[刀剣乱夢] 燭台切光忠は主を甘やかしたい   作:himausa

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第十九話 [は] 春の約束~桜が咲いたら

燭台切の手を掴んだまま、彼女が覚束ない足取りで歩いている。

一緒に歩きたいと言われてしまえば、抱き上げることもできない。

「それ、僕が持つよ」

彼女の手にある大きな包みを示す。

「……すいません」

荷物を受け取り、彼女の手を引く。ふらつくのを抱き留める。

「っと」

「もっと簡単に行けると思ったんですけど……」

「たしかに、見えてるからね」

苦笑する。刀剣男士からすれば、造作もない道程。だが、荒れ地を歩いたことがない主には難しいのだろう。

「やっぱり、僕が……」

「それは」

無念そうな彼女を前に、軽く息を吐く。

「……じゃあ、馬を使うのはどうかな?」

「私、乗れませんよ」

困った様子の彼女に言う。

「君は乗っているだけで大丈夫」

幸い、厩舎はそこまで大変な道でもない。

二人で厩舎に行き、黒毛を引き出す。彼女は驚きながらも、黒毛に頭を下げていた。

「よろしくお願いしますね」

初めて見る、緩んだ笑顔。

「……動物、好きだったんだ?」

「え、そう、なんですかね?」

自分でも知らなかったらしい。

彼女を抱え上げ、馬に乗せる。鞍は先につけられていたから、たぶん見守られているのだろう。

「どう?」

「た、高いですっ」

「大丈夫だから、背筋、伸ばしてみて」

最初は恐る恐る。それから、言う通りに背筋を伸ばす彼女の姿勢が安定する。

馬上の彼女、すごく格好いい。知らず、目を細めていた。

「うん、じゃあ行こうか」

手綱をもって、燭台切は歩き出す。

「え、燭台切さんは?」

「僕は――歩くよ」

そして、歩いて目的の大きな樹の下まできた。葉っぱも花もついていない枯れ木のような木。

彼女を下ろし、二人で見上げる。

「私、本丸にこんな場所があること、知りませんでした」

「全然、見れてなかったんですね」

残念そうな彼女の頭を軽くなでる。

「それだけ、頑張ってきたってことだよ」

燭台切を見上げる彼女が、少し嬉しそうだ。

「ありがとうございます」

二人でシートを広げて、その上に弁当を広げる。

作ったのは歌仙兼定だ。

「流石歌仙くんだね」

「そうですね」

和食が得意な彼らしい弁当を、二人で食べる。量が多い分は、燭台切が全部食べた。

その後は、天気もいいので、そのままのんびりと並んで寝転がる。

「……秋田さんの天気は当たるんですよね」

「そうだね」

二人で無言になる。けれど、嫌な静けさにはならない。

あの日から、数日平穏な日が続いていた。

彼女が燭台切を帯刀し、二人で過ごすことが多くなった。

そして、燭台切は以前ほど、気軽には彼女に触れられなくなった。

許可は出ても、自分が信用できない。

そういう時、決まって彼女の方から寄り添うようになった。

「燭台切さん」

「うん」

「膝枕したいです」

「……うん?」

「膝枕」

それから、彼女は少しだけ我侭になった。

起き上がると、自分の膝を叩いて、待っている。

ここ数日で引かないのもわかったので、燭台切は素直にそこに頭をのせた。

「重くない?」

「重いです」

「だよね」

「でも、嬉しい」

ふわり、と笑う姿にほっとする。

彼女が裸の木を見上げる。

「今朝の話、なんですけど」

「うん」

「まさかこんなに早くわかるとは思ってなくて」

「……そう」

「明日までに心の準備ができるかどうか」

「……うん」

彼女の手がゆっくりと燭台切の髪を梳く。

今朝、定期報告で長義が言ったのだ。

準備ができた。明日、主には演練に一緒に来てほしい、と。

渡された紙束の資料は、明日までに読んでおいてほしいと言われた。

だからだろう。主の方から、ピクニックをしたいと誘われた。もちろん、すぐに了承した。

そして、今に至る。

手を伸ばして、彼女の頬に触れる。

「……大丈夫かい?」

「大丈夫じゃないですけど、一人じゃありませんから」

微笑む彼女は、ずいぶんと強くなった。たぶん、本来の彼女はこうだったのだ。

彼女は空を見上げる。

「秋田さんから聞いたんです」

「この木、一度も花が咲いたことがないそうです」

燭台切も枝を見上げる。本丸ができた頃からそこにある桜の木。誰も花を見たことがない。

「だから」

彼女が笑う。

「咲いたら、一緒に見ましょう」

燭台切は一瞬、返事ができなかった。

――明日。

明日、歴史観測室へ行く。

その先には、別れがあるかもしれない。

「……うん」

それでも頷く。

「約束だ」

そこで彼女が眼鏡を持ち上げる。

「そういえば、今朝から、外しても見えるんです」

「え?」

彼女は照れたように笑う。

「ほら」

眼鏡を外して、燭台切を見つめる。

元は焦げ茶だったのに、金色が混ざりすぎて、少し明るくなった茶色の瞳。

燭台切は胸が痛くなる。

あの夜、自分が流し込みすぎた神力。だから視力が戻っている。

嬉しいことではある。でも、理由が理由だ。

「……ごめん」

「え?」

「いや」

ぽつりと零れた謝罪は、聞こえなかったのか、聞こえないふりをされたのか。

彼女は首を傾げて、それから、柔らかに微笑む。

「私は嬉しいです」

「燭台切さんの顔、はっきりと見えるので」

あまりにも嬉しそうで、そして、優しい彼女につられて、燭台切も笑ってしまった。

二人でひとしきり笑ってから、次は並んで寄り添う。

裸の木を見上げる。

「絶対、一緒に見ましょうね」

「うん、約束する」

風が枝を揺らす。

まだ何も咲いていない桜の木は、静かに空へ枝を伸ばしている。

ふっと冷たい風が通り抜ける中、彼女が寄りかかりながら呟いた。

「……絶対ですからね」

思わず彼女を見る。彼女は燭台切を見つめ、微笑んでいた。

 

 

 

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