分身ハメ殺し忍者『うちはイタチ』 作:やめろイタチ、その技は俺に効く
はいどうもー!うちはイタチです!五歳です!
お誕生日プレゼントは忍刀でした!背中に装備してシュッと抜いて、印を結んで参上!もう完全に忍者ですわ!いや、五歳児に刃物を贈る文化、冷静に考えたらだいぶ攻めている。前世なら完全にニュース案件だ。だがここは忍界。五歳で手裏剣を投げ、火遁を練り、写輪眼を開き、影分身で外遊して自爆する世界である。忍刀くらい、むしろ健全なプレゼントなのかもしれない。いや健全ではないな。感覚が麻痺しているだけだ。
まぁ貰っても、しばらくお家から出られないんですけどね。
影分身の無断使用と分身大爆破の使用による謹慎ってやつです。四歳にして謹慎処分をくらい、五歳の誕生日を家で迎える男。それが俺、うちはイタチ。前世ですら謹慎なんてくらったことないのに!遅刻はした。残業もした。納期前に胃を痛めたこともある。だが謹慎はない。まさか転生後、しかも幼児期に人生初謹慎を経験するとは思わなかった。忍界のコンプライアンス、意外と厳しい。
にしても、家にいるとまぁ暇なんですよ。
いや、もちろん修行はしている。筋トレとか、筋トレとか、読書とかね。朝は軽い走り込みの代わりに庭で足運び。腕立て、腹筋、背筋、スクワットは成長を阻害しない範囲で丁寧に。忍刀はまだ素振り中心だ。父ちゃんからは、刀は振ればいいものではなく、抜く前から勝負が始まっていると言われた。格好いい。言ってみたい。だが今の俺がそれを真似すると、ただの背伸びした幼児になるので我慢している。
父ちゃんが休みの日には修行をつけてもらえる。三代目とはたまに一楽へ行っている。謹慎中なのに火影様とラーメンを食べるのはセーフなのかと思ったが、監督者同伴の外出扱いらしい。なるほど、保護者付き遠足か。三代目は相変わらず俺の兵糧錠剤を欲しがるが、医療班の成分確認が終わるまでは量を絞られている。完全に規制薬品みたいな扱いになってしまった。健康食品なのに。
シスイなんて家に遊びに来てくれるぜ。
「謹慎中の天才様は暇そうだな」
「暇ではないです。修行と読書で忙しい」
「そういうのを暇って言うんだよ」
シスイはそう言って笑う。こいつ、三つ上の兄貴分のくせに、たまに遠慮がない。でもそれがありがたい。外へ出られない俺のために、里の話やアカデミーの話、三代目がまた一楽で醤油を頼んでいた話なんかを持ってくる。俺はそれを聞きながら、木ノ葉がまだちゃんと動いていることを確認する。カカシ、リン、オビトの話は滅多に出ない。出せないのだろう。俺も聞かない。聞きたいけど、今は待つしかない。
母ちゃんはもうすぐサスケを産む。
予定日は七月二十三日だ。
俺の弟。きっと可愛いだろうな〜。いや絶対可愛いわ!原作のサスケは色々あって闇を背負いまくっていたけど、生まれた瞬間から闇属性な赤ん坊はいない。たぶん。きっと泣いて、寝て、乳を飲んで、ふにゃふにゃしているはずだ。俺は兄になる。兄。前世ではなれなかった立場だ。家族を作ることもなかったし、仕事と生活でいっぱいいっぱいだった。だから正直、どう接すればいいのか分からない。でも、守りたいという気持ちだけははっきりしている。
母ちゃんは、最近少し辛そうにしている。
腹が大きくなり、立ち上がる時に息を吐く回数が増えた。台所に立つ時間も短くなり、洗濯物を運ぶ時もゆっくり歩く。だから俺は母ちゃんをサポートする。俺はこう見えても精神年齢三十路なんだぜ?まぁ前世では家族は作れなかったけど、家事くらいはできる。米を研ぐ。火加減を見る。洗濯物を畳む。重い物は持つ。薬草と食材の管理もできる。兵糧錠剤を作るより、母ちゃんの味噌汁を手伝う方がずっと大事な任務かもしれない。
「イタチ、無理しなくていいのよ」
「無理はしていません。母さんは座っていてください」
「ふふ……頼もしいわね」
母ちゃんが笑うと、俺は少し照れる。外面は静かにしているが、内心ではガッツポーズである。母ちゃんに頼もしいと言われた。これはもう一日頑張れる。忍刀を振るより効く。兵糧錠剤より効く。母ちゃんの褒め言葉は最強の滋養強壮だ。
父ちゃんも最近、家にいる時間を少し意識して増やしている気がする。警務部隊の仕事は忙しいはずだが、帰ってくるとまず母ちゃんの様子を見て、それから俺の修行を確認する。忍刀の握りを見て、足運びを見て、時々短く直す。厳しいけど、前より少しだけ柔らかい。あの夜の説教以来、父ちゃんも俺を見る目が変わったのかもしれない。子供として見てくれる時間が、少し増えた気がする。
謹慎は面倒だ。
外へ出たい。森も見たい。ゼツのことも、オビトのことも、リンの封印のことも気になる。だが今の俺が勝手に動けば、また母ちゃんを心配させる。父ちゃんに怒られる。三代目に頭痛を与える。何より、もうすぐサスケが生まれる。
だから今は家にいる。
筋トレして、読書して、忍刀を振って、母ちゃんを手伝って、父ちゃんの話を聞いて、シスイと笑って、三代目と一楽へ行く。そんな日々も悪くない。いや、むしろ大事だ。俺が守りたいのは、こういう何気ない時間なのだから。
もうすぐ弟が生まれる。
その日まで、俺はちゃんと家にいようと思う。
というわけで、今日は三代目と一楽に行く日です。
え?さっき俺は家にちゃんといようと思うって言ってたのに、いきなり外出かって?うるせぇ!約束してんだよ!これは無断外出ではない。母ちゃんに許可を取り、三代目監督のもとで行われる、極めて健全なラーメン摂取活動である。謹慎中でも保護者同伴なら外出は許される。つまり一楽は合法。ラーメンは正義。味噌汁と白米も正義だが、たまには麺も必要なのだ。炭水化物は心の柱である。
三代目は最近、少しだけ時間に余裕があるらしい。
というのも、ミナトさんが四代目火影になるからだ。
えぇ、勿論知ってましたよ。流石に俺のガバ原作記憶でもこれは覚えてますよ。波風ミナト、四代目火影。黄色い閃光。ナルトの父ちゃん。九尾の夜で死ぬ人。そこまで思い出すと、腹の奥に冷たいものが落ちる。だけど、今はまだ生きている。クシナさんも生きている。リンも、カカシも、オビトも、少なくともあの夜には木ノ葉へ戻れた。原作通りではない。なら、未来も完全には決まっていないはずだ。
「母さん、一楽に行ってきます」
「お金は大丈夫?」
「大丈夫です」
ラーメン代は三代目の奢りである。最高だぜ。
前世でも奢り飯ほど美味いものはなかった。ただし、説教付きの飲み会と、上司が武勇伝を語り続ける焼肉は除く。あれは肉の味が消える。今回は三代目との一楽だ。たぶん大丈夫。いや、麺を啜っている途中で「影分身は使っておらんじゃろうな?」とか聞かれそうではある。あの爺さん、にこにこしながら釘を刺してくるから怖い。
「いってらっしゃい」
「いってきます。母さん」
母ちゃんは縁側近くに座り、大きくなった腹を撫でていた。もうすぐサスケが生まれる。立ち上がる時も歩く時も、少しだけ慎重になっている。俺はそれを見るたび、勝手に不安になる。前世では出産なんて身近に経験したことがない。家族を作れなかった三十路男の知識なんて、せいぜいネットとテレビで見た程度だ。だからこそ、今の俺にできることは母ちゃんを心配させないことと、飯をしっかり食って元気でいることくらいだった。
家を出ると、うちは地区の空気は穏やかだった。
昼の光が屋根瓦を照らし、通りには洗濯物の匂いと炊飯の湯気が混じっている。謹慎前なら、こういう普通の景色を見ても、頭の片隅では里の外や戦場跡のことを考えていたかもしれない。けれど今は違う。守りたいものは、戦場の先だけにあるわけじゃない。この家並み、母ちゃんの声、父ちゃんの背中、まだ生まれていないサスケ、シスイの笑い声、そして一楽の湯気。全部、俺が守りたいものだ。
待ち合わせ場所は大通りの少し手前だった。
三代目は、火影の衣ではなく、普通の老人のような格好で立っていた。笠をかぶり、地味な羽織をまとい、煙管も目立たぬように持っている。どう見てもただの隠居老人……と言いたいところだが、俺から見れば普通に三代目である。背筋、歩き方、気配、目の奥の圧が全然隠せていない。あ、これ兵糧錠剤飲んでるな。分かるぞ。俺の作った錠剤の効果が、目の輝きに出ている。火影様、用法用量は守ってますか?
というかお忍びって何だろう。本人は隠れているつもりかもしれないが、忍術博士の存在感が漏れている。
「待たせたかの」
「いえ。今来たところです」
「では行くか」
三代目は穏やかに歩き出した。
周囲の人達は、ちらりとこちらを見る。火影だと気づいている者もいるだろう。だが誰も声をかけない。見なかったことにしているのか、本当に気づいていないのかは分からない。少なくとも俺は、皆の大人の対応に感謝した。今ここで「火影様!」なんて騒がれたら、お忍びラーメンどころではなくなる。
「謹慎生活はどうじゃ」
「静かに過ごしています」
「本当かの」
「本当です」
「目が泳がぬのは大したものじゃな」
泳いでないんかい。なら信じてくれよ。
いや、俺も完全に静かかと言われると微妙だ。筋トレはしている。読書もしている。忍刀の素振りもしている。兵糧錠剤の配合も、医療班へ提出する形に整えている。ただし影分身は使っていない。里の外にも出ていない。これは本当だ。抜け道を探しかける自分を何度か心の中で張り倒したが、実行していないのでセーフである。
一楽に着くと、暖簾の向こうからテウチさんが顔を出した。
「いらっしゃい。今日は二人かい?」
「うむ。邪魔するぞ」
「はいよ。空いてるところへどうぞ」
テウチさんは完全に気づいている。
絶対に気づいている。
でも知らぬふりをしている。流石だ。プロの屋台職人は客の事情に踏み込まない。火影だろうがうちはの子供だろうが、暖簾をくぐればただの客。これが一楽の器の大きさか。俺は心の中でテウチさんへ深く頭を下げた。ラーメン屋なのに情報管理能力が高すぎる。
「今日は何にする?」
「醤油を頼む」
「味噌をお願いします」
「はいよ」
カウンターに座ると、湯気と出汁の匂いが鼻をくすぐった。ああ、これこれ。家の飯も最高だが、一楽はまた別枠だ。麺を茹でる音、丼にスープが注がれる音、チャーシューが乗る音。全部が心に効く。謹慎でちょっと狭くなった世界が、湯気と一緒に広がる感じがした。
「ミナトさんが、四代目になられるのですね」
俺は周囲に聞こえない声で言った。
三代目は少しだけ目を細める。
「耳が早いの」
「里でも少し噂になっています」
「うむ。まだ正式な形はこれからじゃが、流れは決まっておる。あやつなら、里を明るい方へ導けるじゃろう」
そうだと思う。
ミナトさんは強くて、優しくて、判断が速い。リンを置いてこなかった。オビトを抱えて戻った。クシナさんと一緒に封印へ動いた。火影に向いている人だ。けれど俺は、九尾の夜を知っている。知っているのに、細部が思い出せない。仮面の男、九尾、クシナさん、赤ん坊のナルト、ミナトさんの死。断片だけが胸の奥で嫌な音を立てる。
「四代目を、里で支えてください」
三代目の箸が止まった。
しまった。五歳児が言う台詞じゃない。だが、もう口から出ていた。三代目は俺をじっと見てから、ゆっくり頷いた。
「無論じゃ。じゃが、イタチ。支えるとは、一人で無茶をすることではないぞ」
「はい」
釘を刺された。
湯気の向こうで、三代目が少し笑う。
「まずは、ちゃんと食べることじゃ」
その言葉に合わせるように、俺の前へ味噌ラーメンが置かれた。
俺は手を合わせた。
「いただきます」
熱い麺を啜る。味噌の香り、出汁の旨味、少し柔らかいチャーシュー。未来は重い。謹慎も面倒だ。だが今は、三代目のお忍びに付き合い、テウチさんの知らぬふりに甘えながら、一楽の味噌ラーメンを食べる。
「ズズズ……」
美味い。
美味すぎる。
やっぱラーメンって最高だ。前世でも散々ラーメンを食ってきたが、一楽のラーメンは俺の人生トップ十に楽勝で入る。いや、転生前と転生後を合わせた人生ランキングだから、かなり強い。味噌の香り、出汁の旨味、麺の喉越し、チャーシューの柔らかさ、全部が疲れた心に染みる。謹慎生活の閉塞感も、分身大爆破のフィードバックも、母ちゃんに心配をかけた罪悪感も、湯気と一緒に少しだけ薄くなる気がした。やはり飯は偉大。ラーメンは正義。テウチさん、あなたは木ノ葉の宝です。
「ふむ……」
あれ。
なんか三代目がラーメンを見つめながら溜息をついている。どしたん?兵糧錠剤足りてない?話きこか?いや、火影様にそのノリで聞いたら怒られるな。今はお忍びの普通の老人風だけど、中身は火影である。しかもプロフェッサー。ラーメンの湯気の向こうで眉間に皺を寄せる老人は、完全に何か面倒な案件を抱えた上司の顔をしていた。前世の会議室で何度も見た顔だ。あれは予算か人事か炎上案件の顔である。
「どうされましたか」
「……いや、すまんの」
三代目は箸を止めたまま、少しだけ視線を落とした。テウチさんは奥で麺を茹でながら、聞こえていないふりをしている。絶対聞こえている。でも知らぬふり。流石である。一楽の暖簾は、忍界最高峰の情報遮断結界かもしれない。
「私でよければ、話を聞きます」
「……伝説の三忍の内の一人の事じゃ」
「自来也様がまた何かされたのですか」
どうせ女風呂を覗いたとか、そんなところだろう。
いや、伝説の三忍に対して失礼かもしれないが、原作記憶の自来也様はだいたいそういう人だった。強くて格好いいのに、同時にスケベ仙人。ナルトの師匠。確かめちゃくちゃ強い。だけど女湯を覗く。情報量が多い。あの人が木ノ葉に戻ってきて問題を起こしたなら、まあ予想はつく。三代目が溜息をつく理由としては充分あり得る。
「そっちも問題児じゃが、大蛇丸のほうじゃ」
大蛇丸かー!!!!
アレ!!!!そうか、あの人まだ木ノ葉にいるんだっけ!?全然見かけないから忘れてたわ!!!!いや、忘れるな俺。めちゃくちゃ重要人物だぞ。将来木ノ葉を抜けて、禁術研究して、人体実験して、サスケに呪印をつけて、三代目を殺す人だ。いや、今目の前にいる三代目を殺す人じゃん。なんでラーメン食いながらそんな話題になるんだよ。味噌ラーメンの温かさが一気に不穏になったわ。
「大蛇丸様ですか……それが?」
「オビトの肉体に憑いていたものに興味津々での——それに何やら良からぬ噂も聞く」
確か柱間細胞の研究とか、禁術の開発とかしてんすよ。
あ、俺とやってること殆ど同じだ。
いや違う違う違う。俺は人体実験してない。影分身に変なことはしたけど、本体ではないし、誰か他人を犠牲にしたわけではない。健康のための兵糧錠剤を作って、分身大爆破とかいうだいぶアレな術を組んだだけだ。……うん、言い訳しても怪しいな。もし俺が大蛇丸様に会ったら、研究対象として興味を持たれる側になるのか、同業者として話が弾むのか。どっちも嫌だ。怖すぎる。
三代目はラーメンを一口啜り、しばらく黙った。
「オビトの半身に癒着していた白い組織は、普通の医療忍術で作れるものではない。生命力が強く、木遁に似た性質を持つ。封印班も医療班も慎重に調べておるが、大蛇丸はそれを見て目の色を変えた」
「危険ですね」
俺は静かに答えた。
外面は冷静。内心は大警報である。大蛇丸が柱間細胞っぽい何かに興味を持つ。そりゃ持つだろうな!絶対持つわ!むしろ持たない方がおかしい。禁術、肉体改造、不老不死、血継限界、実験。大蛇丸の好きそうな単語が全部詰まっている。オビトの身体なんて、研究素材としては超危険な宝箱みたいなものだ。本人の意思とか人権とか無視されたら最悪である。
「お主もそう思うか」
「はい。大蛇丸様の知識は、里にとって大きな力になると思います。ですが、知ることと踏み越えることは違います」
おお、今の俺ちょっと賢そう。
内心では「人体実験ダメ絶対」と叫んでいるだけだが、外に出るといい感じにまとまる。うちはイタチの口調補正、便利すぎる。
三代目は細く目を開け、俺を見た。
「五歳の言葉とは思えぬな」
「書物で学びました」
便利な言い訳その一、書物で学びました。
これで大体なんとかなる。忍界には難しい書物がたくさんあるし、俺は読書好きの天才児設定なので通りやすい。前世知識を誤魔化す時にも使える。ありがとう書物。ありがとう図書館。
「大蛇丸は昔から才がありすぎた。才がありすぎる者は、時に人を人として見なくなる。術の材料、結果へ至る道具、己の探究を進めるための踏み台……そう見ることがある」
その言葉は、さっきまでのラーメンの湯気とは違う重さを持っていた。
三代目は大蛇丸を弟子として見ている。伝説の三忍の一人として誇りにも思っているだろう。だからこそ、良からぬ噂が胸に刺さるのだ。俺は箸を止めた。味噌ラーメンが冷める。冷めるのは嫌だが、今はそれどころじゃない。
「火影様は、何を懸念されているのですか」
「人体実験じゃ」
直球だった。
俺は内心で天を仰いだ。
やっぱりかー!!!!もうそこまで来てんのかー!!!!
「まだ確証はない。だが、里の孤児や、戦の混乱で身寄りを失った者の中に、行方の掴めぬ者がいる。任務で死んだと処理された者の記録にも、不自然な点がある」
「……調べるべきです」
「無論じゃ。暗部にも動かせておる。じゃが相手は大蛇丸。下手に踏み込めば証拠を消される」
大蛇丸、厄介すぎる。
強い。頭がいい。禁術に詳しい。蛇。粘る。逃げる。絶対普通の捜査で捕まるタイプじゃない。しかも三代目の弟子。情もある。里の英雄でもある。これ、上司の身内不祥事案件だ。前世でも一番面倒なやつだった。外部なら切れる。身内だと切りづらい。でも放置すれば組織が腐る。火影って本当に大変だな。
「イタチ」
「はい」
「お主は大蛇丸に近づくでない」
ですよね。
俺もそう思います。
「承知しました」
「好奇心で調べようともするな。影分身も使うでないぞ」
「……承知しました」
今の間、バレた?
三代目の目が鋭い。やめて。ちょっとだけ、大蛇丸の研究内容が気になったとか思ってないです。いや思った。思いました。柱間細胞とか木遁とか、ゼツとかオビトとか、気になることだらけです。でも近づきません。たぶん。いや、近づかない。母ちゃんとの約束もあるし、謹慎延長は嫌だ。
三代目は小さく息を吐き、またラーメンを啜った。
「お主には、まず家におること。そして食べることじゃ」
「はい」
俺も麺を啜る。
少しだけ冷めていたが、それでも美味かった。
味噌の旨味が舌に広がる。目の前では、火影だった老人がお忍びでラーメンを食べながら、弟子の闇について悩んでいる。俺は五歳で、それを聞いている。なんだこの状況。普通の幼児はラーメン食べて「おいしいね」で終わるはずだ。俺の人生、どうしてこうなる。
だが大蛇丸。
忘れてはいけない名前が、また一つ目の前に出てきた。
「イタチ、この事はくれぐれも他言するでないぞ」
いや、じゃあ俺にそんな重大なこと話さんといて下さいよ。
俺、五歳児っすよ?いくら天才だからって、大蛇丸様の良からぬ噂とか、人体実験の疑いとか、オビトの白い組織に興味津々とか、そんな里の上層部案件を味噌ラーメンの横で話すのはアカンよ。ガバガバすぎるって。しかもここ、一楽ですからね?テウチさんが知らぬふりしてくれているだけで、普通に店内ですからね?いや、テウチさんは多分聞こえてない顔で麺を茹でている。職人の鑑である。だが聞こえていない保証はない。というか絶対聞こえている。
あ……三代目がガバガバなのは今に始まったことじゃないか。
俺のことをミナトさんにもシスイにも、それとなくペラペラ言っていたし。三代目の中では「信頼できる相手に必要な範囲で共有しておる」なのかもしれないが、こっちから見ると情報漏洩である。いや、火影だから権限はある。あるけどさぁ。前世の会社なら、個人情報管理研修を受け直してくださいって言われるやつだ。あの白い研修動画を見せられて、最後に確認テストを受けるやつ。八割以上取れないと再受講。三代目、再受講です。
……大蛇丸に俺のこと言ってないよね?
まさかね。
いや、怖い。大蛇丸様が俺のことを知ったらどうなる?四歳で三つ巴写輪眼、影分身の応用、兵糧錠剤、分身大爆破、うちは一族、妙に大人びた思考。研究素材として滅茶苦茶おいしそうじゃん。俺が大蛇丸様なら興味を持つ。俺が大蛇丸様じゃなくてよかった。いや、同じ穴の狢みたいなことをしている自覚は少しある。影分身に死門開かせて爆発させてるし。けど人体実験はしてない。そこは大きな差だ。大事な差だ。頼むから一緒にしないでほしい。
「わかっています。三代目も気をつけて下さい」
「誰に言っておる。わしはこう見えて口は固い」
何言ってんだこのジジイ。
ラーメン屋で大蛇丸のことを五歳児に話してる時点でガバガバなんすわ!
俺は思わず麺を啜る手を止めそうになったが、そこは外面クールなうちはイタチ。静かに箸を動かし、味噌ラーメンを口へ運ぶ。美味い。重い話題の最中でも美味いものは美味い。だが、ラーメンの湯気の向こうで三代目が真面目な顔をしているせいで、完全に昼飯というより秘密会議である。お忍びラーメン会の議題が重すぎる。
「……火影様がそう仰るなら」
「今はただの隠居老人じゃ」
いや、無理がある。
普通の隠居老人は大蛇丸の人体実験疑惑を五歳児に相談しない。あと、普通の隠居老人は背筋と目力が強すぎない。テウチさんも完全に分かっている。さっきから水を足す時の距離感が絶妙だ。話を聞かない位置にいるようで、いつでも注文を受けられる位置にいる。忍か?ラーメン忍者なのか?一楽の情報管理能力、暗部より高い可能性がある。
三代目は醤油ラーメンの麺をゆっくり啜り、しばらく黙った。
「大蛇丸には、お主の兵糧錠剤のことは話しておらぬ」
そこ!?
俺が一番気にしていたの、そこじゃないけど重要ではある。兵糧錠剤は知られていない。よかった。大蛇丸様に兵糧錠剤を見られたら、成分分析から身体強化、チャクラ活性、影分身との相性、最終的に自爆補助まで見抜かれそうで怖い。いや、そこまでいくと俺の方もだいぶ怖い。健康食品とは一体。
「お主の写輪眼についても、ワシからは話しておらぬ。知る者は限られておる」
「ありがとうございます」
「ただし、噂は勝手に歩く。才も、目も、術も、隠しきれるものではない。だからこそ、軽々しく危ういものへ近づくでない」
それは分かる。
俺が何もしなくても、噂は広がる。四歳で岩隠れの忍と戦った。五歳前に影分身を扱う。三代目と一楽へ行く。シスイと修行している。フガクの息子。うちはの天才。そういう言葉は、俺の意思と関係なく里の中を歩き回る。そこへ大蛇丸様の耳がないとは思えない。むしろ聞いていない方がおかしい。あの人、蛇だし。壁の隙間からでも聞いてそうだし。
「大蛇丸様には近づきません」
「本当じゃな?」
「はい」
「影分身を使って調べることもせぬな?」
「……はい」
「また間があったの」
鋭い。
三代目、今日の突っ込み精度高くない?兵糧錠剤飲んでるからか?やっぱり脳が冴えるんだろうな。俺が作ったものだけど、こういう形で自分を追い詰めてくるのはやめてほしい。自業自得?はい。
「好奇心はあります。ですが、近づくべきではないことも理解しています」
「ならよい」
三代目はそう言って、また麺を啜った。
俺も味噌ラーメンに戻る。少し冷め始めていたが、まだ美味い。味噌の塩気と出汁の旨味が、妙に現実感をくれる。大蛇丸、人体実験、柱間細胞っぽい白い組織、オビト、ミナトさんの四代目就任。どれも重い。重すぎる。五歳児のラーメンタイムに詰め込む情報量じゃない。でも、俺は知ってしまった。知らなかったことにはできない。
「イタチ」
「はい」
「お主が何かを恐れておるのは分かる。じゃが、恐れに追われて走れば、また同じことをする。今は止まることも覚えよ」
俺は箸を止めた。
恐れている。
その通りだった。俺は未来が怖い。うちは一族の破滅が怖い。父ちゃんと母ちゃんを殺す未来が怖い。サスケを復讐者にする未来が怖い。ミナトさんとクシナさんが死ぬ夜が怖い。オビトが闇へ落ちることも、リンが死ぬことも、カカシが壊れることも怖い。だから走った。影分身を出し、里の外を見て、戦場へ飛び込み、爆発した。
止まること。
それが一番難しい。
「……努力します」
「うむ」
三代目はそれ以上言わなかった。
テウチさんが何も知らない顔で、そっと水を置いてくれる。
「替え玉はいるかい?」
絶妙なタイミングだった。
重い空気が少しだけ緩む。三代目は小さく笑い、俺を見る。
「どうする、イタチ」
「いただきます」
即答である。
重い話は重い話。ラーメンはラーメン。替え玉の誘惑には勝てない。健康も未来も、まずは飯から。俺は心の中でテウチさんに感謝しながら、二杯目の麺へ箸を伸ばした。
三代目火影猿飛ヒルゼンは、うちはイタチにラーメンを奢った後、暖簾の前で幼い背中を見送ると、ひとり火影邸へ向かって歩き出した。
お忍び用の地味な羽織を身に纏い、笠を深く被った姿は、傍目には昼食を終えた老人にしか見えない。頭上から降り注ぐ陽光は屋根瓦を白く照らし、大通りには任務へ向かう忍や買い物帰りの里人、追いかけ合いながら走る子供達の姿があった。商店から響く威勢のよい呼び込み、包丁がまな板を叩く音、風に乗って流れてくる炊きたての米や焼き魚の匂い。それら全てが、木ノ葉の日常を形作っていた。
木ノ葉隠れの里。
千手柱間とうちはマダラが興した里である。
長く続いた一族同士の争いを終わらせ、幼い子供が戦場へ送られず、家族が同じ屋根の下で暮らせる場所を作る。その理想から生まれた里は、しかし建国後も幾度となく戦火に巻き込まれた。第一次忍界大戦、第二次忍界大戦、そして終結へ向かいつつある第三次忍界大戦。木ノ葉はその度に数多の命を失い、それでも崩れることなく生き残ってきた。
通りを駆け抜けた子供が、母親に呼び止められて振り返る。
その何気ない光景を見つめながら、ヒルゼンは笠の下で僅かに目を細めた。
(扉間様……私は正しい事ができているのでしょうか)
二代目火影千手扉間から、三代目として里を託されて数十年。
若き日のヒルゼンは、追手を食い止めるため誰が囮になるかを決めねばならぬ場で、真っ先に自らの命を差し出した。その覚悟を認めた扉間は、木ノ葉の未来をヒルゼンへ託し、自らは死地へ残った。あの日から、ヒルゼンは火影として里の頂点に立ち続けてきた。
里を守るため。
民を守るため。
仲間達が帰る場所を残すため。
敵国との交渉で屈辱を呑み、救援の届かぬ部隊を見捨て、表へ出すことのできぬ任務を暗部へ命じたこともある。ひとりを救えば大勢が危険に晒される状況で、大勢を選んだこともあった。その判断によって家族を失い、悲しみに明け暮れた者もいるだろう。
非道と呼ばれて当然の選択もあった。
最善とは言えぬ決断もあった。
それでも火影は選ばなければならない。立ち止まり、全ての者を救える答えを待っている間にも、命は失われていく。だからヒルゼンは、正しいと信じる道を選び続けてきた。
だが、老いと共に胸へ積み重なったものは、確信ではなかった。
あの時、別の道があったのではないか。
もう少し早く気づいていれば、救えた者がいたのではないか。
その疑念は、消えることなくヒルゼンの内側に残っている。
(大蛇丸……奴がやっていること然り、四代目火影の推薦然り、わしは何かを間違えたのか?)
愛弟子の顔が脳裏に浮かぶ。
自来也、綱手、大蛇丸。自らの手で育てた三人の中でも、大蛇丸の才は幼い頃から群を抜いていた。一度見た術の構造を理解し、僅かな説明から本質へ辿り着く。知識への渇望は尽きず、ヒルゼンはその才を誇りに思っていた。
かつては、大蛇丸こそ次代の火影に相応しいと考えたこともある。
だが、その瞳の奥には、いつしか里の民を導く者に必要な温かさではなく、命を術や研究の材料として見る冷たい光が宿るようになった。
故に、四代目火影には波風ミナトを推薦した。
ミナトは強い。判断も速く、人を惹きつける光を持っている。仲間を守り、里の未来を己の未来として考えられる男だった。選択は間違っていない。そう信じている。
しかし、大蛇丸を選ばなかったことが、愛弟子をより深い闇へ押しやったのではないか。
火影候補から外す前に、師として向き合うべきだったのではないか。
異変に気づきながら、才への未練と情によって目を逸らしていたのではないか。
オビトの半身へ癒着していた白い組織を見た時、大蛇丸の瞳に浮かんだ異様な光を、ヒルゼンは見逃していない。木遁に酷似した性質、人間の失われた肉体を補う生命力、既存の医療忍術では説明できぬ構造。それらは大蛇丸にとって、決して見過ごせぬ研究対象だった。
さらに近頃、里の内外で人が消えている。
戦災孤児、身寄りのない者、任務中に死亡したと処理された忍。戦時下ならば不自然に見えぬ失踪も、記録を重ねれば歪みとなって現れる。ヒルゼンは暗部へ密かに調査を命じていた。
思案しながら歩くヒルゼンの背後へ、一つの気配が音もなく近づいた。
仮面をつけた暗部の忍は、昼の人混みに紛れてすれ違うように身を寄せ、周囲の誰にも届かぬ声で耳打ちした。
「大蛇丸様が動きました」
「そうか」
ヒルゼンが短く答えると、暗部は歩みを止めぬまま路地へ入り、その気配を消した。
予想していた報告だった。
それでも胸の奥には、冷たい刃を差し込まれたような痛みが残る。全てが誤解であってほしい。大蛇丸がまだ踏み越えていないと信じたい。
だが、火影が師としての情に目を曇らせれば、犠牲となるのは里の民である。
ヒルゼンは歩みを止めず、懐へ手を入れた。
小さな袋から取り出したのは、イタチが作った兵糧錠剤だった。本日二錠目。用法用量を守るよう、先ほど本人から念を押されたばかりである。ヒルゼンはそれを口へ放り込み、静かに飲み込んだ。
程なくして腹の底へ熱が広がり、老いた身体に力が満ちていく。霞みかけていた思考は澄み、歩調も僅かに速くなった。
(ならば、わしが止めよう)
弟子であるからこそ、他の誰かへ任せてはならない。
過ちがあるのなら、その責は師である自分が負う。
(里の為に、民の為に)
そして、道を違えた愛弟子を、これ以上深い闇へ進ませぬために。
ヒルゼンは笠を僅かに持ち上げ、昼の日差しを受けて立つ火影邸を静かに見据えた。
大蛇丸「うちはオビトくん、あなたの肉体……見せてくれるかしら」