[刀剣乱夢] 燭台切光忠は主を甘やかしたい   作:himausa

13 / 28
第十三話 [み] 皆、格好いい

部屋の中、編成を考えながら、ふと時計を見る。

「主」

山姥切に咎められ、視線を戻した。

これを朝から何度やっただろう。

「……休憩するぞ。集中できていない」

「すいません」

部屋の中に沈黙が落ちる。

今日の近侍は久しぶりに初期刀の山姥切国広だ。

燭台切には一時間ほどの遠征に出てもらっている。

というのも、朝から乱に訴えられたからだ。

「あるじさんが幸せなのはいい」

「でも、燭台切さんはずるいっ」

「独り占め禁止!!」

恋人関係になってから、近侍を頼んでいるのもあって、数日四六時中一緒に過ごしていた。

帯刀もしていて、一緒に過ごしていて。

嫌なことどころか、毎日幸せすぎてこれでいいのかと心配になるぐらい。

考え込んでいると、後ろから抱え込まれる。

「独り占めなんてしてないよ」

「してるじゃん! 今!!」

強く畳を叩く乱に、びくりを震えてしまう。

「落ち着いて、乱くん」

宥めるように、肩を撫でられて、安堵の息を吐く。

「えっと?」

「あるじさんはそれでいいの?」

「それ?」

どういうことだろう。

「ずっと一緒なんでしょ? 嫌にならないの?」

「……?」

首をかしげていると、燭台切が答える。

「ならないよ」

「燭台切さんは黙ってて」

笑っているのだろう振動が響いてくる。

少し考える。まだ太刀育成の具体策はできていない。

だったら、一度乱に任せてみるのもいいのかも。

「だからね、あるじさん」

「そうですね。じゃあ、乱さん」

「何?」

「遠征をお願いします。燭台切さんと」

「「なんでそうなるの!?」」

目の前に、盆にのせた小さめのおむすびとお茶が置かれる。

「ありがとうございます、山姥切さん」

「……そんなに気になるなら、行かせなければよかっただろう」

山姥切が呆れたように言うのに、苦笑する。

「でも、乱さんが言うように、ここ数日私が燭台切さんを独り占めしてましたし」

おむすびを口に入れる。

「……乱が言っていたのはそっちじゃないと思うぞ」

「そっち?」

「あんたが……いや、いい。食べたら、続きをやるか」

「はい」

二人で休憩する。久しぶりの時間だ。

「なんだか、懐かしいですね」

「そうだな。最初は二人でやっていたな」

「はい」

懐かしさに目を細める。

「……育成用の編成は、俺より本歌の方が得意なんだがな……」

「すいません」

「いや、構わない」

「私の都合で……」

「そんなもの、最初からだろう」

ぶっきらぼうに返してくる。けれど、責めているわけではないと知っているので、小さく笑う。

「そうでしたね」

山姥切が目を瞠る。

「なんですか?」

「いや、変わったな、あんた」

「……はい。燭台切さんのおかげです」

「急に惚気るな」

「山姥切さんたちが、近侍に勧めてくれたおかげです?」

「……もう、それでいい」

布を被りなおした山姥切は、きっと照れているのだろう。

「ありがとうございます」

それから仕事をする間、いつも以上に山姥切は被った布を取ろうとしなかった。

 

 

 

太刀の育成計画も決まった数日後、演練会場に来た。

近侍をしている燭台切を隊長に、第一部隊を率いて。

その演練会場から帰る前、今回も相手の審神者に呼び止められる。

「あなた、またそんな……」

あら、と相手が目を瞠る。今日は前日燭台切が見繕ってくれた服で来ていた。

「……ふ、ふん。少しはマシになったようね」

「ありがとうございます」

頭を下げる。

「それにしても、もったいないのよ、あなた。そこそこの練度なのに、どうしてそれを活かさないの。それなりの期間審神者をしているはずでしょうに」

「勉強不足でして」

「あなたのような審神者に使われる刀剣男士が哀れね」

それまで、ただただ相手の言葉を受け止めていたのを止める。

顔を上げ、意識して、背筋を伸ばす。

「先輩」

「な、なによ」

「訂正を」

「何の?」

「私のことは何を言っても構いません。事実ですから」

周囲が息をのんだのが分かった。

「ですが」

「私の刀剣男士に謝ってください」

「うちの刀剣男士は、可哀そうでも、哀れでも、ありません」

「どこよりも、格好いいんですから」

一歩足を進める。

「……」

「訂正して、いただけますね?」

「……悪かったわよ。言い過ぎたわ」

意識して、笑みを整え、一歩下がる。

「はい。本日はありがとうございました」

相手が逃げるように去ってから、ほっと息を吐く。

帰りましょうか、と振り返ると。全員が唖然としていた。

「あるじさん!」

乱が駆け寄ってくる。

「帰ろう!!」

手を取られる。

「乱さん?」

「急いで帰ろう!! みんな、待ってるから!!」

そのまま手を引かれて、本丸へのゲートをくぐった。

転移の光が消えて直ぐ、乱は駆けていってしまう。

「え?」

隣を抜けた男士たちが機嫌よくそれに続いてゆく。

「今日は宴会だな」

「え、どういうことですか?」

説明を誰もしないが、決まっているらしい。この本丸内ではよくあることなのだが。

「行こう、主くん」

満面の笑顔で手を差し出してくれる燭台切に、手を重ねる。

嬉しそうな様子で、それだけでまあいいかと思えてしまう。

「はい」

そのまま自然にその手を取っていた。

 

 

 

その日の夜、宴席の上座で、主が戸惑った様子で座っている。

というのも、今日のことを乱が実演したからだ。

恥ずかしいのだろう。主の頬が赤く染まっている。

「あの、も、もうやめてください……」

ちょっと涙目にもなっている。

「私はただ、皆さんがいるから審神者を出来てるのであって」

「ちがうよ!?」

一番熱量の高い乱が言い返す。

「いい加減、認識を改めた方がいいぜ、大将」

機嫌のよい薬研が杯を傾けながら言うと、宴席のあちこちから賛同の声が上がる。

山姥切はひたすらに頷いている。手元にあるのは酒瓶だから、おそらく酔っている。

「あのね、この際だから言うけど。うちで一番格好いいのは、あるじさんなんだからね!?」

「ええ? そんなはず……」

「あるの!」

「乱さん、言い過ぎです」

「もー! ほんと、なんでわかんないかなぁ!!」

オロオロとする主の視線が、燭台切に向く。距離があるので、助けも求められないといった様子だ。

視線だけが向いてくるのに、笑って返す。

「いいのかい、光坊?」

鶴丸の言葉に、頷く。

「今回ばかりは、乱くんが正しいからね」

「くくっ、そうだなあ」

「あー、俺も直接みたかったぜっ」

太鼓鐘も悔しがりながら嬉しそうだ。

大倶利伽羅も珍しく宴席に参加している。

「あの、本当、もう……っ」

あの時は本当に別人みたいだった。

燭台切の選んだ服で、背筋を伸ばして、顔を上げて。声を上げて。

まさかの反撃に相手も逃げ出した。

「……格好いいんだよ、本当」

「流石、俺たちの主だよな」

「うん、流石僕の主くんだよね」

急に近くにいた男士たちが静まり返る。

「……ん?」

無意識に言っていると気づいた太鼓鐘が、燭台切のその背を叩く。

「みっちゃん、行ってこい」

「え?」

大倶利伽羅も呟く。

「そろそろ助けてやれ」

「伽羅ちゃん?」

「ほら、行け」

鶴丸には背中を押されて、燭台切は主の元へ足を進めた。

燭台切が近づくと、明らかに安堵の表情を浮かべる。瞳の奥で金色の光を揺らめかせながら。

「燭台切さんからも乱さんに」

座っている主を抱き上げる。僅かに力を抜いた主に薬研他、数人の男士が気付いたが、誰も何も言わなかった。

「えっ」

「明日にも影響するから、この辺にしようか」

「えー!? ずるい、燭台切さん!」

「しょ、燭台切さん…?」

「ね?」

その瞳を見つめると、ふるりと揺れて、小さく頷いた。

そのまま、主は燭台切の胸に顔を隠す。

「そ、そういうこと、なので」

「おやすみなさい……」

恥ずかしそうに言う主と燭台切に、温い視線が集まっていたのは言うまでもない。

二人がいなくなった後も遅くまで宴会は続いていた。

 

 

 

宴席を中座した二人は、ゆっくりと廊下を歩く。

もっとも燭台切は降りたそうな彼女をしっかりと腕に抱いたままだが。

「も、もう歩きます」

「今日は僕に運ばせて」

「あ、歩きたいのでっ」

「今度ね」

そのままいつもの縁側に着くと、そこには既に座布団が二つとグラスが用意されていて。

「……用意してた?」

彼女の答えはなく、顔を胸に押し付けたままだ。

燭台切は座布団に座る。

今日の月はかなり細い弓なりの月だ。あと少しで新月になるだろう。

風は穏やかで、虫たちの声が聞こえてくる。

腕の中、顔を上げない彼女の髪をそっと撫でる。

「今日は、ありがとう」

「あれ、僕も嬉しかったよ」

固まっていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる。

「……燭台切さんのおかげ、です」

「服も、姿勢も、自信も、全部」

燭台切が送った服を着て。

燭台切が教えたとおりに、姿勢を整え。

燭台切が認めてくれたから、前を向けた。

「ずっと、後悔しながら審神者をしてました」

「でも、燭台切さんが私を好きだと言ってくれたから」

「私はあなたの隣に見合う人になりたいと思ったんです」

うる、と目元に涙を溢れさせる。その頭を抱き寄せる。

「うん、頑張ったね」

泣き出す彼女は、帰ってからずっと褒められ続け、緊張していたのだろう。

彼女にとっては、自分の刀剣男士たちが格好いいのは、当たり前のこと。

でも、刀剣男士たちにとっては、口にして言ってくれたことそのものが、なによりも嬉しかったのだ。もちろん、燭台切も。

泣き続ける彼女の髪や背中を撫で続ける。

淡く優しい月光が空をうっすらと照らしていた。

しばらくして、彼女が泣き止んで、少し眠たげになる。

「……君はわかってないようだけどね」

うとうとしている彼女には届かないかもしれない。

でも、それでもいいと思った。

「君が君であれば、僕はそれでいいんだ」

「だって、僕の隣は君の場所だから」

「最高に格好いいのが、君なんだから」

すでに彼女の意識は眠りに落ちている。燭台切の腕の中に無防備に。

「これ以上格好良くなられたら、僕の方が隣にいられなくなっちゃうから」

「もう少し、ゆっくり、ね」

燭台切と彼女の影が重なるのを、月だけが静かに見つめていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。