は別々の方を向き、目元には血管を浮かべて、口からは涎が垂れている。
誰が見ても異様なその姿に、俺、学郎、鵺さんはすぐに先生が幻妖に憑かれている事を理解した。
そして、幻妖に憑かれた浜本先生の視線が鵺さんに注がれる。
「おい、誰だおめぇ」
「ん? 私? いやー悪いね、少し…」
「おいいいおいおい! 誰だっつってんだよ! お前は何なんだってんだ…」
「うるせえよ…、てめぇこそ人の先生に取り憑いて何しようってんだよ」
俺は浜本先生が鵺さんに向かう前、皆の視線が今度はその異様に向けられた時に霊衣に換装した。
そして浜本先生を窓の外に放り出す。
人に取り憑く辺りこの幻妖は十中八九レベル1。
そんな幻妖を引きはがす簡単な方法は1つ、宿主が危機に瀕する事だ。
「出たな」
浜本先生の体から抜け出た幻妖が俺に向かってくる。
俺も全身に力を込め、体からあのオーラが出たのを確認して幻妖を殴りつけた。
幸いにもかなり弱い幻妖だったのか、すぐに祓えて良かったと思いながら俺は浜本先生を抱きかかえて地面に着地した。
「痛ぇ」
「ん? ここは…、おお篠澤」
「おお篠澤じゃないですよ」
俺は霊衣を解いてみんなの視界に戻る。
『うおおお―――!! 何が起こったんだ!? つーかなんで篠澤がそこに居るんだよ! 先生も何か元に戻ってるしよぉ!』
「お疲れ、仁」
「……学郎の出番取っちゃいましたかね?」
「そうだね。けどまあ、今日は休もうって言ってたし、あの判断力は流石だよ」
いつの間にかそこに居た鵺さんがそう言う。
今日の事もきっとクラスの皆の記憶から消える、が―――。
「篠澤くん!」
「おう学郎、悪いな、今日は俺が貰っちまった」
「う、ううん…それよりも、お願いがあって」
「お願い?」
「俺に戦い方を教えてくれないかな?」
未熟者の俺でも何かを変えることは出来たらしい。
目の前の友達を見て俺はそう思った。
「悪い、それは無理だ」
その時の口をあんぐりさせた学郎の顔はとても滑稽だった。