「今の所、相打ちと俺が勝ち星一つ。ミク、もう少し本気でいいべや」
スグリが朗らかに笑いながら言ってくる。
対してミクはしょぼくれる。
「あのさー……私の手数、分かってる? これでも今は良いよ。オフだしね。でも配信中は私もエンタメの人間だから、盛り上げを意識しないといけないんだよ。だから手数増やしたのに。大体、スグリと私じゃ事情が違う。ネモの手伝いもあっても、後攻有利のメタを張る公式ルールも言いたいことある訳じゃん? そこでそれ言う?」
暗に本気を出せば『質』で勝ててしまう。
そう伝える。今は特別に挑んでいるわけではない。
友として、対等に交流している。
そこにもう少し本気で来いと言えば、安い挑発だ。
「卑屈になるなって。前の俺じゃあるまいに」
無意識でメタを張る自覚を取っ払ったのにスグリが手応えを欲しいみたいに言うからだろうと不貞腐れるミク。
笑って、じゃあ先にミクがポケモンを出せば良い。
スグリは決まっている故、有利にもならないし。
「スグリって結構メンタル図太くなったね」
「今までが悪かっただけだ。ミク達のおかげで俺は変わった。そこの所、本当に感謝してる」
ボールを構えたスグリはこれは純粋に礼を言う。
性根が嫌いだった自分を変革できた。
ミクの推進力は真似できない。だけど理解は出来る。
「ま、残った三匹で俺を倒せるか。一緒に楽しもう、ミク。俺達は、楽しい時間を共有してるんだ」
「……だね! 不貞腐れるのもアレだ、穿ってる。良いよ、スグリの学園のポケモン見せたげる!」
楽しい時間を共有する。友達同士の交流として。
ミクから今度は行く。
「行こう、キュワワー!」
繰り出すポケモンはキュワワー。
花輪のような小さなポケモン。
見た目は弱そうだが、スグリは感激する。
「キュワワー……。これまた、良いチョイスを持ってきた。フェアリーの育成しやすいポケモン、いいね」
「向こうで貰ったときに決めてたんだ。イメージ的に合うでしょ?」
キュワワー。花輪の見た目から、ミクのような歌姫にはよく似合う。
「ビジュアルだけじゃない。キュワワーは、トレーナーの育成の癖が出る。どういう風に育てたかな、試しに草食してみるべ」
「スグリ、んなこと言ってメブキジカとか止めてよ。キュワワー、フェアリー単一だからね?」
フェアリー単一のタイプだが、スグリは肩を竦める。
何なら初心者の無難とさえ言えるポケモンで行くらしい。
「さて行くか、パフュートン!」
繰り出したのはパルデアではよく居る豚、パフュートン。オスの方か。
「あれま、パフュートン」
「な? よく居るだろこいつ」
意外なポケモンで、驚くミク。
色々育てたいとは言ってたスグリがパフュートン。
「俺も研究しただけあって生態が面白いよなパフュートン。でも何か、パルデアだと食用らしいけど」
そこはまあ、仕方ないとスグリも言う。
「一般流通してるだけあって美味しいよね」
「いや、最高級だと俺らじゃ買えないよ?」
家畜の一面もあるポケモンだとよく知られている。
現にバスラオなんかもよく食用にされている訳だし。
「食用だとあれも有名だよね、ミガルーサ。お刺身美味しいんだよ」
ネモが混じって言うとおり、凄まじい再生力で削れた骨身を治癒できる存在が食えと言わんばかりのミガルーサがパルデアだとそこら中に居るので、比較的刺身などの異文化を昔から取り入れているパルデア。
「うんめえよなぁ、ミガルーサの刺身。こっちに来て学食で食ったときに感動したべ。キョジオーンの塩使うと最高に幸せになれるんだわ」
「スグリの地元に飲食店ないもんねー」
彼は田舎故に、飲食店のない地元でいた。
特産品は林檎や果物ばかりで、ここのようにオリーブが採れるわけでもない。
尚、彼の地元の林檎はブランドであることをよく分かってない皆であった。
取りあえず、後でサラリーマンアオキの食通に美味しいものを集りに行くので勝負開始。
「パフュートン、頬張る!」
「させない、ドレインキッス!」
双方タイミングが重なった。
持っていた木の実を食う前に俊足で接近してドレインキッスをするキュワワー。
「案の定ヒーリングシフトか!」
「ジリ貧なら回復で追いつこうって事!」
キュワワーの特性、ヒーリングシフト。
回復効果のある技の出だしが極端に速い。
何れだけかというと、大抵の先制の攻撃のタイミングを上回る。どのポケモンでも、どんな技でも。
その速度たるや、いたずら心の変化技すら超えて先手で攻撃できる。
頬張るを妨害したが、怯まずにどこからともなく持っていた木の実をむしゃむしゃ食ってるパフュートン。
途端に、全身に力んで力が篭もる。防御でも上げたか?
「半減でもこいつは痛えぞミク! ボディプレス!」
そのまま、近くに居たキュワワーに身体で押し潰す。
キュワワーは見事に回避できずに潰された。
「……あ、さっきのリュガの木の実か!」
何をされたか、直ぐに理解するミク。
疑似の鉄壁ボディプレスだ。
アーマーガアとかがよくやるという。
まさかパフュートンがそんな真似できるとは。
潰されたキュワワーにドレインキッスをさせて回復させるが、先程よりも速度が落ちている。
接触して特性が消えた。焦るミク。
これは、パフュートンオスの取れない臭い。
触れると特性が上書きされる、強制効果。
「引っ掛かったな! ヒーリングシフトはもう効かない!」
「なら素で勝負だ!」
ぬめぬめといい、スグリは防御系の特性をよく使う。
こう言うとき型破りが欲しいが出て来るのが妖怪金属置いてけ鍛冶部しか出て来ない。
ちゃんと持ってるんだけど、手持ちに入れてない。
速度ならこっちが上だ。
スペックで動いてヒットアンドアウェイで迎撃。
だがムキムキパフュートン、また捨て身タックルで突っ込んでくる。
減る一方の体力なのにやっぱり基礎が高い。
避けてドレインキッスにギガドレイン、光合成と回復効果の技のキュワワーには生半可な攻撃では倒れない。
「勢いだけのパフュートンなら、無限回復のキュワワーに打点がないよ!」
「だからこうする! 眠る!」
パフュートン、突然立ったまま寝る。
ここで眠る。全快して最中の無防備も承知の上か。
物理はリュガで跳ね上がっているのでギガドレインで吸い尽くしてやろうとするが、不一致の火力が足りない。持ち物の大きな根っこもあるのにパフュートンの耐久性がヤバい。
で、定時の時間で起きる。
吸い続けているのに反撃の捨て身タックル。
一発の重さはパフュートンの方が上。
ヒーリングシフトが消えたせいで手数が減ったが回避で補う。
ギガドレインメインで攻めれば問題ないがまた眠る。
吸っても吸っても、寝て刹那に全快。
一定期間無防備、余裕で堪える。起きたら攻める。
ジリ貧なら負けないと言ったが本当にジリ貧だった。
「よく居るってこんなのがゴロゴロいるのパルデア!?」
「何事もやり方次第。ミクだって知ってんだろう!」
ニヤッとこれも貰ったと思うのか誇るスグリの笑み。
流石にキュワワーはマジで選んだポケモンだ。
ミクも齧り付く。回復量はこっちが勝ってる。
眠るのタイミングは恐らくギガドレインかドレインキッスが終わった後。
だったら。ミクもやってやる。見様見真似の持久戦。
一定数殴って、吸って。また来た、眠る。
無防備もチャンスに変える。
「スグリ、一個見落とし。私の最後の技、見てないでしょ!」
動かないなら、こうすれば良い。
「宿り木の種!」
嘗てフィールドに撒かれて異様なしぶとさを発揮した宿り木の種。
今度は相手に植え付ける。
宿り木の種で寝ても体力を貰っていく。
「ゲッ、隠し球それ!? ヒーリングシフトが乗らないから能力向上に瞑想かと思ってたのに予想が外れた!」
「こうなりゃ、寝てる間も吸ってやる! PP無くなるまで、付き合って貰うよ!」
スグリも想定外。徹底的な回復効果の技構成。
回復効果の持久戦。
一回相手したがあの天候込みの高等技術は真似できない。
回復効果の素人であるミクにはこれが限界だった。
パフュートンにヒーリングシフトが消されても、一定数吸えれば消耗する。
寝ても常時吸い続ける事で、こっちは踏ん張る。
「あー……パフュートンのボディプレスじゃ、フェアリーには通り悪いよなぁ。本来これ、ノーマル効かない鋼とか岩用の手段だし」
「キュワワー、見た目よりそこそこ硬いよ?」
失敗したと苦い顔でスグリは頭を掻いた。
完全にキュワワーに持っていかれた。
寝てる最中にも吸われたらダメージソースで競り負ける。ドンドン定数で吸引されていくわけだ。
さて、打開はどうする。
ミクの宿り木の種で根本的な土台が引っくり返った。
思考するスグリ。弾き出された計算のうち、ミクのキュワワーにパフュートンの手札で有効打を与えるには。
暫し逡巡。軈て。
「んー……ミク」
「なに?」
出された答えは、降参だった。
呆気なく状況は詰みとスグリは認めた。
「ダメだ。パフュートンのパワーじゃ、キュワワーに捨て身タックルの反動込みで最低三回は入れてトントン。でもそのまま、吸われて減った体力を眠るでカバーしても定数で差っ引かれて、回復率の回転も含めて多分数分後にはパフュートンがギブアップ」
「あれ、案外アッサリ諦めるんだね」
もう少し持久戦をするつもりだったのだが、ミクにも意外なほど冷静に説明するスグリ。
「ミクに本気で言ったらマジで本気で来てたからな。キュワワー、結構気に入ってるんだ?」
「割りと本気で調べてキッチリ育成したよ」
ミクだってキュワワーは割りと配信で使う予定にない、ガチのメンツの一体だ。
こんなしぶとい戦法、余程のリクエストがないとやれない。熱狂とは真逆のウンザリするやり方。
「だろうなぁ。幅が広いんだキュワワーは」
パフュートンもいい線行ってたが、仮想敵がフェアリー単一はキツかった。所謂、出し負け。
「仮にこれがデカヌチャンなら俺も降参はしなかった。ボディプレスが等倍で入るし、デカヌチャンはデカハンマーこそ怖いけど連発できない。それに防御底上げしておけば案外堪えるしな。眠るで寝てて殴られてもそんなに通らんし」
「危な、止めといて良かった。デカヌチャンも持ってるけど、キュワワーは私なりのガチだからね。スグリぐらいしか使える相手が居ない。配信じゃこの子使うとどう足掻いてもグダグダになるから」
「需要の層が違うもんな。やっぱりミクのリスナー勢の熱い戦い所望に、キュワワーは確かに向いてない」
吸引力の変わらないキュワワーは、どうしても見ていて楽しいかと言われたら否定的になる。
ギリギリの熱戦を見たいであろうミクのリスナーに、粘ってでも勝利にしがみつく振る舞いはちょっと合わない。
でもミクなりに持久戦だって出来ると証明できたわけだ。
だから友人のこういう時にしか使えない。
派手か、熱いか、珍しいか。
今の所、ミクのリスナーはこれを求めている。
レジの王は珍しい。
基本地味でしぶといがだから使える。
キュワワーはそうでもない。
アローラに行けば普通にいる。
残念ながら、ミクも本気を出すという意味では、制限があるわけだ。
質で勝てるならパラドックスもいる。
あのタヌキだってその一体だ。
だが、珍しいけれど強すぎるのもダメ。
パラドックスは強すぎる。バハムートも。
アラモードなら、一回使っているが火力が無いから熱戦を出来る。
余程の格上相手で漸く許される手持ちが結構いる。
中々どうして、手数が増えても制限も増えて、窮屈になる。
問題なのは、スグリのような友人ぐらいしか自由に選べない事か。
「大変だな、ミクも」
「気遣いないと配信者は出来ないよ。ナンジャモ氏みたいな一流じゃないし」
なんとなく、ネモもミクの気持ちが分かる気で居る。
不満が溜まるよね、とか勝手に思っているがミクは逆で、失敗できないから慎重に行動したいわけで。
転んだら迷惑になるのだ。誰だって慎重になる。
「複雑過ぎて想像できねえや」
「これが私の望んだ結果だから。当然の枷は、あって当たり前。そうじゃなきゃ私も楽しくないもの」
スグリのような一般市民にはわからない気苦労。
でもミクはこの制限でも楽しいらしい。
限られた中で皆で考えて実行して、配信することは楽しいのだ。
客層が望めば、変化もするだろう。
ニーズに合わせて変更するのが、プロデューサーのナンジャモが居る理由。
こんな風に詰みと分かって降参するなど、配信ではもってのほか。
何故諦めるとブーイングの嵐だろう。
エンタメとは、娯楽である。製作である。
見ている人が楽しむための、工夫が必要なのだ。
それが出来て初めて配信者を出来る。
自由が無いけど、まあ仕方ない。
「じゃあ、次ね。お互い勝ち星一つ」
「あぁ。気張って行こうか」
話が逸れた。二人は次の勝負へと向かう。