分身ハメ殺し忍者『うちはイタチ』   作:やめろイタチ、その技は俺に効く

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激闘忍者対戦4で相手を分身ハメしてくる、友達に嫌われるタイプの最強うちはイタチである。

 

 

 

 

 おっす!俺はうちはイタチ!

 

 え?何言ってんだって?いや、俺も何言ってんのかよく分かってねぇよ。でもうちはイタチなんよ。

 

 端的に言うと、うちはイタチに転生しました。

 

 はい、あのうちはイタチです。

 

 木の葉隠れの里の為に、うちは一族を滅ぼし、弟サスケの為に色々動いてたNARUTOで最も良い奴と言ってもいいくらいの男。

 

 何故か俺はそんな男に転生しちまった。

 

 俺はなんでもない三十路のサラリーマンだった。会社が終わり、何気なく入ったゲーム屋でNARUTO激闘忍者対戦4とかいうバカ懐かしいゲームを見つけて買って家に帰る途中で車に轢かれたんですわ。

 

 そんで目を覚ましたらうちはイタチとして産まれてたってわけ。そりゃ赤ん坊スタートよ?目開けたらうちはフガクとうちはミコトが目の前にいた。

 

 ちなみにNARUTOは全巻読んでたけどマジうろ覚え!大まかな事しか覚えてない。だけど小学生の頃散々遊んだ激闘忍者対戦4のイタチの凶悪性能だけはキッチリ覚えてる。

 

 あれはもう、忍というより友達関係破壊兵器だった。分身を置く。相手が動く。引っかかる。殴る。浮かせる。また分身を置く。また引っかかる。また殴る。気づけば相手の体力は消し飛び、対面に座っていた友達の目からは友情という光が消えている。小学生の頃の俺たちの間では、イタチを選ぶという行為は「今日は人間関係を捨てても勝ちたいです」という宣言に等しかった。なお、俺は使った。めちゃくちゃ使った。だって強いんだもん。勝てるキャラを使って何が悪い。勝利とはいつだって非情なのだ。まあ当時の俺はポテチ食いながらコントローラーを握ってただけだけど。

 

 で、そんな俺が本物のうちはイタチになった。

 

 いや、終わった。

 

 何が終わったって、人生が終わった。いや前世で1回終わってるんだけど、今世も開始時点でかなり終わっている。うちはイタチといえば天才、写輪眼、暗部、暁、月読、天照、須佐能乎、弟愛、自己犠牲、病弱、そして一族皆殺しである。属性が多い。多すぎる。ラーメン屋で全部乗せを頼んだら器から具が崩落しているくらい多い。俺は前世で仕事の締切すら守れない時があった男だぞ。そんな男に里と一族と弟と世界平和を背負わせるな。荷が重いどころか腰椎が粉になる。

 

 とはいえ、赤ん坊の俺にできることなど何もなかった。泣く、寝る、乳を飲む、時々うんこをする。その4択である。社会人として培ったメール返信術も、飲み会で上司の武勇伝に相槌を打つ技術も、エレベーターで気まずくならないために階数表示を見つめる能力も、木の葉隠れでは一切役に立たなかった。チャクラを練ろうにも練り方が分からない。写輪眼を開眼しようにも眼球に力を入れすぎて普通に泣いた。俺は天才うちはイタチの皮を被った、精神年齢だけ中途半端に高い哺乳瓶待ちおじさんだった。

 

 ただ、不思議なことに、周囲はそんな俺を妙に深読みした。

 

 泣かない時間が少し長いだけで、母さんは俺の頬を撫でながら静かに微笑んだ。

 

 「この子は、本当に落ち着いているわね」

 

 違う。母さん違うんです。俺は今、天井の木目を見ながら「この家、柱しっかりしてんな。さすが忍者の家」と思っていただけです。

 

 父さんに至ってはもっとひどかった。俺が腕をもぞもぞ動かしていたら、険しい顔でじっと見下ろし、低い声で呟いた。

 

 「……目で追っているのか」

 

 追ってない。天井から吊られている飾りが揺れてるから見てただけ。赤ちゃんでも動くものは見る。俺に早期教育みたいな期待を向けるな。こちとら昨日まで現代日本でコンビニ弁当を温めていた男だぞ。

 

 だが、うちはの家というのは面倒な場所だった。静かな廊下、磨かれた床、障子越しに差し込む柔らかな光、そしてどこか張り詰めた大人たちの気配。赤ん坊の身でも分かるほど、この家には普通の家庭にはない重さがあった。父さんの足音は規則正しく、母さんの声は優しいのに芯があり、訪ねてくる一族の者たちは俺を見る時、赤ん坊を見る目の奥に、血筋だの才能だの未来だの、そういう面倒くさい文字を何枚も重ねていた。

 

 やめろやめろ。俺を見るな。俺はまだ首も座っていない。将来性よりまず頸椎を評価してくれ。

 

 けれど俺は知っていた。うろ覚えとはいえ、この先に何が待っているのかを。うちは一族と木の葉の亀裂。クーデター。暗部。シスイ。ダンゾウ。サスケ。そして、うちはイタチという少年が選ばされる最悪の道。細部は穴だらけで、順番も曖昧で、どの事件が何歳の時だったかなんて全然自信はない。それでも、俺が何もしなければ、たぶん原作の流れに近い何かが来る。俺はその中心に立たされる。いや立たされるどころか、首まで沈められる。

 

 だから決めた。

 

 原作通りの悲劇の天才になる気はない。

 

 俺は生き延びる。

 

 サスケもできれば泣かせない。一族もできれば滅ぼさない。できれば、という言葉に逃げ腰が滲んでいるのは許してほしい。相手は忍者社会である。現代日本のサラリーマンがいきなり政治問題を解決できるほど世の中甘くない。だが少なくとも、何もしないで流されるつもりはなかった。

 

 そのために俺が目指すべき姿は1つ。

 

 原作の悲しき天才うちはイタチではない。

 

 激闘忍者対戦4で相手を分身ハメしてくる、友達に嫌われるタイプの最強うちはイタチである。

 

 まずは分身だ。話はそれからだ。俺の記憶が正しければ、分身の術は忍者の基本。基本ならいける。たぶんいける。赤ん坊の今は無理でも、歩けるようになったら練習できるはずだ。そして分身を置いて相手の動きを縛り、隙を見て殴る。ゲームではそれで勝てた。現実でもきっと、まあ、なんかいい感じになるだろう。

 

 俺は小さな拳を握った。

 

 もちろん赤ん坊なので、実際にはふにゃっと指が丸まっただけだった。

 

 それを見た父さんが、また重々しく呟いた。

 

 「……強い意志を感じる」

 

 違う違う違う。今のは決意じゃなくて反射。いや決意もあったけど、たぶん9割反射。そんな目で見るな。俺を天才にするな。

 

 だが訂正する舌も言葉も俺にはまだない。

 

 だから俺は、うちはフガクの厳粛な視線を受けながら、ただ静かに口を閉じていた。

 

 その沈黙がまた、周囲には底知れぬ冷静さに見えていたらしい。

 

 くそ。

 

 詰んでる。早くもキャラ作りが勝手に完成し始めている。

 

 というかイタチって病気になるよな?

 

 圧倒的な強さの裏では実は病弱で死にかけっていうさ……()()()ほうは血とかドバドバ吐いてたよな?

 

 うわぁ〜病気になりたくねぇ〜

 

 俺が生きてた頃っていうか前世?はめちゃくちゃ健康だった。三十路だけど健康にだけは自信があった。なんせ自分のことは無敵と思ってたくらいだからだ。

 

 よし、ハメ殺しイタチを目指すと共に、超健康イタチも目指す。

 

 まずやる事は母乳とミルクを飲みまくりよく寝る事だ。

 

 いくぜオラ!!

 

 そう心の中で叫んだ俺は、母さんに抱かれた瞬間、全力で乳を飲んだ。いや表現だけ聞くと完全に最低なんだけど、こっちは赤ん坊である。合法であり生命活動であり、むしろここで遠慮するほうが失礼というものだ。前世で飯を抜いて残業した結果、帰宅後にカップ麺と菓子パンを流し込んでいた愚かな三十路とはもう違う。今世の俺は違う。栄養、睡眠、適度な運動。この3本柱で病弱イタチルートをぶち壊す。まずは飲む。とにかく飲む。体を作る。チャクラとか写輪眼とか以前に、骨と筋肉と内臓をしっかり作る。忍だろうが天才だろうが、胃腸が終わったら全部終わりだ。

 

 「よく飲む子ね、イタチ」

 

 母さんが穏やかな声でそう言った。

 

 違うんです母さん。これはただの食欲じゃない。俺の中では今、人生を賭けた長期健康戦略が始動しているんです。病弱美少年という属性は絵面だけなら美味しいかもしれないが、本人にとっては最悪だ。血を吐いて弟の前で倒れるなんて絶対に嫌だ。吐くならせめて飲み会で調子に乗った時のウーロンハイだけにしてくれ。いや今世ではそれもないか。忍者って未成年飲酒とかどうなってんだ。そこは別に知りたくない。

 

 俺は飲み終えると、すぐ寝た。

 

 赤ん坊の睡眠力は異常だった。意識がある時は「やるぞ!俺は健康になるぞ!」と燃えているのに、次の瞬間にはまぶたが重くなり、視界がぼやけ、母さんの胸元の温もりと畳の匂いと、どこか遠くで鳴る鳥の声に包まれて沈んでいく。前世では寝ようと思ってもスマホを見てしまい、気づけば深夜2時、翌朝ゾンビみたいな顔で出社することが何度もあった。だが今はスマホがない。通知もない。上司からのメールもない。最高。赤ん坊、労働がない点だけは神。

 

 しかし眠りに落ちる直前、俺は思い出す。

 

 うちはイタチという名前にまとわりつく未来を。

 

 暗い廊下、血の匂い、月の光、弟の泣き声。細かい場面は霧がかかったように曖昧なのに、嫌な部分だけは妙に胸の奥に残っている。俺はまだ母さんの腕の中で丸まっているだけの赤ん坊なのに、いつかこの家の空気が重く濁り、笑い声よりも疑念と沈黙が増えていくことを知っている気がした。健康になると決めたのは、ただ病気が嫌だからだけじゃない。体が弱ければ逃げられない。守れない。殴れない。分身ハメもできない。そもそもハメる前に倒れてたら話にならない。

 

 なので俺は、起きている短い時間を無駄にしなかった。

 

 まず手を動かす。握る。開く。また握る。赤ん坊の拳は笑えるほど小さく、力を込めても布をくしゃっと掴むのが精一杯だったが、俺の中ではこれは立派な前腕トレーニングだった。次に足をばたつかせる。蹴る。蹴る。布団を蹴る。たまに空振りして自分の勢いにびっくりする。だがそれでいい。下半身は大事だ。忍者は走る。跳ぶ。避ける。たぶん壁も走る。ゲームでもステップと軸移動が命だった。つまり赤ん坊の今から足を鍛えるのは合理的。俺の理論は完璧だった。

 

 問題は、周囲がそれをまた妙に深刻に受け止めることだった。

 

 父さんが部屋に入ってきた時、俺はちょうど布団の上で足をばたばたさせていた。前世の俺なら、休日に寝転がって「会社行きたくねぇ」と呻いている時と大差ない格好だったが、父さんは俺の動きを見て目を細めた。

 

 「……脚の使い方に迷いがない」

 

 あるよ。迷いしかないよ。俺は今、自分の足がどこまで動くのか確認してるだけだよ。というか赤ん坊の足に迷いがないって何?怖いわ。どんな評価軸で見てんの?うちはの育児、忍者査定が早すぎる。

 

 「この月齢で、ここまで身体の動きを確かめるとはな」

 

 違う。確かめているというより、動かしたら面白いから動かしているだけだ。赤ん坊はだいたいそうだと思う。俺の中身が三十路なせいで多少目的意識はあるが、外から見ればただのばたばたである。なのに父さんは、まるで任務報告書を読む時のような顔で俺を眺めていた。

 

 「あなた、この子を見ている時だけ顔が怖いわ」

 

 母さんが苦笑しながら言うと、父さんはわずかに咳払いをした。

 

 「……将来を考えているだけだ」

 

 やめて。考えないで。俺の将来は俺が今必死にハメ殺しと健康睡眠でどうにかしようとしているところだから、そんな重たい父親目線を乗せないでくれ。こちとら分身コンボの再現という、かなりアホな目標を胸に秘めているんだぞ。そんな神童を見る目を向けられると、罪悪感で腹が痛くなる。いや腹は痛くなってはいけない。健康第一。

 

 俺は気を取り直して、次の課題に取りかかった。

 

 呼吸である。

 

 病気対策といえば肺。肺が強ければたぶん血を吐かない。いや血を吐く原因が肺かどうかは知らん。医学知識なんて健康診断の数値を見て「肝臓って大事なんだな」と思った程度しかない。だが呼吸は大事だ。忍者もたぶん呼吸が大事。全集中とかそういう別作品の知識が混ざりそうになったので一旦忘れる。ここはNARUTOだ。チャクラだ。精神エネルギーと身体エネルギーを練る的なやつだったはず。つまり身体が整っていなければチャクラも整わない。たぶん。知らんけど。

 

 俺は鼻から息を吸い、口から吐こうとした。

 

 そして盛大にげっぷした。

 

 部屋の空気が一瞬止まった。

 

 母さんが目を丸くし、父さんが黙る。俺も黙る。いや待ってくれ。これは違う。これは修行の失敗ではなく、赤ん坊の生理現象だ。むしろ健康的な証拠だ。いい音だっただろう?そういうことにしてくれ。

 

 母さんが小さく笑った。

 

 「ふふ、すっきりしたのね」

 

 助かった。母さんは普通に受け取ってくれた。やはり母は偉大。人間としての解釈が柔らかい。問題は父さんだった。父さんは腕を組み、俺をじっと見下ろしていた。その沈黙が長い。長すぎる。頼むからげっぷに意味を見出さないでくれ。うちはフガク、そこで深読みするな。

 

 「……呼吸が深い」

 

 終わった。

 

 げっぷまで天才判定された。

 

 俺は天井を見上げながら、心の中で頭を抱えた。健康になるだけのつもりが、また勝手にクール天才イタチ伝説が積み上がっていく。だが止まるわけにはいかない。病弱ルートを避けるためなら、多少の誤解くらい安いものだ。俺は飲む。寝る。動く。呼吸する。そしていつか分身を覚え、ゲームで嫌われたあのイタチになる。

 

 そのために今は、全力で赤ん坊をやる。

 

 俺はもう一度、小さな拳を握った。

 

 父さんが息を呑んだ気配がした。

 

 だから違うって。




うちはフガク「この子は天才だ」
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