「では、ゆくぞ!」
そう言ってコルサが繰り出したのは、本来持ってないハズの先手、キマワリ。
関係はあるだろうが、やはり違ったか。
ミクは警戒する。何するのか、キマワリとか分からない。
誰が良い? 自分の判断だけが、今は頼りだ。
相手はキマワリ。決して強い部類では無い。
そう、『単なるキマワリ』なら。
相手はジムリーダーだ。無策で先手にキマワリを出すとは思えない。
微笑んで待っているキマワリとコルサ。
どうした? という笑みが恐怖をそそる。
強者の余裕か。ビビるな、と内心一喝を入れる。
此処は無難が良いか? それとも強引に行くか。
決めた。様子見で行こう。
先手でも後手など、どうせミクの実力じゃ捲れない。
「ニャイキング!」
いつも出す、ニャイキング。
兄貴は爪を研いで登場する。
真面目な表情で、相手を見つめている。
試合、開始だ。
「では始めようか! キマワリ、日本晴れ!」
いきなり先手を打つコルサ。
日本晴れ、天候を晴れにして炎や草に影響が与え水の威力は半分になる日照り状態。
その意味を、直ぐさま悟ってミクは血の気が引いた。
思わず叫ぶ。
ニャイキングに、爪研ぎしながら突っ込め。
日光の主砲が連射される。
急いでモーションを潰せ。
ニャイキングは言われたとおり、爪研ぎしながら走り出す。
日差しが強くなる。キマワリの意図が分かった。
先手でもう、一気に潰す気だ。
こいつの性能をたかが能天気に笑っている歩く向日葵と思っている程ミクもバカじゃない。
特性も、技構成も、キマワリならこうだろうと分かる程度の知識はゲームで知っている。
リアルなら、鈍足故に固定砲台の火力型。
多分最初から詰みに等しいくらいの差がある。
だから、後続にも続く日本晴れを初手で使う。
「ほぉ? 初見でキマワリの危険度を察知したか。……だが、ニャイキングの機動性で回避できるかな!? ソーラービーム!」
案の定想定していたとおり。
固定砲台のソーラービーム連射。
サブの攻撃技がもしも思うものならなら鋼は悪手だった。それでも。
「ニャイキング! 直ぐにキマワリの頭上、斜め上から落ちて来る! スライディングして接近!」
リアルのソーラービームの解釈は、先ず体内に日光を吸収。
その後打ち上げて上空から降り注ぐ。
日照り状態だと即座に吸収、ぶっ放す。
やりようはある。自分に想像させろ。
攻撃の物理的な動き、モーションをイメージしろ。
「面白い、もう射程の死角に気付くか! やるな歌姫!」
コルサも驚く。ソーラービームに初見で対応した。
いや、キマワリの時点で焦っていた。
つまり、正しい知見を持つ。
大抵の相手がキマワリ? ジムリーダーが使うポケモンか? と疑問に思い意図を分からず笑うことが多いのに。
脅威を、ビビっているのに冷静に解している。
「ミク、キマワリの対処法知ってるんだ……」
「ニャイキングは小回りという意味では良い判断です。然し、ミクさんもミスだと分かっているようですね」
ネモはキマワリの脅威を一回食らったから知っている。
その時は初見の持ち前の戦術で突破したが。
オモダカも鋼のチョイスは少し焦っていると指摘する。自覚もあるようだ。
ソーラービームは直ぐに来た。
チャージは一秒足らず、打ち上げて発射。
その速度も向上している。でも。
発射される位置は、移動中なら照準がズレる。
上からくるソーラービームは、直線だ。
つまり、巨体でパワー系のポケモンやミクで言うヤドランなら遅いし、相手によってはデカい分的が大きい。
機動性で負けて当たる。
でも動きの鈍いニャイキングでも、小回りが利く。
動かない的になる気は無い。
降り注ぐソーラービームは上から発射される。
斜め上から、襲う攻撃に角度的に接近する。
死角は、至近距離。
接近してアイアンヘッドでキマワリをぶっ叩く。
「一回殴ったら退いて! ウェザーボール絶対持ってる! あと足元! 大地の力を撃ってくるから兎に角走ってニャイキング!」
殴ったら離脱して、一定距離で逃げ回る。
コルサはミクの指示に正直舌を巻いた。
こっちの技構成を完全に言い当てた。
チャレンジャー故にこちらの手を調べたか? と思うが。
ふと、外野のオモダカを一瞥する。
視線に気付いて彼女は首を振った。
否定的な反応。調べていない可能性大。つまり?
「――アヴァンギャルドッ!!」
感動のあまり、思わず叫ぶ。
この歌姫、キマワリを起点とするコルサの手持ちを、恐らく調べずに一般的な範囲の知識……つまり草タイプのジムリーダー程度の事しか知らないだろうに、ここまで予想を組み立てた。
ナンジャモが叫んでいる。
初見で相手の戦術を見抜いていると。
ナンジャモのプロデュースで入れ知恵も出来ただろうに、それを敢えてしなかった。
なんと。
なんと素晴らしい公平な心構え。公平な姿勢。
此方はジムリーダー。対策前提の育成をしている。
なのに。彼女は、知るのは不公平という理由で。
調べずに来た。フェアでやりたいと。
駆け出しなら尚更コルサのポケモンを調べる方が自然なのに。
フェアプレー。そこを貫いて、ミクの手持ちをコルサは知らないから、ミクも調べない。
此方はその前提なのに、彼女は自身でそれを控えた。
それなのに。それなのに、この手の内の察し方。
素早い対応、必死に食いつくスタイル。
ジムリーダーという立場は受ける側、要は常に対策されるからこっちも対策する。
それすら自分でやらずにひっくり返して挑んで、ビビっているのに冷静に見抜いた。
とんでもない原石だ。コルサは頭を掻き毟って叫ぶ。
「素晴らしいッ!! 貴様、駆け出しを名乗りながらこの私の創造を破壊するかッ!!」
「何がですか!? まだ来るよ、ニャイキング! 多分後ろに葉緑素を持ってるポケモンを控えてる! 逃げ回ればサンパワーで自滅するから、時々で良い、間合いに入って!」
この反応、コルサの予想が的中した証拠だ。
この才、何処から得た? 化け物のような適応能力。
周囲か? いや、入れ知恵無しで来ている以上咄嗟の想像力と判断力、良くて精々アカデミーでの学習。
サンパワーも知っている。
日照り状態で特攻が上昇するが体力が常時減る特性。
笑われる弱小ポケモンキマワリは時にこう呼ばれる。
特に、コルサのキマワリ。
異名、微笑みの太陽神。
日本晴れと特性サンパワーからの日光の主砲の連射。
本来なら、顔面からでもソーラービームを撃てる。
実際即座に切り替えて撃った。
ニャイキングに光の収束が顔だと見るやミクは先読みでスライディングで回避を命じる。
予想を切り替えても即座に適応するか。
もうここまで来たら笑うしかない。
無論、歓喜の笑いだ。
「……フフフッ!! フハハハッ!! 良いぞ歌姫、完璧だッ!! 私のアートを彩る貴様との合作、まさにアヴァンギャルド!! その気高き心意気や良し! ならば此方も相応に搦め手は無しだ! 真っ向から行くぞ!」
最初のジムリーダーだからと初戦で勝って再戦で調子に乗って馬鹿にしたトレーナーをコルサが何度もキマワリのみで叩きのめしてきた事から異名がついた。
自滅する前、制約のある日照り状態のままソーラービームを主軸に全滅させた。
ソーラービームは角度程度しか変えられないがそこは予備の技でカバーした。
今も鋼に抜群の大地の力を撃てるが、ミクの攻撃の先読み速度が尋常じゃない。
此方の指示の前に、未来予知でもしているのか動きをする。結果、後退して回避成功。
相手が自分ならこうするというシミュレーターのような、相手の立場を理解する能力をバトルに持ち込むか。
コミュニケーション能力が最大の武器と言いながら、この少女は!
こうもコルサの脳を、意欲を、刺激する!
「キマワリ、戻れ!」
面白くなってきた。キマワリを交代させる。
本来ならジムリーダーはポケモンを交代させない暗黙の了解がある。相手への一種の手加減と気遣いだ。
だが、コルサはそれを破壊する。
オモダカが怪訝そうな顔をしたがどうでも良い。
「もっと加速するぞ歌姫! ついてこい! ゆけ、ドレディア!」
出したポケモンはドレディア。
予想通りとミクは出て来たドレディアをニャイキングで即時に襲う。
だが特性、葉緑素で倍加した回避で躱す。
ミクは焦りまくる。
知っていた。これが怖いからキマワリの時点で倒そうとしたのに。
「更なる加速だ、蝶の舞!」
能力三つを一段階引き上げる。
これで攻防速度が劇的に上がる。
ミクも交代。このままじゃ無理だ。
博打に出る。ヤドランを繰り出す。
「分の悪い賭けでも、やるしかない! ヤドラン、動いて!」
既知のヤドランとは違う。コルサは思い出す。
なるほど、ガラル種か。分の悪い賭け……つまり?
「良かろう! 早撃ちならば、チップは互いのポケモンの勝敗だ! ドレディア、ウェザーボール!」
特性同士の戦いか。何処までも公平な少女だ。
一貫して貫くその言動、称賛しかない。
「シェルアームズ!」
運命の女神は、この瞬間ヤドランに微笑んだ。
一瞬で高速化するドレディアに追いつき、腕の貝殻を神速で叩きつける。
効果抜群。毒タイプの対処はキマワリだったが、裏目に出た。
ウェザーボールの火の玉がヤドランに当たる。
そこそこ効いている、が。
「ドレインパンチ!」
コルサが躱せ、という前に先制の爪が発動。
間合いを詰めて殴って吹っ飛ばす。
体力を回復する。ミクの反撃と追撃が始まった。
シェルアームズの連打。
クイックドロウと先制の爪が連続で決まる。
間合いを侵略した殴打の連撃。
ドレディアはドンドン追い込まれる。
「運命すら引き寄せるか、貴様は! 番狂わせもここまで来ると一興だ!」
昂ぶってきた。コルサは素直にミスだと判断する。
ドレディアは技を炎とフェアリーと草と、日照り状態での高速化したアタッカーだが運任せの毒タイプには担当が違う。
ニャイキングをウェザーボールの火力で落とすつもりが、交代で狂った。
尖った育成だ。
ギャンブルだというのに、ほぼ半々で動いてくる。
反撃の糸口を探せ。
あの連打という単純戦法なら……。
「ヤドラン、もういいよ! まだ出番があるから一回下がって!」
なんとミクは攻勢の状況で交代する。
つまり、違うポケモンをドレディアにぶつける。
もう少しで追い込めるから?
違う、恐らくはコルサのメガシンカを警戒している。
「ほぉ!? 勿体振るか、良かろう! 何を出す!?」
日照り状態は長い。キマワリの持ち物で持続時間が延長されている。
ドレディアは達人の帯で、抜群時に威力を上げる。
対してミクは腹を括った。
体感長い日照り状態を、こっちもタダ乗りしてやる。
「いくよ、アラモード!」
繰り出したのは、アラモード。
吠えるアラモードこと、サケブシッポ。
コルサが一気に興奮と意欲が爆発する。
この少女、コルサにあの凶暴な未知をぶつける気か。
それを使うに値すると、正直に出し渋らない。
「貴様、ただのプリンでは無いな!? 良いだろう、その強さを見極めてやる!」
体力の落ちたヘロヘロのドレディアだろうが高速化した状態は続いている。
まだ反撃は出来よう。ミクがキマワリを侮らぬようにコルサもこれをプリンとは思わない。
ステップしながらエナジーボールを放つ。
瞑想と言って突っ立つアラモード。
エナジーボールが当たるが、アラモードは平然としている。異様に硬いのか。
大して効いていない?
「なるほど、瞑想で特殊防御を上げているが……それにしては効きが悪い。貴様の特性、サンパワーと同じ日照り状態で効力を発揮するな!? それも恐らくはメガシンカしたシビルドンのような条件付きで特定の能力の上昇……この場合、特殊防御! そういう意図か!」
日照り状態の逆利用。まさか古代活性を見抜かれた。
ミクも知らないとは思ったが、直ぐに理解される。
でも。敢えて何も言わない。
ただ、アラモードはパワーが無いけど。
日照り状態なら、凄くタフだしそこそこ速い!
「爆音波!!」
お得意の絶叫を聞け。アラモード、回避不能な広範囲に爆音波で音撃をぶち込んだ。
いくら素早かろうが、射程が音という不可視のモノならどうだ。
動き回っていたが鼓膜に直接ブチ込まれる絶叫。
ドレディアは爆音波の範囲から離脱できない。
コートの周囲に居る外野も爆音波の余波で耳を塞ぐ。
凄まじいボイスの雑音。
ビリビリする耳を塞ぐネモやオモダカ。
ミクだけは、平気で立っていた。
ドレディア、戦闘不能。日照り状態が解けた。
「やはり、単なるプリンではないか。トップが総出で制圧したポケモンは脅威だ……。だがそのポケモンのシャウト、私のアートに響いたぞ!」
称賛のコルサがドレディアを引っ込めて笑う。
破壊する行為を肯定するアラモードはキョトンとする。
耳を劈く爆音波食らったのにミク以外で褒める相手が居たことに少々驚く。
「アラモード、戻って」
日照り状態が消えたのでアラモードを引っ込める。
手持ちは三匹バレた。でも、代わりに一匹……日照り状態の高速アタッカーは倒した。
さて、と仕切り直すコルサ。
不敵に笑うと、切り出した。
「先程、搦め手は無しと言った。故にミクよ、貴様に言おう。……とっておきの、奥の手を互いに披露するか。貴様のメガシンカを私に見せるが良い。私もメガシンカを切ろう」
堂々と、互いにメガシンカを切ろうという。
そこまですると、流石に口を挟むオモダカ。
少々、先程の交代と言い無作法ではないか。
ジムリーダーの公式戦、しかも配信中だぞ。
その状況でミクの切り札を強要する気か。
その問いに、割り込んでミクは言った。
「いえ、コルサさんの申し出を受けます。正直、メガシンカは初めてです。それでも、言っておきます」
ミクは、此処だけはビビらずに言い切る。
ミクは全力を出し切る。精一杯をコルサにぶつける。
それだけが、バトルという場で武器の無いと思っている弱気な歌姫の誠意。
実際は、役に立たないと思っていたポケモンの知識が土壇場で思い出して有利な材料になっているのに気付かない。
「だそうだ、トップ。申し訳ないが、私はこの少女に光を、可能性を見た。見てしまった。ならばそれを導き磨くというのがジムリーダーたる者の振る舞いだろう」
「……コルサさん、後でこの公式戦の意見をお聞かせ下さい」
思う節があるが、ここはミクが言うなら引き下がる。
オモダカも思う。ミク、本当に素人か?
ナンジャモが言っていたが事前に相手を調査していないという状態で、あそこまで手の内を予想できる。
……なんだろう、この違和感。
ミクは、確かにポケモンの知識をアカデミーで学んでいる。
だがそれを何の経験も無く組み立てて咄嗟にやり遂げた。土壇場で。
知識を知恵に昇華するまでの経験値を素っ飛ばして、無理矢理でも必死だろうが出来てしまう。
これは……。
(ミクさんはバトルの最中でも、コミュニケーションという意識で相手を思い浮かべて、対抗策を練っていると予想した。然し、異常すぎる。的確に技の構成まで言い当てるとは、つまり彼等の戦い続けた相手を想像がついたと言う意味。ネモさんすら出来ませんよ、こんなこと……)
そう。長年ジムリーダーを続けた彼等の苦労を直ぐに思いつくだけの知識を、ミクはアカデミーで得たのか?
それとも周りから? この短期間で?
でもナンジャモの言うとおりなら、誰にもそんなこと聞いていない。つまり良くて我流。
見ただけで、ポケモンのスペックを見抜ける観察眼?
……おかしい。そんなもの、どう見ても今までのミクの周りにあるわけが無い。
じゃあ、何故ミクは自分は凡人と言いながらあそこまで対応出来た。
自分で不公平と言って調査を放棄しておいて。
彼女は何処から得た。その基礎の知識量を。
ビビっているのに適切に対応できるのは何故だ。
オモダカは幾つかパターンを考えるが全部何処かで違和感がぶつかる。
ミク。アカデミーの歌姫。
まさか。まさか、歌から。
彼女の才、初音ミクの真似。
その過程で、幾星霜の歌から歌ううちに得たのか。
(現状最も可能性を感じるのは触れてきた、歌ってきた歌詞。ポケモンの楽曲はミクさんも歌っていた。それなりの時間をかけて。でもそれだけで、身につくのですか。アレほどの才を、楽曲を通して? ……だとしたら、この才は……理論上、歌い続ける限り知恵を知識に変換して覚える一種の我流の学習となる。突き詰めていけば、無限に伸びるのでは……?)
いや、有り得ない話でも無い。
あの獣とすら歌で通じるミクだ。
歌を学習するに至っては数回聞いてそれだけで覚えるほどの才能だ。
それの発展。バカな、と唖然とするが実際今ミクがやってしまった。
事実が、答えが、目の前にある。
凡人の、素人の腕前を上書きする楽曲からの様々な知識と経験の吸収?
結果が、一体の戦略の練ったドレディアの撃破。
キマワリの脅威を予知し、的確に押していたやり方。
コルサの興奮故のミスを考慮しても、異常すぎる。
(初音ミク……。歌を無限に表現する電子のディーヴァ。ミクさんは最早飾りの真似では無い。歌を通して成長する、現実に降り立った……生き写しの初音ミクとしか言いようが無い……)
静かに戦慄するオモダカ。
凡人と己を卑下する少女はこの大一番で目を覚ます。
どうせ役に立たない? 知識だけならそうだろう。
だがポケモンと、トレーナーと、世界とコミュニケーションを取って、知恵にした時。
もうその認識は間違いになる。
実は役立つ、スペックとかの基礎知識。
ミクが自覚するまでは、もう少し先になるのだった。