タヌキの言い分を聞きながら、数日後。
復旧するセルクルタウンは何とか持ち直したという。
元々このバカ共の被害は、町にある飲食店の襲撃で、そこの復旧さえ出来れば問題は無い。
無論、ムクロジも襲撃されたわけだが。
カエデの店はお客の支援があって直ぐに持ち直した。
常連に建設会社がいて、率先して資材を回した結果。
結局ポケモン世界の最強の武器はコミュニケーション。
人脈であった。
アオキを通して、セルクルタウンの復興を聞いたミクはスグリ達と共に向かった。
因みにこの待たされている間に増えた手持ちの数は膨大であり、ほぼ調べなくても対応できるぐらいの手数。
それでも、同行するネモは言った。
向こうはミクの難易度は知っている。
此方も相応の準備はするべきだ。
アオキ、ナンジャモは既に手持ちを知っているわけだし。
だから、フェアプレーを意識して調査を怠るのは止めよう。
十分、ミクは普通の生徒よりも手持ちが多い分難易度が高い。
「私の時よりもしかしたら敷居が高いかもね。私はいっぱいポケモン居ても、調査もしたし向こうも相当するポケモンしか使わなかった。でも、ミクの場合は相手も配信とかの事情である程度の加減しないし、メガシンカさえ使ってくる。ミクもやっぱり本気で挑むべきだよ」
「うん。流石にね、ちょっとこっちの手持ちも上澄みだからちゃんとやるよ。でも、メタって行くのは好きじゃないからやらない。弱点ついて有利なバトルじゃ、配信に相応しくないから」
事情もある。配信という関係上、メタをするのが普通だが多くのリスナーがそんな誰でもやるバトルを見たがるか。もっと王道に、堂々と。一方的など冷めるだけ。
「ミク氏も分かってるねぇ。こういうのは盛り上がりがい一番なんだよ。……っていうか、本来のミク氏の立場は駆け出しの新人トレーナーよね? 今の状態違わない? 一応告知こそしといたけど、配信外で乱獲フィーバーって言っといたから、二個目でいきなりパワーアップとか何があったと言われる可能性大よ?」
「それは大丈夫です。アカデミーのチャンネルのほうで、歌ったついでに自分でトラブルでポケモン増えましたって言ったので」
アカデミーの方で歌っているミクは心配するナンジャモにそう言う。
向こうの方で、概要にトラブルによるポケモンの捕獲が増えていると通達はしている。
それこそ、見たことの無いポケモンも居る。
主にレジとかパラドックスとか。
それは見てのお楽しみという形で有耶無耶にした。
「ミクも本当に大変だな……。一個挑むのに微調整から全体の空気まで考えるのか。俺は普通にやれんのに」
スグリはミクの前に挑む予定だが、そもそも宣伝も兼ねている以上、スグリにもわかりやすく言えばガラルの大会に似ている。
ガラルではジム戦は大がかりな大会であり、多くの観客がいる。
観客が見ている中で、求められる空気という物があるわけだ。
ガラルでは白熱する戦い。そこで場違いに陰湿な戦術をやったりすれば、ブーイングの嵐が飛び交うだろう。
見世物の舞台で、勝つためのネチネチとした戦法を見たいと思うか。観客はウンザリするだけだ。
そういうのは一人でやれ。個人の範疇なら、勝ちに固執する戦術をやっても誰も文句など言わない。
晴れ舞台には、面白く派手に戦って盛り上げるのが要求されている。
勝てれば何をしても良いという一般的なチャレンジャーとは訳が違う。ここは配信者という立場があるのだ。
「要するに需要が一致しないといけないの。私は期待されているから、それは裏切れない」
「スグリ氏、ミク氏の事情は普通のトレーナーよりも重たいのよ。配信者、歌い手、こういうエンタメ提供をするボクらは常に気遣いをしないと、皆の者をガッカリさせちゃうんだよ」
多くに期待を背負うから、精一杯応える以上迂闊に失敗は出来ない。
特にミクはファンクラブ、ネモ、オモダカ、ナンジャモなどの支援を受けて立っている。
だからこそ、振る舞うべき偶像を維持する。
「もう芸能人だべ……」
スグリの言うその通りで、配信者などはどの世界でも身近な芸能人だと思えば良い。
自分を売り物にしているなら、立ち振る舞いに気をつけるのは当然。
スキャンダルを起こさないように。
娯楽の提供とは即ち楽しみの提供だから。
更に広告塔を踏まえると悪い印象も良くないし、慎重に行動する必要があるというのが理由。
アカデミーの宣伝もパルデアの宣伝も、ミクはキチンと行うつもり。
「実に立派ですね。最早社会人顔負けの気遣い。学生とは思えません」
アオキすら素直に褒める。
今の時代、学生から配信者になるのは誰でも出来るが、大抵は伸び悩むか失敗する。
大本の原因は経験値が無い癖に好奇心だけで挑むからこうなる。
イロハも知らない素人がやれば失敗するのも道理。
その点、ミクはバックアップと先輩方がいるおかげで、コケずに進めている。
繋がりこそが最強の武器。孤高を気取っても人は群れてこその生き物だから。
「これでも元、ビビりですから」
アオキの言葉に自嘲を込めて言う。
謙遜も程々に、皆はミクを求めている。
根っこはビビりのままだ。それでも自分で来たのだ。
逃げ出すつもりはない。
セルクルタウンに到着する。
移動はタクシーだったが、一同は先ず別行動。
最初に予定のあるスグリのジム戦。その間、ミク達はセルクルタウンの復興の手伝い。
やることのないアカデミーの生徒達が近場だからと暇潰しにボランティア活動をしているので、そこに入る。
酷い被害はオリーブの畑だった。
そこら中で食い荒らされている。
「あんたのせいだからね。せっせと働いてよタヌキ」
ミライドンを出して運搬させるミク。
現場ではもうミクが珍しいポケモンを持っていても誰も驚かない。何時ものことだ。
物珍しさに眺めている程度で終わっている。
『私、タヌキ固定ですか……? 確かにつまみ食いをしましたけど、これってポケモンなら誰でも……』
「畑は兎も角、集団でお店襲うポケモンが誰でもとかよく言うよ。ほら、さっさと荷物持ち!」
スマホで通話しながらミライドンに命じる。
ぶつくさ文句を言うミライドンだが、近くでもう一匹のパラドックスが荷物を牽引しながら言う。
『俺達の責任はそこのタヌキの責任だ。まぁ、美味かったけどよオリーブ』
『何で私の責任になるんです!? 同罪ですよね!?』
そのパラドックス、テツノワダチは知るかとぶった切る。
ミクからは声が何処ぞのロリコンのセロリみたいと呼ばれたテツノワダチは、つまみ食いを悪びれる様子も無い。
人里に降りてきたポケモンなら畑くらい狙うのはよくあること。
セルクルタウンにはそういう類が立地的にいなかっただけ。
田舎では珍しい話でも無い。
『まァ、俺としてはミクの言うことには従うが。別にタヌキがアテにならなくてもこいつがアテになれば良いだけのことだからよォ』
『うぅ……。私の統率が……威厳が……』
ミライドンがしょぼくれて運搬しながら言う。
威厳? タヌキの癖によく言うわとテツノワダチに言われてタヌキ呼びが定着したミライドンは立場が無い。
オリーブの畑は食害にあったが、農家曰く原因がミクのポケモンならもう襲われる事も無いので、そこは安心したという。
「アオキさんが終わったらムクロジでケーキの賄いを頼んで用意してくれてるよ。頑張れタヌキ」
『お菓子ですか! はいっ! 私、頑張ります!』
ミライドンはお菓子に釣られて気合いを入れて、テツノワダチは興味も無いのかやることをやる。
尚、スマホでポケモンに指示を出す光景は周囲からはあの機械みたいなポケモンはポリゴン的な生き物なのだろうと言う認知で終わった。
珍しいポケモンだからそういうものだろうという感じで、ミクだから当たり前。
その後、数時間で復旧は終えた。
お菓子を欲するタヌキに乗っかりムクロジに向かう。
皆と合流する。ネモ達は余所の飲食店の片付けなどを終わらせていた。
そして、漸くご対面。
「初めまして、アカデミーの歌姫さん。ムクロジにようこそ」
コックコートの女性が朗らかに笑って出迎える。
この人がカエデ。セルクルタウンのジムリーダー。
ミクの隣で座るミライドンを見て、事情を聞いて空腹で襲ったのは仕方ないと許してくれた。
寛大な処置に先ず謝れとミクに言われて頭を下げるミライドン。
一同の代表として、こいつのせいでこうなったので。
「ミク氏! カエデ氏からムクロジの取材許可降りたぞい! 早速撮影しよう!」
ナンジャモが異国に向けて、ムクロジの宣伝をしようとしていたようで、カエデも快く請け負ってくれた。
「皆さんがお菓子で笑顔になるなら、それ程嬉しいことはないので」
にこやかに微笑み、一度とりあえず貸し切りにするため一回店内の客を捌く。
その後、改めて店長として、ナンジャモとミクの三人で収録する。
良い感じに撮影できた。スマホだけでここまで出来るのも大した物だとミクは思う。
ベテランの配信者は機材も最低限でどうにか出来る経験値があるのだ。
「さて、そこの……ええと、タヌキさん? もお待ちかねの賄いのケーキです。どうぞ、皆さん」
一通り終わると賄いが出たので一同美味しく頂いた。
カエデはミライドンがタヌキのような生き物と言われて疑問符を浮かべていたが、タヌキはタヌキとミクが呼ぶので納得するしか無かった。
「ミクさんとのジム戦は明日の午後、三時頃を予定しています。大丈夫でしょうか?」
カエデがケーキを貪る食欲タヌキの隣でコーヒーを飲むミクに聞く。
配信の予定もナンジャモと擦り合わせをして、枠を立てておく。
大丈夫と返答するミクに、カエデは言う。
二つ目にしては、此方はオモダカの指示で申し訳ないがそこそこ本気で行く。
なので、ミクもそのつもりでお願いしたい。
メガシンカ、テラスタル双方ありで5匹まで使う。
後は観客はコートの関係上ある程度の制限を設ける。
集客は多すぎても困るので。
「はい、大丈夫です。ナンジャモ氏、良いですか?」
「オッケー! うおっ、予定の枠立てたら早速凄い反響来てる。応援メッセージも続々届いてるよミク氏」
「有り難いですねー」
既に固定ファンがいるミクに、カエデも若いのに気苦労はあるだろうけど、潰れないか心配になる。
普通ならスグリのように伸び伸びと野外授業は行うのに、期待の包囲網で動けないミクは逃げ場が無いのを大人としてどうしても気になる。
本人は楽しんでやっているし、アオキに聞く限り期待を背負っても重荷になってないようだが。
大人として言えることは疲れたならゆっくりで良い。
張り切って全力疾走は長くは持たない。息切れを起こす。
今の状態を消耗品のように扱うのは勿体ないから、丁寧に進んでいくことをオススメする。
「カエデさんもそう見えます?」
「ええ。何というか……気負って全力で恩返しするような言動に。それでは、直ぐにバテてしまいますよ。もう少し、落ち着いていきましょう。急いでもあまり良くはないと思いますので」
スグリにも言われた。急いでいる。
そうだろうか?
ここのところ、タヌキの件と言い某教師の尻拭いといい、多忙だったからか癖になっているのか。
楽しめ。もっと冒険を通して、目の前の事を役割では無く趣味のように楽しんでいこう。
歩みは遅くても良い。リスナー勢も周囲も分かってくれている。
肝心のミクがそのつもりじゃ、意味が無い。
先人のアドバイスは、確り受け止める。
公私を切り替えるだけで良い。今は自分の時間。
そういう事なんだろうと思う。
「そうですか。じゃあ、ここの所好きに歌ってなかったので何処かで気晴らしに何か聞こうかなぁ」
配信以外で歌う機会が無かったので、スマホで好きに歌を聞く。
ネモで言う、結晶洞窟踏破のような気分転換。
すると。不意に近くでケーキを食するスグリが言った。
「なぁ、ミク。この後少し時間くれないか?」
折角の趣味の時間を悪いとスグリは言ってから、ミクとバトルしたいと言いだした。
一度もまだスグリはミクとやったことがない。
一度交流を兼ねてやってみないか? と。
「んー……」
ミクは渋る。好きな音楽を聞きたいから自由時間が欲しいのだが。
でも友達の誘い。断るのも勿体ない。
郊外の荒野の方なら、多少暴れても地面がでこぼこになるだけで済む。
ネモのようにバトルに夢中な性格では無いミクは歌を聞いている方が良いのが本音。
それに、原作よりも多分強くなっているスグリにも興味があった。
拗れていない前編の状態で精神の殻を破ったスグリ。
彼もバトルは楽しんでいると言っていた。
つまり、彼も普通のトレーナーなのだと。
ミクはこう見ると歌い手という立場が一番好きで、バトルには消極的というか、交流という方法では理解が出来るが自分から誘うタイプでは無いらしい。
「うーん……」
「ミク氏はバトルにそそられるタイプじゃ無いみたいだから、トレーナー同士のコミュニケーションにはあんまり向いてないよね。いや、歌で魅了するそっくりさんは兎も角、ミク氏の性格って歌中心じゃん?」
「ミクにとっては歌はやっぱり大事なんだな」
渋るミクにナンジャモもそう大人として見る。
スグリもトレーナーのコミュニケーションであるバトルには消極的な理由が、歌が好きで歌っている時がきっと楽しいんだろうと言う感情が理解できる。
これが作詞、作曲が出来るアーティストなら糧に出来るがミクは歌い手。自分では作れない。
性格的に誰でも繋がるコミュニケーションオバケであるが、歌を中心の言動で、歌が絡まないバトルには心惹かれない。
だったら。スグリは提案する。
熱の入る歌を聞いて、ミクがその気にならないか。
スグリの趣味で良ければ最近気に入った楽曲がある。
熱きトレーナー達というBGMなのだが、元々はアニメのサントラで駆け出しの少年が主人公の激闘を描いた王道アニメのテーマソング。
これ聞けば絶対に火がつく、と豪語できる。
「どっかで聞いたなそのタイトル……。バトル開始の宣言をしろ、とか言ってない?」
「あれ、知ってる? そのアニメのテーマソングだべ」
「うわマジか……」
ミクの前世に似たような番組があったが、こっちにもあるのか。
念の為スマホで調べて聞いてみる。
案の定の曲調で、苦笑いする。
王道は何処の世界でも強いようだ。
でも、この曲調は確かに某社長じゃないが、荒ぶる魂が滾ってくる。
闘争心が入ると言えばそうかもしれない。
「どう? 俺的にはオススメだけど」
これがスグリのイチオシのサントラか。
もっとこういうのも欲しいなと思う。
スグリの言うとおり、まだ音楽の視野を広げるのもありか。
世の中音楽が多すぎる。だから楽しいのだが。
「そうだね。ちょっと、やってみようか」
気分も乗ってきた。スグリの誘いに乗ろう。
ガッツポーズのスグリに、大人組も青春の流れに微笑んでいる。
尚、自重しないモンスターのハングリースイーツはカエデに捕獲されて甘い物フルコースにハマって封印。
友人同士の、初めての交流の始まりだった。
声のイメージ
テツノワダチ 某最強のセロリ