[刀剣乱夢] 燭台切光忠は主を甘やかしたい   作:himausa

12 / 28
第十二話 [り] 料理とは言ってません

近侍の仕事は基本的に、日課が終われば終わりということになっている。

だが、燭台切と付き合うようになってからは、彼はずっと隣にいてくれる。

本を読んでいても、審神者業の勉強をしていても、休憩に本丸内を歩いていても。

それは嬉しい。

(私ばかり幸せになってないかな)

と、そのたびに思う。

だから、聞いてみた。

「燭台切さんも好きなことをしていいんですよ?」

にこりと微笑む燭台切が言う。

「今は君の傍にいるのが、僕のしたいことだから」

嬉しいけれど、少し困る。

「……本当に?」

「本当に」

嘘を言っているようには見えない。

でも、これはあまりに、あんまりにも私にだけ得になっていないだろうか。

じっと燭台切の目を見つめる。

(私が、燭台切さんにしてあげられることってなんだろう?)

これまで見てきたことを思い出してみる。

「……燭台切さん、甘いものお好きでしたよね」

「え!? あ、ああ、そう、だね」

びくりとして頬を染め、目をそらす燭台切に、思わず微笑む。隠していたらしいけれど、うちの燭台切は珈琲に砂糖とミルクを入れて飲む可愛い人なのだ。

「じゃあ、厨に行きましょう」

「今日は私がとっておきのおやつを用意します」

そうして、二人で厨に行くと、そこには鶴丸と大倶利伽羅、太鼓鐘が雑談をしていた。

この時間は以前まで燭台切がいたから、こうして集まっていたのだろう。

「主?」

「どうした?」

「あ…」

思わず、足を止める。あまり慣れていない男士は、特に鶴丸は少し、苦手だ。見透かされそうな目をしているから。

「光忠」

後ろから、肩に燭台切の大きな手が乗せられる。大丈夫だよ、とでもいうように。

「うん」

燭台切が苦笑すると、三振はなんでもなく出て行った。

気を遣われたらしい。

「……わ、私……」

「気にしなくていいよ」

「で、でも」

「それで、とっておきのおやつって?」

期待に満ちた目に、少し怯む。

どうしよう、そこまで手の込んだものではないのだけど。

「何が必要?」

「え、あ…」

どうしよう、このままでは目の前で作ることに。

「……見ていたら困る?」

「そっ」

いや、今さら、そんなことは。

「だ、大丈夫です。あの、座っていてください」

燭台切がテーブルに着くのを見ながら、棚からインスタントコーヒーを取り出す。

お湯に溶かして、濃いめのコーヒーを少量用意する。それから、業務用のバニラアイスを取り出し、ガラスの器に丸く盛り付ける。

「……アフォガード……?」

そこにコーヒーをかけて、お盆に乗せる。スプーンも一緒だ。

「まだ仕上げがあります」

お盆をもって、縁側へと向かう。

そこにはいつものウィスキーを保管してある。

最後に仕上げにお酒を回しかけて。

「……よし」

覗きこんできた燭台切を見上げ、完成を告げた。

「これで、完成です」

完成の安堵で、思わず口元が緩んだ。

二人で執務室に戻る。

そこで改めてデザートを燭台切に渡した。

「簡単なものですけど」

「ううん、すごく嬉しい」

でも、燭台切はスプーンを手にしない。

首をかしげると、にっこりとどこか含みのありそうな笑顔が返ってくる。

「アイス、とけちゃうので」

「そうだね」

ガラスの器の中、溶けかけたアイスに珈琲とウィスキーが絡んで良い香りがする。

「これが君の好きなデザート?」

「あ、いえ、これは……母が、父に」

そういえば、これも家族の記憶、だ。忘れていたのに、燭台切といると思い出す。

目元が自分でも柔らかくなるのが分かった。

「母が父に作っていた特別なデザートです。美味しいですよ」

たしか、こう。

スプーンでひと匙掬って、燭台切に差し出す。

「はい」

瞬きする燭台切の前で、それを自分でぱくりと食べる。

「え」

「ふふっ、たしか、こうしてからかってたんですよ」

「……そうなんだね」

「さあ、どうぞ」

器を渡すと、今度こそ燭台切がひと匙掬って。

一瞬、固まってから、ぱくりと食べた。

「うん、美味しいよ」

「でしょう?」

燭台切の頬が少しだけ赤い。

「君が食べさせてくれたら、もっとおいしいと思うんだけど」

「え」

「さっきみたいに」

「あれは」

「面白い母君だね」

「……はい、母は父がその時にする顔が可愛くて、大好きなんだって言ってました」

燭台切といると、不思議と家族を思い出せている気がする。

あんなに忘れかけていたのに。

「……まいったな」

「え?」

「もしかして、君も?」

「え?」

遅れて、自分が同じように思っている、と言ってしまったと気づいた。じわじわと恥ずかしさが襲ってくる。

「そ、え、あ……」

「じゃあ、僕から」

燭台切が少しだけ困ったように笑う。

「ね?」

「え」

差し出されたアイスを食べる。

すごく近くに燭台切の蕩けた金の瞳がある。

「美味しい?」

「っ」

「じゃあ、もうひとくち」

「そ、それは燭台切さんの……っ」

スプーンがまた口に入れられる。

それで、燭台切もアイスを食べる。いつの間にか、膝に乗せられてる。

(え、いつ!?)

それに、よく考えたら、スプーンが。

(か、間接キス……っ)

恥ずかしさに顔に熱が集まる。

「ほら」

また差し出されるスプーンに、抵抗できない。だって、すごく嬉しそうで。

「うん、美味しいね」

もう返事ができなかった。

 

 

 

カラン、とグラスの中で氷の溶ける音がした。

縁側から見る今夜の月は、満月から少し欠けて、居待月。夜空にぽっかりと浮かんでいる。

隣には彼女がグラスをもって、微笑んでいる。

今夜は少し機嫌がいい。

昼間も、そうだった。

燭台切を気遣い、特別なデザートを作ってくれた。

彼女の家族の思い出に、混ぜてもらった気がする。

今日は何かを決意していたみたいだから、少しだけ強請ってみたけど。

「……本当は、私が甘やかすつもりだったのに……」

小さなつぶやきが聞こえて、身体を起こす。

「え?」

こちらを見る彼女は、頬を染めながら困った様子だ。

「結局、最後には私の方が甘やかされてしまいました」

奥に金色を秘めた焦げ茶の瞳が、ゆらりと揺れている。

「美味しいデザートだったね」

「っ」

ますます赤くなるのが可愛い。でも、きっと僕も赤くなっている。夜だから目立たないけれど。

あんなに勇気を出してくれたのに、彼女は自分が甘やかされたと思っている。

でも違う、あの一匙だけで、僕は十分すぎるほど甘やかされていた。

「嬉しかったよ、とても」

言葉を少し区切って、伝える。

「僕のために考えて、僕のために作ってくれて」

「一緒に食べてくれた」

「それだけで十分」

複雑そうな彼女は、眉間にしわを寄せている。

「そんなことで?」

「そんなことじゃない。君の気持ちが嬉しいってこと」

その眉間をちょん、と突く。ぱっとまた赤くなった。どこまでも赤くなる。

「……そんなの、全然足りないです」

「もっと甘やかしてくれるの?」

大歓迎だよ、と微笑む。

でも、内心はドキドキしている。

この子、本当に思い切った行動をするから、油断できない。

毎夜理性を試されている気がしてならない。

彼女が困ったように見上げてくる。

「甘やかす……」

じっとこちらを見つめて。可愛いけど、ちょっと本当に、可愛すぎるんだけど。

その手が伸びて、燭台切の頭を引き寄せた。

「え」

頭を胸に引き寄せて、髪をそっと撫でられる。

「よしよし?」

燭台切は固まるしかなかった。動けなかった。

動いたら、終わる気がする。

(ほんと、ほんっとうに、君はっ)

燭台切の理性を破壊しに来る。

「いつも、燭台切さんがやってくださるので」

照れた声にもこたえられない。

彼女にとって、燭台切が抱きしめて頭を撫でるのが甘やかし、なのだというのがわかった瞬間だった。

合っているのだけど。そうなんだけど。

(君と僕とじゃ、大違いなんだよっ)

今夜も彼女には勝てそうにない。

甘やかすつもりだったという彼女の作戦は、見事に成功してしまった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。