振り切れたミクは冷静になった。
少なくともメガシンカにリザードンは応えてくれた。
勝つぞ、とリザードンは首だけ振り返って確認する。
そうだ。歌声も、原作知識も、全てを含めてのミクだから。
こう言うとき、ハッキリと。
周りに、コルサに、感動を!
「皆さんにお見せしましょう! メガシンカ同士の戦いを!」
「よくぞ言った! 私のアートに色彩を添えるに相応しい!」
メガシンカ同士の戦い。熱く盛り上げる。
とは言うが、問題は。
リザードンXはドラゴンと炎。
対してメガニウムはフェアリーと草。
オマケに特性メガソーラーという常時日照りを纏うような状態のために、対応を間違えると詰む。
ドラゴンは効果無し、となれば炎なら有利だ。
対して向こうの視点ではどうだろう?
メガソーラーを活かした以上ソーラービームは確定。
サブに恐らく鋼対策のウェザーボールも持って、最大の弱点である毒にも大地の力を持つとは思う。
余った枠をフェアリーに当てるか、回復に当てるか。
ここで悩む。
「誘われたから応えました、コルサさん。でもリザードンにメガニウムは有効打、あるんですか? 相当キツいでしょう」
強気になれ。実際もう何の躊躇いは無い。
容赦なく、ビビる心は捨て去って精神も闘争を剥き出しで行く。
「ほぉ。まるで此方の戦術を分かっているかのような口振りだな。試してみるか?」
不敵に笑うコルサに、敢えて言う。
「有利だから、ビビる必要がない。よく考えれば、リザードンはメガニウムにとって天敵ですよね。折角のフェアリー追加が枷になる。抜群は、炎で相殺。草は殆ど効果無し。それでも撃ちますか、必殺技」
「決まっている事を。……撃つぞメガニウム! ソーラービーム!」
本当に撃ってきた。
吸収する日光、収束させて首の大輪からぶっ放す。
リザードンは回避しなくて良いと言う。敢えての直撃。
その脅威を、コルサだって理解している。
直撃したが、リザードンは笑って羽ばたいている。
ほぼ無傷。ダメージ無し。
「舐めないで下さい。メガシンカ同士で、タイプの変動で仮に私がもう一つのリザードンだったとしても、ソーラービームは通用しない」
「効かぬとは思ったが直撃したのに笑うか。堂々とするようになったな、歌姫!」
褒めるコルサにミクは冷静に、反撃する。
ニトロチャージで突っ込む。突撃するリザードン。
迎撃にやはり大地の力を撃とうとして、然し切り替える。
確かにタイプでは抜群は取れる。
大地の力は相手の足元に噴出させる技だ。
だが羽ばたいている対空のリザードンに、ゲームなら通用してもリアルでは通じない。
飛翔体に地面の地雷は効かないように。
ウェザーボールの火の玉で迎撃。無視して突っ込む。
ニトロチャージ、軽く火をつけた程度の着火。
然し特性、硬い爪の補正で威力は跳ね上がる。
突進してぶつかった。巨体のメガニウムが仰け反る。
「重たいですね。重量級のメガシンカは」
「ぬぅ……! 貴様、やはり……!」
対処法を分かっている。落ち着いて対処してくる。
ニトロチャージで加速して、それを繰り返す。
徐々に加速していくリザードン。
「どうしましたか? もっと熱くしましょう、コルサさん。多くの皆さんが見ている試合です。メガシンカ同士の戦いは見所でしょう?」
「そうはしたいがな、貴様打って変わって随分と余裕があるでは無いか! メガニウム、マジカルシャイン!」
フェアリー技を所持。確定した。
相手にメガソーラーを活かす持久戦の光合成はない。
眩い光がメガニウムから全方位に放たれる。
リザードンはとっくに加速していて射程から離脱。
届かない範囲で戻ってきた。
「ニトロチャージの連打……。そうか、さては貴様のリザードン。剣の舞を持たぬ、速度型か。遠近揃ってのバランス重視。序盤に加速して遠距離の高火力や近距離のドラゴンクロー、或いは高威力の技で倒す戦術だな?」
「仰るとおりです。そちらも出方も分かりました。やっぱりメガソーラー砲の異名通り、基本的に固定砲台ですね。かと言って肉弾戦も強いのは知ってますよ。迂闊に飛び込めばその重量で荒々しく踏み潰すんでしょう? 轢き逃げなら反撃できない。暴れる相手は知っているので」
不敵に笑うコルサは腕組みして分析する。
ミクも既知の範囲だと反論。
お互いに、手の内を明かした。
「面白い。漸く本来の貴様というトレーナーらしくなってきたな。初手に受けた直撃。この公式戦の記録のことも見越しての行為か」
「私に絶望を乗り越えろと仰ったコルサさんに、お礼のつもりで敢えて受けました。……ナンジャモ氏!」
不意に夢中になって解説している実況のナンジャモを呼ぶ。
「うぇ!? ミク氏、どうしたん!? 今大熱狂だよ! ボクの解説が追いつかないぐらい! 皆の者、メガニウムがメガシンカするの知らないみたいで困惑してる!」
「だったらチャレンジャーとして、リスナーの皆さんに如何にメガニウムが脅威かの見解を解説します。コルサさん、良いですか?」
皆が知らないなら、解説は必要だ。
だから実況中継があるわけで。
こういう試合は、基本的に未知で見ているリスナー勢が多い。
ナンジャモの解説だけでは足りないだろう。
「構わん。私のアートが万人受けするとは思わんが、これは公式戦。記録に残る、後世の芸術だ。多くの者が触れるモノなら、見解を知らねば芸術の何たるかを解せることは難しい」
了承を得たので、ギャラリーのオモダカにも聞く。
「多くの人が見ている以上、私は構いませんが……。ミクさん、お分かりになるのですか? 楽曲で得たのは知りましたが……解説できるほどにもう昇華できていると?」
「はい。あと、凄い勘違いをしているようなので言いますが、普通に歌詞の関係で分からない部分を自分で調べたりもしてます。アカデミーで習って、自分で調べたりした知識だってあるんです。だから皆さんが思うほど、私も無知ではないですよ。経験は無いんですけどね。それにもうお互いに、戦術を交流し見せ合った仲です。コルサさんの脅威を私を見て軽んじる人が出るのは、嫌なので」
あくまで、ミクはコルサの実力を分かりやすく解説する。
なるほど、楽曲以外にも自力で情報収集や予習をしていたと。
剰りの事で誤解していたようだ。
オモダカは一度冷静になる。
オモダカもコルサの株を下げるような試合展開はミクが嫌だと思ったと判断して許可する。
初戦のジムリーダー。弱いだろうと多くは思う。
だから、ナンジャモを手招きして自分も映って笑う。
「どうも皆さん、こんにちは。今回は私の初チャレンジを応援ありがとうございます。アカデミーのミクです」
笑顔で笑って、初手にぶっ込む。
「ここはボウルタウン、芸術の町です。皆さんはアートは好きですか? 此処には様々なアートがあります。全体が美術館のような町だと思って下さい」
確りと町も紹介する。
芸術家の町。静寂のルールを重んじる町。
「今回は特別に許可を得てお送りしています。さて……皆さんは、メガニウムというポケモンはご存じですか? 知らない方に申しますと、ジョウト地方のポケモンになります」
「そうだぞ皆の者! ジョウト地方での皆の者もよく知る最初の三匹、所謂御三家の一匹だぞい!」
ナンジャモのアシストでコメントの反応が、聞く耳を持つようになる。
「ええ、バクフーン、オーダイル、そしてメガニウム。ジョウト地方でいう御三家です。皆さんにお伝えしたいのは、実はメガニウムというポケモンは、御三家の中で最も育成がしにくいポケモンなのです」
「えっ? 何それ、ミク氏ボクも初耳!?」
苦笑いして、何故か理由を説明する。
先ず、能力面。攻撃よりも耐久が高く動きもそこまで速くはない。
駆け出しのトレーナーは複雑な戦術を組むのが難しい。
そこに耐久のポケモンを渡される。
攻め手に欠けるポケモンは道中苦労することが多い。
何せチャレンジャーは、受けよりも攻めを意識した方が戦いやすいのだ。
「多くの人は純粋に使いやすいポケモンの方が良いと思いませんか? ジョウト地方で言えばメガニウムというポケモンは、決して習得の技も豊富とは言えません。メガニウムは決してスペックは悪くは無いのですが、育成においてはかなりの癖と知識を求められるポケモンなのです」
「マジかー……。具体的にはどんななのミク氏?」
一から解説していく。
先ず草故の沢山の弱点の多さ。
それらをひっくり返す技を覚えない。
耐久のポケモンで回復の光合成はあるが、痺れ粉や眠り粉のような足止めを出来ない。
そこで押し切る火力が無い。
特性の深緑やリーフガードの使い勝手の悪さ。
火力控え目のポケモンがピンチで上がっても恩恵が低い。
リーフガードで日照りを使うにも他にも良いポケモンが沢山居る。
「うわぁ……。つまり競合ポケモンが多いって事?」
「ナンジャモ氏の感想がメガニウムの通常の状態です。本当に没個性で、メガニウムならではの強みは無かったのが今まで。メガシンカを得るまでは」
此処からだ。メガシンカを得たことで何が起きたか。
簡単に言えば、前提が覆った。
高火力を元々の耐久のポケモンが持つとどうなるか。
しぶとい大砲である。
「私はさっき、リザードンでソーラービームを直撃しましたよね? アレはリザードンだから対して通用しないだけで、普通のポケモンなら軽く吹き飛びますよ。誤解しないで欲しいのは、メガシンカしたメガニウムを通常と相手が同じだと思うことあのメガニウム最大の強みです。耐久のポケモンが高火力で即座にソーラービームぶっ放して、弱いわけ無いでしょう?」
「そうだよ! 何でいきなりソーラービームぶっ放して来るのさ!?」
疑問に思うのも当然だろう。
特性の変化で、即座の攻撃が可能というだけ伝える。
ここで敢えて全てを明かさない。
ただ、知って欲しいのは。
「これを見ている多くのトレーナーの皆さん。ジムリーダーを、順番に関係なく見くびるのは止めましょう。私達チャレンジャーは有利になっているという現実を見て、行動して欲しいです。情報を明かしているジムリーダーと、何も教えないチャレンジャー。どっちが有利か、分かりますよね?」
そうとだけ伝える。
ナンジャモ、本音で言うとちょっと感動した。
ミクがジムリーダーを擁護してくれた。
ジムリーダーを負かした勝ち誇る連中はジムリーダーを弱いと言ってよく見下す。
条件も見ない。順番に合わせて調整するこっちの苦労を知らないで言われるとインフルエンサーとしては時々腹立っていた。
彼等の苦労を労わずに、勝ち誇るようなトレーナーにミクはならない。
初手のソーラービーム。受けたのは簡単だ。
リザードンが圧倒的に有利だから、受けただけ。
避ければ脅威が分からない。
空振りじゃ威力の証明にならない。
公式戦の記録になったとき、これを資料として見るなら最低でも向こうがメガシンカをしたならメガシンカで応えた以上、メガシンカ引っ張り出すならこっちも同じじゃないと対抗できない。
圧倒的にタイプ有利だから余裕で堪えた。
それで無ければ、並みのポケモンなら吹き飛ぶ。
「そもそもメガシンカ出来るジムリーダーが、弱いわけ無いですよね? 皆さんも、ご自身の地方のジムリーダーを見るときに、本当の意味で勝ったのかどうか。よく考えて欲しいです」
「ミク氏……! ボク嬉しいよ! ジムリーダーを正しく評価してくれるチャレンジャーとか、本当に居ないから!」
オモダカも内心拍手喝采だった。
配信者として、相手へ敬意を持って振る舞う。
チャレンジャーとしても、配信者としても、心構えが良い。
「無論、ナンジャモ氏の皆の者は、ナンジャモ氏の真の実力を見たいとも思いますよね?」
「えっ」
何か不穏な空気になった。
ミクが笑っている。いつも通り。
でも……空気は、笑ってない。
「私はもっと頑張ります。コルサさんの戦いを見て、私を情けないと思うのは構いません。事実ですから。でも、その期待に応えるつもりです。ナンジャモ氏に本気を出させるくらいの実力を、つけたいと思っています」
堂々と、宣言する。これからも努力していく。
応援には、応える。頑張る。
「ミク氏、サラッとボクに圧かけるの止めて……」
ナンジャモ、若干困惑。
応援されている以上、進むのは良いけどナンジャモに本気を要求するとかオモダカ案件なので。
向こうで聞いてるオモダカがナンジャモにニコッと笑う。
「ひぇ……」
ほら来た案の定。
ミクのプロデュース、確りとやれっていう無言の圧。
これから、一気に決めるとミクは言う。
「メガシンカしたメガニウムを攻略するなら、そうですね。草なら炎や毒なら勝てるとか思ってるなら、挑むのを止めた方が良いと思います」
そんな知識が圧倒的火力と射程から飛んでくるソーラービームに通用すると思うな。
リザードンが相性がアドバンテージで取れてるだけ。
普通なら、通用しない。
そう言うと、再び試合に戻る。
ナンジャモがリザードンの解説にしながら離脱。
「随分と我々の立場を尊重するな。熟々、素直らしい」
「制約とフリーの差を理解しないほど、バカでいるつもりは無いので」
十分身体はヒートアップしている。
さっさと片付ける。リザードンを見てミクは言う。
「大口では無いな。速攻で決めると言うか。出来るかな?」
攻略するならどう出る?
持久戦は出来ない。光合成が無いと知られた。
接近されたら肉弾戦で踏み潰して倒すが、ニトロチャージで轢き逃げ行為を繰り返す彼女には通用しない。
加速し続けるバシャーモのような気分だ。
向こうならまだ接近戦に持ち込める。
だがバシャーモのような常時加速の速度こそ無いが、間合いの調整でカバーしてくる。
何を撃ち込むかと思えば。
「踏ん張って下さいね。これが私の切り札です。堪えきったらメガニウムの勝ちだと思います」
ミクはそう告げる。切り札の必殺技。
一度切りの、大技。
「リザードン、もう一回接近! 至近距離で行くよ!」
咆哮するリザードンの飛翔。滑空からの接近。
間合いを詰める? マジカルシャインの射程まで。
当然迎撃の光に飲まれるリザードン。
ニヤリと、彼等は笑う。
承知の上で、何を一体……?
「――ブラストバーンッ!!」
マジカルシャインを突っ切って、至近距離で着地。
大地の力が来る前に業火を握った拳でコートを殴る。
途端、バカでかい火柱が立ち上った。
その火柱が、メガニウムに向かって高速で突き進む。
「ほぉ!! 御三家の秘伝、究極の大技をここで使うか! 良いだろう、迎え撃てメガニウム! 最大パワーでソーラービーム!!」
ブラストバーン。
炎の御三家のみが使える、究極の高火力の大技。
バカでかい火柱にソーラービームで勢いを殺ぐ。
が、明らかに元々の火力が違う。
連射して対応するも、一行に衰えない。
「反動で動けないのも分かった上か、歌姫!」
「決めると言ったら、ここぞというのが見せ場でしょう!?」
ブラストバーンなど予想外。
駆け出しを名乗りながら最初からメガシンカも、究極の大技も持っている。
周囲の期待を背負って、周囲に託されてコミュニケーションを取って、得た物か。
アレほどの臆病風の理由はこれか。
一度消えれば、この対応。
この歌姫は本当に、面白い!
「そうだな! 貴様は芸術の何たるか、分かって居るではないか!」
「これが、私なりの全力です!」
盛り上げるシーンでぶつかり合う大技。
最早言葉すら出てこないオモダカ達は、ミクが如何に期待されているかを知る。
その重荷にビビるのも分かった。
それでも、笑顔で。彼女は、叫ぶ。
ブラストバーンと連射のソーラービーム。
勢いを殺せず、火柱がメガニウムを食らう。
煉獄のような光景に、盛大に笑うコルサ。
「アヴァンギャルドッ!! 全力の応酬……これでこそ、アートだ!」
爆心地の火柱が燃え上がる。
延焼を起こして、収まるまで焼き続ける。
その、結果とは……。