こうして古代の巫女なる肩書きを持つミク。
近隣にポケモンを捕獲しに行ったことで、メンツが大きく増えた。
ビックリなのが、やっぱり生態が大きく違うことか。
内定しているポケモンの進化系が沢山居る。
アカデミー周辺のポケモンは残念ながらこっちの事情に合わせてはくれない。
駆け出しは基本的にアカデミーの授業で特訓したりバトルの授業で戦ったりしてある程度強くなってから外に出るのが普通。
そりゃジム戦も落ちるよなと思う。
近隣に進化系が普通にいて、こっちで先ずは基盤を整えてから出発するのが当たり前。
そんな中、ジム戦に挑むもアカデミー以外では慣れない経験値の差で諦めたくもなる。
アカデミーは環境的に最高の場所だ。
学び舎は居心地も良い。でも外の世界はもっと過酷で、宝探しで挫折して戻ってくる生徒もチラホラ見かけるようになったミク。
ジム戦を手頃な目標にしたら三つ目で諦めた。
ミクの配信で勇気付けされて果敢に挑むもその前のジムテストで落っこちた。
挑戦権を取れなかった。甘くは無いと現実を知る。
セルクルタウンは隣町。そこのジムに挑むが、簡単にするように言われている以上、皆セルクルタウンのバッジくらい持っている。
ミクは持ってない。これから挑む。
戻って来る生徒は大体三つで諦める。
難易度がいきなり上がる……という訳でも無い。
徐々に上がっていくが幅が大きい。
つまりジムテストに受かっても、一個貰うだけで割りと皆嫌気がする。
こんなにしんどい作業を幾つもこなすのか。
楽しい宝探しで、何で苦労をする目標に設定しないといけない。
面倒臭い。もっと遊びたい。楽しみたい。
そう、ジム戦の最大の問題。面白くない。
苦労の割りに得られる見返りが少ない。
ポケモンバトルは気軽に行えるものだ。
ガチで極める道は、正直皆楽しくないから辞めてしまう。
一個か二個持っていれば最低限の実力の保持ぐらいの感覚。
挫折と言うより、面倒臭い。だから投げる。
周囲にはバッジ二個ぐらいの生徒ならザラと居る。
コルサとカエデには普通の生徒でもまあ、勝てる。
本気では無いが。
でもそれ以上の生徒が極端に少ない。
三つを境に、続ける価値を見つけるか否か。
大抵は青春をそんなリターンのないジム戦などという進路にも大して役にも立たない事に使いたくない。
アカデミーでは卒業後、色々な未来がある。
バッジ制覇をしても将来にプロを目指すわけでも無い生徒には時間の無駄。
アカデミーで友達と過ごす方が楽だし為になる。
そんな理由で、投げ出すらしい。
ミクの配信でキッカケにジム戦に挑むもジムテストが鬱陶しい、一々やるのがめんどいなどで放棄して戻ってくる。
ミクは戻ってきた生徒によく言われる。
企画とは言え、やってて面倒臭くない?
毎度ジムテストやって、律儀にジム戦やってるの。
一個とは言え持ったけど、配信見てて明らかにジムリーダー加減してないよね?
難易度が普通の人より高いのによく続くね? など。
そう見えるらしい。宝探しに向かってもつまらないという訳で放り投げて戻る生徒達は、一様にミクの配信の大変さを身にしみている。
多数の目的。謎のポケモンの追っかけ、不良の更生にジム戦。
全部やりきるのがどれだけ大変か。
それを苦とも思わないミクは凄い前向きでメンタルが強いんだろう。
改めて、ミクは応援されていく。
苦労を知った生徒達は、娯楽としてミクを見る。
それでいい。笑顔を届けるのは娯楽だ。
ミクは近隣で多くのポケモンをネモと捕まえた。
本来難しい多頭飼育をネモが後方支援で請け負って、バックアップで支えてくれる。
後、昼時のアカデミーの食堂でペパーと出会った。
「よぉ、久々だな歌姫ちゃん」
「あ、どうも」
初回の主以来だった。
あの時は助かったと言うペパー。
あの後の様子から察するに、ペパーは大変だなと労いつつも、今後も主を討伐するのに協力するというスタンスか尋ねる。
「そうですけど。ほら、配信の種ですので。あとリーグからの依頼ですから」
「お前……ちょっと背負いすぎじゃねえか? 広告塔って言っても限度あるだろ」
ペパーは苦い顔で言う。
自分もタダ乗りしているから強くは言えない。
事情を聞かないのも、ミクは知っているからだが秘密だと思うしつついて薮蛇はゴメンだ。
ペパーが言うに、多数で主に立ち向かうのは映えるだろうが、自分もその後に向かうのは気にしないでという内容。
どうでも良いのでわかったと言っておく。
……最終決戦のことを今から考えても意味が無い。
既にパラドックスは古来が居る。未来も当然居るだろう。
禁域に寄らないなら基本関係ない。
欲しいとも思わない。既に手持ちは多数いる。
「まぁ、リーグが仕事してくれるには嬉しいんだけど……」
「お気になさらず。私は頑張るだけですので」
「前進しかしないで、時々は周りを見回せよ歌姫ちゃん」
そうとだけ言うと、ペパーは去って行った。
昼飯食ってたら別の生徒が話しかけてきた。
大体ミクの周りには関係者が常にいるため、外野からアポを取るのも日常茶飯事。
良ければ時間が空いているならバトルして欲しいというお願いだった。
構わない。どうせまだセルクルタウンに向かうつもりはないし、大人二人がオモダカと所用で出かけている。
一端の配信者とは思えない気さくさに、生徒達の間では相変わらずミクの株は爆上がりしている。
忙しいのに一切断らない。やり取りを大事にする。
そんな彼女に手伝えることが無いか、寧ろ宝探しで早々目的を達成したり投げ出して暇な生徒が言いだして、支援のために最近ファンクラブまで出来たと聞いてミクは素直に礼を言う。
また活動できる。ただ、誰が代表か聞いとかないとホウレンソウが出来ないので、聞いたら声を掛けた女子生徒その人だった。
曰く、宝探しで目的だった資格が取れた。
在学中には無理と親に言われたのにミクの応援歌を聞いて猛勉強したら受かった。
ミクのおかげで夢に近づいた。
彼女に意図は無いだろうが、そういう感謝を込めて結成したファンクラブ。
どうか、応援させて欲しいと。
マネジメントはナンジャモなので一報を入れて、反応を見る。
返答は良いと思うから、こっちのスケジュールにすり合わせ出来るならしといて、とのこと。
オッケー貰ったので連絡先を交換して、昼食って午後にバトルコートに向かう。
預かりシステムも積極的に使うようにしている。
ネモが不在でも手持ちの入れ替えを行う。
今回もギャラリーが溢れている。ミクが向かうのを見かけて、またバトルするらしいと噂になって、聞きつけた外野が沢山。
中庭のバトルコートにお互い立つ。
手持ち二匹、交代ありのルール。
双方頑張れというエールを聞きながら、バトルを開始する。
「行くよ、ハハコモリ!」
いきなりハハコモリが出て来た。
最終進化。弱そうな見た目に反して能力はハッサムと同等である。
「んじゃ、行こうかレジギガス!」
こっちは遠慮無くレジギガスを繰り出した。
どうせ呪詛付きで鈍っている。
早い段階で解除したいなら初手で出す。
相手、驚く。知らない、何このデカいポケモン。
ふんすっ! とポーズを取ってやる気満々脱力レジギガスは身構える。
バトル開始。
困惑する相手は足元にねばねばネットを散蒔く。
足に絡みついて身動きが取りづらい設置系の技。
「悪の波導!」
知ったことじゃない。レジギガスは某戦闘民族のようなモーションで、悪の波導を放った。
動作が遅いが攻撃自体は普通に飛ぶ。
慌てて回避するハハコモリ。
剣の舞で攻撃を上げて、斬りかかる。
レジギガスは悪の波導、連射。
接近前に回避しているが、のそのそ動くレジギガスにはねばねばネットは関係ない。
絡みついても強引に引き千切る。
腐ってもパワーの半分は出せるので、強引に移動。
悪の波導を回避しつつ、リーフブレードで斬りかかるハハコモリ。
斬られても対してレジギガスは気にせず至近距離で反撃を行う。
当たったがハハコモリにもやはり控え目な火力で立っている。
シザークロスで斬られてもレジギガスは単純に連射して、ジリ貧に持ち込む。
「いや、知らないけど見た目通りタフだ……。火力が無いのがまだ幸いかな……」
斬っても斬っても倒れない。
残飯で勝手に治癒して、元々の体力がやたら高いので、剣の舞で攻撃を上げても倒れないレジギガス。
こっちも悪の波導が数発当たったせいで、特性虫の知らせで補正込みの火力補強して斬りかかる。
なのにまだ倒れない。で、時間切れ。
「さて、レジギガス。そろそろ頃合いかな」
ミクが確認すると、準備運動のようにストレッチしていく。
呪詛が解けて、途端に速くなるレジギガス。
高速で巨体で走り、間合いを取りながら相変わらずの連射。
「嘘!? なに、このポケモン!? さっきと違う!」
とろくさい状態は終わった。
此処からは割りと良く動く、普通の砲台の時間だ。
混乱する相手に構わず兎に角連射を続ける。
やってることは単純なのに急変する動きと異常な耐久性。
これがリアルのレジギガスの強み、初見殺し。
場数の踏んでいる相手にも通じる、能力で無理矢理ゴリ押しの戦法。
呪詛を解いたレジギガスは因みに育成が非常に手間かかるポケモン、ガブリアスと大体同じである。
そんなもんが高速で動いて撃ってくればハハコモリも加速して追いつくしか無い。
が、自分の撒いたねばねばネットがそこら中に広がっている。
足場が無い。レジギガスはその絡みついているネットの上でも、当然のように高速で動く。
よく見ればねばねばネットが捕らえていない。
獲物が重たいのが良いがパワーで千切って動くので無視。足止めにならず踏み荒らして潰れている。
「このポケモン強い……! ミクさん、流石です!」
これでも控え目なレジギガスで行っているのだが。
総合すると、レジギガスの長所は認知度の低さ。
どういうポケモンか先ず相手は分からない。
分かったところで、神話のポケモンと今度は過剰に警戒する。
申し訳ないがここのレジギガスは分霊なのでそこまでの逸話は過剰認識。
やってくるスケールの小ささ、或いは巨躯に対して見掛け倒しの低火力の遠距離攻撃。
どっちにせよ、異常な耐久性以外は予想が外れる。
ちみちみ堪えて削って、呪詛を解いたら動いてちみちみ削って、泥仕合のジリ貧に持ち込んで総合的に勝つという戦術。
超火力のポケモンには通じないが、一般ポケモンにそんな火力を持っている奴はほぼいないので、見ていて興奮するような戦いでは無いのは事実。
結局粘り勝ち。ハハコモリの手数では補強してもレジギガスのタフネスは超えられない。
「じゃあ、次はこれです! ゼブライカ!」
シマウマに似たポケモン、ゼブライカ。
嘶いて登場する。こっちも変えることにした。
「お疲れさまレジギガス。ゆっくり休んでね」
レジギガスはまだいけるが、試したいので交代。
繰り出したのはガチグマ。四つ足で、のそっと着地。
「また知らないポケモン……! ミクさん、珍しいポケモンいっぱい居るんですね!」
配信でも知らないポケモン出していたと言うから見ていたのだろう。
ゼブライカに有効打あるか思い出す。
こっちの火力は一般ポケモンでは破格だが、どう出る。
ゼブライカの耐久性では当たれば一発でノックアウトだが。
二戦目、開始。
軽快に駆け出すゼブライカ。
が、運悪くフィールドに残ったねばねばネットが飛散しており駆け回る足場が無い。
ガチグマはどうせ鈍いので気にせず鈍足で動いていく。
その過程で周囲に火の粉が散ったのを相手は見ていた。
「あれ、もしかしたら火炎玉……!? じゃあ、あのポケモンリングマの進化系!? ゼブライカ、気張って! 一発でも受けたら負けるよ!」
勘付いたか。似てるから連想もし易い。
重戦車が低速で近寄る。
ゼブライカは助走をつけてねばねばネットの上を大きく飛び上がる。
着地点をガチグマに定めて。
「草分け!」
あの助走の動きで草分け。
着地して踏み台にされるガチグマ。
また跳躍して罠を飛び越える。
効果は抜群だが、ガチグマはのんびり構えている。
速度が加速する。この状況の場合、足場が点在する空間にジャンプして踏み台を繰り返して倒す算段か。
なら。
「ガチグマ、上から来るよ。一発で決めちゃって」
どうせ方角が上からの投下。反撃は出来る。
またも草分けで跳躍して強襲。
ガチグマは普通に二足歩行で立ち上がる。
「四つ足じゃないの!?」
相手もそう思うが、クマは二足歩行も出来る。
リングマだってそうだろうに、認識が甘い。
その時点で着地点がズレた。
一歩下がって、ゼブライカはねばねばネットの上に着地。自分の罠に絡まった。
隙だらけなので、容赦なく入れる。
「空元気!」
空元気。モーションは殴る。
状態異常の時威力二倍、ガチグマの特性根性で攻撃増加。
そんなもんを紙耐久で受ければ、後方に余裕で吹っ飛んだ。
「うわぁ!?」
剰りの威力にゼブライカは相手を横切り空を切って後ろに飛ぶ。
コートの外をバウンドして転がった。
当然、気絶している。
一発で倒した。
ねばねばネットが逆効果だったのは相手のミスか?
この状況で重戦車に脆い高速アタッカーは不味いと思う。
一撃でも受ければ撃沈。
回避できる足場を自分で潰した。
ミクがニャイキングでも出すと思ったんだろうか?
それなら納得だが、交代ありのルールでは直ぐに変更するし、相手の詰めが甘いと言う感想だった。
「すみません、ミクさん。思いっきりミスっちゃった……」
戻しながら謝罪してくる相手。
案の定、覚えたばかりのねばねばネットの仕様を分かってないそうだった。
こう言う部分があるからアカデミーは楽しい。
失敗やミスを責めないし、もっと言えば慣れない技を使うのに誰であっても、失礼は無いだろう。
ミクに至っては初手でレジギガスを使っている。
異常な耐久性の前に、めげずにやったんだから良いと思う。
お互いに健闘を称えて、握手して終わり。
外野も悪くないと拍手してくれた。
ここが、今のアカデミーだ。
高め合える、最高の環境。
だから思う。此処の良さをもっと広めて行こう。
広報として、宣伝をもっとやろう。
終わった後、部室でまた先輩たちと新作の歌を歌いながらミクは思う。
何も不安はない。不満も無い。
恵まれた事が、最大の幸運。
それを歌詞に込めて、歌っていくのだった。