転生ミクのSV最初からの旅路   作:イエッサム

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憧れの否定

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マジかよ、とミクは思った。

 このオモダカの盛るペコ状態で、DLCの友人がこっちに来るとは。

 しかも時系列は林間学校の前倒し。

 オーガポン周りのいざこざの無い、真っ直ぐな状態。

 そう言えばその状態の彼は、実力的にそこまで強くは無いハズだ。

 林間学校での紆余曲折の揉め事で闇落ちしてグレたので、その以前ならば素朴な少年と強気で理不尽な姉という立場だったと思われる。

 招待したオモダカが二人を案内して、アカデミーの紹介をしている。

 エントランスの二階から隠れて覗き見るミクは、案の定の展開に流石にキツくなってきた。

 DLCの友人キャラ、スグリとゼイユ。

 共に絶大な人気を持つキャラだ。

 特にスグリは悪魔合体のネタにされるほど色々な意味で有名である。

 後編に至れば、恐らく今のミクでは手も足も出ない程の才の持ち主で、オモダカが見抜いて引っこ抜いたのも分かる。

 向こうの四天王は、熱血料理人、堅物生徒会長、可愛い至上主義、ぐーたらチャンピオンと大凡癖が強すぎるし抜けるわけにも行かないから他の生徒が留学に来てもおかしくは無い。

 アカデミーの紹介動画を見ているようで、向こうの会話は聞こえないが、多分ミクも知られているだろう。

 ともなれば嫌でも出来る接点。ミク的に、スグリは正直言うとストーリー的に袋叩きにされて結局現実で身の程知らずと言われて諦めたシナリオの犠牲者という認識が大きい。ゼイユの裏返しの心配が、悉く失敗したとも言えるし。

「……それで? そこでいつまで隠れているんですか、ミクさん。コッソリ様子見とは、あなたらしくも無い。同じ生徒でしょう。アカデミーの顔ですから、コソコソしないでこっちに来て下さい」

 二階で見ていたのに勘付かれていた。

 決して大きな声では無く、圧をかけて呼びつけるオモダカ。

 ビクッとバレて、結局トボトボ出て行くミク。

「うわぁ……! アカデミーの歌姫さんだぁ!」

「ホント、そっくりね……。分身でもしたのかしら、初音ミク」

 一階に降りて合流すると、愛想笑いで誤魔化すミク。

 ミク的に彼等は苦手なのである。

 スグリは被害者レベルの仕打ちをストーリー的に受けている。それをやったのが自分こと主人公だから尚更。

 オモダカが怪訝そうに見る。あの誰でもコミュニケーションに怯まないミクが、露骨に一歩線引きして引いている。

 この二人、聞いている限りでは特にミクとの相性は悪くないと思ったのだが、ミクは何かを察知したか。

 ……ミクの纏う空気。奇妙に感じるオモダカ。

 初対面では先ず無い、罪悪感のような雰囲気。

 ミクは彼等を知っているのか。いや、それは無い。

 一般生徒として彼等は招いている。

 ミクが知り得るハズが無いのだが。

「ミクさん?」

「はい……?」

 分け隔てなく接するミクが苦手意識を初対面で抱く。

 特にその視線は、少年の方に向いている。

 オモダカは問う。アカデミーの歌姫が、何か不都合でもあるのか?

 ミクは愛想笑いで、無いとも言うが明らかにあるだろう。

 一種の後ろめたさか? あの後の開き直ったミクにしては、随分と及び腰だが。

「お二人は初対面ですよね?」

「あ、はい。俺はアカデミー来るの初めてですし」

「……初対面、です」

 一人称を聞いて、更に空気が淀むミク。

 言いようのない微妙な違和感。

 アレほどの前向きのミクが歩み寄るのを怯んでいる。

 何だ。オモダカは考える。 

 ミクがこの少年に怯む理由。

 純真で、真っ直ぐな性格と聞いている。

 ミクとは好相性とも思ったが、肝心のミクが一歩引いている。

「……」

 オモダカのミクを見ていての印象からして、拒絶とは行かなくとも及び腰の理由は特に思いつくことが無い。

 少し二人に待っていろと言って、ミクを呼び出す。

 離れて事情を聞く。聞いた方が早い。

「ええと……その。私にも、良心的なモノがあって。自分のやりそうな事が、彼に良くない影響を与える気がしてですね……」

「はい? ミクさんの行為に? 全く健全で、落ち度など無いですが?」

 ミク曰く、きっと自分は彼にとって憧れのような存在だろう。

 その憧れが、正直言うと良くない。

 憧れて、自分もそんな風になりたいと思う。

 でも何処かで壁にぶつかって、自分の限界を知り絶望する。

 そうなったとき、ミクはフォローできない。

 ミクは大勢の人に支えて貰えるが、彼は普通の一般生徒。

 憧れて、真似されても必ず挫折する。

 そうなったときの絶望がよく分かる。

 弱い自分の否定からの拒絶。そこから起きる虚勢。

 周りにも見ていて痛々しい程の言動が、予想がつく。

 ミクが言うのは、羨望から行動を起こして現実に倒れて折れる在り来たりな挫折。

 それが怖いらしい。

「ミクさんへの憧れですか……」

 そういう事か。ミクは自分がもう特別だと自覚がある。

 それを彼が真似ることを避けたいわけだ。

 身近にそれがいるとして、凄いと思えば人は真似る。

 そして失敗して自分を追い込む。

 立場の違いを、ミクはネモを見て分かっている。

 ネモを周囲が煙たがるように。

 ミクを真似て折れたら、絶望して彼女を超えたいが為に力に固執する。

 オモダカの見抜く才が悪い方向に努力して暴走する。

 結果、彼に良くないと。強くなる意味の履き違え。

「成る程。ミクさんは、彼が挫折したとき、ネモさんと違った意味で苦しむように見えると」

「あんな純粋に見られたら、私でも近寄りがたいですよ……。オモダカさんなら分かってくれると思うんですけど、あの視線は特別に対する憧れです。明らかに凡人である自分より輝いていたり、強かったりする相手への感情から来てるんです。言い換えれば根底にあるのはコンプレックスのような自分を認めない何かですよ。私だって元々凡人だと言っていたから分かります。あの人、私に似てるんです」

 同類だから、違う結末が容易に想像できる。

 支えの無いミクなら逃げるだろう。でも彼なら?

「彼らの経歴はついています。有り得ますね……」

 そうか。少年、スグリは田舎出身の普通の生徒だ。

 伸び伸びと生きてきた田舎者だが、その田舎には伝承があり、とてもスグリは気に入っているらしい。

 それが憧れだと仮定した場合。何に憧れているかだ。

 強さだとすれば非常にまずい。それはミクの危惧通り、絶望すれば自分を変えようと手段を問わずに死に物狂いで手に入れようとする。

 ちょっと質疑応答してくるから待ってろ、と言って戻りスグリに聞いてくる。

 少しやり取りして、頭痛を感じてこっちに来るオモダカ。

「お見事です、ミクさん。あなたの仰るとおり、根本的な憧れの全貌は恐らくは強さへの渇望でした。ミクさんに会えてとても嬉しい。ジム戦の配信を見ていた。あんな風になりたいと無邪気に答えていました。すみません。私の観察眼が足らずにミクさんに懸念材料を抱かせて」

「彼は対等なお友達と言いたいのでしょうけど……私と彼では、立場が違うんですよ」

 そう、立場の違い。

 ミクはアカデミーの歌姫、そして神話を持つ巫女にされている。

 その時点で普通の枠を飛び越えて、真似できない領域に居る。

 彼は普通の枠の人間。どう足掻いても、こっち側には来れない。

 ネモは圧倒的実力を持つパルデア最強のトレーナー。

 彼女もまた、立場が同じ生徒がいない。

 ミクの世話も、自分が導いて同じ立場にしたいからというオモダカと同じ思惑がある。

 だけども。スグリはどうか。

 一般生徒。強さを見上げて羨望する良く居る少年。

 在り来たりな挫折を得て、どう立ち上がるかだが。

 どうみても危険な感情だった。無意識で弱さを嫌い、特別に対する嫉妬を持つようになるとオモダカの経験上予想がつく。

 周りの環境はどうだ?

 姉ゼイユは弟に高圧的で尊大。

 良くも悪くも姉という存在で多分支えにはならない。

 心配ぐらいはしても放置の可能性も有り得る。

 そうなれば孤立して絶望が肥大化して、手に負えない。

 我武者羅に足掻いて無茶苦茶になってしまう。

 支えてくれる人が、スグリの場合誰も居ない。

 好相性どころか真逆だった。ミクの懸念は、スター団のような集団でも無い普通の生徒が、純粋故に憧れて、それこそよくある挫折で壊れる様を見たくない。

 自分は普通じゃ無いと言っても凄いとしか返ってこないから怖い。

 無知も無邪気も時に抜き身の刃で、今のスグリはまさにそれ。

 転がった先で折れて、立ち上がっても根本が渇望である以上確実に固執する。

 ミクは申し訳ないが、応援ならまだしも憧れて追いかけるような事はしないで欲しい。

 理想と現実の違いに苦しむだけだ。思い通りに行かずに苛つくだけだ。

「オモダカさんも思いませんか? 憧れは理解から遠いんです。思い込みで見ている色眼鏡が常にあるから、言っちゃえば現実が見えてないんですよ」

「道理ですね。理解すれば、そもそも憧れなど抱かない。夢を見るのは自由です。然し、それでは妥協も諦めも出来ない、逃げ道が無い状態。自棄になるのも納得です」

 初対面でミクが曖昧な愛想笑いを浮かべるわけだ。

 ミクの周りに、その手の生徒はいない。ミクも対応に困っている。

 コミュニケーション能力の高いミクも、初対面で憧れをぶち壊す振る舞いは出来ないので、歌姫として事務的に取り繕う。

「ふむ……。ミクさんの懸念材料が的中した以上、当初の目的に進めるには無理がありますかね」

 オモダカはミクにアカデミー代表として、二人の交流をしてもらおうと思っていた。

 が、アイドルに会えて舞い上がるファンよろしくのスグリでは、分が悪い。何かの弾みで転がったらミクも責任が取れない。

 あの罪悪感のような空気は、要望には応えられないという空気だったか。

 そりゃそうだ。ミクはスグリからそういう気配を察知したから二階で様子見していたのだ。

 言うなれば、ミクはアイドルでファンに対する対応が出来ない。

 事務所に居ればそういうのは割って入る。

 その事務所のオモダカが交流ならばミクと言って連れてきた。

 絶望を糧に出来る人種とミクは思えないのだ。

 自分に似ている、つまり何時か言ったがミクの歌声は死ねば機械になるだけ。

 自力では壊れたままだ。立ち直れない。

 彼も渇望ならミクの予想だと立ち直れないだろう。

 自棄になって苛ついて、絶望して、周りから疎まれて孤立する、破滅の道。

 ……原作の後編はそうだったように。

 向こうの学園はマトモな教師が居ないらしい。

 やってて分かった、教育機関にあるまじき野放しの自己責任。

 そんな場所で過ごしていれば、普通なら自立できる。適応して。

 だが本人の状況が悪ければ自立したとて支えは無い。

 皆一人暮らしの社会人のように振る舞う。

 いや、それでもまだ良い。社会では孤立しない。

 然し向こうが自棄になった奴に手を伸ばす空気では無いのはミクも知っている。

 バトル特化の教育機関が悪い意味で彼を追い込む。

 困惑して、傍観に回り暴君になったスグリが降臨しただけだ。

 バトルしかコミュニケーションを取らないから。

 他の方法を捨ててるから。特化していればそれでいい。

 そういう方針が悪化を助長する。

 主人公を憧れの的にして、自分の弱さを無意識に否定するのが初期の内向的なスグリだ。

 そこで一連の騒動で全員で結託して除け者、裏切ったせいで、拗れてああなる。

 憧れるがゆえに、最後まで相互理解出来ない。

 自分が弱いせい。そう決めつけて、凡人が特別になろうと足掻いた。

 でも壁は大きく、溝は深すぎる。

 彼の血反吐を吐く努力程度で手に入れば苦労しない。

 特別は、普通では無い。

 普通は、特別ではない。

 それを諦めという形でスグリに押しつける物語。

 結局彼は失い続けて得た物は何だったんだろう。

 オーガポンは彼など眼中になく、テラパゴスは制御できず。

 伝承のポケモンに憧れた理由も孤軍奮闘したからで。

 オーガポンの寂しい感情、恨んだ感情、そういうのはスグリは理解できてなかった。

 彼が欲しいのはただの強さだ。オーガポンではない。

 たまたまオーガポンという彼女の活躍に憧れていただけ。

 姉のゼイユの方が余程懐かれていた皮肉。

 最初は無邪気だろう。でも、現実を知ったとき。

 彼はどの道、絶望する。闇落ちする。

「……ミクさんなら、そこまで分かるのなら言えるのでは?」

「えっ」

 不意にオモダカが言う。

 最初から、こうなれば地雷を踏む。

 歌姫として、最初から違うと無邪気なスグリに現実を見せつける。

 今、感じている危惧を、歌姫は理解できる。

 一方的な感情で、ミクは彼の羨望を破壊してしまうだけだ。

 初めて、ミクは拒絶を必要とした。

 憧れの否定を、理解できるのなら。

 本質は単なる弱さから目を背けているだけ。

 それを受け入れろと言えば良い。

「私初対面ですよ!?」

 いきなりミクに本質を叩きつけろとオモダカは言う。

 その上で、続けて言うのだ。

 それでも良いなら、友達になろう。対等に。

 ミクはスグリとは違うと断言して、一度憧れを理詰めで壊さないと何時までもスグリは無邪気に慕い続ける。

「初対面で、ミクさんは彼の弱さを見抜きました。仰るとおり、あの憧れはミクさんへの理解から遠いでしょう。目の前の存在にフィルターをかけている訳ですから。思い込み、という奴ですね。それでは、育つ芽も正しく成長できません。私が教えるのと、ミクさんが自分で言うのと、二択ですがどうします?」

 ……結局、スグリにはこういう扱いというか、運命なのか。

 ミクは歌うだけの偶像だ。

 そこにファンが出来ても当然で、憧れるのは自由。

 でもその憧れがミクを見て凄いと思うだけで、深く考えずに走り出せば。

 転んだ拍子に、何故自分に出来ないか理解できない。

 そこで弱さに気付き自責に転じて、破滅する。

 ミクの本質を表面しか見ない、見えないなら当たり前。

 ミクとしては、出来ればそれは防ぎたい。

 そう思うのは傲慢か。コミュニケーションを取るのに、憧れはミクからすれば色眼鏡で邪魔なのだ。

 ネモが周囲から煙たがるように、特別という理由で彼女も除け者にされてきたをオモダカも知っている。

 それもミクも知っている。ミクはネモを見ても特別とは一言も言ったことは無い。

 況してや拒絶も無い。

 ネモという個人を、ミクなりに見ている。

 だから世話を焼かれても、将来ミクが期待されてゆくゆく狩られる運命も受け入れている。

 ネモはバトル特化モンスターという評価で落ち着いているのであって。

 ネモにもバトル命がアイデンティティと言うぐらいには、正しく見ている。

 そのミクが、スグリに出来るコミュニケーションは……。

「……私にその度胸は無いですし言語化も出来ません」

 大人からの説得の方が良い。

 理詰めで純朴な憧れをぶち壊すなら、大人からの方が、ダメージは少ない。

 仮にも相手はチャンピオントップのオモダカなら。

 これも教育の一環で、代理で頼みたい。

「分かりました。アカデミー代表として……少し、残酷かもしれませんが。ミクさんと交流する前に、真実を見る目を培うために訂正しておきましょう」

 そう告げると、オモダカは案内をするから、戻って良いとミクに言う。

 避けられないか、と内心苦く思う。

 憧れから一歩踏み出すには、彼は脱皮しないといけない。

 等身大のミクを見て、それで感想を持って欲しい。

 せめてコミュニケーションするなら、ちゃんと見て欲しい。

 ネモみたいに堪えられる自信は無いから。

 そう思いながら、戻るミクだった。

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