一晩中、ライブしながら起きているとどうなるか。
「お疲れ様でしたー!」
初音ミク補正でミクは喉はノーダメだった。
観客はほぼ徹夜、明け方まで歌っていたリストを終える頃にはバラードの子守唄になって、そのまま寝落ちしている連中が続出。
会場は死屍累々であった。
『これが……初音ミク。パルデア地方の歌姫……我、感激の極み……!』
『眠ぃ……。クソ、選曲にバラード入れたの誰だよ……。マジで、歌声で睡魔が……来やがる……。強烈な眠剤飲んだみたいな……』
応援のシュウメイは兎も角、オルティガが撃沈寸前。
『オルティガ殿、無事でござるか? ミク殿の歌声……正しくパルデアのディーヴァ。眠るのは些か勿体ないであろう』
『当然だ、起きてるよ……。でも本人の歌声が、眠気を誘うんじゃ、どうにもキツいんだって。シュウメイこそ、よく無事だな?』
『我のスピリットが燃え滾る故、眠気など恐るるに足らず』
『スゲえな……』
シュウメイはアニソン聞いててハイテンションで眠気など感じていないようだった。
「えへへ……。良い夢を、皆さん」
ニコニコ笑ってアカペラで歌い終えるミク。
メロコはとっくに負けて寝ている。
ビワが睡魔に抗いながら後片付けをミクとしていた。
「凄いね、明け方まで歌ったのに喉痛くないの?」
「全然平気ですよ。私の唯一の取り柄ですし」
「音楽に関しては無敵だねミクさん……」
平然とするミクにもう慣れたビワが寝ているリスナーをえっちらおっちらと担いで部屋に連れて行く。
地味にビワも凄い。体力があるが、何より。
「ヒーリング効果って言うのかな。リラックスしてて何時もより眠たいけど、身体は動くよ。少し仮眠して帰るから、メロコちゃん起きたらよろしくね?」
「はい」
メンタルの回復がヤバい。肉体の寝不足を超えて、軽く寝たら復活するというビワ。
全員運搬を終えて、通話していたシュウメイが滾っていたが突然切れた。数分後、充電切れとメッセージが来た。
こっちも通話を切る前に。
「おいミク……俺からの礼だ。今回のライブ、他の連中に代わって俺が言い値で買うよ。滞在費の代わりとか、そういうのに使ってくれ。急遽のゲリラとは言え、何時間も聞いたんだ。これぐらいしとかねーとな』
オルティガが言い値を言えと言った。
どうやって支払うのかと言えば、スマホの仮想通貨で良いかと言われた。
「あ、そういうの良いです。お礼なら、直でお願いします」
仮想通貨とか子供の使えるものじゃないし、原作でボタンのやらかす原因だ。触れたくない。
『……直って、おいおい。それピーニャの言う仕事の手伝いだろうが。それじゃ俺達が得してお前がフェアじゃねえ。これからもやってくれるんだろ?』
「まぁ、好きで歌ってるので」
歌ってて楽しかった。ミクは思っていたよりカラオケとか好きみたいで、自分でも驚いている。
ビワが仮眠を取りに行く前に、間に入る。
ご好意だから、オルティガも気にしないで良い。
これから一緒にやっていく、パートナーなのだと。
『一方的なのは好きじゃねえんだ。おいミク、お前ポケモンの預かりのシステムはどうやってる?』
……預かりのシステム?
リアルだとブリーダーとかが使うアレか。
「使ってないですね。今の手持ち、一匹貰ったので四匹です」
『バカか。ライドポケモンは手持ちに出来ねえんだよ。そういう決まりだ。モトトカゲは移動用のポケモンだから、実質、今三匹だろ』
「マジですか!?」
そういえばミラコラは手持ちになってなかった。
そう言う意味だったのか。
『丁度良い。お前、面倒は見れるな? ちょっと、個人的に預かりのシステム使ってお前にポケモン送る。交換じゃねえ、譲渡だ』
「うぇ!? 今の子とも上手くやってる不安なのに!?」
オルティガが、スター団のポケモンを残った枠をくれると言う。
「あー……もしかして、シュウメイ君から送られた荷物に入ってたメガストーンの髪飾り?」
ビワも心当たりがあるらしい。
メガストーン……って。
『メガシンカって知ってるか? アカデミーで習っただろ? これと、譲渡するポケモンが俺達のお前の歌声への返礼だ。シュウメイがミクの衣装に映えるって言って髪飾りにメガストーン加工しやがったんだよ。俺の手元に残ってる最後の一個、希少品だってのにあの野郎……』
……パルデアに、メガシンカがあるのか。
いや、続編でパルデアのポケモンもメガシンカしたけど。
まさかスター団が持っているとは思わず固まった。
経緯を聞くと、オルティガの実家の関係で、手に入ったメガストーンなどの一品。
スター団はテラスタルは使えない。
授業受けてないから。代わりにメガシンカをピーニャも含めて全員が使えるらしい。
待ってくれ、どれだ。ミクは困惑する。
どのポケモンが来るんだ。
『お前の歌声に惚れちまったうちのポケモン達が浮き足立つんだ。責任、取れよ?』
そんなご無体な! と抗議してミクが言うが、実際画面に何匹も見えるポケモンの影。
迫る勢いで、預かりシステムに転送しろとがっついている。
『なに、お前の声に惚れ込んだ連中だ。言うことは聞くさ。安心しろ。お前の歌った声で魅了した歌姫だから全力で応援する。だろう、お前ら?』
ぎゃあぎゃあと騒ぐポケモン。
マジで増えるのか、残りの枠。
今ヤドラン、ニャイキング、マリルリが居るのに。
その上でメガシンカまで与えるのか。
ゲットせずに周りが気配りでくれるとかいう。
駆け出しのトレーナーに、好条件過ぎないか。
「あ、多分こっちに来ないと他の人の言うこと聞かないし、ミクさんのストーカーみたいに押しかけてくるから逃げない方が良いよ。厄介な事になると思う」
ビワのお墨付き。逃げるな。
「えぇ……。テラスタルも使えないのに、メガシンカって……」
自信が無い。
リアルなら、絶対に信頼関係あってのメガシンカだ。
こんなひよっこに信じてくれるポケモンなど居るのか。
兎も角、送るというとさっさとミクの使ってない個人の預かりシステムに送られた。
後でここのポケセンで受け取れという。
因みに、髪飾りは……。
「わぁ、綺麗……」
純白の雪の結晶をモチーフにした髪飾りで、中心にメガストーンが装飾品として埋め込まれたものだった。
シュウメイのセンスが光っている。
早速、つけてみる。
「似合ってるよ、うん」
ビワが笑って褒めた。
これなら配信者としてもビジュアルは問題なかろう。
どう見ても手練れですが、本当は素人ですお願いします。
『じゃあな。ちゃんと受け取れよ、ミク』
そう言うと欠伸をして、オルティガも通話を切った。
ビワも仮眠を取りに行く明け方。
ミクは夜勤終わり間近の受け付けに向かう。
今、自分宛に来たポケモンを引き出したい。
片付けを終えて、行ったらもう来てた。
引き出して貰うと、三匹選ばれたのか受け取る。
一度ロビーで、人気が無いのを見て放る。誰が来た?
それは、生前好きだったポケモン。
タイカイデン、モスノウ、そして……。
「リザードン……」
大人気ポケモン。初代のパッケージ、リザードン。
満足げに腕組みして、ニヤッと笑って立っていた。
首飾りをしている。これが、メガシンカの枠。
(どっち……? X? Y?)
先ずは挨拶。ライブ聴いてくれてありがとう。
三匹は喜んで返答する。
そんなに良かったのか聞いたら鳴いて頷く。
モスノウあたりは雪の鱗粉を撒きながら羽ばたいている。虫タイプは感情が分からない。表情が見えにくい。
一応、皆も出す。
寝ぼけた能天気なヤドラン、こんな時でもクールに眠気を隠す兄貴のニャイキング、笑う懐っこさのマリルリ。
一同、仲良くやれそうだった。
初対面でも威嚇や攻撃はしない。
これが、旅のメンツ。豪華すぎないか。
「よろしくね、皆」
握手をするミクとリザードン。
その様子をニャイキングが満足げに笑っている。
後方保護者は良好な交友関係に納得してくれた。
「やぁん」
「くけ?」
ヤドランのいきなりのスナイプに首を傾げるタイカイデン。
タイカイデンに危機感を持てと、更に銃口を向けるなヤドランと怒る。
痒いのか腕をぶん回すヤドラン。
そのモーションは何時ものか。紛らわしい。
「フッ……」
眠いのにクールに笑って立ったまま寝る兄貴。
笑うリザードン。個性豊かというか……。
「兎に角、私達も休もうか?」
ミクも戻って着替えて、数時間仮眠を取る。
そして、昼前には寝坊の全員が動き出す。
「リザードンじゃねえか。俺とお揃いだなミク」
メロコ達の一行が起きてきて、出発の時にポケセン前でモトトカゲに跨がると彼女は経緯を聞いてそう言った。
メロコがリザードン持ってるのは聞いてない。
グレンアルマじゃないのか。
「持ってるぞ、グレンアルマ。昔からの相棒だよ」
案の定持ってた。
重要な意味があるからそりゃいるか。
メガシンカがメロコはリザードンということ。
ただ……。
「ミクのリザードン、メガシンカしたら世間的にはドラゴンって扱いだからな。頑張って一緒にやってけよ」
メロコが言うには黒いリザードンになるとか。
なるほど、Xの方だった。
出発する。真っ先に向かうは、ボウルタウン。
ジムリーダーの最初、アヴァンギャルドなあいつを目指す。
一行は目的地に向かって走り出す。
風を軽快に切りながらモトトカゲが疾走する。
道中、アカデミーの生徒を見かけた。
声をかけられた。勝負したいという。
「……私、初陣ですか」
「おう。行ってこい、ミク」
対人戦、初めての経験。
メロコに背を押されて、近場の原っぱの広場に出る。
こう言うとき、広い場所でやるのが通例らしい。
手持ちの数がマックスのミクだが、相手は三匹持ってるという。
それなら良いか。こっちも三匹使う。
スマホで覚えている技の確認はした。
大丈夫、意思疎通は出来ると思う。
深呼吸、落ち着いて。
そう言うと、相手が挨拶をするので此方もする。
スポーツの試合みたいだ。
バトルを開始した。
「いけ、サンドパン!」
相手はサンドパン。いきなりの進化系。
まあ、ゲームのように都合の良い展開は無い。
だったら、こっちが出すのは。
「お願い、モスノウ!」
貰ったモスノウ。ゆっくりと雪の蝶は舞い上がる。
相手も見たこと無いのか、警戒している。
バトルが始まるや、
「穴を掘る!」
ゲームの速度など関係無しに、先制で地面に潜る。
回避しながら攻撃する気か。
モスノウに言う。出来るだけ上に上昇しろ。
了解してモスノウは不意に来るであろう下の攻撃に備える。
浮かび上がる速度は思っていたよりも遅い。
地鳴りがする。近い。
「モスノウ、準備!」
何の技かは言わない。備えろとだけ言っておく。
穴を掘るで地面からぶち上がったサンドパンが突っ込む。
避けろと言え間に合うか? いや、此処は。
「ギガドレイン!」
敢えて当たる。
穴を掘るが当たって、多少蹌踉けるが浮遊は続く。
体力を吸収して削っていく。
反撃のギガドレインで、一気に体力を貰っていく。
「やるね! 無防備の隙を狙うの、鉄板だけど……こっちも対策済みだよ! 岩石封じ!」
相手も笑って、遠距離の岩石封じ。
空中でギガドレインを食らっても堪えてその場で岩を生成、幾つも投げつける。
ヤバい、食らったら普通に倒れる四倍は不味い。
「暴風!」
身を守る暴風を発動。
モスノウの起こす風が飛来する岩を巻き上げて、サンドパンごと更に上に巻き上げる。
「強引すぎない!?」
「すみません、そう思います!」
無理矢理突破するように制空権を持つモスノウ。
上空にぶち上がってジタバタ藻掻くサンドパン。
「容赦はしないですよ! 冷凍ビーム!」
悪いが下から狙い撃つ。
氷のビームがサンドパンに直撃する。
凍って墜落する。リアルだと氷は脅威らしい。
相手が切り裂くで凍った部分を無理くり動かそうとする。
もう一度冷凍ビーム。遠慮はしない。
可動域を全て凍結させる。
結果氷像になって撃沈。サンドパン、戦闘不能。
「うぅー……。折角アカデミーで交換したのに……」
悔しそうに戻すお相手。
やっぱりバッジの数が関係なく、交換しても言うことは聞く。信頼関係さえあれば。
「やった! モスノウ、ありがとう!」
優雅に舞うモスノウを戻す。
初戦は勝った。見守るメロコが、
「よしよし。然し相手も多分一年か。慣れてねえな、ありゃ。だが油断するなよ、次は何が出るか分かんねえ」
褒めながら次を促す。
お次はモルフォン。巨大な蛾だ。
「故郷から連れてきたお気に入りで負けられない!」
お気に入りと気張っている。こっちは、
「ニャイキング!」
兄貴のニャイキングを繰り出す。
爪を出してニヤッと笑うニャイキング。
ギョッとする相手。また見たこと無い。
既知と似てるけどペルシアンでは無いのか。
ガラルで独自に進化した方というと原種よりも荒々しい雰囲気に格好いいみたいで、目がキラキラしていた。
第二試合、メロコ達が見守る傍で開始のゴングが鳴る……。