学郎と共に夜の学校で戦ってから数日が経ったある日―――。
「おっす篠澤、学校行こうぜー」
俺は軽い敬礼をしている先輩にそう言われた。
北高の男子なら周防先輩と一緒に登校できるなんて今後の人生において一生の自慢、とか言うかもしれないが俺は違う。
こういう時の先輩は何か裏がある、俺の大して信頼のない第六感がそう告げている。
「何も無いから安心してってば、もー私そんなに信頼無い?」
心を読まれた。
鵺さんといいあっさりと人の考えている事読んでくるのは心臓に悪いから止めて頂きたい。
あと、念押ししておくが俺は周防先輩が嫌いではない。
というか嫌いなわけない、文字通り天涯孤独の身になった俺を陰陽師に誘ってくれたのも周防先輩だし、手解きをしてくれたのも先輩だ。
感謝こそすれど嫌うなどという事があろうはずもない。
「いや、先輩の事は信頼してますし信用してますよ」
「ふふん」
俺が言うと先輩はドヤっとした表情を浮かべる。
可愛らしいが何かこう……
「ムカッとしますね」
「おいこらっ」
つい口から出てしまった言葉で先輩から頭にチョップを貰ってしまった。
でもまあ、アイツの事を話すにはいい機会かも。
いやむしろよく今まで話さなかったな俺。
「でもまあ、確かに先輩に話したい奴も居るんで、一緒に行かせていただきます」
「……よろしい!」
俺は身支度を整えて先輩と共に通学路に着いた。
「ってか先輩?」
「ん?」
「何憑けてるんです?」
「え…幻妖」
そんな今流行りのアクセサリーみたいな言い方されても。
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「へ~、そんなに凄い人なんだそのお友達」
「凄いのは凄いんですが……歴史上類を見ないお人好しと言いますか、パシリを肩代わりするような奴ですし」
俺が言うと先輩は笑っていた。
「でも、篠澤がそんなに言うならその人も誘ってみて良いかもね」
「誘う? 何にです?」
「私ね、オカルト部を創ろうと思ってるんだ」
「頑張ってください」
「待てい」
足早に去ろうとする俺の襟を先輩に掴まれる。
首が締まりかけるので止めてもらえると非常に助かる。
「部といってもすぐに申請が通るわけないし、定期的に集まれる場所が欲しいの。勝手にどこかに行く誰かさんを引き止めることも出来るし」
「……そんな奴が居るんですか、酷い奴も居たもんですね」
「こっち見ろー」
「ってかいつまで
俺は先輩に憑いた幻妖を指差して言う。
道中聞いた話では、これはいわば囮だとの事だ。
最近校内で幻妖を退治して回っている人間が居るのは先輩も承知の上、ただその全てが俺の仕業だとは判断してないようで、件の人物を割り出すために自分の身を使ってこんな作戦を立てたとか。
「つーかなんで全部が俺の仕業とは思われないんですか」
「あれ? 篠澤気付いてなかったの?」
「?」
「君の教室で騒ぎがあった日から、たまに篠澤の後をつけてたんだよ、私」
「何ですって?」
「で、たまに篠澤が何もしなくても幻妖が退治されてたから、『あ、これは篠澤の他にも幻妖退治してる人が居るな~って気付いたの』」
まさか尾行されていたとは、まったく気付かなかった。
そういえばたまに男子生徒からとてつもない殺意がこもった眼差しで見られる事もあったし、話しかけたら悟りのような空虚な目で見つめられる事もあったけど、あれは近くに先輩が居たからだったのか…。
「ただ、今篠澤の話を聞いたおかげで後はその彼が声をかけてくれるのを待つばかりだね」
そんなに都合よく学郎が声をかけてくるわけ―――。
「あ、あの! 今っ…体調とか、悪かったりしないです…か?」
どうしてお前はこうベストタイミングで声をかけてしまうんだ学郎。
「うん! 悪い! 何? 君がもしかして噂の夜島くん!?」
「え、なんで俺のこと知って…あれ? 篠澤くん?」
「……おはよう」
俺は頭を抱えながら学郎に挨拶を返した。
ちなみにその後、先輩に憑いていた幻妖は学郎が祓った。
「前に話したろ? 俺が世話になってる陰陽師の先輩が居るって」
「あ、うん……確か幻妖より厄介って…」
学郎の言葉と同時に俺は走り出したが、あえなく先輩に捕まった。
クソ! 鵺さんといい先輩といい、どうしてこうも悉く逃げることに失敗するんだ俺は!
「その話詳しく聞きたいな~、ねえ夜島。幻妖を祓ってくれたお礼もしたいし今日のお昼、篠澤も交えて3人で話そうよ。ご飯奢るからさ」
「え! そ、そんな、先輩に奢ってもらうのは悪いと言いますか…」
「いいのいいの、私がそうしたいんだからさ。じゃ、今日のお昼学食に集合ねOK?」
「は、はい」
「じゃ、待ってるからねー。それじゃあ行こっか、し・の・ざ・わ・♡」
俺は先輩に襟を掴まれたまま引きずられていった。
その視界の向こうで学郎が『もしかして、俺のせい?』みたいな顔をしていたが気にするな、お前は悪くない。
今回の事に関しては全てにおいて俺に非があるからな。
ちなみにあの後俺の身に何が起こったかは言うまでもないが、登校した瞬間にクラス連中から『おおおい篠澤! お前あの周防七咲先輩と一緒に登校したばかりか、あの人に笑顔で手を引いてもらったと聞いたぞ! 夜島の姉ちゃんとの間接キスといい! なんでお前ばっか美味しい目に遭うんだ!』と言われたので今後2度と先輩と一緒に登校する事は止めておこうと心に誓った。
ってか間接キスはしてねーって。
周防先輩のキャラが原作からブレてる気がして気が気でないよ