転生ミクのSV最初からの旅路   作:イエッサム

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プロローグ ゲームの知識なんか役に立たない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の名前はミク。

 数週間前、ここアカデミーに編入してきた女の子である。

 クラスは総合コース、一年生。

 クラスメイトにもそろそろ打ち明けて、仲良くなろうとしている所であった。

 そんな彼女には大きな秘密があった。

 何を隠そう、彼女は転生モノの主人公になってしまっていたのだ!

 それも制服着た初音ミクの姿で。

 彼女は何故かこのポケモン世界に突如来てしまい、見た目が初音ミクにそっくりだと気付いてしまう。

 それだけなら良い。

 外見と転生モノありきたりではあるから。

 初対面で生徒会長に、有名人そっくりだと言われたりしたけど。

 なんと。なんと、相棒がいない。 

 この場合、制服の色からしてバイオレットか。

 ミライドンが、登校中に出会わなかった。

 つまりストーリーがいきなりぶっ壊れているのであった。

 ちなみに転生モノありきたりの特典など無い。

 強いて言えば初音ミクの声と姿で、校内で歌声を披露したら歌姫とか言われたぐらい。

 ポケモン世界の曲など知らないが、聞いたらすんなり覚えるとかが特典なのか?

(聞いてないよ……)

 何もかも違うポケモン世界。

 ゲームの知識などクソの役にも立たないのは数日で理解した。

 だって。だってだ。

 ゲームの知識は、主に数字だ。

 種族値、個体値、努力値。

 数字で管理されているゲームなのは皆さんご存じだと思う。

 でも、よく考えて欲しい。

 システムという意味での知識が、生きているポケモンに何の役に立つ?

 相手は生きているポケモンという生き物。

 生きているポケモンに数字は見えない。

 生きているポケモンの特徴など十人十色。

 数字に出来ないのである。基準が無いから。

 図鑑などはある。生態も分かっている。

 数値化しようとする発想がようやく出て来た。

 それを今やろうとしている最中だった。

 数字の上での戦いがゲームだった。

 でも強さという意味でのバトルは違う。

 ポケモンは使えば馴染む道具じゃない。

 繰り返すが、立派な生き物なのだ。

 リアルタイムはZAでもあっただろうがもっと大変だ。

 意思疎通が上手くいかないと勝てない。

 不仲だと言うことを聞かない。

 ゲームではシステムで一方的に強化しても拒否しない。

 だが現実は拒否して最悪反撃される。

 そもそもおかしいと思わないか? 

 何故、ジムバッジを手に入れただけで根拠も無くポケモンが従うのか。

 本来の生態を無視して。

 現実で言うなら野生のクマが現れて、突然言うことを聞いて大人しくなるようなモノだ。

 過程をゲーム故に、相性をゲーム故に、無くとも出来ていた世界がゲーム。

 リアルで言う中身が素っ飛んだ状態の知識など、役立つハズも無かろう。

 過去を無くして今はあらず。

 ミクはよく分かった。ご都合主義的なモノなど無い。

 ならば、強さとは何か? そんなもの決まっている。

 経験だ。圧倒的な経験と、時間。

 そして才能と言う身も蓋もないありきたりなリアル事情。

 つまるところ、ミクは主人公補正などないし、ミライドンがいない状態で宝探しに行こうと言うわけだ。

 登校中に出会ったのはすれ違ったペパーだけ。

 特に絡むことも無かった。そのまま彼はアカデミーに向かって去って行った。

 登校中にゲットしようとして、懇切丁寧に教えてくれたネモもミクには才能があると言っていたが……。

(生きているポケモンって怖い……)

 そう思うのは、捕まえたポケモンに触れ合おうとしたら攻撃されたのだ。

 もうその子は逃がした。

 逃がすにも、ちゃんと手続きしないと逃がせない。

 生態系を壊すから、無闇な放逐は違法らしい。

 ポケモンの手持ちの数が六なのも理由があった。

 純粋に面倒を見切れないのだ。

 個人的に面倒を見られる限度が、六まで。

 無論初心者はそれ以下だ。

 それ以上は預かりシステムこそあれど、ご家庭の事情でお金が維持費にかかる。

 ブリーダーのように、多頭飼育をするには許可がいる。

 結局、子供というのは親に左右される。

 SVにおいて、主人公は裕福だという描写があったが、実際そうだった。ミクの家は裕福な類。

 アカデミーでは四苦八苦しながら通う生徒も沢山居る。

 全員が平等じゃない、ポケモンの世界。

 家系の財力、本人の才能、圧倒的な経験値。

 それを踏まえたのがネモという訳だ。

 周囲は言う。ネモはアカデミーの代表、天才だと。

 納得する。ゲームではそういうのが不満だとネモは言うけれど。

 ネモは分かってないのだ。無自覚の傲慢さ。

 自分の高みが、選ばれた人しかいけない場所だと。

 ミクは小心者だし、ネモが才能があると言ったが、登校中に起きたスター団の小競り合いには負けた。

 よくわからないテラスタルオーブを渡されて、やってみろと無茶振りをする。

 仕様は? 効果は? ゲームの知識で良いのか?

 案の定テラスタルは発動したらポケモンが苦しんだ。

 合っていなかったようで相手も止めろと言ってくれた。

 苦しませるな、降参しろと。

 慌ててミクもオーブを振り回してテラスタルを切った。

 硝子の砕ける音がして、テラスタルが終わる。

 振り返ったポケモンがミクを睨んだ。

 怒っている。出会って間もない癖に、痛い目を向けるから。

 そんなはずじゃ、とネモは唖然とする。

 違う。ネモはぶっつけ本番で出来るだろう。

 それは、ネモだったからだ。

 普通の生徒には、テラスタルは授業を受けてちゃんと知識を得てから使うのが正しいだけで、こう言うずるい事はダメなのだ。

 生徒会長の権限で免除して押しつけてきたテラスタルオーブ。

 不正だと、あとで怒られた。ネモと一緒に。

 依怙贔屓を止めろと、教師であるタイムが叱った。

 ネモもミクの依怙贔屓に自覚して、テラスタルオーブを返した。

 そう。結局、特別というのはネモのような人を言う。

 残酷かもしれないし、ポケモンの世界でもこれだと思い知るのが、リアルでは無双など出来るはずもない。

 転生しようが、何処の世界でも一番強いのは経験値。

 ネモが最強と言われたのは、事実。

 本人も無自覚に振る舞う才能と言う暴力。

 皆が煙たがる訳だ。最強が、自重せずに誰彼構わず挑むから。

 得る物があるなら受けようと思う。

 でもネモとやって得るのは不快感だけだ。

 お互いに。ネモは手加減というフラストレーション。

 こっちは場違いに相手をするストレス。

 つまり、転生しようが何だろうがゲームの主人公中心のご都合主義が現実に通用するわけが無い。

 前世は、何というか……不幸で死んだと思う。

 最期の事故った瞬間の記憶はあるので、それでお陀仏だったのだろう。

 何故ならばいきなり転生した? 意味がわからない。

 鉄板の邪神の手引きか? 確かに入国は出来てる。

 まぁ、そんな神様がいるわけが無いのだが。

 理由も不明。初音ミクの容姿も不明。

 ただ言えることは、ミクは歌が上手というぐらい。

 当たり前。初音ミクはVOCALOID。

 そんな無害な才能、要らないのだが。

 ポケモンの世界での必要な武器。

 コミュニケーション能力、苦行に折れない心、時間をかけてもブレない経験値を稼ぐ努力と、天賦の才。

 要は現実世界と大差ないと。

 凡人には凡人の生き方、身の程を生きて行け。

 そう言う意味だとミクは悟った。

 尚この世界には初音ミクという存在は居るらしい。

 Vで活動している、歌ってみた系のジャンルでナンジャモのライバルだそうだ。

 そのそっくりさんがミク。

 皆大体Vだ! というがすぐに気付く。

 年齢おかしいと。この世界の初音ミクは何年も活動している。

 自分こと、ミクは同名の別人。

 なのによく似る声と顔。良い迷惑だ。

「ナンジャモ、可愛いなぁ……」

 今日もスマホのポケチューブで、ナンジャモの配信を見ているリスナー、ミク。

 夜の学生寮。私室のベッドで寝間着で寝っ転がる。

 ナンジャモの企画はどうでも良いが、情報収集で役立つ事を発信しているので重宝する。

 全世界にここ、パルデアの良い部分を紹介する企画とかやってた。

 バトルも時々やってるが、大抵ナンジャモは勝ち負けよりもエンタメを優先する。

 負けても持ち前のキャラで盛り上げて褒め称える。

 要は受けてバズるかどうかで戦う。

 本気を誰も知らないともっぱらの噂だ。

「大変だなぁ、配信者って」

 一応ナンジャモは事務所という体のリーグ関係者。

 これでもパルデアのジムリーダー。

 駆け出しの初心者には、遠い道。

 今の手持ちは、アカデミーで交換して貰ったポケモンだった。

 社交性はまあ、得意ではないがミクの容姿だからモテるいうかマスコット扱いされて好意的に接しているクラスメイト。

 清々しいほどクリーンなアカデミー。

 ……去年の、彼等のおかげだと感謝している。

 先輩達は、そういう話題を口に出さない。

 意図的に、黙ろうとしていた。

 軽く探ってみた。

 この前先輩に、一部の記録が無いのだがと聞いたら。

「お前、転校生か? なら止めとけ。細かいことに気にするな。……さもないと首が飛ぶぞ」

 退学になりたいのか、と脅された。

 タブーなのだと、去年の出来事は。

 生徒達の間でも、触るなという空気が漂っている。

 スター団の徹底抗戦。教師の腐敗、共倒れに不登校。

 誰も触れようとしない去年の記憶。

 ……この先どう転がるかは分からない。

 何せ相棒はいないし居ても警戒心を出して懐かない。

 前向きに行こうと思う。

 ミクは主人公では無いかもしれない。

 立場と境遇は主人公その物だったが。

(幸先不安しか無いな……)

 スマホを切って、寝っ転がる。

 手持ちのポケモンは、今は三匹。

 尚テラスタルの一件で、ニャオハは先日クラベル校長に返納した。

 言うことを聞かないし、攻撃してくる。

 既に恨まれたらしい。

 そう言うと、偶にある事例なので返却も可能だった。

 クラスメイトにガラルから来ている相手が居て、パルデアのポケモンを登校中に捕獲したのと交換した。

 初手から進化系。でも気性は荒くないと言う。

「俺には合わないんだよこいつ。君ならきっと活躍できると思うよ」

 そう言ってウパーと交換したのが、ヤドランガラル。

 確かにボーッとしていて時々腕をぶん回すぐらいで危害は無い。

 コミュニケーションをとったところ、

「やぁん」

(ギャルヤドンならぬヤドランかい……)

 間の抜けた返答が帰ってきた。

 性別メス。

 正真正銘ギャルでは無いがヤドランである。

 座っているヤドランにあれこれ聞いたり伝えたりしても、怒らない。

 ボケッとしているだけ。

 文句はあるか聞いても首を傾げる。

 この子なら、頑張れそう。

 もう一匹は、ニャイキング。これは仲良くなったセイジという先生がくれたニャースが進化した。

 授業の張りぼてに向かっての模擬戦で特訓していたら突然光り出して進化したときはビックリした。

 気性は荒っぽいがミクの良い兄貴分。

「フッ……」

 とよく爪を研いで笑うニヒルでクールな兄貴。

 セイジ先生が言うにはこんな格好いい性格じゃなかったようだが。

 最後が登校中に捕獲したマリルリ。

 ルリリからこいつも張りぼての模擬戦で一気に進化。

 超強い。うん、何だか分からないが強い。

 ボンボン腹を叩いて隠し持っていたオボンのみを食らって攻撃を避けて、水を纏って凄い速さで突進する。

 いつもこのパターン。普通の相手ならワンパンする。

(はらだいことアクアジェットだよね? おかしくない? 何で覚えてんの?)

 ネモも称賛する、大当たりのポケモン。

 凄く懐いているしテラスタルの負荷にも堪える。

 ルリリから懐きで進化するがこいつチョロいというか。ちょっと親しみ過ぎていないか?

 確かによく所属する軽音楽で歌っているときは大抵マリルリはノリノリではらだいこでボンボン鳴らしているけど。ドラムか。

 独特のセッションで歌っていると聞きに来た美術担当のハッサクが素晴らしいとか言って毎度号泣するけど。

 おかしくない? 既に生活が。

(うーん……。私の手持ち、変わった子が多いな……)

 ボーッとするヤドラン、クールな兄貴のニャイキング、ノリノリのマリルリ。

 現状この三匹で過ごしているが、果たしてミクの未来や如何に。

 まあ良いか、で寝ることにした。

 宝探しまでそう日数は無い。

 どうか誰とも関わらないようにと願いつつ。

 きたるべき時は、一刻と近寄ってきていた。

 転生ミクの、最初からの旅路。

 特典は初音ミクの見た目と声だけ。

 そんな彼女の、物語。

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