願いの物語シリーズ【古谷淳史】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
ソレと出会ったのは、ただの偶然だった。
段ボールに入って、寒そうに震えているソレを見た時、俺は居てもたっても居られず、ソレを秘密基地に持っていく事にした。
本当は自宅に連れていくという選択肢もあったが、親に見つかれば何を言われるか分からない。
それに、この運命の様な出会いを鈴木君や佐々木君と共有したいという想いもあったのだ。
それゆえに、俺はソレを秘密基地まで連れて行ったあと、翌日の学校でコッソリ二人に耳打ちをするのだった。
「今日、放課後秘密基地」
言葉はただそれだけで良い。
小学校の時から友達である俺たちにとって、たったそれだけの言葉で伝わるのだ。
内緒の話がしたいから秘密基地へ集合。というメッセージは。
そして、放課後。俺は昨日見つけた段ボールを二人の前に置いた。
「なんだこれ?」
「見れば分かる」
「猫? にしては鳴き声が聞こえないけど」
「こ、これは!?」
二人が段ボールを開き、驚愕するのを見ながら俺は小さく頷いた。
そう。これは宝だ。
本屋で、レンタルビデオ屋で、手に入れたくても出来ないお宝。
十八とかかれた暖簾の向こう側にある、未知の伝説。
それが、今、ここにある!!
「どこでこれを手に入れたんだ!?」
「ほら、他所から来た車がゴミを捨てく場所があるだろ? その中にこの段ボールがあったんだよ」
「こんなお宝を捨てる奴が居るなんて、世の中狂ってるな!」
「まったくだ。しかし、捨てられてるとは可哀想に。僕らで有効活用するべきだろう」
「確かに。みんなー! 今佐々木が良い事を言った!」
「流石佐々木君」
「いやー。照れる。まぁ、僕としては当たり前の事を言っただけですからね。気持ちは全員一緒かと思います」
「うん」
「うむ」
「とりあえず……中、見ない?」
「そう、だな。見ないと始まらないよな。古谷はもう見たのか?」
「いや、二人と一緒に見ようと思って、何も見てない」
「流石、流石だよ古谷」
「君は神の生まれ変わりか?」
「照れるって。ほら、見ていこうよ」
「そうだね。じゃあ、最初はこの一番上の奴から」
佐々木君は一番上にあった水着のお姉さんが写っている写真集を持ち上げて、三人が同時に見える様にページを一枚めくった。
表紙の時点で凄かったが、中身はもっと凄かった。
見えてはいけない所が見えているというのはこんなにも衝撃的なのかと、人生で初めて知った。
「お、おぉ」
「これも、凄いな」
「え? これ、良いのか?」
「大丈夫だろ。売られてるんだから」
「確かに。でも……おぉ」
「だはー。ちょっとごめん。一回休憩しないか?」
「そう、だな」
「なんだ。お前ら、情けないぞ」
そう言いながらも鈴木君は一人で読み進める勇気が出なかったのか、本を閉じて段ボールの上に丁寧に置いた。
今まで見たことが無い程に丁寧な置き方をしていたが、当然の様に思う。
宝を乱雑に扱って傷つければきっと後悔する事になるからだ。
しかし、それはそれとして熱くなった頭を何とかクールダウンするべく、俺は秘密基地から外に出て深呼吸をする。
秋の心地よい空気が俺の茹だった頭を少しだけ冷やしてくれた。
「そういえばさ」
「ん?」
「古谷って、藤崎さんの事、どう思ってんだよ」
「ど、どどど、どうって!? 何にも無いけど!?」
「何にもない奴の反応じゃ無いだろ。それは」
「まぁー、藤崎さん可愛いしな。それに何か最近大きくなってきただろ。何がとは言わないけど」
「鈴木。君ね。人の好きな人にそういう発言はどうかと思うよ。僕は」
「なんだなんだ。好きなら、いつかそういう事をしたいって思うのが男だろ!? 何がおかしい事があるって言うんだ!」
「いや、まぁ。そうかもしれないけどさ」
「君だってそうだ。紗理奈ちゃんはどうなんだ!? 好きなんだろ? 頭の中で何も考えたことが無いとでも言うつもりか?」
「……まったくないとは言わないよ」
「ほら見ろ! これは自然な事なんだ。そうだろ? 古谷。佐々木」
「言い方はどうかと思うけどね。そういう鈴木君は居ないの? 好きな相手」
「んー。居ないな!」
「じゃあ好みは」
「年上だ! 同級生なんて子供っぽくて駄目だ。年下も余計にね。やっぱここは年上だろ。見ろ。これを! 年上の美人家庭教師! 秘密の授業だ!!」
「広げるな鈴木」
「君たちが分かって無いから、こうして教えてるだろ? まぁ、君たちには理解出来ないかもしれないが、年上は良いぞ!」
「おいおい。決めつけるなよ。鈴木」
「そうそう」
「何言ってんだよ。佐々木は年下好きだろ。紗理奈ちゃん妹っぽいもんな。佐々木に甘えてるところも気に入ってるんだろ?」
「っ! 決めつけは止めろって!」
「古谷は同年代が好き……というか。藤崎さんが好きなだけか」
「んな、べ、別に俺は」
「藤崎さんか。藤崎さん……。んー。この子とか似てるな」
俺の回答に不満気な顔をした鈴木君は不意に持っていた本をペラペラとめくり、あるページを隠しながら不穏な事を話し始める。
そして見ないのか? なんて挑発をしながら煽ってくるのだった。
「そうか、見ないのか……いや、本当に藤崎さんによく似てて可愛いな。うーん。古谷。この本借りても良いか?」
「っ! 駄目に決まってるだろ!!」
俺はニヤニヤと笑う鈴木君から本を奪い取り、見ない様に、見ない様に……と考えながらもチラっとページを見た。
……確かに、少し似てる。
たまに見せる悪戯好きの子猫の様な表情が、特に、似てる。
それに……何とは言わないが、大きいな。
藤崎さんも、確かに他の子に比べると大きめだった様な……。
駄目だ! 考えるな! 考えるな古谷!! 藤崎さんは純粋に料理の勉強をする為に俺を頼っているんだぞ!!
こんな邪な感情を抱く事自体が藤崎さんへの裏切りに等しい!!
自制しろ! 古谷!!
「でもさ。二人とも少しは発散した方が良いんじゃないの? 実際に手を出したら最悪だろ?」
「鈴木。君はいつになったらデリカシーという言葉を理解できるんだ」
「フン。君たち相手にそんな物が必要だとはとても思えないけどね。無論、可愛い女の子相手なら、僕の全力デリカシーを見せつけてやるさ」
「そういう風に言っている奴は、大抵本番じゃ何も出来ないってのがよくある話らしいけどね」
「言ってれば良いさ。見てろ! 僕はこんな田舎から出て、スター選手になって、可愛い女の子に囲まれて最高の人生を送るんだ!」
「修羅場が起こって刺される事を祈ってるよ」
「君は本当に最悪だな!? デリカシーがどうのと言ってた人間の発言とは思えないが!?」
「大丈夫だ。安心してくれ。君だけ、特別さ」
「クソみたいなセリフを口にしてるんじゃないぞ! 佐々木和樹!!」
「君が始めたんだろ!?」
俺は二人の争いを止めようとしつつも、右手に持った本の存在感にチラチラと視線を奪われてしまい、上手く話す事が出来ずにいた。
そして、その間にも二人の争いは激化し、やがて大きな争いへと繋がっていくのだった。
しかし、俺はその争いを何とかしようと、持っていた本とは別の本を取り出して、開きながら一緒に見ようという事で争いは沈静化していく事となった。
世界は平和になったのだった。