「……」
「し、篠澤、くん…」
「…ふーっ」
朝の騒動があった後、俺達はまた鵺さんの部屋で遊んでいた。
だが、俺の現状を見て学郎は顔を引き攣らせつつ心配してくれている。
その一方で、鵺さんは俺から顔を逸らしてプルプルと震えていた。
そして―――
「アーハッハッハ!」
堪えていたダムが決壊した。
鵺さんは俺と学郎に挟まれながら隣で大笑いをかましている。
顔面晴らして頭にコブ作ってる人間への仕打ちかこれ?
ちなみに、手当は一応先輩がしてくれた。
やり過ぎちゃったことへのお詫びらしいが、可能なら加減を覚える事を詫びにして欲しい。
「そんな大声で笑わんでも…」
「ふふふ…いや、すまない」
その笑い声を聞いて、怒りや恥ずかしさよりもいっそのこと笑い話にでもなった方がいいかもと思うようになってしまった。
「しかし何だ、学郎を心配していたが、ちゃんと青春の水端に来ているようで安心したよ。仁に感謝しなよ」
「いや来てないです。篠澤くんはこんな俺とも仲良くしてくれて感謝してもしきれないですけど…俺泥だから流れないスよ」
「学郎、自己評価は人それぞれだがいくらなんでも泥は低すぎねえか!?」
泥は人間に対する評価じゃねえのよ。
何でコイツはそんなに自己評価を下げたがるかね。
「いやいや篠澤くん……俺みたいな奴には篠澤くんや膳野くん、柘植本くんみたいな普段から話してくれる友達が出来るだけで嘘みたいなんだから」
「よし分かった。今から君が吐く言葉は全て甘酸っぱいものと見なす。どんどん予防線を張ってみたまえ」
「話さなきゃよかった…!」
「安心しろ。お前が話さなくても俺が話す」
「逃げ道すらない…!?」
俺達の言葉に動揺する学郎。
だが、一呼吸挟んで学郎は言葉を続けた。
「凄く優しい人で、律義にしてくれてるだけですよ。そんな人に対して下心を持つわけには…」
優しい…?
同じ空間にボコボコにされた奴が居て出る感想かそれは。
俺がふと横に目をやると、鵺さんは優しい顔つきで学郎を見つめて言った。
「君自身は気になってるって口ぶりだね」
一瞬、その空間の時間が止まったように感じた。
だが、そんな俺の甘酸っぱい幻想はすぐに打ち砕かれる。
「俺は…! 無い…!! もし俺が女子だったとしたら、俺だけは…絶対にない!!」
今までになく強い言葉で学郎は言った。
その言葉に俺は思わず前のめりで倒れてしまう。
「ごめんごめんもう言わないよ。ホントに自己肯定感低いな君は。仁を見たまえ、あまりの勢いに倒れてるじゃないか」
「……仮に今は無かったとしても、これから可能性あるかもしれねえじゃん」
「無い…!」
ダメだこりゃ。
今の学郎は『無い』という言葉を繰り返すだけのロボットになっちまってる。
別に人にどうこう言える立場じゃないけどビジュアル的に学郎は人気出ると思うけどな。
この卑屈さに対して異常な自信を持ってる所さえ無くせば。
「……まあこればかりは仕方ない、時間をかけて見つめ直すしかないからね。ただ、お節介を言わせてもらえば私の見立てだと君は守る者がいた方が強くなれると思うのだけどね。それに、せっかく仁が連れてきた陰陽師の知り合いだ。仲良くなるのも大事なことさ」
鵺さんの言葉に、学郎の頬を一筋の汗が伝った。
「鵺さん俺は?」
「んー、素質はあると思うんだけど、正直仁についてはよく分からないね」
「えぇ…、結構強くなっていってると思うんですけどね」
「ふふ、まあ強くなりたいと思うのは大事なことさ。頑張れ」
倒れながら俺は鵺さんに頭を撫でられた。
それから部屋を去った後、俺は廊下で声をかけられる。
「おーい篠澤ー、ちょっといい?」
「っ!?」
声の主は当然周防先輩。
俺は今朝の事とここが校内、しかも廊下である事から距離を取った。
「そんな離れるなよ傷付くなー」
「いや、すいません。つい体が…」
「悪かったって、やり過ぎたってば。んで本題なんだけど、今日の昼食にちゃんと夜島連れてきてね」
俺は警戒を解いて先輩と向き合う。
「学郎ですか?」
「うん。ほら、彼いい人そうだけど、遠慮して来ないかもしれないじゃん」
俺は目を閉じたが、その姿が一瞬で想像出来てしまった。
けど、人の好意を無下にする奴でも絶対にないし
「俺が連れてかなくても来ると思いますけどね」
俺は先輩にそう答える。
「まあまあ篠澤にもお詫びに何か奢るからさ」
「……一応聞いておきたいんですけど、断るという選択肢は?」
「うん?」
俺が聞くと先輩は往来の場所だというのに拳を構えた。
あ、ダメだ。
断ったらまたやられる。
「先輩、俺に対して暴力という手段を取ることに抵抗無いですね」
「うーん、何ていうのかな。篠澤はね、そういう事しても許されそうっていうか気軽に話せるいい友人みたいな感じするんだよね。人間性ってやつかな? あ! ……篠澤だけだよ、こういう事するの? ってやつ」
頬染めながらサンドバック宣言される俺の身にもなってもらいたいものです。
しかもそれが人間性で暴力振るわれるっていうなら尚の事勘弁してもらいたい。
だが、
「ワー、スオウセンパイノヤクニタテテコウエイデスー」
周りの視線がそれを言葉にするのを許さなかった。
どうして俺の周りにはこうも味方がおらんのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうこうしている内に、時間はあっという間に昼食時になり、俺と学郎は学食に来ていた。
流石にここなら周囲の目を引くことはなさそうで安心した。
「学郎、そんな顔するな。もっと自然体でいろ」
「だ、だって…」
学郎は俺の横でとても強張った表情をしながら立っていた。
心音がこっちまで聞こえてきそうだ。
「だーれ待ってるの? 彼女?」
「うおっ!」
そんな学郎の後ろから周防先輩が声をかけ、学郎は一気に飛び跳ねた。
「……後輩を驚かすのはあまり感心できませんよ?」
「あははは! ごめんごめん! ……うんうん、2人ともちゃんと来てくれたね! 偉いぞー!」
「あ、いや。あざす」
「じゃ、さっそくご飯頼んで話しますか。何好きなの?」
周防先輩奢りの元、先輩と学郎はラーメン、俺はかつ丼を頂くことにした。
「篠澤はかつ丼か、べただなー」
「王道と言ってください。2人だってラーメンという鉄板メニューじゃないですか」
「いやいや、ここのラーメン結構旨いんだぞ? ね、夜島?」
「あ、うす」
あー、ダメだ。
学郎の奴完全に固まっちまってる。
おいやめろ、その助けを求める視線を俺に向けてくるな。
「いやー、こんな美人な先輩と一緒にお昼を食べれるなんて幸せっスよぉ」
「!?」
突然響く軽口な学郎の声に学郎自身が驚く。
いや、何故お前が驚くんだと思ったが、流石に直前まで固まってたやつがあんな声を出せるわけがないか。
俺がそう思って辺りを見回すと、どこから現れたのやら鵺さんが学郎の死角に立っていた。
あ、さっきの声絶対鵺さんの仕業だ。
学郎はまだ気付いてないみたいだけど……面白そうだし、もう少し様子を見よう。
「あはは! 何々ー? 君結構嬉しい事言ってくれるね!」
周防先輩は笑いながら席に着いた。
「さ、食べよ?」
そうして俺達は食事を共にした。
そして、話は本題に移る。
「ねえ夜島」
「は、はい?」
「私オカルト部創ろうと思うんだけど、一緒に入ってくれない? 今2人しかいないんだよね」
鳩が豆鉄砲を食ったよう―――なんてレベルでは学郎は当然心臓を撃ち抜かれたような表情をしていた。
まあ、コイツの中で先輩との関係はこの一回で終わりのはずだったからな。
……ん?
「先輩、まさかその2人って」
「うん。私と、篠澤」
当然でしょ、みたいな顔で先輩は俺に言ってきた。
「事前の相談が欲しかったです」
「だから朝に相談したじゃん」
返事をした覚えがないんですよこっちに。
返そうかとも考えたが、別に断る理由は無い。
ならばここは話を先に進めよう。
「まあ、俺は別に構いませんけど」
「よしよし、偉いぞー篠澤」
先輩はイタズラそうな笑顔で俺に言い残し、学郎に向き直る。
「正直なところ、幻妖が見えるだけでも凄いのにそれを祓えるなんて貴重なんだよねー。勿論強制はしないし、君が良かったらの話なんだけどどうかな?」
先輩は学郎にそう説明する。
そういえば、俺が初めて陰陽寮に拾われた時にも強制はされなかったな。
まあ危険が多すぎる仕事だし当然と言えば当然だが、さて学郎はどう答え―――
「そんなん全然オッケっスよぉ」
めっちゃ軽い感じで返事した。
鵺さんが。
「え?」
「ホント!? やった! ありがとう!! いやー、君奥手っぽいから篠澤の手も借りなきゃかなーって思ったんだけど、話が早くて助かる!」
突然自分の声で返事をされて学郎は困惑の様子を隠せていなかった。
そして自身の後ろに座る鵺さんにようやく気付く。
「えーマジィー? ヤコと海行きたかったぁ~」
鵺さんも鵺さんでギャルの友達作ってるし。
ってか何時出来たんですか。
【2人とも、これは大変都合の良い申し出だよ】
すると突然俺たちの脳内に直接鵺さんの声が響く。
【私の部屋に普通の人は入れない。けれど常々幻妖の被害に困った人のための窓口が欲しいとは思って居たんだ】
確かに、オカルト部なんてそれっぽい部活があれば何かしら相談してくれる人も居るかもしれない。
……そんな胡散臭い部活に相談事を持ってくる人が居ればだが。
「じゃあ放課後に…そうだな、渡り廊下集合で! 居なかったら教室まで迎えに行くからなー!」
【いい子じゃないか。2人も隅に置けないね】
鵺さんが頭の中で俺達にそう話しかける中、学食内でふわっと風が吹いた。
まあ密閉された空間でもないし、そもそも人の出入りが多い場所なんだからそんな事もあるだろうが、重要なのはそれによって周防先輩のスカートが巻き上げられ下着が俺と学郎の目に止まってしまった事だ。
……白か。
当然、先輩は即座にスカートを押さえて俺達に向き直る。
そして―――
「忘れろビ~ム…」
そのビームは確実に、そしてとてつもない衝撃で学郎の体を射抜いた。
え、何でそんな事が分かるのかって?
だって急に横で立ち上がってフリーズしてんだもん学郎。
もう口あんぐりだよ。
「あ~、その、なんだ……頑張れ」
俺は学郎の肩を叩いて食べ終えたかつ丼の食器を返却しに行った。
ここだけの話、実はパンツ後の下りはオリ主に対してだけあっかんベーにしようかなと思いましたが、横並びで食べてる設定なので学郎くんに勘違いさせないため止めました