初配信は、学校の紹介で終えた。
校長や、威厳ある立場なのにだらしない格好の担任などを紹介していく。
最後に次回は、ボウルタウンにて初ジムを挑戦する企画を予告しておく。
その前に告知、というか質問。
軽音部でパンクロックやるけど聞きたいか。
あんまりやらなかったジャンルに聞きたいという意見が続出した。
なのでこれ終わったら収録しておく。
リスナー勢からは環境が良さそう等の反応だったので、悪くは無かったか。
尚、ミクのチャンネルからはスター団の面々が反応して分かりやすく応援してくれたようだ。
ミクのチャンネルで、歌ってみたも上げないといけないので、困ったことになる。
外出中は兎も角アカデミーに居る間の動画編集、誰にやって貰おう?
軽音部の先輩に頼んでみるか?
実際アカデミーのチャンネルで歌ったときはそうだったし。
元々そこで軽音部は音楽をよく上げているので、オモダカに相談。
歌ってみたはアカデミーのチャンネルに専念し、自身のチャンネルでは外での中心にしておく方が良いと言われた。
なるほど、ごっちゃにならないように二つやれと。
最悪音源はアカペラを歌って先輩達に送って、演奏とミックスして貰えれば良い。
そうナンジャモもコツを言うので、ミクは兎に角頑張らないといけないようだ。
終えた後、アカデミーに居るうちに歌えるものを歌っておいて、後は任せる。
先輩達もまた行ってらっしゃいと言うので送られる。
ボウルタウンに一日かけても戻る。
メロコ達を待たせていたので、合流。
紹介は出来は悪くないと言ってくれた。
「様子も外部から分かったしな。うん、良かったぜミク」
メロコにそう言われた。
外見だけでも情報が分かれば問題ない。
ついでにナンジャモもボウルタウンに今日か明日には来るらしいので、暫し待つ。
ボウルタウン。花と芸術の町という。
花畑の多い町で、全体的に癒やしの空間だ。
全体が自然公園のようになっていてあちこちにアート作品が立ち並ぶ。
メロコ曰く、芸術に縁の無い自分らには話にならず、居心地は良いがよくわからないものだそうだ。
実際アーティストはよく来るようで、絵画だろうが像だろうが、町中でアーティスト達を見かける。
此処では展覧会のように常時飾れる事も出来る町。
住人も芸術の町という以上、文化的に区別をしない。
で、ミクが来たらやっぱり反応する。
芸術視点で歌ってくれと数名のアーティストに言われた。
芸術家程の連中とは歌い手は根本的に違うのだが。
音楽も芸術家に入ると言うが、それは広義であって歌い手は違うと思う。ミクも実際そう言った。
芸術とは、表現したもの。
アート作品とは、自身の作り上げた結論なのだ。
歌い手は芸術家の力を借りているだけ。
此処で具体的に言えば作曲家、作詞家。
作るのは芸術家というなら、ミクは歌い手。
そもそも芸術という観点で言えばミクは畑違いの存在。
寧ろナンジャモのように肖っている方なので、作るモノではない。
芸術家の力を借りて表現する方というのが正しいと思う。
「……面白いことを言うな、アカデミーの歌姫」
不意に。ある日の町角で。
町のアーティスト達とやり取りをしていると声をかけられた。
アーティスト達は驚いて、そちらを見る。
振り返ると、そこには細身で目元にクマのある不健康そうな人物がいた。
「己はあくまで我々芸術家の力を借りているだけの存在というか。謙遜のつもりか? 貴様の歌声とて、表現という意味では大差あるまい」
……含みのある微笑を浮かべる男性。
ボウルタウンのジムリーダー、コルサ。
著名な芸術家にして、挫折を知る男。
有名人のご登場だった。
まさか話し合いの最中向こうから接触してくるとは。
ミク達の話に混ぜろと言って寄ってきた。
「我々芸術家は、日々己の創造を形にするために苦悩する。貴様の歌を歌う事は違うというのか、初音ミク」
「違いますよ。私はそっくりさんですし。……そもそも、身の程を弁えているつもりです。私はファンアートに乗っかっている立場。つまり、誰かのご好意の上で活動できている身。コルサさんのような、オリジナルじゃないんです」
「ほぉ……」
あくまでファンアート。
原典ありきの二次創作のようなものだ。
つまり、何が言いたいかと言えば。
「芸術家、もっと言うとアーティストと名乗るには、私は烏滸がましいと言う意味です」
自嘲を込める。決してミクはアーティストではない。
単なる歌手擬きの歌い手。
インフルエンサーみたいな、他人の存在があって漸く成り立つ。
「よくもまあ、己をそこまで卑下できる。貴様の声、聞いているぞ。私にインスピレーションを与えておきながら、己は芸術の何たるかを語るには役不足と宣う。真っ直ぐで、清々しいほど正直だな」
「いやまぁ、ボウルタウンは芸術の町と言え作曲家や作詞家の皆さんの町ですし。私にそういう能力は無いんで」
実際、歌い手と芸術家の違いは作るか作らないか。
歌い手は歌という結果を作って貰う立場だ。
自分でやるならまだしもミクにそのスペックはない。
「そうだな。その言い分ならば貴様に我々芸術家の苦悩は理解できまい。例えば、だ。貴様、私の代表作を知っているか?」
コルサは尋ねる。代表作……町中に設置された像のことか。
本来能天気に笑っているキマワリを物憂いな表情で表現した『投げやりのキマワリ』。
「町中にありますから、見ました」
「そうか。なら聞こう。貴様に、アレはどう見える?」
どう見えるという曖昧な言い方で問う。
有識者の中でもその背景や作った意図を議論されているらしい作品の見解。
これ、ジムテストじゃないよね? と内心思いながら感じたことを率直に言う。
「……熱が、無いです」
「ほう。熱がない。詳しく言ってみろ」
解説しろというので、端的に言う。
投げやりのキマワリを見て思うこと。
これ、作品に対しての情熱が欠片も感じない。
本当に投げやりで、絶望のどん底で作ったような見ていて連想するモノが剰りにも不吉。
「何を思い浮かべた?」
「死です。才能と情熱の死」
「!!」
見て思うことは才能がもう出てこない、即ちインスピレーションの枯れた状態の、芸術家としての終焉。
枯れた植物、つまりは死んでいる。
こんな状態で作ったモノに熱などあるまい。
だって死人に熱は無い。
冷たい指先で築いた作品が見た者に与える印象は当然、死や枯渇だ。
絶望しかない。ヘビメタやパンクロックを触ったから今のミクでも少しは分かる。
これは、歌っていて楽しい歌詞の絶望じゃない。
死活問題の、本物の絶望だ。
「……フフッ。言うでは無いか歌姫。貴様、良い審美眼を持っているな」
「これを見て笑えるほど、無神経でも図太くも無いですよ。どう見たって、どん底の時期の作品ですよね」
ミクからすれば、投げやりのキマワリは恐怖だ。
才能の枯渇。歌えなくなる。楽しくなくなる。
それは、唯一の武器を失うこと。
表現する人間の、共通の恐れでは無かろうか。
「面白い。良いぞ、貴様はアカデミーの生徒だろう? ならばジムを制覇するのが目的だ。違うか?」
「多岐に目的あるのでそうですけど、一応」
コルサは不吉に笑って、言う。
「ボウルタウンは私にとってもアトリエのような町。数多の分野のアーティストや芸術家が来るが、投げやりのキマワリを見て、何かが死ぬという率直な感想を述べたのは貴様だけだ。歌姫を名乗るだけのことはある。やはり貴様も恐れているな? 歌えなくなる事を」
「そりゃそうですよ。そっくりさんでも、歌は唯一の取り柄ですし」
コルサの指摘はその通りで、恐れないのは乗り越えたモノだけだろう。
立ち上がれる程、ミクは強くはない。
「一度朽ちてみるのも一興だぞ? 命があるだけ儲け物だが、這い上がって見れば世界が色褪せて見える。所謂、新世界だ。そこから着色して生き返るのも存外悪くない」
「褪せた世界じゃ、私の歌は機械化した音になるので結構です」
コルサは一度は死を乗り越えた男だ。
だからこそ、才能の枯渇を恐れない。
最高の恐怖を超えた芸術家は、無敵。
ミクには無理だ。
凡人にコルサほどのアートへの執念は無い。
「長くなったな。つまり言うと、合格だ。ジムテストは貴様は受けなくて良い。十分な審美眼を見せて貰った」
「いや、私が納得できないんですけど。コルサさん、せめて質疑応答じゃなくて実技で測って下さい」
会話で合格とか、簡単にパスしたようなモノだ。
周りはミクの感想に意図を易々と見抜く観察眼を褒めている。
ちょっと違うというか。
ミクとしては懸念通りの展開に異議を言うが。
「案外、貴様も我々芸術家を尊重するな。結果が不満か?」
「いや、そう言うんじゃないと言うか……」
何て言えば良い。
もっと、こう……芸術を語るなら、やり方があるというか。
「自分でも言葉に出来ないか。よく分かるぞ。私にもその感覚は隣人だ。だから言おう。敢えてそこは飲み込んでおけ。貴様は良い目を持つが、アーティストと名乗るのが烏滸がましいと言ったな。その通りのようだ。表現する方法が他者の作った歌しかない。未熟だが、それも必要な過程。違和感も表現できるまで味方にしておくのが我々のような、何かを生み出したり表現する人間の性だ」
「そうですか……」
芸術家に言われたらそうするしかないか。
人生の、オリジナルを創造する先人の言葉。
渋々納得するミク。
「後日、貴様の挑戦を受け付けよう。ジム戦は初めてか?」
日程の調整に入るコルサ。
バッジを持たない駆け出し。
ならば、相応のポケモンで相手しようと言う。
それがジムリーダーの役目と立場。
「何か、コルサさんにはもう負けた気分です」
「気にするな。これは作るモノと表現するモノの格の違い。貴様の言うオリジナルを持つ私には、貴様の立場ではどう足掻いても頭が上がらん」
ミクが本家初音ミクに感謝しか出来ないように。
コルサもある意味の本家と言うことだ。
「楽しみにしているぞ、未熟な歌姫。貴様との合作……一体何色に染まるか、どんなモノが出来上がるか。私も想像できん。フッ……悪くない空気だ。気分転換に良い刺激になったな」
そう言うと、背を向けて颯爽と去って行くコルサ。
見送るミクは、既に勝てない気がしてきた。
言葉の重みが違う。オリジナルを持つ故の苦悩など、歌い手のミクには理解しようにもその才能が無いから。
ミク達はその日までボウルタウンで過ごすことになる。
コルサのアトリエだけあって、ボウルタウンでは色々なアーティストが行き来して、音楽関係のアーティストもよく来る。
作詞家、作曲家。プロが刺激を求め、安息を求め、やってくるのを見ている。
ナンジャモも合流して、早速賑やかになる……と思いきや。
配信などのリスナー勢と芸術家は相性が悪いらしい。
ナンジャモが来て、ミクにイロハを教えた。
「んとねー。ボウルタウンみたいな、マジモノの芸術家ってボクらみたいな誰かのバックアップありきのスタンスの人間って、疎ましいんだって。なんつうの、ノイズ? ボウルタウンは芸術家の安息地。作品作りの邪魔だから騒ぐなって、オモダカ氏にも言われてるから。配信はジム戦だけかなぁ。そっちは良いんだって」
「やっぱりそうですよね。芸術は、静かに自分と向き合う事で生まれると思います」
ナンジャモレベルのインフルエンサーが下手にボウルタウンでやれば町に迷惑がかかる。
だから自粛。ちょっと暇になった。
でもミクは芸術の町でも目立つ。
この日もナンジャモとメロコ達とあーだこーだやり取りをしていた。
そうしたら流れのアーティストが、ミクを見て弾き語りをしたいから、付き合って欲しいという。
無論、歌ならお付き合いするのがミクである。
弾き語り上等。芸術の町で、ちょっとしたコンサートになった。
「ふぉぉー! めっちゃ動画にしたいし配信してえ! だけどこれ以上オモダカ氏の地雷踏んだらボクの首が飛ぶ! おっふ、今回はボクだけで聞くかぁ」
「お前、なんでもかんでも動画にするなよ……。リテラシーってもんがねえのか」
呆れるメロコが苦悩するナンジャモにぼやく。
今回はライブじゃなくてミクの弾き語りのストリートのコンサート。
毛色が違うし客層も違う。
此処ではボウルタウンに相応しい曲を流れのギタリストに合わせて表通りで歌う。
ぞろぞろと人が集まる。開始数分で人だかり。
町に居るキマワリ達も寄ってきた。
ギタリストが、噂に違わぬ歌声で弾きやすいと笑う。
そっくりさんと言えども魅了の歌。
そこに同伴できるのは、光栄だと。
演奏家も作曲家ありきの立場。
音楽の芸術には大きく二つあるとミクは思う。
作る人と、表現する人。
作曲家、作詞家。演奏家、歌い手。
音楽の世界ですらここまで違いが出る。
お互いがお互いをリスペクトして、この世界は出来ている。
向こうは作ったモノを表現して貰わないと意味が無い。
こっちは作って貰わないと何も出来ない。
まあ、両方できれば完璧なんだろうけど。
なるほど、ポケモン世界もよく出来ている。
いる世界が違うといえ、コルサは創造する立場。
そして一人で完結できる。
ミクは表現する立場。相手が居ないと出来ない。
(生み出せない人間に、必死に作ろうとする人間の苦痛が分かりっこない。だって、肖っている私には、他人の結果に乗っかるだけだから。ある意味、ナンジャモ氏も作るって意味じゃそっち側だよね)
動画のコンテンツを作るナンジャモ。
インフルエンサーと言えば企業やスポンサーありきの立場に見える。
だけど実行する動画のネタを探すのは自分だ。
バックアップありきと言え、動画という結果を作り出すクリエイター。アーティストと似ている。
結論、ナンジャモは丁度間に居るクリエイター。
コルサはオリジナルの芸術家。
ミクは完全に歌い手という表現する立場。
こうも違うとミクは他人に依存する立ち位置にいる。
故に忘れてはならないことが、相手への感謝とリスペクト。
此処で言う本家初音ミクとか。
歌で何かを出来るのは、ナンジャモなどのクリエイターや作詞家、作曲家が居てくれるからこそ。
ファンアートを名乗れるのは公式に初音ミクが居てくれるからだ。
ミク一人では何も出来ない、似てるだけの凡人。
だから絶対に天狗にならない。
新米の配信者は、ナンジャモは兎も角誰かのおかげで活動できている。
感謝は忘れない。リスペクトは常に持て。
有り難みを決して意識から外すな。そう思う。
(私が皆さんに出来るお礼は、歌う事だけだから。だから今日も歌おう。心から、多くの人に感謝を込めて)
ボウルタウンに響く歌声。
芸術の町で、歌姫は感謝を込めて平穏を歌う。