順調に日々を過ごしていくと思っていたミク達。
だが思いがけないトラブルがまたも起こる。
ムクロジのあるセルクルタウンに、謎のポケモンが襲撃したらしい。
カエデが夜中に気付いて、朝方までかけて何とか返り討ちにしたようだが、またしても懲りずに強襲してくるポケモンが居た。
目的は恐らくセルクルタウンのオリーブか何かの食料。
餌目的だった……と、思われる。
だがカエデにも詳細が分からない。
複数のポケモンが同時に来たらしく、カエデが迎撃している間に街に侵入。
朝っぱらからめちゃくちゃに暴れて、セルクルタウンが半壊した。
慌てて騒ぎに応援を呼んでネモとオモダカが駆けつけて撃退。
……それは、まだ良い。決して良くないが。
問題はこのポケモンが、本来のパラドックスポケモンだった事だ。
そう、要するに禁域から逃げ出した複数の個体。
ネモ達久々に本気を出して全部ぶっ飛ばして捕獲。
見事捕獲したが、随分とネモとオモダカに対して攻撃的で手を焼いている。
……挙げ句に漸く、あいつが来たらしい。
「アギャーッ!!」
ミライドンである。
此処で唐突にミクの出番。
相手とのコミュニケーションを取るのにミクは何故自分が呼ばれたのか理解できない。
歌姫だって無理だろう。
相手は機械化したポケモンだ。
餌付けでもした方が速いと思う。事実、意思を汲もうとすると自動的にロックオンされている。
ミクが咄嗟に持っていた手持ち用の多くのサンドイッチを差し出すとパラドックスポケモン達は、機械化した癖に食いついてガツガツと食っていた。
駄犬こと、ミライドンも。
校長がオモダカと一緒に博士に禁域、エリアゼロから脱獄したポケモンに抗議すると、博士はその群れは縄張りから追い出された群れで、飢えを満たすために脱獄した。
その上飢餓状態でパルデアを彷徨っていたと思われる。
タダでさえ古来のパラドックスポケモンを禁域に放り込んでいるので、そいつら含めて禁域は人外魔境となっている。封印にもバリアも限度があるという。
そう言われて無茶は無茶だと反論された。
ここでその場に居たミクは提案する。
やっぱり飢餓状態なら餌付けすれば良い。
アカデミーには家庭科教師、サワロがいる。
餌付けの美味しい食事を与えれば落ち着くはずだ。
サワロも腕を振るってご馳走を作って食わせた。
ミライドン達は満腹になるまで良く食った。
余程禁域……エリアゼロの環境は厳しいようだ。
落ち着いて、この空腹で暴れていた連中をどうするか迷うことになる。
戻せばまた脱獄する。
エリアゼロはもう手に負えない弱肉強食の世界だ。
故に預かる相手が必要だが、機械化した此奴らは一度でも敵対した相手は自動的に敵と見なすようでネモもオモダカも言うことを聞かない。
ミライドンが顕著で、放電してネモを威嚇する。
「参ったなぁ……。こんなポケモン、野放しに出来ないし……」
「私にも敵意、いえ殺意を向けていますね。これが……パラドックスポケモン……」
ネモもオモダカも全てが敵対している。
カエデも恐らく敵の認識であろう。
頭を悩ませるネモ達。
対して、ミクは機転を効かせてサンドイッチを与えたことで飼い主に相応しいのか、言うことを聞く。
餌付けが成功したとも言える。
ミライドンがアギャッス! と言いながら餌を強請る。
ミクは料理が出来ないが、渋々サンドイッチを作って分けると、一斉に食いつく。
なるほど、このパラドックスポケモンは餌付けが出来るだけ奇書の個体よりはマシという事か。
まあ、原作同様弱肉強食の負けた個体が脱獄した事で餌を求めてセルクルタウンを襲ったわけだし。
博士はとりあえずそっちでそいつらを預かってくれと投げやりに言って放置。それよりもやることがあると。
……頭痛で苦しむオモダカから改めて説明を聞いている限り、まさか本人が生きている可能性があるような気がする。
人工知能なら無理矢理戻そうと言うだろうし。
困ったことに飼い主認定のミクを未来のパラドックスポケモン達が市販の餌に満足して、機械的に認めてしまったことか。
オモダカも小型とは言え餌付けが成功したのは良いが、ミク以外は飼い主ではない、攻撃性が残っているというのが問題で任せるとしてもミクのキャパシティを超えないか懸念している。
ミクも現在の手持ちは余裕でゲームと大体同じぐらいにまで膨れ上がって、ネモの言うことを聞かない以上預けるのはどうせ自分だろうと納得もしている。
飼い主なら言うことを聞く。それ以外は外敵。
アラモードやハバムートのような相互理解ではなく、単なる飼い主という機械故の利害の一致。
第一印象で餌付けに成功しておいて良かった。
個体差があれど、餌さえ供給すれば命令には従う。
凶暴でも理解できれば修正は利くが、機械的なものは一度でも固定されると変更できない。
生き物と機械の差か。説得不可能。
結局全ての未来のパラドックスはミクの世話になる。
弱ったことに空腹に敏感で常に与えていないと強請るので、常用に一匹は持っていないと分からないことか。
こういう風に大事に巻き添え食らうんだな、と傍に居たスグリは思う。
否応なしに巻き込まれては責任が膨れる。
古代の巫女、歌姫、挙げ句には飼い主と。
「大変だなミク……。大丈夫か?」
こればかりは溜息をつくミクにスグリも同情する。
彼女はこういう尻抜けもしている、と。
「分かってたからいいよ。もう、慣れてるしね」
諦めの境地で、ミクはパラドックスを引き取って飼い主らしく、丁度良いとミライドンを躾けるようにしていた。
どうも未来のパラドックスは群れのリーダーがミライドンのようなので、此奴さえ躾をしておけば良さそうだった。
その関係で今のライドポケモンを返却して、本来の主人公同様にミライドンに乗っかることになる。
ミライドンは凶暴でも餌には弱かった。
ミクの機嫌を損ねると断食の罰が下ると理解した。
相互通信でもしているのか、司令塔のミライドンに言えば一同全員が従う。
セルクルタウンを壊したせいで復旧に時間がかかる。
また伸びるジム戦。怪我人が居ないだけまだ良かったと言うべきか。
その間、アカデミーで戻ってくる生徒達を見る。
各々、満足したか諦めて戻ってきたかのどっちか。
ジム戦はトラブルでストップ。だったらアカデミーで鍛えて知識を増やすのも悪くない。
「俺もそうだけど、ミクも大丈夫? 特にこの……パラドックス? とかいうの、ポケモンかどうかも怪しいだろ。エリアゼロって所のポケモンらしいけど」
「大丈夫。基盤は既知のポケモンに結局似通った部分が多いから」
本当はほぼ別物なのだが原作知識のおかげで、育成には困らない。
ネモに頼んで余っていたエナドリをガブ飲みさせてミントを与えて、やることさえやれば良い。
これも餌認識だからか嫌がらない。
喜んで飲み干した。
「見た目こそ機械だけどやっぱり生き物だから、空腹とかあるんだな」
「だからセルクルタウン襲ったみたいだし」
スグリの言うことも然る事ながら、増えまくった手持ちのおかげでもう前世のポケモンが一部揃っている。
ミクも疲れてきた。巫女の肩書きの次は飼い主か。
まあでも、これが今世のパルデアなら仕方ない。
パラドックスも一般ポケモン扱いされてる原作なら、特定の場所にしか居ない一般ポケモンだということになる。
それにしては恐ろしい生態だが、そんなもの一般ポケモンのギャラドスやらバンギラスやらも似たようなモノだ。
此奴らとリスクは同類と言うとスグリも理解した。
凶暴なポケモンと違って残酷なポケモン。
育成しにくいと言われる連中の一員と。
諦めて、パンパンに膨れ上がった手持ち。
オモダカの配慮で許可を得ている以上、面倒を見るに大した労力は無い。
「アギャッス……」
「このバカ犬がセルクルタウンまでのマッピングしたみたいだからね。何処のネットワーク繋いでるんだか知らないけど、餌の位置を特定できるみたい。多分衛星かどっかからの電波受信してデータ共有してると思う」
「それ本当にポケモンか? 根本的におかしくないべ? 人工のポケモンって言うと、有名なのは化石から復元したポケモンとか?」
後日、ミライドン達に餌をやりながらミクはスグリに言う。
それは復元したり、遺伝子から複製したりだ。
基礎から機械化したポケモンではない。
世間一般だと良くてポリゴンぐらいで、こいつも進化していくと最終的にバグる。
スグリもポリゴンZは持っているから分かるが、この技術力で漸くだ。
パラドックスポケモン、全く以て謎である。
「うーん……私は過去のオーパーツみたいなとんでもないポケモンなら知ってるけど、だいぶアレも特殊事例だしなぁ……」
機械化したポケモンなど、そもそもポリゴン以外にほぼ居ないので、マギアナもかなり特殊な例であろう。
基本は複製したり復元したりで元がある。
完全な機械化は極めて稀だ。
「アギャッス」
「うるさいバカ犬。お座り!」
バカ犬呼ばわりされるミライドン。
此奴がセルクルタウンを見つけさえしなければ、予定が狂わずに済んだのに。
「アギャッス!」
ピシッと言うことを聞くミライドンは、立場を弁えるようにお座りして従う。
未来のパラドックスが本当は残忍な性能らしいがこっちは結局多々居る同種族の生存競争の負け犬共の群れなので、寄生できる飼い主の言うことは生きるための手段。
残忍で冷酷なポケモンが、ミクに届いたのはプライドもクソも無い残念で迂闊なポケモンだった。
尚、当然こいつが居るのでペパーも素っ飛んできた。
「ミライドン!? エリアゼロから脱走したのか!」
スグリといる所に合流するや、スグリに互いに挨拶して二人から事情を聞いて此奴ですら生存競争に負けたのかと脱帽する。
仕方なく、ペパーは語った。
「ミク……もう、遅いけど忠告だから聞いてくれ。お前もパラドックスポケモンの飼い主なら言っておく。餌付けっていう絶対的な条件を崩すなよ。此奴らは機械だ。前のオカルト雑誌のポケモンと違って、手を取り合うのは不可能と見て良い。あくまで利害の一致で従うだけ。本能で動くオカルト雑誌のポケモンと違って此奴らは理屈と損得で判断する。今のお前に居るのはこのミライドンを司令塔として形成された群れの頭をお前が黙らせた。だから命令には忠実に動く。お前をガードする理屈がある限り、機械は裏切らないからな」
「なるほど」
流石に息子だけあって詳しい。
だが懸念点もペパーは感じる。
(ミライドンは二匹しか居ないはずだ。俺の手元に一匹、ミクに一匹……。こいつが逃げ出した理由がこのミライドンなら、じゃあ新しく親父が連れてきたのか?)
敢えて触れないミクの傍で腕組みして考えるペパー。
実際見ているミライドンはペパーを既知のようで、白々しい顔で知りませんの態度を取る。
感情はあるのか。嘘つく程度のものは。
「この野郎、俺の知ってるミライドンだわ。お前、ミクの言うことは聞けよ」
「……」
相変わらず白々しく知らん顔のミライドン。
「バカ犬、その態度止めなさい。ご飯抜きにするよ!」
「アギャッス!?」
最強の断食の罰を言うだけでミライドンの群れのポケモンがミライドンを抗議して騒ぐ。
損ねるなと責め立てるので渋々項垂れるミライドン。
「食料狙いで町狙うって世紀末だべや……」
呆れるスグリにこの残念なポケモン共が、エリアゼロでは容赦なく人類に牙を剥く脅威なのだとペパーは説明して、負け犬故に大人しいだけだとも言う。
「ミライドンは特に強い個体。それが負けたって事は、もっと強いミライドンがいるって意味だ」
「そいつが野放しにされてるって事で合ってる?」
「あぁ。間違ってもエリアゼロに行くなよ。彼処は、楽園なんかじゃねえ。ただの地獄だ」
「興味ないね。もうこれ以上、ポケモンの面倒も見たくないよ」
楽園か。そのワードがペパーから出たと言うことは、博士の没頭している楽園創造を知っている?
まぁ、どうでもいい。原作知識だとペパーからすれば此奴らは忌々しい嫌悪のポケモンだが、どうもその空気は感じない。
「アギャッス……」
「俺に文句言っても意味ねえよ。結局お前も負け犬ちゃんだろうが」
恨み節のような顔でミライドンが吠えるが、やいのやいのと群れのポケモンがまた抗議。
ミクの言うことは絶対だから万が一はお前が断食の責任を取れと要求するように。
「ん? そうだ。ちょっと試してみようと」
ふと思う。ミライドンは未来のパラドックス。
スマホに反応するかなと思って、試しにミライドンに向ける。
「アギャッス?」
……案の定こっちを見る。
ミクのスマホにロトムは入っていない。
適当にメモ帳を開いてみた。
ミライドン、軽く頭を振るう。
何故か無線が飛んでくる。受信した。
無線イヤホンみたいなもんか。
繋ぐと、文字がいきなり浮かぶ。
『これ届いてます? この機械、博士が言ってたスマホですかね。無線通信出来るならこっちと通信可能なようです』
……あっさりと対話できた。
唖然とするペパーとスグリ。
「わお。どっかの王みたいな意思疎通できるじゃない」
ミクもビックリ。
彼女が試したこと。
機械ならスマホと互換性あるかなと思ったら出来ちゃった。
スマホ対応のポケモンなどロトムやポリゴン以外に居たのか。
ミライドンに電話してみろという。
ミライドンが見ると通話アプリで非通知で着信した。
「もしもしー?」
出てみる。
『あ、聞こえます? 私ミライドンです。便利ですねえスマホって。こっちの電波チューニングすれば通話できるんですから』
「いやバカ犬、喋るんかい」
普通に通話できた。怖い。
『私のことバカ犬って言うの止めてもらえます? これでも群れのリーダーやってますので』
意外なことに声が女の子という概念のミライドン。
「声がタヌキの魔女っぽい」
『タヌキじゃないです、ミライドンです! 抵抗して進んでも二つは無理でした! 逃げたら一つでも手に入れば勝ちだと思います!』
ミクの思いつき。博士すら試していない大発見。
残忍で冷酷な未来のパラドックスはスマホ対応のポケモンだった。
『抜かせ、バカ犬ぅ。貴様などぉ、我が輩が本気になれば速度で下克上出来ると言うことをぉ……忘れるなぁ』
通話に突如割り込む野太いおっさんの声。
なんつうか、強力なラスボスのような声だ。
「うわ、雄叫びあげそうな声。誰これ?」
『聞きたいかね? ぶるぁぁぁぁっ!!』
うっせえ声で叫ぶ誰か。
『あぁ、これぇ? えとねぇ、テツノツツミぃ。んで、あたしテツノドクガー。よろしくねー。ってか何て呼べば良い? ミクっぺ? いやダセえわ。普通にミクでいいかー』
紛れ込むギャルのような口調の……テツノドクガ?
性別あるのか機能的に。
諸々新発見過ぎた。
他にもキャラの濃いメンツが割り込んでくるので一旦落ち着く。
「嘘だろ。此奴ら明確に意思疎通出来るのかよ!? よりにもよってスマホで!?」
「わやじゃ……俺もビビった……」
だよなと思う。生前から思っていた、機械ならスマホで話せそうという単なる思いつきがまさかの展開になっていく。
「まぁいいや。言うこと聞いてねテツノタヌキ」
『凄く失礼です! 私、ミライドン、です! 本当はテツノオロチって言うんですけど……』
「じゃあタヌキね」
『ミライドンですぅー!!』
……ミクも聞き覚えのある声が多くて困る。
兎も角、ペパーの危惧は大丈夫そう。
聞く限り、システム的に敵対した相手には自動で攻撃する基盤らしい。
改めて、ジム戦の時にカエデに謝罪させに行こうと思うミクであった。
声のイメージ
ミライドン 某水星たぬき
テツノツツミ ぶるぁ。
テツノドクガ 某ヒロイン嫌いの悪魔ギャル子