[刀剣乱夢] 燭台切光忠は主を甘やかしたい   作:himausa

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最終話 [た] ただいま、光忠さん

翌日。隣の家から帰らない私を心配して、弟が来た。

「姉ちゃん」

すごく呆れて、笑われた。

「ま、ここなら絶対安全だしな」

「ただ、今度マジで手合わせしてくれよ。光忠兄ちゃん」

隣に座る燭台切に遠慮なく弟が言う。

「姉ちゃんのことはともかく、俺、やっぱり強くなりたいんだ。そのために、俺がいるって思ってる」

目を丸くして瞬く。

「父さんたちのことは、俺が守るから。姉ちゃんは心配すんな」

「な、何」

狼狽する私の腰を燭台切が引き寄せる。

「いつでもいいよ」

弟は複雑そうな顔をしてから頭を下げて、出ていった。

 

 

 

隣の家のリビングで隣に座って、全然離れてくれない燭台切に息を吐く。

「どこまで思い出した?」

それを向かいに座って、平然と聞いてくるのは、山姥切長義だ。

「その、ほとんど、覚えてないです」

「俺はどこまで、と聞いている」

「……燭台切さんのことは、なんとなく、覚えているんですけど」

隣の気配がさらに甘くなった気がして、顔が向けられない。

「ほ、ほかは、全然」

「では審神者や政府のことは?」

「わ、わからないです」

「そうか」

抱き寄せられそうなのを、腕を押さえて堪える。

遠慮がない。なさすぎる。

「燭台切さんっ」

「うん」

「少し離れてください」

ニコニコと笑顔だけ向けて、返事をしない。

こんな人だっただろうか。

眉を下げる。

「燭台切さん」

「光忠さんって、呼んでくれるならいいよ」

「っ、無理です!」

深いため息が聞こえた。

「すまないが、控えてもらえないか」

「燭台切、話が進まないだろう」

長義がすごく苛ついているというのに、全然燭台切は聞くつもりがない。

「……すいません、長義さん」

頭を押さえていた私は、隣が不機嫌になったことに気づけなかった。

「とりあえず、決まったことだけ伝えておこう」

「主は大学を卒業次第、審神者業務に戻ってもらう」

「それまでは燭台切に審神者業務を指導してもらえ」

それだけ言って、退出しようとする長義を呼び止める。

「え、長義さんが教えてくださるのでは?」

長義は嫌そうに振り返って言い捨てた。

「俺より適任が隣にいるだろう」

そのまま出ていってしまった。

「主くん」

咄嗟に、燭台切の膝に両手をつく。

「……」

「……」

「……主くん?」

膝を抑えれば、乗せられないと思っただけなのだけど。

「昨日まではあんなに呼んでくれたのに、どうして?」

そう、記憶が戻るまでは、私は確かに何度も名前で呼んだ。でも、それは他に呼び方を知らなかっただけだ。

訴えても、今の燭台切は止まらないだろう。

「……み、」

「……」

「……み、つ……」

待ってる。すごく。

ダメだ。直視できない。顔を背ける。

「……無理ぃ……」

押さえた膝に、顔を伏せた。

「これも、ゆっくり、でお願いします」

「ええ……」

残念そうな声だけど、見上げると機嫌良く笑ってる。

「じゃあ、一日一回だけ」

「一回?」

「うん、名前」

「っ」

「できるよ」

「い、一回だけ、でしたら」

「じゃあ、やってみようか」

「今!?」

「今」

ほら、と顎を長い指で上げられ、促される。

真っ直ぐに見つめてくる金色の甘い瞳が微笑んでいる。

「………………光忠、さん」

好きだなあと、思いながら、呼んでいた。

少し固まった燭台切は、それでも嬉しそうに笑って。

「よく、できました」

頭を撫でる手は優しかった。

膝の上に置かれたもう片方の手は、指先だけが震えていたけれど。

(もうちょっと、初心者のペースでお願いしたいです)

泣き出しそうな恥ずかしさは、目を閉じて隠した。

 

 

 

彼女が思い出してから数日が経った。

夜空に月が昇る。

燭台切は本丸の縁側に座って、膝を叩く。

「おいで」

彼女は、息を吐いて、その膝に乗った。

燭台切は、その耳元でクスクスと笑う。

「月の下だと、君は素直だね」

胸にもたれる彼女が、目を閉じてつぶやく。

「夜は、ここがいいです」

「安心できる、ので」

それは困る。

「それは困るな」

思っている言葉が、するりと流れ出る。

「僕はそこまで安全じゃないよ」

彼女が小さく笑う。

「安心、ですよ」

「覚えてませんか。私は燭台切さんになら、なにをされても」

「ストップ。そこまで」

「ふふ」

「……まったく。悪い子だね」

月の下、素直な彼女は少し危険だ。自覚があるのかないのか。燭台切の理性を試してくる。

それでも。なかなか名前は呼んでくれない。

腕の中の彼女の髪に、口付ける。

「本丸に来ると、思い出すことが増えます」

「かなり、迷惑をかけてました」

「鶴丸さんたちにも」

彼女の手に、グラスをのせる。

「え?」

「その鶴さんたちから。帰還祝いだって」

「飲んでいいんですか?」

言いながら、早くもグラスにキスしている。

「どうぞ」

お酒好きの彼女はうきうきと傾け、微笑む。

「美味しいです」

「うん」

呑んで酔ってる彼女も愛らしい。

箍が外れて、時々驚かせてくれるけど。

「ここで、こうしていると」

「全部、夢みたいです」

「でも、夢じゃないんですよね」

月から視線を燭台切に移した彼女は、金色の濃くなった瞳を潤ませ、微笑む。

「君がいるここが、ここだけが現実だよ」

額を重ね、燭台切が囁く。

 

「おかえり」

 

彼女の瞳が細められる。

 

「ただいま、光忠さん」

 

彼女の悪夢は、もう終わった。

これから先にあるのは、二人の温かく甘い日常。

柔らかな光を放つ月は、今夜も変わらずそこにある。

この先も、ずっと。

 

 

(おしまい)

 




あとがき

結構前に考えていたけど、どうやってもバッドエンドにしかできなくて、半ばあきらめてました。
時間がたって、考え直したら、なんとかハピエンに持ってこれたので、公開です。
メインは最初の3話だけなんですけどね。これだけは、もう最初っから確定してた話。
そして、当時すごく落ち込んでいた自分のための話。
全肯定してほしいとき、ありますよね。そういう、御都合主義なの。
頑張っている人はちゃんと頑張りを自分で認めるのが一番大事。
って、自分に言い聞かせているあたり、私は自分に甘々です。激甘です。
ただ誰かの心に残ってくれたら嬉しい。

さいごに。
話のタイトルを並べて、頭文字だけ読んでいただけると楽しいです。
タイトル付けで遊ぶの大好き。
同意していただけたら、すごく喜びます。私が。ふふ。

では、またいつかのどこかで、読んでいただけるといいなぁ。

2026.07.20
ひまうさ
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