不器用な歌姫は今日も軽音部で歌を歌う。
我ながら美声だわ流石ミク、とミクは自画自賛する。
聞き惚れるニャイキング、時々合いの手で「やぁん」と入れるヤドラン、ボンボン腹を叩いてドラムの代わりを自称するマリルリ。
「ミク、良いね! これ動画で上げようよ!」
軽音部のギタリストがそう言って提案するが、仮にも本家居るのにそっくりさんが出たら炎上だからやめてくれと本気で頼む。
アカデミーでは有名な存在になったミク。
クラベル校長は勿論、まさかのオモダカまで来て聞いていた。
「……素晴らしい。他人のそら似とはいえ、我が校に歌姫が舞い降りるとは。林間学校の前にちょっとした音楽祭でもやりましょうか」
「やめて下さい!! 私はミクのそっくりさんなだけですっ!」
この世界の本家初音ミクに殺される。
ただのミクでも髪型、顔、声がそっくりさんだけで注目なのに。
これ以上は偶然の産物として処理してくれまいか。
意図的にやってはいる。
ツーテール止めたら別のミクになるだけだった。
ちなみに転生ミク、俗に言う見た目は新幹線ロボットアニメに出ていた雪ミクの状態なので本家初音ミクとは微妙に違う。
それでも似てる。ツーテールはアイデンティティ。
人前で絶対に解いてはいけないのである。
何か軽音部の先輩方が画策して、翌日に勝手に手芸部と手を組み衣装を用意して着ろとか来たら脅迫してきた。
どう見ても本家亜種の雪ミクです、ありがとうございました。
「本家に殺されるっ! 衣装まで着たらアカデミーのアイドルにされる!!」
「逃げるなミク! アカデミーのミクとして広告塔になれぇ!!」
……とうとう、抵抗虚しくミクの動画がマジで上げられた。アカデミーから許可も出た。なんで?
宝探し前ぐらいには、バズっていた。
ウン百万とか再生されたらしい。
突然現れたパルデア地方のアカデミーのディーヴァ。
そっくりさんと一瞬で拡散した。
一躍有名人。本人と間違える人が多発。
アカデミーに何か知らない人が不法侵入するようになってしまった。
警備会社が片っ端からしょっ引く。
曰く、そっくりさんのパチもんを見たいらしい理由での不法侵入と聞く。
だから言ったのに。
ヤバい。ミクは青ざめた。
宝探しでパルデア地方に出たら間違いなく大事になる。
本家にも気付かれた。
シンオウに本家のある初音ミク。
いきなり遠い異国で現れた、謎のそっくりさん。
アカデミーに事務所から問い合わせが来たそうだ。
一般市民で単純に真似ただけだが、問題や迷惑だったかオモダカが聞いたら寛大にもファンアートとして受け取るので気にしないから、ただマジで似てるから不審者には注意してね、という待遇だったそうだ。
(謎の好待遇が怖いよ! 私パルデアミクじゃん!?)
本家もリージョンフォームミクとか言いだして、微妙に違うのを良いことに寧ろ悪ノリしてくれた。
本家が初音ミク、パルデア地方に進出。
とか嘘広告まで作って宣伝する悪ノリ。
焦るミク。話が肥大化していく。
こっちにも有名な配信者、ナンジャモが居るわけで。
『何か最近、ミクがアカデミーで歌っているとか聞くんだよねー。ボク的に気になるから、ここで敢えて言おう。アカデミーのディーヴァ、ミク! 宝探しが始まったらボクのところにかかってこいやぁ! ミックミクにしてやるよん!』
ナンジャモにまで認知される始末。
見ていて本人、愕然。血の気が失せた。
(待って、私はあくまでミクであって初音ミクでは無いから! 公式さん、リージョンフォームって言って嘘広告まで出して私を面白がらないで!?)
拡散するミクの知名度。
一躍時の人になって、教室ではアカデミーの有名人として、担任のジニアにも言われた。
「いやぁ、ミクさんの歌唱力が評価されたんだと思いますよぉ。良かったですねぇ」
「良くないです! 元々アカデミーの広告塔になるならまだしも、ここまで拡散されたら私の宝探しどうなるんですか!?」
少しでも外に出ればミクは怪しい大人に誘拐される。
想像して恐怖でガタガタ震えるミクに、ジニアはその為のポケモンだとも言うが。
「うちのメンツでどうしろと!?」
仲良くやってるけど、アテにならない三匹である。
ニャイキングが護衛してくれそうだが……ここはパルデア地方。
パワーインフレを起こした九世代である。
ニャイキングで勝てるかどうか……。
著名人はストーカーなどの被害も多いんだと必死に訴える。
子供に皆して悪ノリしてこの様だ。
今じゃアカデミクとか校内で言われるのに。
どういうあだ名だアカデミク。語呂良いな。
「まあ、大丈夫ですよ。不審者は校内に入れませんし」
「野外授業は外ですよね先生!!」
「あー……確かに。どうしますかね?」
能天気な担任に頭を抱えるミク。
ダメだ、アテにならない。
こうなったら野外授業を放棄して引き篭もってアカデミー生活にするかも検討する。
こう言うときに引っ張るのがネモだ。
ナンジャモからご指名来てるんだから出かけようぜ! と誘う。拒否るミク。
「嫌だ! アカデミクになった時点で私はミクのリージョンフォーム扱いされてるんだよ!」
「よくわかんないけど、パルデア地方は治安良いよ?」
「良ければ不審者の不法侵入無いよね!?」
アカデミーにいるから大丈夫なのであって、外に出たら恐怖の世界だ。
著名人の苦労が分かるまい。
このツーテールのアイデンティティを捨てたらミクはミクでは無く、それは違うミクなのだ。
「ゴメン本当によくわかんない」
「私はそっくりさんっていうキャラなんだよ! これがネモのバトル好きと一緒でアイデンティティなの!」
「えぇ? 私のアイデンティティがバトル好き? ……そういえば否定できないや」
納得したらしい彼女に変装など出来ぬと言う。
ツーテール雪ミクという外見は譲れない。
ポニテミク、ロングヘアミク、エトセトラ。
居るだろうが、居るだろうが!
「ミクはミクだよ。アカデミーの歌姫だよね?」
「いや、有名人だから問題なんだよネモ! 私のツーテールは命なの! これを変えたら私はミクでも本当にパルデアミクにされちゃうよ!」
「……大変そうだね」
同情するネモに訴えるミク。
だって、これ以外に特典は無いのに。
これを捨てるなど勿体ない! という奴だ。
主人公の癖に何もないからこれには拘る。
「誰かと一緒に行く?」
「そうしようとは思うけど……」
現状、ミクは皆に絶賛される歌声の生徒。
ネモのように浮いていると言えば浮いている。
ネモは近寄るとバトルに、ミクはセッションに巻き添えを受ける。
いや、別に普通に何となく鼻歌歌ってたらいつの間にか人が集まって確りと聞きたいって言われるだけだが。
それが起きたのが先日の昼時の学食であった。
ご飯を食べながらハミングしてたら隣の生徒が恍惚の表情で勝手に録音しようとしていたのを学食の教員が注意して始まった。
曰く、チルタリスのような癒やしのボイス。
タダで聞けるとか良いのかこれと皆が言いだした。
歌うならちゃんと軽音部の部室にしようと。
この頃になると放課後になると何処ぞの漫画のように軽音部に集まって演奏会が毎日開かれていた。
歌えミク、歌えぇー……とか軽音部の先輩方が呪詛のように纏わり付いて怖いので歌っている。
小心者のミクは泣く泣く歌っているのだが、それでアカデミーに来なかった不登校のスター団の連中が来るようになったとか。
録音許可出したら、速攻で録音して持ち帰って、ボスの一人であるピーニャに聞かせたらしい。
そうしたら、何とピーニャ学校に来た。
スター団のボスが一人、纏め役でセギンの頭が。
「君が噂のアカデミク? 良いじゃん君の歌声、マジで最高だね! うちの団員からも僕もファンが続出さ! 会えて嬉しいよ、ミク」
で、スター団の一部が調子に乗ってるのを見かねてミクに相談を持ちかけた。
夜の学生寮に堂々と戻ってきて、ちょっとミクの部屋に案内して話を聞いた。
まさかの展開に驚くミク。
BGM担当とか言うよくわかんない立場のピーニャが、直々に更生を訴えてきた。
「最近、スター団の方針に合わないことしてる連中が多くてね。無理矢理の勧誘、好き勝手に現れる不法侵入。まぁ、アジト作って立て篭もってる僕らも言えないけどさ。これ、僕らなりの義理っていうか、矜持っていうか。そこんとこ、わかってくれる?」
「はぁ……。まぁ、何となく。通したい恩があるんですよね?」
そう聞くと上機嫌に笑うピーニャ。
「そういう事。君も大概、スター団ってモノに偏見無いんだね。すっかり不良の集まり扱いだ、やれやれ……」
思っていたよりもピーニャは冷静だった。
首魁の帰還を待っているだけなんだが、なんかスター団の一部が好き勝手に振る舞う。
今回は学生寮とアカデミーの様子を探りに来たらしい。
昼間は潜伏して様子を団員と共に観察。
放課後、演奏会に参加して聞き惚れたそうだ。
「本家が初音ミクって言うのは知ってる。良いよね、あの歌声。でも君だって負けちゃいないよ。誇って良い、君も立派なアカデミクだ」
「その呼び方やめて下さい」
なんでこうなる。
「兎も角、ね。君の歌声に惹かれてアカデミーに行こうっていう風潮っていうの? そんなのが今、スター団の中で流れてる。これ自体が良い流れでさ。まぁ、見た感じ嫌悪するほどの空気でも無い。それでもって、ゆくゆくは選曲リスト持って、是非ともスター団のアジトでライブ的に歌ってもらおうっていう企画を他のボスが立ち上げてる」
「ファッ!?」
スター団がエール団になってる。
ミクもビックリの展開だった。
ピーニャはアカデミーが一年以上経過して変わっているなら、不登校と立てこもりを止めても良いと言う。
ただ、スター団は継続するが。
「っていうか、あのオルティガですら君を褒めてた。ワガママで生意気で、悪い奴じゃないんだけども……難ありのその彼が、普通ならパチもんって文句を言うのに、君の声をチルタリスと同等って褒めた。これね、凄い意味だよ」
フェアリー組のクソガキボスも良い声だ、これは歌姫を名乗って良いと言うお墨付き。
「パルデア地方にそっくりさんの初音ミクが来た。これがかなりショックらしくて、オルティガがライブ聞くから、料金もプライドへし折ってチケット代出すから呼べって駄々こねてるんだよね」
マジか。絶句するミク。
オルティガが生で聞かせろと言い張って駄々っ子しているらしい。
「私、そっくりさんですけど?」
「君、知らない? 人工の宝石が天然の宝石に負ける理由なんか、人によっては皆無なんだぜ?」
ニヤッと笑うピーニャ。
初音ミクは唯一の本物。
それはそっくりさんでも、聞いた本人が同等の価値を見出せば成り立つのだと。
「そういう訳。公式も君のこと認知して悪ノリしちゃってるし。野外授業、どうするのかな?」
そこが困ったことで、有名人故に恐ろしいことになりそうで怖いと正直に白状する。
スター団は元々弱者の集団だ。
弱音なら、吐いても良いだろう。
別のミクの親戚になりそうだった。
「オーケー、そういう事なら僕らに任せてよ。スター団の改革をいい加減始めないといけないって思ってたんだよね。君、スター団に来なよ。歓迎するぜ、アカデミーの歌姫」
……ちょっと待って。
野外授業の時期に、スター団の拠点……アジトを元にやれば良い。名案だろうとピーニャは言い出す。
物騒な連中から守ろう。
お礼はその歌声とライブで良い。
つまり、スター団の歌姫になると。
「元々、僕らは不良じゃ無い。今のそのイメージを君と共に変えたいんだ。ただ、ちょっとばっかし、内戦になるかなぁ……」
「内戦ですか」
ボス達も構成員のマナー違反に手を焼いていた。
掟という絶対的なルールで命令できない以上、お願いにも従わないならどうするか。
簡単だ。ボスの名目で、売られたケンカは買う。
それで切ってしまえば良い。
お題目をもって、追い出そうというわけだ。
好き勝手に振る舞う一派を、一掃する。
「どうかな。この誘い、乗るかい歌姫」
「……」
まさかの展開。
スター団の改革を推進するキッカケになろうとは。
自発的で良いとも思う。
スター団自体も原作のように叩き潰す訳でも無い。
暫しミクは考えて、言った。
ミライドンがいない、テラスタルオーブもない。
それでも、こうなったのなら。
「私の歌声にそういって貰えるなら。ニセモノですけど、一生懸命頑張ります!」
「ニセモノ? ノンノン、リスペクトだと僕は思うよ」
スター団の物語に、乗っかることにした。
これが転生ミクの、スターダスト。
野外授業の当日までアカデミーにいるとして。
当日になった。
校庭に集まって全校集会を聞いて、適当に聞き流し。
野外授業……宝探しに皆が出て行く中で。
「それじゃ、先ずは駄々っ子を宥めに行こうか」
「お願いします」
迎えのピーニャ達と共に、スター団の一員となって改革する。
これが色々足りない転生ミクの物語。
スターダスト・ストリート。