スグリと対戦は初めてだ。
それでも気兼ねなく、制約無しに戦えるバトルは早々無い。
ミクにとって、ポケモンとの交流は多くともその大半が歌で繋がるだけで、バトルで対等なのはスグリだけ。
そのスグリが何処まで強いのか。
正直分からない。だがミクと言えども本気を出せば前編のスグリなら多分勝てる。
手持ちの数が、圧倒的にミクの方が上。
スグリもそこそこ持っているが、メガシンカまでは使えまい。
二人は駄弁りながら、集団と別れて郊外に出る。
大人組は日程の調整、ネモは観戦する為についてきた。
折角の良いチャンスだ。向こうの学園で入手したポケモンも使ってみるか。
広場の荒野に出る。
お互いに手持ちは四匹、交代無し。
テラスタルは自由だが、ミクは使う気は無い。
何を出してくるか。スグリはパルデアに来て、様々なポケモンを捕獲している。
アカデミーの交流で授業も受けている。
確かに同行はしたが、元々の手持ちとその後の育成の方針は知らない。
こっちは向こうの学園で手に入れたポケモンで立ち向かう。
多分スグリはパルデアのポケモンで戦うと予想する。
「んだば、始めるべ。ミク、程々によろしく」
「うん。大丈夫、パラドックスとかレジは使わないよ」
あいつらはほぼ出せば本気。
あるいは呪詛の王は常用のポケモンである。
でもステータスで勝るのでは何とも言えない。
「試してみるか。行くべ、ウミトリオ!」
「ファッ!?」
スグリが初手で繰り出したのは何とウミトリオ。
某そっくりさんの別種であった。
流石に驚くミク。ウミトリオ。
「スグリ? 何でこいつ育ててるの?」
ミクは度肝を抜かれた。ウミトリオ。
パルデアにおける最弱を冠する外れの地雷。
その弱さはスペックで劣るワナイダー、イキリンコを以てして此奴らは工夫で十分戦えると言われる程。
ウミトリオは逆だ。特性は噛み合わず、覚える範囲の技は貧弱その物、そっくりさんのダグトリオの方が遙かにマシという悲惨の塊。
マジかよ、というのが本音だった。
スグリは前編の状態なら勝ちに執着しない。
育成するポケモンは厨ポケでは無いが、まさかウミトリオ。
「ん? ミク、そんなに意外か? ウミトリオ、この前の浜辺で捕まえた進化したポケモンだけど」
「いやぁ……ウミトリオは、ちょっと……」
正体を知らないから言えることで、専用技は準伝説の劣化で強制三回、鮫肌やゴツメで反撃を受けるリスクあり。
紙の耐久でHPもピカチュウ程度、一発貰えばぶっ倒れ命懸けをやってもガバイトすら道連れに出来ない。
そのウミトリオ。スグリのチョイスが謎すぎる。
「ウミトリオの評価は散々だな。知ってるよ。一芸も出来ない弱っちいポケモンだってぐらいはさ」
苦笑いするスグリは言った。評判は最悪。
弱い、その一言。逆に言う。
「弱いからって言うのはトレーナーの都合だ。そのポケモンの本質じゃねえ。俺の学園じゃ、勝ちに行くためのポケモンを育てる。つまり、やっぱりテンプレートの編成って言うか、傾向として偏りが出るだろう? 勝つためのポケモンを育てるって言うのは、アカデミーのミクからするときっとスゲえつまんないんだよ」
「あー……」
察したミク。
スグリは言うに、その目的はもっと自由にポケモンを育てる。知らないポケモンを知りたい好奇心。
勝ちに拘る編成は在り来たりで、正直誰でも似たような構成になる。
それをぶち抜いて己を貫いたのが、向こうの学園の四天王で、残念だがスグリはそこまで出来やしない。
ウミトリオだってそうだ。評判は最悪、でも実際にやってみないと分からない。
事実スグリのウミトリオはバッジ二つには通用した。
最低限のバッジぐらいの能力は持っているのに、だがパルデアの生徒はウミトリオを馬鹿にする。
事実無根とは言わないが、そこがトレーナーの育成のやり方だろう。
旅で使うにはスペックは悪くない。
大体脆いのは見て避ければ良い。
要は、ウミトリオは生態がアカデミーの大半の生徒には向かない。ダグトリオの方が強い。そうだろうか?
そもそも速度は十分。身軽なポケモンが頑丈なわけが無い。いや、一部例外を除いて。
スグリは笑う。ウミトリオで行く。
ミクの反応からして、予想外だったか。
「どうする、ミク? ウミトリオを酷評できるだけの実力がミクにあるか?」
スグリは得意気に誘っている。自信は、あるらしい。
だったら。ニヤッとミクも笑った。
「そうだね。ウミトリオが弱いんじゃない。単純に私がそう思ってるだけ。だったら遠慮無く行くから!」
そのウミトリオの本領、見せて貰おう。
こっちは有利に行かせて貰う。
「行くよ、エレキブル!」
繰り出したのはエレキブル。
学園で捕獲できるらしいシンオウの追加進化。
着地するや、強気に笑ってエレキブルは唸る。
「やっぱり電気か。後攻は有利だよなこのルール」
「それは思う。公式とはいえ、どうにかならないかな」
先手のポケモンに有利に出せる後出しジャンケンのような公式のルールに、二人は思う。
これがジム戦などでも適応される。
交代は出来るときと出来ないときがあるが。
「まぁ、でもエレキブルならやりようはあるしやれるべ」
「不利とか言ってんのに言うじゃん」
スグリの強気な言葉にミクもワクワクする。
エレキブルは一般ポケモンの中では上位のスペック。
ウミトリオでどうするか、やってみる。
審判に、見物のネモにお願いして、号令をかける。
バトル、開始だ。
先手は譲る、というよりスグリの方が指示が速い。
初手にアクアブレイク。
凄い速度で岩から出ているウミトリオが突っ込んできた。
流石にエレキブルより速いだけのことはある。
だが、エレキブルも物理方面では脆いと言えども負けてはいない。
腕を交差させ防御させて、踏ん張った。
水の突進は難なく堪える。
「まだまだ! アクアジェット!」
連撃のようにまだ突撃。
専用技は威力が低く、途中で止まらない。
それを分かった上で単体の技を組み合わせる。
エレキブルの反撃。
捕まえる為に乱暴に長い身体を引っ掴む。
だが、その対応で特性が発生する。
思わず気持ち悪そうに顔を顰めてエレキブルは投げ捨てた。
「エレキブル? どうしたの?」
ミクが対応に困惑する。何故反撃の糸口を捨てた?
暫し考え、ギョッとする。これ、特性のぬめぬめ。
体液のように纏っているから、触れるだけで素早さが下がる。現実だとこれだけで発動するのか。
さっきは水の攻撃だから発動しないだけ。
間合いを取って下がるウミトリオ。
ミクはどうせ対策で穴を掘るを持っているだろうと推察して、地震で範囲攻撃。
地響きをあげて荒野が揺れる。
離脱しようと後退する、ウミトリオの行動は読めている。
ミクはアカデミーで学んだが、リアルで技の地震を起こしている最中、実はポケモンによっては威力が大きすぎて反動で動けない場合と動ける場合がある。
要は地震は全体攻撃。自分にも影響する。
主にこれは本人の慣れと体躯と体重の問題。
どっしりしている重戦車ポケモンは重たい分、地震の反動を受けにくい。
逆に軽い、細いポケモンは余震で一瞬動けなくなる。
ちなみにダグトリオだと細身でも重心が確りしている為、足止めに地震を使うことが出来るなど例外ありだ。
エレキブルは体重が百を超える重量級。
揺れる地面の上を鈍ったとはいえ、反動を踏ん張って走って行ける。
間合いから離脱する前に直進。
そのまま数メートル手前で跳躍。
揺れる地面のせいで後退以外を拘束されているウミトリオ。
逃げようとするその位置、見えた!
「クロスチョップ!」
ぬめぬめの体液を纏った体毛を電撃で弾いて、腕を開いた。
下がるウミトリオの追い込むように、空中で構える。
「そう来たか! ウミトリオ! 今は逃げらんねえ、カウンターするぞ! イカサマだ!」
楽しそうに笑ってスグリは反撃に備える。
あの言動、持ち物はやはりタスキかとミクの予想はついている。
互いに理解している。
ウミトリオは対空砲火の技を持つには心許ない。
故に無防備な空中でモーションを組んだ。
降ってくるクロスチョップ。
光の超人のように、雄叫びを上げてエレキブルの攻撃が身動きの取れないウミトリオに直撃。
同時に三つの首に触れたのでまたぬめぬめ発動。
更に体液がくっついて速度が落ちる。
鬱陶しいように着地して腕を振るうエレキブル。
などとやっているから反撃のイカサマを食らう。
三つの首を最大限伸ばして、ぶん回してぶっ叩く。
イカサマ。攻撃の威力をこっちの攻撃で計算するからウミトリオの火力では出ない威力で殴られた。
で、イカサマで触れたのでぬめぬめの上書き。
「うん、スグリの言うとおりだ! ウミトリオ厄介だね! ぬめぬめ鬱陶しい!」
「だろ? 俺が思うにウミトリオの強みは如何に手数と相手との接触回数を増やせるかだ。接近戦の打たれ弱さは攻撃のラッシュで相手の攻撃をさせない勢いで補える。下手に直接攻撃するなら近距離なら避ければ良いし、ミクみたいに範囲攻撃から接触すればぬめぬめの対象だ。遠距離なら大半、飛び道具。地中の穴を掘るでどうとでもなる。ミクには穴を掘るは通じないけどな」
冷静に互いのやり方を指摘する。
ミクには地中に逃げる方法は通じない。
ミクも実は本来優先するはずの電気技を撃てないだろうとスグリは告げる。
外れたらかなりの痛手のリスクがある電気技を覚えている。
雷パンチならもう撃っている。でもしてこない。
何故ならミクのエレキブルは主力技がリスキーだから。
「俺の見立てじゃ、このエレキブルは地震を基盤にした徒手空拳の格闘系の技と見た。接近戦のクロスチョップが良い例だ。初手で地震で広範囲の範囲攻撃やって、後退の退避か空中に逃がす計算の技構成だろ? なら、サンダーダイブは膂力で上回れば空中でも下降でも上を取れば当たるから確定。断言するよ、絶対ある。んで、妥当な範囲だと通じない場合の地面対策に冷凍パンチ。残りの枠は、ミクの性格から察するに……持ち物を壊すはたき落とすってところか?」
腕組みして思考するスグリにミクは拍手で称えた。
「わーお、お見事。正解だよ。やっぱり凄いやスグリ。私の手の内は見ての通り。ふふっ、お互い様って事だね」
友達の手の内は読み通り。ミクの原作知識を自分なりに活かした戦術は、専門校の生徒にはお見通し。
「こっちは手の内、早々にバレてるからな。何せ頼みの綱、戦術の中心の回避の穴を掘るが潰されてる以上、拮抗と見せかけて俺が結構不利。イカサマしか今は打点の高い技がないしね。でもエレキブルはそんなに打たれ強いポケモンじゃない。どっちかって言うと電気を倒す電気のポケモンだ。多分、将来的に持ってるって事はミクはナンジャモさんにエレキブルぶつける気だろう?」
「いや、こんなピンポイントのポケモン、ナンジャモ氏にメタ戦術だし使わないよ。言ったでしょ、私のジム戦はエンタメの配信だって」
「……そうだったな。俺とは訳が違うんだった。悪いべ」
有効でも諸事情で使わない。
こういう友達とのバトルに共に出来ればそれでいい。
「で? この状況、ミクはどうする? 手の内分かってんだろ。俺のウミトリオは持ち物はタスキだ。それも消耗した。あと一発でも貰えれば勝てるのに、攻めないのか?」
「そりゃそっちの理屈ならね。こっちだってさっきからボコボコ殴られてるんだから、長くは持たないって。イカサマ痛いからさ。あー、達人の帯は失敗だったかな」
「そっか。持ち物が達人の帯。多種の技なら効率は良いな。俺も参考にするよ」
「当たらないと意味ないじゃん」
笑い合って、互いにもう一発でも受ければ倒れる事を知っている。特にイカサマが効いてる。
その上ぬめぬめでエレキブルは鈍足になった。
地震をもう一発やってもウミトリオに追いつく前に範囲外に脱出される。
そこでヒットアンドアウェイをされたら負ける。
だけど現状、地震をもう一発やるしかない。
案の定撤退から離脱して、揺れ終えたらアクアジェットで再度突っ込んでいくウミトリオ。
掴めば動きが鈍る。防御しても長くは持たない。
不利を覆すスグリが、ウミトリオと言えども見ての通りやりようはある。この勝負、貰ってゆくと勝利宣言。
ミクはそれはどうかな? と言いながら無理くり攻める。
その攻防を見惚れるネモは何も言わずに内心燃え上がるハートで実ってゆく二人にハンターの目で見つめている。
良くない目だ。こいつは獲物を見つけたら自分が満足するまで成長を待って、熟したら食らいつくハンターの顔。
(いいね、やっぱりミクもスグリ君もドンドン実るッ……! 良いなぁ、お互いにこうやって楽しめるバトル! 見てても楽しい。最高だよね! 二人とも羨ましい! 未熟だからこそ出せる全力。しのぎを削る関係。くぅー! 青春だぁ! 戦いたい……けど、私は今審判だから仲間に入れないのが悔やまれるッ!)
乱入してタッグを組んででもやりたいと思うあたり、こいつはこっちの世界で有名な滾るハンターと気質が似ているというか……マイルドになっただけ。
もっと言えば格ゲーでたまに居る俺より強い奴に会いに行く! 居ないならトレーナーだから育てる! を地で行く女なので厄介というか。
ヒットアンドアウェイの退いて押すは割りと王道なやり方なので、レンジを如何に管理するかで勝敗が決まる。
ぬめぬめで鈍ったエレキブルでは移動速度が追いつかない。そこに的確に撃ち込む低威力の攻撃。
軽くても積もれば山になる。
ミクもこうなればとさっきスグリがやったようにカウンターを狙った。
直線で来るアクアジェットに相殺するようにぶつける冷凍パンチ。
間に合った。かち合う攻撃。
僅かにアクアジェットが勢いで勝ったか、片膝をつくエレキブル。
だがウミトリオもぶつかったことでバッタリ倒れた。
この場合、立っていた方が勝ちだが……エレキブルは悔しそうに拳で地面を殴り、その後大の字に後ろに倒れる。
つまり、双方戦える体力が無い。
ウミトリオは見るからに気絶。
エレキブルは唸っているが横たわる。
引き分けになった。
互いに戻す二人は語る。
「危なかった……。どうにか引き分けにもつれ込んだか。ミク、どうだった?」
「悔しいけど、戦術の時点で私の負けだよ。どうみてもエレキブルの方が有利だったのに」
「いや、フットワークの軽い脆くて速度と手数で押す相手に若干速めのパワーファイターは厳しいと思う。押し切られたら捲り返せる?」
そう言われて少し考えた。
「……無理か。あれ、じゃあ私の認識不足?」
「んー……選出をタイプで選んだミクのチョイスがまだ許せるけど、知っててもウミトリオの対処法の知識不足だったってだけかな」
「余計にスグリが
「にはは。まぁ、一回目はお互いの小手調べだべ。次は俺の相棒だから、気張って来てくれよミク」
笑うスグリは、次はパートナーを出すという。
次こそ勝ちたい。
そう悔しそうにミクがしているのを、