ミクはアカデミーで大体のやることを終えた。
そろそろ頃合い。セルクルタウンに向かうことにする。
レホール事件で広まった巫女説も否定できないままだが、手持ちもある程度……というか見境なくネモが喜んで捕獲したせいで爆増えた。
結晶洞窟まで網羅しやがったネモとミク。
これならまあ、問題あるまい。
少しは変わったと思いたいが、どうだろう。
今回は新たなにファンクラブも増えて、応援に暇をする数名が同伴してメロコ達はお休みだそう。
溜まった支払いの真っ最中。
空席一年半は伊達じゃない。
ナンジャモ、アオキ、ネモと共にセルクルタウンに向かった。
……と思ったら。
「ムクロジのケーキなどのお菓子は本当に美味しいんですが……。カエデさんが、今の時期は繁忙期で基本的にムクロジの方に働いているので多忙なんですよ」
アオキ曰く、駆け出しのトレーナーが宝探しで良く挑むが故にカエデが本業を追い込まれて忙しい。
ミクの来訪はオモダカから聞いているが、対応できない。
本業の人気店。個人経営だからこそ、抜ける穴が責任者なので無理が利かない。
だったらセルクルタウンでゆっくりするとしよう。
どうせ近場。多くの生徒達が来ている隣町。
休憩には丁度良いだろう。
「カエデ氏のムクロジはパルデアでも屈指の名店! ボクも気張って宣伝するぞい!」
「カエデさんのお店の許可を貰いましょうね?」
既知のジムリーダー同士とは言え気安く宣伝できまい。
本業の邪魔になったら困るだろう。ミクもやんわりと釘を刺す。
尚、ムクロジ……というかセルクルタウン近くには名産品のオリーブの畑が広がっている。
長閑な田舎町のお菓子の名店。大都市の近郊。
立地は最高である。その癖安いらしい。
即日完売が常時では尋常じゃない人気だ。
ジムリーダーのカエデは、お菓子のプロでありもう一人のジムリーダー、料亭のハイダイというジムリーダーの弟子らしい。
中華料理のコックとパティシエに師弟関係はよく分からないが、事実そうだと言われた。
食通のアオキから言うに、目利きなどのスキルはハイダイから教わったりしているとか。
セルクルタウンは本当に生徒が多い。
ムクロジに寄りつくハチみたいに見える。
花の蜜を欲して群がる生徒達には悪いが。
でもセルクルタウン自体の運営には口出しは出来ないようで、暇潰しでスキルアップに生徒達とバトルしようと思っていたミクがアオキにバトルコートの利用許可を申請してくれと頼む。
「セルクルタウンのバトルコートも人気でして……。今日中に取るのは難しいかと。主に近場なので皆さんよく使うんですよ。ムクロジに来たついでにバトルも盛んでして」
「アオキさん、サラリーマンだけあって情勢に詳しいですね。頼りになります、やる気さえあれば」
「出来ればやりたくないのですが、自分もムクロジのショコラを食べるので急ぎでやりましょう。カエデさんには食材の流通関係でどうしても関わるんで、もう少し人員と増強とスムーズな流通プランニングをご提案しますかね」
ビジネスマンとして、やっぱり顔が広いアオキはそそくさとアポを取って、カエデと打ち合わせをしに行く。
セルクルタウン近くのポケモンも捕獲に行こうというネモに、いい加減手加減して欲しいミクはもう要らないと言う。
多すぎてもゲームならボックスに放り込めば良いがリアルだと負担になる。
これ以上は、十分だと言っておいた。
それでも相当な数になったので、もう管理も大変だ。
ネモは慣れた様子で、テキパキこなす。
根はお嬢様なんだなと改めて思う。
周辺は乾燥した荒野で、そこそこ敷地は広いがオリーブの畑が広がっている以上、迂闊にバトルも出来ないだろう。
とは言うが。思っていた以上に生徒が多く、やることが無い。
出店しているベーカリーでパンを買ってポケセンに持ち込んで食っているミク。
ネモはフラッとしてくると言い、ナンジャモは動画編集で引き篭もっている。
セルクルタウンは特産品のオリーブは良いが、真面目に何も出来ない。
年一の収穫祭ぐらいしか本来何もないのにムクロジがあるので賑わっている……という町か。
成る程、近場でも立地が良いけど何もない田舎町。
ジムリーダーこそ居るが多忙で会えない。オモダカみたいだ。
ミクに時間潰しにライブでもまたやるか? とファンクラブの一部が言う。
この頃には知名度が上がりすぎて迂闊に歌えない。
此処は芸術の町では無いので、路上ライブとかやったら大騒ぎになる。つまり迷惑行為。
自重しているので、尚更暇だ。
だからどうするか迷う。
近場だから戻るも良し。
時間帯が合わないのなら、来ていても田舎町には娯楽施設もない。
バトルコートも使えない。詰みだった。
ミクももう少しスムーズに行くかと思ったが世の中そうは行かないモノ。
持て余す時間。手持ち達と触れ合っているぐらいしか出来ない。
余裕を持ってとはアオキは言う。
少しは余裕は出来た。
今まで暇が無いくらいずっと動いていた。
なのに急にストップを食らって出来ることを出来ない。
暇ってこんなモノか、と思いつつポケセンで過ごしていた。
丸一日、ぐうたらと。
夜になってネモが帰ってきた。
遠征して結晶洞窟を一人で片っ端から潰していたと言ってやがったこの女。
だからこいつのアイデンティティを誰か止めてくれ。
妖怪バトルしようぜ。首置いてけの方がまだ良い。
飢餓状態のネモに満足を与える存在など早々居ない。
居たら良い感じに実ってきた☆……とか言わないし。
ミクはまだその領域に行けないので、遠くから眺めている。内心飢えた獣のようなネモを軽く引いている。
更に遅く、アオキも戻る。打ち合わせを終えた。
「やはりカエデさんは立て込んでいるようです。来週まで手は空かないそうです」
近場故に宝探しの初期に怒濤の勢いで流れ込んだ生徒の処理でムクロジの方が遅れて、その後始末の繁忙期。
今週は受けられない、との事だった。
「んー……。どうなんだろうなぁ」
ミクはやはりカエデは一回後回しでも良いと思う。
忙しいのに押しかけるのもマナー違反だし。
一回ダメならアカデミーに戻るか。
折角来たが、相手の都合が悪いのではどうしようもない。
ミクも別に順番を気にするつもりは無いが、これ以上は待っていても仕方が無い。
一度アカデミーに戻るか、そう思う。
なのでこの晩は過ごして、アカデミーに戻った。
セルクルタウンには直ぐに行ける。
今はアカデミーでもう少し時間を割こう。
ということで、メロコ達に戻ってきたと報告に行く。
「あ? 多忙で無理だった? ……だろうな。こっちも最悪のニュースが来たぜ。終わりだわ、全く……」
補修中の項垂れるメロコにオモダカから一報が来た。
前に言っていた、ボスたる彼女の返答だった。
シンプルに不登校をやるぐらいならとっとと自主的に解散してくれ、だそうだ。
あの事件は自分が全部の責任を取って、罰を受けて停学していたのにその間も勝手に続けられても困る。
此方はもうスター団は解散していたモノと思っていた。
あの時に全てのトリガーは自分だと言っただろう。
それで終わりで良かったんだ。それで正解だった。
なのにこんなに長期間、音沙汰無しの自分を待てと頼んだ覚えは無い。
此方は噂も実態も見た。
悪いがフーリガンのような真似事をする組織に戻るつもりは無い。
ここまで肥大化した問題をもう一度責任も取れない。
大切な居場所だったスター団が腐敗した不良に落ちぶれているのを今の自分がどうこう出来るとも思えない。
掟に則り言うが、お願いだから意地を張って存続とか本当に嘗ての加害者と変わらないから止めてくれ。
管理できないほど、増長した状態を保っているとは予想外過ぎて困惑している。
寧ろ顔も知らない自分に恩義を感じるなら、そもそもスター団が壊れていくのを黙って見ていた時点で目的を履き違えている。
メロコ達は自分が帰ってくれば何が変わると思った。
掟を遵守するなら、解散するのが流れだったはずだ。
自分というボスが、責任を取って停学処分を受けた。
だから皆は気にせずアカデミーに通えば良かった。
共倒れだったとも。それでも一掃は出来ただろう?
なのに勝手に五人で決めた意地で自分を持ち上げて、縋るように存続していた。
普通に困る。
そういう目的でスター団を立ち上げたわけじゃ無い。
役目を終えたのは見届けただろうに、何故そこで素直に終われなかった。
無理をして続けて、自分のためになると思ったのか?
それは五人のワガママだ。自分もワガママだけれど。
もう、いい加減にしてくれ。
自分は今は一人の生徒としてアカデミーに通う。
スター団が不良と呼ばれている以上、もう嘗ての規模を超えている。
ミクという歌姫にも迷惑を掛けて、結局待っていてもその間に腐っただろう。
こんなの、加害者と何が違う。
正直に言おう。もう嫌だ。
この手の問題には関わりたくない。
もう良いから。とっとと解散して。
自分を神輿みたいに担ぎ上げるの止めてくれ。
思い入れがあっても、ここまで酷いと何も言えない。
オモダカに頼んで、大人に頼らせて貰う。
……去年の騒動で疲れた。
今は静かに平和にアカデミーに居たいんだ。
放っておいてくれ。
……と、言う完全な拒絶だった。
(原作よりボタンが磨り減ってる……。やっぱり一年半じゃ、心の傷は癒やせないよね……)
イジメに抵抗した組織が反転している現状は見ていて気分が悪いそうだ。
そして、そんな組織を作った覚えはない。
自分が全ての責任を取って停学で本人は片付けたと思ったのに。
五人のワガママで知らない間に継続された。
その結果が長期間の不登校に犯罪紛いのこれ。
辟易していたと、オモダカは語ったそうだ。
終わったと思っていた問題が膨れ上がって本人の傷を抉る。
関わりたくない。この一言で、察して欲しい。
そう述べられたそうだ。
オモダカが迅速に動く。大人の権力で、改革を始める。
スター団五人に拒絶を伝えて、約束通り即座に切り替える。
アカデミーの新施設、トレーニングセンター。
五人も納得した。流石に嫌がられた。
重すぎる期待という感情に、ボスは拒否して避けている。当然だと彼女達は言う。
「これでお前の手間が一個省けたぜ。俺達スター団は解散だ。全員撤収。俺みたいにアカデミーに強制連行だってよ」
自嘲的にメロコが言う。弱者の心はよく分かる。
ミクも磨り減ってる関わってないボタンの心境に同情する。
塩を塗る行為を我慢した原作ボタンが凄かったのだ。
各地にあるアジトをオモダカの部下が視察して、状況把握。
業者を呼んで、改造を開始。
同時にスター団の面々に処分を与えて、目立った違反を行っていた連中を特定して捕縛。
悪行が横行して被害が甚大であること、警察沙汰になったのも踏まえて、容赦なく特定の生徒は退学処分を叩きつけた。
権力で追い出してしまったらしい。
理事長の逆鱗に触れる行為をしたからクビになった。
膿は一掃され、現在進行形で各自アジトはトレーニングセンターに改装中。
メロコのアジトも結構な人数が捕まって、補習と一緒にそこで宝探し中は、奉仕活動を命じられた。
「メロコさんがそこの代表って事ですか?」
「おう。俺らが鍛えたポケモン達が、ジム戦諦めた連中の相手になれば良いって理事長が言ってよ。俺らスター団が新しい設備の目玉だと。アカデミー四天王とかいうシステムらしいぜ。マジで全部新品の新施設。スゲえなアカデミーの技術」
アカデミーの新施設として、こっちの落ち度を認めた上で、有効利用しようと言うことだ。
アカデミー四天王。オモダカの思惑でブルーベリーの模倣をしたようだ。
諦めた連中もせめてアカデミー内部の四天王ぐらいなら気軽に来れるだろう。
これなら単位も有利になるし、そもそも上は公式のジムリーダーと同じリーグの管轄。
昨今のチャレンジャーの日和りに嘆いたオモダカの工夫だった。
因みに他人事みたいだがミクも巻き込まれた。
急に決まったことだが、これもアカデミーの公式動画で宣伝している。
「えっ?」
「お前、アカデミー四天王のチャレンジャーだってよ? つまり公式のジムリーダーとアカデミーの俺らの新しい四天王を相手するんだとさ」
旅路の難易度上がってないか。
元々サポーターだったスター団が、ミクがチャレンジャーとしてリーグとアカデミーの運営を兼ねるオモダカの判断で激増。
公式のジムリーダー八名、アカデミー四天王とガチ四天王八名、チャンピオンオモダカとネモ。
やったね! 相手がジョウトの金銀クラスに増えたドン!
「聞いてないんですが!?」
ミクも驚く。つまり、あと何人も身内を相手せねばならぬと言うこと。
急遽の方向転換。
スター団の問題はオモダカの理事長クラッシュで粉砕され、新たに増えたアカデミー四天王なるタケノコを相手しろと。
因みに四天王は、メロコ、オルティガ、シュウメイ、ビワの四人でピーニャは運営のマネージャーらしい。
補習生徒が四天王では情けないだろう。
さっさ補習と片付けろとオモダカの圧が来ているそうだ。
「だから今丁度暇なんだろ? 二つ目のバッジ手に入れたら次は俺が相手してやるよ。あ、因みにテラスタルの補習受けたから俺らもテラスタル使うぞ。お前には手加減するなって言われてるしよ」
……何というハードモード。
スター団がトレーニングセンターの四天王として、アカデミーの新しい設備の看板になっていた。
良いこと。良いことなのだが……。
「流石に……相手が多すぎませんか私……?」
倍増した四天王を相手してこれで新チャンピオンになって欲しいというオモダカの願いが、重たい。
ちょっと待った。スター団の更生は無くなったがジム戦の内部とかブルーベリーの方なんですけど。
挙げ句には、こっちに興味を持った姉妹校からも生徒を留学として招くらしい。
同じような施設を持つアカデミーに来て、バトルすると。
「……いやぁ、参ったよなミクも。やっぱし俺も頑張らねえとな。まさか落ちこぼれの俺達が、今じゃアカデミーの四天王に抜擢とか言う采配だぜ? これじゃ奉仕活動って言うより宣伝だよ。不登校から一気に現場に代表格とか、理事長もだいぶ無茶言うよな。いや、何か聞いたら引き篭もって特訓してたら基礎は良く出来てるし補習終わりゃ、理事長視点だと俺達ってアカデミーでも割りと少ないバッチ四つくらいの実力だったらしいぜ?」
「凄い!?」
メロコ当たりは大幅にパワーアップしていた。
ガチ四天王よりは弱いけど、アカデミーの上澄みだったのか。
一年半も我流で鍛えていればそうもなるか。
その辺のトレーナーよりも強い自負はメロコはあったが偉い人に言われると燃え上がる。
「補習なんかとっとと片付けて、俺達は新しい立場で頑張らねえとな! なにせ堂々とミクと戦えるんだ、ワクワクするぜ!」
聞いたら他のメンツも納得して補習をやっつけているそうだ。
ミクが来る。大っぴらに戦える。楽しみで仕方ない。
「そんなぁ……」
ミク、久々に悄気る。
オモダカが難易度を盛るぺこしてきた。
ついでに姉妹校から来る生徒も、こっちのアカデミーで生活するらしい。
嫌な予感がするミク。まさか、前倒しか。
この林間学校の過程をすっ飛ばして来ないよな。
と、思うが。二日後……。
「わやじゃ……! 此処がアカデミー……! 姉ちゃん、スゲえ格好いいエントランス!」
「そう? うちのがセンスあるでしょ? 図書館みたいね」
……闇落ちの条件を前倒しした友人キャラと、面白え女の訪問であった。